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人徳?いいえモフ徳です。

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四十一匹目

2月初旬。

僕はお母様に連れられて装飾店に来ていた。

なぜこんな事をしているかと言えば、僕が宝石の価値をわかっていなかったからだ。

クーちゃんの誕生日のサロンで言っていたやつだ。

それがなぜ三ヶ月もたっているかと言えば、色々予定が詰まっていたからだ。

円環祭(新年祭)の準備や片付け。

更には新年が始まってからはお婆様とお母様は神官として儀式などを行っていた。

それ故、今こうしているのだ。

僕としては、自分が錬金術で作れる宝石にあまり価値を見出だせない。

でもお母様やお婆様、女王陛下達が言うには、僕が作っている物にはかなりの価値があるらしい。

僕が宝石を作れる要因には原子論がある。

この世界の魔法はより鮮明かつ詳細かつ確信的に過程を知っているほど発動しやすくなる。

つまりディアマンタイト等の組成や構造を知っていることによる魔力の大幅削減がある。

お母様とお父様から継いだ莫大な魔力も要因だろう。

ボーデンが言うには物質の構造変換、それも宝石類などはとても難しい物なんだそうだ。

ボーデン自身、真球ディアマンタイトは作れないって言ってた。

「シラヌイ、よく値段を覚えておきなさい」

目の前に置かれている指輪。

小指の先にも充たないトパーズを銀の台座にのせている。

その値段は金貨一枚、一万フル(=約十万円)。

「お母様、この値段は宝石由来ですか? それとも銀細工由来ですか?」

「これはどちらかと言えば銀細工由来かしら?」

そっかー、なら僕には真似できないかな。

僕絵心とか芸術的センスあんまり無いんだよね。

僕が刻める紋様とか柄って全部魔法関連だし。

外形も真球とか立方体とかが多い。

そうじゃないのもあるけど、そういうのはほとんどアストラルポーチ内部にある形をトレースしてるだけ。

僕には圧倒的に創造性とか創作力っていうのが欠けている。

でも、作例さえあれば話は別。

コピーに関してはアストラルポーチを持ってる僕に並ぶ奴はいない(と思いたい)。

「全部宝石でいけるかな…」

目の前のリングを観察する。

植物の蔦のようなリング本体に葉っぱの装飾、そして花の中心にトパーズ。

ポケットに手を入れて、鉄と銅を中に出す。

鉄で見たリング本体を真似る。

勿論アストラルポーチにいれてないから完コピではない。

葉っぱなどはアストラルポーチ内部の本物の葉っぱを小さくしてトレース。

花びらも同じようにして、真ん中にカットされたトパーズを真似た銅を填める。

握った拳を僅かに出して、開く。

うん…だいたいできた。

作例としては十分なできだとおもう…。

「はぁ…貴方も懲りませんねシラヌイ」

「ゅ?」

「そのリング、コピーするんですか?」

「流石に銀が無いので無理ですお母様。僕は材料があればディアマンタイトだってつくれるけれど、鉄を銀にはできません」

僕は現代日本の知識を、科学知識を知っている。

だから僕は魔法を他者より効率良く使えるし、魔法の応用も思い付く。

でも、僕は現代科学に助けられている反面、現代科学に縛られている。

例えば無から有は作れない。

例えば原子は他の原子にならないし増えない。

だから僕は0から1を作れない。

1を2にできない。

石や岩から宝石を作れても貴金属は産み出せない。

「貴方ならその解決法もあるのでしょう?」

「代わりに全てを宝石で作ります。石はそのままでリング本体をターコイズなどの不透明な物で代用します」

「それがどれ程の価値があるか、貴方はわかっているのですか?」

ターコイズはそれほど高価な石ではないし…。

「せいぜい、この指輪と同程度では?」

「やっぱりわかってませんね。金属ではなく全て石で創ったならば、その価値はこのリングの最低でも三倍にはなりますよ」

「なぜですか? ターコイズは銀より安価ですよ?」

「例えそうだとしても、銀細工と同じ精度で鉱石を加工できたならば、材料の有無に関わらず芸術的価値などが付随します」

ふーん…そんな物なんだ……。

試しに、というか興味が沸いただけだが、ポケットに手を入れて、アイテムボックスから握った拳の中に石灰(カルシウム)、木炭(炭素)、氷(水)、その他少量の砂(硫黄等)と石英を出す。

