魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第201話「刻限」
前書き
前回に対し、皆総じて強くなっています。
尤も、それで足りるのかと言われると………
―――……可能性を、見た。
―――絶望の闇の中で、なお生き続ける可能性を見た。
―――ほんの僅かな希望を掴み取る。そんな可能性を見た。
―――……だから、今度こそその可能性を闇で塗り潰したいと思った。
「っ―――!?」
“ズンッ”と、大きな揺れが皆を襲った。
その瞬間、時間の流れをずらしていた結界が瓦解した。
「今のは……!」
「前にもあった“揺れ”と、同じ……!」
感じた事がある“揺れ”に、全員が驚く。
「……神界からの余波か?」
「……はい。ついに、来たようです」
“揺れ”は世界そのものに起きたもの。
つまり、ついに神界での戦いの余波がこの世界を襲ったのだ。
「全員、出来る限りの休息を!」
「……ソレラさん、捉えましたか?」
「はいっ……!いつでも、こちらから行けます!」
手筈通りに、ソレラが神界への“道”を捉える。
これにより、優輝達はいつでも神界に攻め入る事が可能となった。
「……猶予はもうないのか?」
「一応ありますが……事態は悪化していくと思います。体力を回復させるのが限界だと思います。態勢を整えるには……」
クロノが尋ね、祈梨がそう返す。
「……すぐに動けるのは僕らだけか」
「僕らが伝えに行っても、すぐに動くのは無理だろう」
管理局との協力体制を整えていても、即座に連携して動く事は出来ない。
祈梨の分霊も、全生物の“格”を上げるために力を蓄えており、出していない。
「後一日、猶予があります。一日の休息の後、出撃します。準備をしておいてください」
とりあえず、体力回復をするために時間を取った。
最後の戦いに向けて、各々が自分を見つめる事にした。
「……優輝君、緋雪ちゃん。ちょっといいかな?」
「どうした?」
「どうしたの?司さん」
休息時間になり、司が優輝と緋雪に話しかける。
「学校の皆に挨拶していかない?」
「学校……そういえば、僕は大門の件以降行ってないな」
「私なんか、死んでからずっと行ってないしね。この前現世に来た時、大宮さんとは会っていたけど……」
そう、優輝は大門を閉じるために行動して以来、学校の皆と会っていなかった。
司達は一度会いに行っていたが、その時の優輝は再召喚の準備をしていた。
「……聡と玲菜には会っておくか」
「全員……って訳にはいかないしね。皆家に戻ってるし」
幽世の大門の件から時間も経っている。
被害の少ない海鳴市では、既にほとんどの人が自宅に戻っていた。
そのため、全員に会っていくには手間が掛かる。
「会っていないと言えば、神夜もか。あいつはどうする?」
「……うーん、今は……いいんじゃないかな?私達には面と向かって謝罪や反省を見せたから大丈夫だけど、学校の皆とかは罪悪感に押し潰されると思うよ?」
「そうか。……しかも、聡と玲菜じゃ接点がほとんどないからな。置いていくか」
同じく会っていなかった神夜も連れて行こうとするが、それは中止にする。
神夜自身が魅了の罪悪感に耐えられないのもあったが、何より会いに行くのは聡と玲菜の二人だけだ。接点がないため会った所で意味がない。
「優輝……?」
「久しぶりだな」
「ホントだよ!」
早速移動し、聡の家のインターホンを鳴らす。
出てきた聡は、そこにいた優輝に驚きを隠せなかった。
「他の人が帰ってきていたのに、お前はまだ休んでるって聞いて……と思ったら、今度はテレビに出たりしてすっげぇ気になってたんだからな!?」
「それは悪かった。僕の方もかなり忙しくてな」
実際、色んな事が連続で判明しすぎていた。
時間があれば、皆に会いに行く事を誰かが優輝に提案していただろう。
だが、その時間がなかったのだ。
「それで……えっと……」
「えっと……学校では説明する暇がなくてごめんなさい」
「……幽霊?」
聡の呟きはご尤もな疑問だった。
いくらオカルトな事が現実にあったと知られているとはいえ、死んだと言われていた存在が、さも当然のようにそこにいたら、そう思うのも仕方がない。
「あはは……聡君ならそう思うのも仕方ないか。緋雪ちゃんはね、式姫……式神みたいな感じで、幽世から呼び出しているんだよ」
