戦国異伝供書
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十六話 越後の次男その八
「かなりの謀略でも剣の切れが鋭いとじゃ」
「断ち切れるのですね」
「そうじゃ」
だからだというのだ。
「お主はじゃ」
「謀については」
「断ち切ってじゃ」
そのうえでというのだ。
「真っ直ぐに進め」
「それでよいですか」
「考えを変えた、正し過ぎるならじゃ」
ならばというのだ。
「その正しさを貫け」
「それでよいのですか」
「お主はな、わしは天下なぞ考えなかった」
一度もだ、越後のことで手が一杯だった。
「しかしお主は違うな」
「天下を考えているからですか」
「そうじゃ」
だからだというのだ。
「もう器が違う」
「天下を考えていると」
「越後だけではない」
為景はこうも言った。
「本朝にある国はな」
「その全ての国で、です」
「降魔の剣でか」
「世を乱す魔を降し」
そうしてというのだ。
「必ずです」
「天下を泰平にか」
「そう考えています」
「ならばな、もうな」
また言う為景だった。
「わしとは違う、そしてじゃ」
「兄上をお助けして」
「生きるのじゃ」
長尾家の剣としてというのだ。
「わかったな」
「わかりました」
これが景虎の返事だった。
「それでは」
「頼んだぞ」
最後にこう言ってだった。
為景は景虎達を下がらせてだ、晴景だけを残して彼に言った。
「わかっておろう」
「はい、私ではですね」
「お主は長く生きることもな」
それすらもというのだ。
「難しい、戦はな」
「到底です」
「ならばじゃ」
「虎千代に」
「時が来ればじゃ」
その時にというのだ。
「位を譲ってな」
「そうしてそのうえで」
「静かにじゃ」
余生、それをというのだ。
「過ごすのじゃ」
「わかりました、それがしは子もです」
「出来ぬな」
「とても」
そうだとだ、晴景は自ら話した。
「そちらもです」
「その身体ではな」
「それではですな」
「だが虎千代がおる」
彼がというのだ。
「ならばな」
「虎千代に長尾家を託すのですな」
「そうせよ、あの者ならばじゃ」
虎千代ならというのだ。
「長尾家を守るだけでなくな」
「越後を一つにして」
「先程の話でわかった」
その景虎との話でというのだ。
ページ上へ戻る