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ダンジョン飯で、IF 長編版

作者:蜜柑ブタ
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第三十六話  バロメッツのバロット

 
前書き
バルメッツ編。


マルシルとイヅツミのやりとりは、カットしました。 

 

 サウナと茶碗蒸しを堪能した後。
「おーい。まだかよ。」
「もうちょっと。」
「ああ、動かないで。」
 サウナとして使っていた空間の外で、センシとチルチャックが待っていた。
 やがて、ファリン、マルシル、そして厚着にされたイヅツミが出てきた。
「ナマリの服だったけど、入ったね。」
「…動きづらい。」
 ナマリの荷物に入っていた防寒着をイヅツミに着せたのだ。イヅツミは、動きにくくなったとブスッとした顔をしていた。
 せっかくサウナで温めた体が冷えたと、チルチャックも文句を言った。
 そうしてやっと出発となる。
 出発するとき、センシがマンドレイクの甘露煮を串に刺した物を出してくれた。携帯食として食べろと。
 全員に行き渡ったが、イヅツミは、近くにいたファリンに、お前にやると言って突き出してきた。
「どうして? 美味しいよ?」
「いらない。」
「でも、食べないと体が…。」
「いらない!」
「あぅ!」
「ファリン!」
 次の瞬間、イヅツミの爪がファリンの顔をひっかいた。
「…美味しいのに。」
「お腹が減ってないのかもよ?」
「でも、どうして食べたくないの?」
「魔物だから。」
「動物を食べるのとどう違うの? 同じだよ?」
「魔物なんか食べたら変な病気にかかるって魔物になる! だからイヤだ!」
 イヅツミは、激しく拒絶した。
「魔物を食べるだけで魔物になれるなら、苦労はしないよ。」
「ファリン…。まあ、穢れ信仰だよね。」
 ファリンの発言に呆れつつ、マルシルが語る。
 ほとんどの人は、動物とは違う魔物を嫌うのは、魔物の多くが活力の多くを魔力で補っていることと、生存本能に優れた攻撃性にある。
 濃すぎる魔力は、動物には毒であるし、人間を襲って食べている可能性があるからだと。
 『なんとなくイヤ』というのも案外馬鹿にできないと思うと言いながら、マルシルは、マンドレイクの甘露煮を食べていた。
「これ、美味しいね。」
「……。」
 そんなマルシルを、チルチャックは、なんとも言えない顔で見ていた。
「じゃあ、苦手な物を食べるときはどうしてたの?」
「あー…。別にないな。」
「うっそだー。」
 何しろ彼女は嫌いだからとキノコを捨てるようなことをしているのだ。それも最近のことである。
 どうやらイヅツミは、相当な偏食家らしい。
 とにかく先へ先へと進む。もはや未知の領域だが、進まなければならないのだ。
 吹雪は激しく、せっかく暖まった体を否が応でも冷やす。
 とにかく進めるだけ進み、そして野営することにした。
 しかし、センシは慣れない階層まで来てからか疲れたらしく、うたた寝していた。
 仕方なくファリン達が料理の支度をすることにした。
「卵に…、野菜…、夢魔…。うーん。何作ろう?」
「魚は?」
 イヅツミが聞いてきた。
「もうないよ。」
「米は?」
「もうあんまりないよ。」
「もっと他にマシなモノはないのか?」
「これで全部だよ。」
「嘘吐け! 隠しているだろう!」
「嘘じゃないよ。私達はね、魔物を食べてここまで来たんだよ。慣れないとイヅツミの体にも悪いよ?」
「イヤだ! 私は食べたい物しか食べない!」
「あのね。イヅツミ。何事も慣れが必要なんだよ? イヅツミが食べてる物だって、過去の人達が毒味してきて毒かどうか確かめてきたんだよ?」
「うるさいうるさい! じゃあ、アレは何だ!」
 そう言ってイヅツミが指差した先には……。
「あ…、バロメッツ。」
 それは、植物の上に羊が生えているという異形だった。
「ああ…もう、どうしてこんな時に…、あのね、イヅツミ、バロメッツは羊じゃ…。」
「御託はうんざりだ!! もういい、私は羊を捕まえる。」
「もう…。」
「あれはいいんだ…。ねえ、ファリン、バロメッツって魔物?」
「えっとね…。魔力を養分としているのは違いないけど、害はないよ。でも…。」
 ファリンは、杖を握り、前に出た。
「羊を目当てに肉食の魔物が来る! 危険だわ!」
「ええー!」
 ファリンは、急いで、休憩地点から飛び降りた。
 マルシルも慌てて追いかけるが、滑り落ちた。
 イヅツミが、四つん這いになって、ジリジリとバロメッツに近づく。しかし、ふいに止まる。
「早く…、早く羊を収穫して…。あっ!」
 そうこうしていると、ダイアウルフの群れが現れた。
「逃げよう、イヅツミ! イヅツミ?」
 ファリンが杖を構えイヅツミの方を見たときには、イヅツミはいなかった。
 マルシルが杖を探しながら、尻をさすり、木の枝を手にしたとき、別の通路へと進んでいこうとするイヅツミを見つけた。
 慌ててマルシルが追いかける。
 その間に、ファリンは、切り裂く魔法を放ちながらダイアウルフの群れから距離を取り、チルチャックが弓矢で援護した。
 しかし、センシが動けない今、危険だと判断したファリンが咄嗟に、狼の真似をしてダイアウルフの群れを威嚇。その迫力に、ダイアウルフの群れは、去って行った。