「厳密には生き返った訳じゃないけど……まぁ、幽霊だとか、生き返っただとかとりあえず戻ってきてくれたって認識で構わないぞ」
細かくは説明しない。
聡は“こちら側”の人間じゃないため、今説明した所で理解が追い付かないからだ。
今は聡自身の解釈で戻ってきたと思ってくれればそれで良かった。
「聡?誰だったの……?……あ」
「あれ?玲菜ちゃん?どうして聡君の家に……」
なぜか中にいた玲菜が出てくる。
その事を司も疑問に思い、早速尋ねていた。
「ぇ、あ、えっと……」
「ちょ、ちょっと用があってな!そんな大した理由じゃないから!」
「………ふーん……」
「……まぁ、いいけど」
玲菜は口籠り、聡は慌てて説明する。
少し様子がおかしいと思ったが、司は気にしない事にした。
なお、緋雪はどういう理由だったか何となく察したようだった。
「私達……厳密には優輝君と緋雪ちゃんだけどね。以前学校に戻ってきた時はいなかったから、会わせておこうと思って」
「優輝と……えっ、緋雪ちゃん?」
聡と同じように驚く玲菜。
そして、同じように簡潔に司が説明しておいた。
「……そういえば、二人共いつの間に付き合ってたの?」
「……僕らが六年生の頃、修学旅行の時からだな」
「へー」
なお、その間に緋雪が二人について気付いた事を優輝に尋ねていた。
「……テレビでも見てたけど、一体、何が起こるの……?」
「連日ニュースでやってるけど、神界がどうのこうのって……」
一通り説明し、再会を少し喜んだ後、二人は改めてそう尋ねてきた。
「……私達も全部知ってる訳じゃないよ。でも、それでも分かるのは……私達は、神界と呼ばれる世界の戦いに巻き込まれる。だから精一杯抵抗するんだ」
「抵抗……って、戦うのか!?」
“この前必死に戦ったばかりなのに”……そう、聡は思う。
連続で強大な敵と戦うのだ。それも、見知った友人が。
何も思わないはずがない。
「うん。戦っても何も変わらないかもしれない。でも、無抵抗なままで終われないんだ。例え、どんな存在が敵であっても、私達は諦めきれない」
理不尽だった。理不尽な理由、勝手な事情で戦いに巻き込まれるのだ。
そんな理不尽に対し、何もせずに諦められない。
だから戦うと、司は言った。
「……死ぬかもしれないのに……?」
「……そうだね。でも、何もしなかったとしてもそれは同じ。……ううん、死ぬ以上に悲惨な目に遭うかもしれない」
「相手は魂すら超越した存在だ。ただ死ぬだけでは済まされないだろうな」
「……私だって怖いよ。でも、戦わなかった後悔とその先を考えるよりはマシだと思うから。……“戦わない”って選択肢が、もうないんだよ」
死ぬかもしれない事が怖くないのかと、玲菜は尋ねる。
怖いと、司は肯定する。
だが、その上で戦うとも言った。
「っ………」
「……もう、行くね」
時間はそこまで割いていられない。
そのため、優輝達はもう帰ろうとする。
「……勝てる……のよね?」
「……それはわからない。敵勢力は未知数で、何よりも神が相手だ。一筋縄でいかない相手しかいないだろう」
「でも、それでも戦わないといけない」
背を向けて去ろうとする優輝達に、不安になった玲菜が尋ねる。
しかし、返ってきた返事は頼りになるものではなく、不安を抱えたものだった。
「……俺達は戦えない。無責任に応援する事しかできない。……だからこそ、信じてるぞ。優輝が、司さんが、志導さんが……皆が、勝って帰ってくるのを」
「ああ。……その“想い”を強く持ってくれ。それが、何よりも僕らの力となる」
それだけ言って、優輝達は帰路に就く。
その間に、優輝達の間に会話はない。
ただ、翌日に控えた決戦に臨むため、覚悟を決めて歩を進めていた。
「…………」
一方で、優輝が聡の家に向かった後。
椿と葵はとこよと共にいた。
「……思えば、随分凄い所まで来たね」
「そうね。最初の出会いから……今は神界の神々ね」
優輝との最初の出会いは、本当に偶然だった。
そんな出会いから、気づけばここまで来ていた。
「力不足で生き残ってしまって、とこよを探すのも諦めていたのに、気が付けばそのとこよとも再会して……」
「世の中何が起こるか分からないからね。そういう事もあるよ」
