ある晴れた日に
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206部分:思いも寄らぬこの喜びその六
思いも寄らぬこの喜びその六
「奇麗じゃないとね。それか可愛いか」
「それでも食って飲むんだな」
「痩せたければ食べなさいって言葉があるじゃない」
言葉は先程のものといささか矛盾するものになっていた。なおこの言葉はとある美容研究家の言葉である。今はもうこの世を去ってしまったが。
「だから食べて飲むのよ」
「お菓子に日本酒だとスタイルはそのままでも糖尿病になるんじゃねえのか?」
あくまで食べることと飲むことにこだわる咲に正道がまたいらぬことを言う。
「そのうちよ」
「何かそれが楽しみみたいね」
「ああ、そういうのはねえからよ」
悪感情はないのだった。
「ただな。そういうの聞いてたらな」
「糖尿病になるってこと?」
「おたくあれだろ。婚約者和菓子屋の息子さんだったよな」
「そうよ」
これはもう言うまでもなかった。
「それがどうかしたの?」
「だから余計にやばいだろ」
彼はそこを指摘する。
「甘くない和菓子なんてないんだからよ」
「女の子はそんなに糖尿病にならないでしょ」
「なるよ」
桐生の突っ込みもさりげなく鋭い。
「ちゃんとね。なるから」
「うっ・・・・・・」
「どっちかにしろよ」
正道はまた咲に言う。
「明治天皇がそれで崩御されてるしな」
「あれっ、そうだったの」
咲は明治帝の話を聞いて目を少し丸くさせた。
「明治天皇糖尿病だったの」
「ああ。実はそうだったんだよ」
このことをさらに咲に話す。
「お好きなものは餡パンにアイスクリームに蒸しカステラに羊羹に」
「咲全部好きよ」
「それで日本酒もな。大好物で」
「それも同じ」
なお咲はその他にも色々と飲む。甘党であり酒豪でもあるのだ。
「何だ、天皇陛下と同じだったの」
「この場合いいことじゃないと思うよ」
また桐生のさりげないが鋭い突込みが入った。
「身体にとってはね」
「うっ・・・・・・」
「日本酒じゃなくて他の酒にしたらどうだよ」
正道は飲むなとは言わなかった。
「せめてな。それだと糖尿病になる可能性は減るだろ」
「ビールとかワインってこと?」
「ビールは痛風だったな」
正道はまた言った。
「あれもなったら相当辛いらしいな」
「あんた病気のことやけに詳しいのね」
「親父も飲んでるからな」
正道はこう答えた。
「それでな。結構な」
「話聞いたの」
「そういうことなんだよ。だから飲むんならワインとか焼酎がいいんじゃねえのか?」
「両方共好きだけれど」
やはり咲は酒好きだった。
「じゃあそういうの飲めばいいと思うよ」
「そうね」
あらためて桐生の言葉に頷くのだった。
「それじゃあ。今度からね」
「何か話してる間に三人共行ったぜ」
彼等の酒やらそういった話が終わった時にはもうだった。
「竹林の奴二人連れて行ったな」
「これでよしね」
咲はその空いた凛の席を見てまた微笑んだ。
「後は未晴が上手くやってくれるわ」
「本当に竹林さんのこと信頼してるんだね」
「未晴は咲達の第二のお母さんよ」
こうまで言い切る。
「ずっとね」
「ずっとってよ」
今の言葉には正道はかなり咎める顔になっていた。
「それはまた依存し過ぎだろ、竹林によ」
「けれど大好きなのよ」
失言に気付いて慌てて取り繕う咲さった。
「本当に。咲達はね」
「それははっきりわかるよ」
桐生はそんな咲をさりげなくフォローした。
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