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ヒュアデスの銀狼

作者:蜜柑ブタ
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SS8  オオカミは、キョウダイを殺す

 
前書き
コミックスとは違う展開にしました。

里美がコミックスより可哀想かも。注意。 

 

 かずみの記憶が戻された。
 ただし、一部捏造されて。
 捏造されたのは、かずみの基となったミチルという真実、プレイアデス聖団がいつのタイミングで魔法少女が魔女になることを知ったのか、そしてミチルの日記だ。

 雨が降っていた。
 まるでプレイアデス聖団の絶望の涙のように冷たい雨が。

 表面だけ研磨されただけのソウルジェムは、確実に着実に濁っていく。それとともに、かずみの体も変化する。
 かずみの変調に、里美が恐怖した。
 あの顔は…、よく覚えている。最初に自分(カズ)を突き刺した杖の一撃を与えてきた時の顔だ。

『あなたとの接触も影響してるかもね。』
「そうなのか?」
 コネクトを通じてニコと入れ替わったカンナと会話した。
『あなたが体内にため込み続けた魔女という淀みに、かずみの中の魔女の肉が悪影響を与えたのかも。』
「俺のせい?」
『遅かれ早かれかずみは、普通の魔法少女じゃいられない。初めから破綻する仕組みだったんだよ。』
「かずみは、どうなる?」
『里美がそろそろ動き出しそう。あなたは、タイミングを見て里美にトドメを刺して魔女にして。あなたの顔見たら…、それが最後になるはず。』
「分かった。」
『隙さえあればかずみを保護したいけど…、かずみに架せられた試練だから…。それじゃあ。』
 コネクトが切れた。
 カズは、立ち上がり、結界の中に入って移動を開始した。


 里美がサキを操って、かずみを殺そうとした。
 だがサキは抵抗し、しかし里美の魔法に抗えず、かずみを攫うにとどまった。
 里美は、かずみの失敗作達を保管している場所の封印を解き、そこへかずみを運んだ。
 意識を取り戻したかずみに、残酷な…真実を告げる里美の顔は…この上なく笑顔だった。おそらく、魔女化が進んでいる影響だろう。それに加えてかずみという魔女と、自らが魔女になる可能性への恐怖が残忍さに拍車をかけている。
「そんなの嘘だよ…。」
 かずみがこれ以上無いほど青ざめている。
 そして里美の操る魔法によって動き出したかずみの失敗作達を見せつけられ、かずみは里美の言葉が真実だと否が応でも理解させられてしまった。
 そして、里美はかずみに操る魔法をかけ、失敗作達と戦わせようとした。殺し合わせることで、すべてのかずみを殺すために。
 カズは、戦いの場に移動した。

 カズは、歯を食いしばった。

 姉、妹…。自分にとって、そういう存在となるかずみ達…。

 強制的に変身させられたかずみに襲いかかる五人の失敗作達を、空間から出した爪で引き裂いた。

「えっ?」
 里美がキョトンッとした。かずみも驚く。
 そして、里美の前に空間の穴が空く。
 そこから顔を出し、カズがオオカミの顔から、自分の顔へと顔だけ変化させて見せた。
「ーーーー!?」
 眼前で見せられたカズの顔を見た里美の顔があっという間に驚愕と恐怖に染まった。
「あ…イヤアアアアアアアアアアアアアアア!?」
 ポロリッと落ちた里美のソウルジェムが、グリーフシードへと変じた。里美の最後の悲鳴は、自分が魔女になるのを自覚してのことだった。
「里美!?」
 ピィイイイイイイイイイイイっと、魔女本体の上にある巨大な笛が鳴り響く。
 それは、里美が願った動物との対話能力の影響だろうか。それによって得られた相手を操る魔法なのだろうか?
 カズは、オオカミの魔獣へと変じて結界から飛び出した。
「オオカミ!」
 魔女・里美とかずみの間に、まるでかずみを守るように立つ。
 その間に、かずみの後ろから迫った残るかずみの失敗作達を、長く伸ばした尻尾でなぎ払った。
『手を汚すのは……。』
 カズは、歯を食いしばった。
『オレだけでいい…。』
「どうして…?」
 へたり込んでいるかずみが自分を守るオオカミの魔獣を信じられないモノを見る目で見つめる。
 魔女・里美によって生成された猫のような使い魔の軍勢が現れ、カズに襲いかかった。
 カズに群がった使い魔達が爆発する。爆風が晴れると、無傷のオオカミの魔獣・カズがいた。
 魔女・里美はそれに驚愕したのか、鳴き声である笛の音が動揺するように震えた。
 カズは、角を突き出して突撃し、猛牛のように突き上げ、魔女・里美を放り上げた。
 斜め後ろへと放られた魔女・里美の巨体が、かずみの失敗作を潰した。
「ぁ…。」
 かずみは、自分の失敗作が死んでいることに気がつき我に帰った。
「や…やめて、やめてーーー!!」
 しかし、カズは、かずみのその悲鳴を無視して、魔女・里美に襲いかかる。
 檻のような胴体を引き裂き、中にいた里美の本性と思しき震えるぬいぐるみのようなモノを踏みつけ、噛みちぎり、かずみの失敗作達の合体魔法を睨んだだけで張ったバリアで防ぎ、魔女・里美が落としたグリーフシードを喰らい、残された里美の遺体を踏み潰した。
 すると、カズの体がザワザワと震えだした。
 カズの体が一回り巨大化し、尻尾がコードのように数本に分かれた。進化したカズは、四枚に増えた翼を広げ、羽根を弾丸として発射し残る失敗作達を貫いて殺した。それでもなお生き残った失敗作は、踏み潰し、残りをかみ砕いた。
 頭を抱えたかずみが狂乱したように泣き叫んだ。
 途端、かずみの耳に付いているピアスがチリンッと鳴り、途端、かずみの体が変化した。
 ドロン…っと、それは魔法少女ではなく、魔女のような姿。グネグネとした触手のように黒く変化した手足とマントが一体化し、魔法少女としての形態も人間の顔も残した姿。
『イル・フラース。』
 凄まじい落雷がカズに降り注いだ。
『ラ・ベスティア。』
 更に唱えられた呪文により、かずみのピアスに似た球体の使い魔のようなモノが凄まじい数現れた。
 それは、口をバカリッと開き、噛みついてくる。
『プロルン・ガーレ。』
 触手のようにグネグネと蠢く手から、凄まじい数のミサイルが発射された。
 カズは、避けずそれらをすべて体で受け止める。

『かずみ…。』

『ころ、ス。』
 無表情だったかずみの顔が怒りに歪み、カズに殴りかかってきた。

「かずみ!」
「えっ…、あれ…、オオカミの魔獣!?」
 そこへ、サキを追ってきた残るプレイアデス聖団が駆けつけた。
『コロス、コロす…。』
 かずみは、カズの顔を殴り続けていた。しかし、カズは、微動だにせず黙ってソレを受け入れていた。
「かずみ!! 私達が分からないのか!?」
『コ…………………。カ、オ、ル?」
 すると、かずみの体が元に戻った。
 かずみが元に戻り床に倒れ込むと同時に、カズは空間に開けた穴に入った。
 かずみに駆け寄る者達、そしてニコとしてそこにいるカンナは、消えていく空間の穴を見つめていた。

 
 

 
後書き
カズなりに、かずみを気遣っての行動でした。 
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