「当時いなくなった本人がいう事じゃないわよ……」
とこよが微笑みながら言い、椿は呆れる。
「二人共、彼の事がそれだけ好きなんだよね?」
「なっ……!?」
「……そうだよ。あたしもかやちゃんも、優ちゃんの事が好き。とこよちゃんに対する“好き”と違って、異性としてね……」
とこよの突然の言葉に椿が顔を赤くし、葵は普通に肯定する。
「あの時は恋愛に興味がなさそうだった葵ちゃんが、異性を好きになるなんてねー」
「……人を好きになるのに、理由なんてないのかもね。あたし自身、いつから優ちゃんが好きになったのかわからないから」
「そ、そうなの……?」
いつものような調子ではなく、どこか遠くを見るように言う葵。
そんな珍しい様子の葵に、椿は少し戸惑っていた。
「椿ちゃんは……どうだったの?」
「わ、私!?私は……」
「かやちゃんは、優ちゃんに色々助けてもらったから、その時じゃないかな?」
「なっ、何勝手に喋ってるのよ!」
顔を赤くしながら反射的に椿は葵を射る。いつもの照れ隠しだ。
ちなみに、葵はあっさりと簡易的な分身と入れ替わり、矢を回避していた。
「そっかー」
「ま、真に受けないでよ!?……確かに、間違ってはないけど……」
否定ばかりせずに肯定もする椿。
以前と比べれば、随分と素直になったものだと、葵もとこよも思った。
「……好きな相手、かぁ。……何気に、私にはいなかったなぁ」
「……そうね。好かれてはいたけど、それは親愛でしかないものね」
「そもそも同性だったしね。私にそっちの気はなかったし」
長年生きてきて、とこよは異性として好きになった相手はいなかった。
元々式姫ばかり周りにいたため、男性との交流も少なかった。
さらには恋愛事には無縁の人生を送って来たために出会いなんてなかった。
「……神界の戦いが終わったら、私も相手を探してみようかなぁ」
「なんだい?今更色恋沙汰の話かい?」
「わっ、紫陽ちゃん」
ふと呟いたとこよの言葉を拾うように、紫陽が話に混ざってくる。
「そういえば、紫陽ちゃんにはいなかったの?」
「あー、言われるとあたしも……まぁ、いいじゃないか。そういうのは目の前の事が終わってからでもさ」
逃げるように話を逸らす紫陽。
何となく、“行き遅れ”な感じがして気まずくなったからだ。
「……まぁ、そういうの抜きにしても、一度現世は見て回りたいよね」
「まぁ、あたし達は江戸の時からずっと幽世にいたからね。幽世に還ってきた式姫達から、ある程度の話を聞いていたけど、今の時代の現世は確かに見てみたい」
現世に出れるようになった今も、神界との戦いに備えて修行ばかりだった。
そのため、事が終わったら見て回りたいと思うのも無理はなかった。
「そのためにも、勝たないとね」
「……そうだな」
「そうね」
「どの道、負ける訳にはいかないからね」
会話はそこで一旦終わる。
「……じゃあ、明日のために私達も休もうか」
「ええ。……ところで、とこよ達はどこで休むのかしら?」
「さざなみ寮って所だ。鈴の奴がそこなら部屋を貸してくれると言っていた」
まだまだ話す事はあるだろうが、休息するためにとこよ達は解散する。
……何気ない会話の後とは思えない程、覚悟を決めて。
「……すぅ……はぁ……」
「………」
皆が帰路に就き始める中、帝は深呼吸をして気持ちを落ち着けていた。
その傍らには、神夜の姿もあった。
「……やっぱ緊張っつーか……怖いものだな」
「……そうだろうな」
帝は怖がっていた。相手の強さが未知数なために。
それだけじゃない。勝てるかわからない上に、負けてしまえばどうなるかもわからない。……そんな、“未知”にも恐怖を抱いているのだ。
「俺の場合はいつ操られるかもわからない。……その事がとにかく不安だ」
「元からして、なんで俺達みたいな奴がこんな壮大な事を……」
神界での戦いは、自分達だけでなく全ての世界の命運が決まる。
責任重大なんてものではない。そのプレッシャーが二人にはあった。
「やらなければいけない、からだろうな」
「……まぁ、そうなんだけどな」
他に選択肢がない。それだけの理由だ。
それは帝も神夜も理解はしている。しかし、納得は出来ない。
「皆、その事はわかっている。だから、出来るだけその事を意識しないようにしているんだろうな。プレッシャーだけ直視しないようにして……」
