ある晴れた日に
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20部分:もう飛ぶまいこの蝶々その三
もう飛ぶまいこの蝶々その三
「園芸委員だけれど」
「ああ、俺です」
「私です」
名乗り出て来たのは正道と未晴であった。二人は同時に声をあげたところですぐに互いの顔を見合うことになった。
「あれ、竹林かよ」
「音橋君が?」
「また意外な結果ですね」
「そうね」
教壇ではこの組み合わせを見た田淵先生と江夏先生が言葉を交えさせていた。
「竹林さんはともかく音橋君は」
「まあいいわ」
野本の時と同じ反応を見せたのが江夏先生であった。皆また顔を顰めさせたがそれでも先生だけは平然としていたのであった。
「じゃあ音橋君と竹林さん、いいわね」
「はい、私は」
先に答えたのは竹林の方であった。
「御願いします。お花好きなんで」
「わかったわ。音橋君は?」
「一応聞きますけれど断ったりできますか?」
「答えは言うまでもないと思うけれど」
実に率直な返答であった。
「そこのところはどうかしら」
「まあそうですけれど」
「わかったらいいわね」
完全に諦めなさいといった感じの口調であった。
「音橋君もね」
「ええ、まあ」
特に嫌というわけではないらしい。正道は静かな顔で頷いた。
「じゃあそれで。いいです」
「おい音橋よ」
「御前園芸とかの経験あるのか?花壇の花の世話や」
「いや、ないんだけれどな」
平気な顔で野茂と坂上に答えた。
「そんなのはじめてだよ」
「はじめてなのにやけに冷静だな」
「またどうしてだよ」
「だってあれだろ?」
「花に水やるだけだろ」
「こいつ野本より馬鹿だな」
春華が今の正道の言葉に速攻で突っ込みを入れた。
「何でこんなに馬鹿なんだよ、こいつ」
「おい、いきなり馬鹿かよ」
正道も正道でそんな春華にクレームをつける。
「他に何あるんだよ、おい」
「だから御前馬鹿だろ」
しかし春華はまた彼を馬鹿呼ばわりするのだった。
「今までそういうのしたことねえだろ」
「だからねえって」
これは堂々と認める。
「さっきから言ってるじゃねえかよ」
「ねえ未晴」
咲がそんな正道を呆れた目で見ながら未晴に声をかけた。
「一人でやることになりそうだけれど御願いね」
「ええ」
「経験者がやってくれてよかったわね」
「同感」
凛が奈々瀬の言葉にこう応える。
「音ちゃんって本当に頭悪かったんだ」
「それもかなり純粋にね」
「俺何か野本より言われてねえか?」
「今のは完全に呆れたから」
今度は静華に言われる。
「全く。未晴がなって本当によかったわ」
「ちょっと静華」
未晴はそんな静華を咎める顔で見つつ声を返す。
「そんなこと言ったら」
「だって本当のことじゃない。これはかなり大変よ」
「大丈夫よ」
しかし未晴はこう言って微笑んだ。
「音橋君もやってくれるから」
「やれることは絶対にやるぜ」
彼もそれは保障する。もっとも咲達はそれでも彼を非常に懐疑的な目で見ているのだが。
「俺のやれることをな」
「なあ桐生よ」
春華は今度は桐生に声をかけた。
「ああ、いいや」
「どうしたの?」
「交代はできないんだったな、悪い悪い」
「僕と音橋君に交代してくれって言いたかったんだ」
「こりゃ園芸は未晴だけしかいねえな」
あらためてこう言う春華だった。
「まあこれも仕方がねえか」
「大船に乗ったつもりでいろよ」
「ロシアの潜水艦だよな」
「大船は大船でもな」
野茂と坂本は正道の話を聞いて言い合う。
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