そして、カルシウムとタンパク質の積層構造で先と同じ蔦状のリング本体を作り、周囲を無色の水晶で薄くコーティングしたうえで中央にアメシストを填める。

「ならこれは高いですよね?」

カルシウムとタンパク質。

つまりは真珠と同じ構造だ。

わざわざ水晶でコーティングしたのは、真珠は汗等で容易に溶ける(ドロドロに溶ける訳じゃないけど輝きがなくなる)からだ。

「ツェツィーリアも言っていましたが、そんな物を思い付きで作らないでください…」

やっぱり高いんだ…。

「そうですね……。材質はそう高価ではありませんが、技術的な価値を含めた工芸価値を考えれば………他国の王族へ献上すれば、多少は領地が貰える程度、と言えばわかりますか?」

「はい」

よくわかんないけど、めっちゃ高価ってことでおk?

「シラヌイ、もう少し、奥へ行きましょうか」

「はい」

今のリングは、銀とトパーズという比較的安価な物だった。

奥へ行けば、もっと高価なものもあるかもしれない。

メインの売り場はだいたい店の中央にあった。

そこで色々な宝石をあしらった金細工や白金細工の装飾品を見て値段を確認した。

やっぱり四大宝石は高い。

他とは値段の桁が違う。

それも、手の爪程度の大きさでだ。

ちょっと冷や汗出た。

パーティーで王族に贈ったディアマンタイトの花とかツェツィーリア様に贈った腕輪とか公爵婦人達に贈った腕輪とか……。

っていうか前にクーちゃん達に贈ったディアマンタイトのナックルダスターやら何やらの護身用武具だけでもかなりの………。

いや、考えるのはやめよう。

ろくなことにならない。

一通りメインの商品を見た後、お母様が店員を呼んだ。

二言三言話した後、店の奥に通された。

そこは空気が違った。

気品、確かにそれも要因だろう。

だけど、それ以上に、魔力の揺らぎがあった。

僕はお父様とお母様から耳の感度も受け継いでいる。

魔力を感じる器官としての耳を。

「シラヌイ、ここにあるものは全て、マジックアイテムとしてのアクセサリーです」

目の前のネックレスを見る。

値段がおかしい。

八十万フル(=八百万円)。

見た目の材質は銀だが、魔力を纏っている。

「お母様、これはなんですか?」

「ミスリル。魔力合金ですよ」

魔力合金? なにそれ?

「それはどういった物ですか?」

「ドワーフだけが精製できる金属です。魔力を纏い、魔力をよく通します」

ドワーフ…。会った事ないなぁ…。

よくエルフの対として描かれるけど…。

「ドワーフの国であるフィアニアはエイルヴァイオンと仲が悪いので、フライハイトを挟んで南に位置しています。
フライハイトとは国交があるのでこういった装飾品も多く入ってくるのです」

フライハイト王国はこの環状大陸フローティアのマイナス30度からプラス30度(大まかには)、つまりはフローティアの六分の一を占めている。

僕はこの世界の地理をそれしか知らない。

確かフライハイトの北にエルフの国エイルヴァイオンとそこから独立したダークエルフの国スヴァルティアがあったはずだ。

フィアニアは……どうなんだろう…?

それにしてもドワーフかぁ……。

オリハルコンとかアダマスとかヒヒイロカネとかあるのかな…。

「お母様、魔力合金ってどうつくるのですか?」

「さぁ…? ドワーフの秘伝と言われていますから私にはわかりませんよ。お婆様なら知っているかも知れませんが、簡単ではないでしょう」

そっかぁ……。

ショーウィンドウのアクセサリーの全てが魔法的な力を纏っている。

僕が作ったアクセサリーみたいな術式補助具、つまりは魔力を『流す』ことで発動する簡易グリモワールとは違って、ここにあるものは魔法を『封じ込めて』いる。

いったいどうすればそんな事ができるんだろうか。

魔力はエネルギーだ。

放っておけば均一化しようとする。

それを固定しておくなんてほぼ不可能と言ってもいいだろう。

このアクセサリーをアストラルポーチに入れればあるいは……。

ダメか。

しばらく魔力合金製のアクセサリーを見て廻った。

「ここにあるものは、真似できないとは思いますけど、貴方の術式補助具もかなりの価値を持ちます。
よく考えて作るようにしなさい。作っても、簡単に世に出さないようになさい」

「はい。わかりましたお母様」











考え無しに渡したアクセサリーが後でちょっとしたトラブルになるが、このときはまだそんな事は思ってもいなかった。 
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