緊張と恐怖をしている帝や神夜と同じように、皆もわかってはいる。
緊張もしているし、恐怖もしているだろう。
しかし、その事は表に出していない。覚悟を決めて、恐怖を抑え込んでいた。
「……やるぞ」
「……ああ」
「お前に言われた通り、元凶を一発殴ってやる」
「その意気だ。俺も、こんな理不尽な事に巻き込んだ事で殴らないとな」
そして、それは帝と神夜も同じだった。
緊張と恐怖に苛まれていた二人は、覚悟を決めた。
「俺には、まだ償わなければならない事が多い。それをせずに終わるなんてしたくはない。……絶対に、負けられない……!」
「お前……ショックから立ち直って、いい顔するようになったじゃねぇか」
神夜のその顔を見て、帝は笑みを浮かべる。
「俺も、頑張らないとな……」
そんな神夜の姿を見て、帝も気持ちを新たにして言う。
「(……優奈……)」
思い浮かべるのは、自分の初恋の相手。
最近の帝の原動力は、優奈に対する想いとなっている。
そんな彼女のためにも、帝は頑張らないと思ったのだ。
なお、優輝の別人格でしかないのだが、帝はそんな事を知らない。
「私は先に帰るわ。那美、貴女はどうするの?」
「えっ?……私も、帰ろうかな?」
鈴はアリシア達や式姫と一緒にいた。
結界が瓦解した後、優輝達やとこよ達の会話をしばらく聞いていた。
だが、もうこの場にいる意味はないと、那美に声を掛けてから帰る事にした。
「久遠はどうする?」
「くぅ、もう帰る」
「じゃあ、帰ろうか」
那美は久遠に尋ね、帰る事に決める。
「あ……私はお姉ちゃんと一緒に帰るので……」
「そう?じゃあ、お先にね」
鈴と那美、久遠が帰っていく。
少しして、葉月もとこよ達と共にさざなみ寮へと帰っていった。
「………明日、か」
「なんだか、実感が湧かないね」
残ったのはなのは達。
はやての呟きに、アリシアが困ったような苦笑いを返す。
「つい最近まで、魔法があるとはいえ普通の生活を送っていたんや。……それが、こんな急な展開になるなんて、普通は信じたくないやろ」
「実感がないのも仕方ないわね……あたし達は魔法や霊術を知っていたからマシだったけど、テレビ越しか口頭でしか聞いていない他の一般人の人達はもっと実感がないかもね」
一つの次元世界どころか、全ての世界の命運を背負った戦い。
そんな言葉だけを聞かされても、実感など湧くはずもないだろう。
「明日、嫌でも実感させられるでしょうね」
「神々が相手……それも、椿さんと違って規格外の力を持っている……」
確認するようなすずかの呟きに、皆が黙り込む。
実感が湧かないとは言え、危険性も全くない訳ではなかった。
規模が違ったとはいえ、規格外の相手とは戦った事があった。
それ以上が次は来ると思えば、楽観視などできるはずもなかった。
「……でも、諦める訳にはいかない」
「……うん」
なのはが分かり切った事且つ、忘れてはいけない事を改めるように言う。
フェイトも同意するように重々しく頷く。
「私達の力がどこまで通じるのか、それはわからない。でも、それでも戦えるのなら戦わなくちゃ。私達以外に、この世界で何とかできる人はいないから」
なのはは、既に覚悟が決まっていた。
いつもの不屈の心に加え、御神流を習得した事で、なのはは精神的に成長していた。
「それに……」
「それに、どうしたの?」
途中で言い淀むなのはに、すずかは気になって追求する。
「……ううん、何でもない。これは今度の戦いとは無関係だから……それに、私と奏ちゃんの問題みたいだからね」
「二人の?……って、もしかして……」
なのはの言葉に、アリシアがふと思い出す。
それは、二人の中に宿っている存在の事。
祈梨と優輝は正体を知っているが、二人はそれを知らされていない。
ただ、向き合う必要がある事は二人にも分かっていた。
「奏……」
「……大丈夫。向き合う覚悟は出来ているわ」
「……そっか」
自分が自分でない感覚を、奏は忘れていない。
自我というものが塗り潰されたような、その時の事を、奏はまだ恐れている。
しかし、後回しに出来る事でもなく、逃げる事も出来ない。
それならば、真正面から向き合うしかないと、奏は考えたのだ。
「……とにかく、私たちは戦うしかない。戦わないと、何も変えられないわ」
