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艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~

作者:V・B
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第七十五話

 
前書き
どうも、GWをバイトで丸々潰しました。お金稼ぐってほんと大変なんだなぁと。 

 
 他人に信用されるというのは、どんな人でも苦労する。同じように強い人物でも、木曾と長門さんとでは、人望の差は一目瞭然だったりする。まぁ、あの二人の場合は、片方が絶望的にコミュニケーション能力が無い上に、自分からも動こうとしないだけなのだが。
 俺は元々、コミュニケーション能力はある方といえばある方だったが、純粋に人付き合いが疲れるから、積極的に友達を作らなかった人間だった。ポケモンで言うなら、レベル二十くらいの3ブイ、と言ったところらしい(悠人談)。
 要するに、素質はあるが経験が足りない。

「…………」

 俺は、相変わらずボロボロと泣いている阿武隈を見て、ダラダラと冷や汗をかいていた。
 どーすんべやこれ。
 例えば春雨が泣いて抱きついてきた時は、そっと抱きしめて、泣き止むまで待った。が、世の中の全ての女の人に当てはまるかといえば、当然違う。

「……ありっ、がとうっ…………!拒絶したのに………っ、嫌ったのに………っ!」

 だけど、今ここでそんな態度を見せる訳にも行かない。

「……気にすんな。それを悲しいと思えるのなら、大丈夫だ」

 一言一言、丁寧に言葉を選び出しながら、どうしたものかと、必死に考える。











「…………で、本音は?」










 明らかな悪意。
 それを感じとった俺は、バッと後ろを振り返る。
 
「……本音ってなんだよ」
「そのままだ。何を考えて優しくする?どうして優しくする?下心の一つや二つあるんだろ」

 若葉はそう言うと、普段から鋭い目付きを、より一層鋭くした。
 …………信用されていないとは思ったけど、ここまでとは思わなかった。

「俺がそんな下衆に見えるか?」
「表向きは見えない。でも、男は皆、狼なんだろ?」
「皆が皆じゃねぇよ。中には食われるのが好きな羊だっているぜ?」
「お前は羊ってタマじゃないだろ」
「……まぁな。ま、節度を持った狼ってところか」
「童話の中の狼は、基本的に節度の欠けらも無いが?」
「うるせぇよ」

 舌戦を繰り広げようとしたが、全ていいように返されてしまう。

「そーゆーお前こそ、再開の挨拶は済んだのか?」
「あぁ。一方的だったけどな。ぐっすり寝てたよ」
「そりゃあ良かった」

 何かしら反撃をしようかとも考えたが、下手な事言ったら手痛い反撃が来そうなので、控えておく。別に若葉と敵対する気は更々ないし、出来れば仲良くしたい。
 今のままじゃ間違いなく無理だが。

「さて……お前はこれからどうするんだ?缶蹴りにでも戻るか?」
「いや、夕立から逃げててな。あいつ、隠れてても見つけ出すし、足速いし、捕まったら無理矢理参加させられそうだしな」
「違いねぇ」

 あいつの足はGに追いつけるレベルだからな、と、二人で軽く笑った。阿武隈は、ただただこちらをじっと見つめているだけだった。

「……やっぱり、お前は他の男とは違うな」

 と、表情を取り繕った若葉が、俺の顔を見ながら言い放った。

「お前、ちゃんと性欲あるか?ちなみに、私はしっかりある」
「とんでもねーこと聞きやがりますねおいコラ」

 生まれてこの方、女の子から性欲の話をされたことなど一度もない。
 しかし、性欲、性欲、性欲…………。

「…………あれ、ない」

 艦娘になったばっかりの時、不慮の事故で木曾の裸姿を目撃した挙句、混浴まで果たしてしまった時は、中々込み上げてくるものがあったが、最近、女の子にそんな感情を抱いていない気がする。
 …………ただ一人を除いて。

「……なぁ、お前ってまさか、『始祖』か?」
「……いや、正確には、その息子だ」

 俺は若葉が『始祖』を知っていることに驚き、若葉は俺の『息子』という単語に眉をひそめた。

「親父は七宮 亮太。世界初の提督。お袋は七宮 雫。『始祖』の木曾だ」
「……なるほど、そりゃあ、お前みたいなのが産まれても不思議は無いな」

 すると、さっきまで身構えていた若葉が、すっと構えを解いた。

「お前が、他のみんなに無害だと認めよう。無礼を許してくれ」

 と、頭を下げる様子は無かったが、口では謝罪の言葉を口にしていた。

「別にいいが……それは『俺』だからか?」
「ああ。お前という特殊な存在だからだ」
「……そうか」

 俺だけの力で認められた訳じゃないのは、どことなく悔しく感じてしまう。しかし、話ができるようになるだけありがたいと思おう。
 





「ただし、調子に乗るなよ?もしお前が手を出そうものなら、その両腕を切り落としてやるからな」







 ――そのセリフを聞いた瞬間、俺の頭の中にはとある人物が浮かんでいた。不器用ながらに他のみんなを守ろうとするその姿は、『魔神』のそれと同じだった。

「安心しろ。俺だって、他の奴らを守るために、自分でこの腕を落としたんだ」
「……そうか。じゃあ、私は逃げる」

 俺の言葉を聞いた若葉は、廊下の窓をガラッと開けると、二階に向かって窓枠を蹴った。
 一瞬にして姿を消した若葉を見送ると、遠くから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。

「ぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽいぽーい!!」

 ……ついでに、こんな声も聞こえてきた。

「木曾ー!!若葉二階行った!?」

 俺の前で急ブレーキして止まった夕立は、分かりきっているかのように、俺に確認を取ってきた。
 俺は黙って頷き、開けっぱになっている窓を指さした。

「ありがとうっぽい!!」

 夕立はそう言い残すと、先程の若葉と同じように窓から二階へと登って行った。

「……そういや冬華って、昔っから運動神経バケモンだったな」

 ぼそっと、阿武隈に聞えないくらいの声で呟いた。小学生の頃、忘れ物をしたからと言って鍵の閉まった学校の三階の窓から侵入しようと、雨樋をスルスルと登って行ったことを思い出した。
 あそこまでの身体能力を持つ艦娘は、そうそう居ないだろう。

「さてと……阿武隈、これからどうする?」

 軽く物思いに耽けた後、俺は放置していた阿武隈に向き直り、声をかける。

「えっと……その……か、缶蹴り……頑張ります」

 阿武隈は、へたり込んでいた状態から、よろよろと頼りない感じだが、しっかりと立ち上がっていた。

「……んじゃ、俺は行くな」

 俺は阿武隈にそう言い残して、地面を蹴った。

 
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。そろそろ缶蹴り終わると思った?終わんないんですよこれが。あと何話かかるのやら…………はぁ。

それでは、また次回。 
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