 バロメッツの羊を奪って……。

 やがてマルシルがイヅツミを連れて戻ってきた。
「よかった、無事で!」
「ふん…。」
 イヅツミは、プイッとそっぷを向いた。
 腕を押さえている。腕を覆っている篭手に噛み跡があり、ダイアウルフに襲われたことを物語っていた。
「羊は取られちゃったけど…。仕方ないから。」
 ファリンは、別のバロメッツに近づき、杖の先を向け、切り裂く魔法を使った。
 そして、未成熟の果実を落とし、それを転がして、起きてきたセンシの所へ持ってきた。
「未成熟の果実だけど。なんとかなるかな?」
「調理してみよう。」
 そう言ってセンシが包丁でバロメッツの実を割った。
 すると、中に子羊が入っていた。
「ああ! ダメ! 無理! 違う意味で倫理的に無理!!」
 マルシルが腕で顔を覆った。
 果実の赤い汁まみれの未成熟の子羊の姿は、正直言ってかなりグロい……。
 チルチャックもさすがに、オエっとなっていた。


 バロメッツの肋骨を肉ごと味を付け、火にかける。

 両面に綺麗な焼き色が付いたら、ワインを入れたフライパンに入れ、蓋をして蒸し焼きにする。

 果皮部分は、湯に通して、皮をざく切りにし、ニンニクを加えて一緒に煮込みソースを作る。

 そして、焼いたバロメッツの肉に出来たソースをかける。


「完成じゃ!」
「うぇ、変なの入ってる。」
「バロメッツの実の部分と若芽を入れた。ほれ。」
「バロメッツはね。見た目は羊だけど……。」
 ファリンが解説している間にイヅツミが渡されたバロメッツを食べた。
 そして大きく目を見開く。そして、ガツガツと貪った。
「味は、蟹に似ているんだって。」
「それがどうした。」
 まったくもってその通りである。
 そして、美味しそうにバロメッツを食べ、皿まで舐めているイヅツミを見て、センシとファリンは微笑んだ。
「美味しい?」
「なんだ?」
「よく食べれたのう。偉い偉い。」
「なんだ! 何をする!」
 いい子いい子っと、頭をみんなで撫でると、怒ったイヅツミが爪でひっかいてきた。
「とにかく! 今後も不味い野菜や魔物は食べないからな! 他に道がなかったときだけだ!!」
「ひっかかなくていいのに…。ところで、マルシル。全然食べてないよ? 美味しくなかった?」
「あ…えっと…。」
 ジーッと全員の視線が集まり、マルシルは、逃げ場がないと感じて、バロメッツを食べたのだった……。
 
 

 
後書き
マルシルとイヅツミのやりとりをカットしたので、微妙に会話の展開を変えました。 
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