「そうだね。……うん、負けられないよね」
“正直に言えば怖い”。それがアリシア達の胸中を占める思いだった。
だが、それでも。
「(何もせずにいるのだけは、ダメだ)」
無抵抗であるのは、戦う前に諦めるのは、それだけはダメだとも思っていた。
………故に、戦う覚悟は決まった。
=なのはside=
「ただいま」
あの後、皆はそれぞれ家に帰って、私も帰宅した。
「お帰り、なのは」
「あら、帰ってきたの?」
返事を返してくれる、お父さんとお母さん。
「ちょうど夕飯が出来るから、待っててね」
「うん」
時刻は夕方。結界が壊れてからそれなりに時間も経っていた。
「……戻ってきた、という事は……」
「……うん。明日、戦いが始まる」
「そうか……」
お父さん達は私達がどんな予定で動いているのか知っている。
修行の手伝いにも来ていたし、私も御神流を扱うために手合わせしてもらったりした。
「……すまないな、なのは」
「え……?」
「父さん達では、大した力になれそうにない。……なのは達に頼り切りになってしまう」
申し訳なさそうに言うお父さん。
……いくら御神流が人並外れた強さを持つとはいえ、飽くまで人の限界を引き出しているだけに過ぎない。
身体能力は身体強化魔法や霊術が得意な人だとあっさり互角になるし、暗器があっても遠距離攻撃が得意という訳ではない。
“御神の剣士を倒すには爆弾が必要”……だなんて、お父さんが経験を基に冗談めかして言っていたけど……裏を返せば、爆弾のような殲滅力があると負けやすい。
神界の戦いではおそらく爆弾程度の殲滅力は当然のはず。
そんな戦いにお父さん達が参戦するには……荷が重すぎる。
「……じゃあ、家の方は、お父さん達が守って」
「っ……ああ。もちろんだ。御神の剣士としても、父親としても。何としてでもこの家を守ろう。なのはが帰ってくるための、この家を」
御神の剣士は、対象を守るために力を発揮する。
きっと、お父さん達にとってもこっちの方がいいのかもしれない。
「ご飯、出来たわよ~」
その時、お母さんの声がリビングに届く。
「あ、お母さん、手伝うよ」
せっかく久しぶりに家に帰ってきたのだし、家事も少しは手伝わないとね。
「そういえば、お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
「あの二人なら道場の方だ。……父さんが呼んでくるよ」
そういってお父さんが道場の方に向かっていった。
しばらくして、お兄ちゃんとお姉ちゃんを連れて戻ってきて、そのまま夕飯になった。
……久しぶりに帰ってきたからって、お姉ちゃんに抱き着かれたけど。
「(……明日は、いよいよ戦いが始まる)」
お風呂を上がって、ぼんやりとテレビを見ながらそんな事を考える。
テレビでは、バラエティ番組とかは一切やっていない。
連日の異常事態に関するニュースで、ほとんどの番組の放送時間がなくなっている。
「(……怖いな……)」
戦う覚悟は出来てる。戦わなくちゃいけない事も理解している。
……でも、その上で“怖い”。
「………」
確かに、私は強い。
元々魔法の才能があると言われていたし、持て余さないように特訓もしてきた。
さらに、その上に御神流の技術を完璧ではないとはいえ上乗せしている。
祈梨さん曰く、神界とも戦える程には強いと言われたけど……。
「(……怖い……)」
飽くまで、それは“戦える”だけ。
“勝てる”とは言われていない。
裏を返せば、以前までは“戦い”にすらならない状態だったと言うこと。
……そんな相手と、私達は戦わなくちゃいけない。
「(強大な敵と戦う……だけならまだマシだった)」
途轍もなく強い敵と戦う。
それでも十分怖いし、負ける訳にもいかない。
でも、今度の戦いは全ての世界の命運に関わってくる。
……私は、そのプレッシャーが怖い。
「……なのは?」
「ぁ……お母さん?」
そんな私に、お母さんが話しかけてきた。
夕食の食器はもう洗い終わったみたい。
「……怖いのね……」
「っ……!うん……」
表情に出しているつもりはなかった。
でも、お母さんにはお見通しだったみたい。
……多分、お父さん達も見抜いていたのかも。
「……大丈夫よ。なのはは強い子なんだから」
「………」
その言葉は、気休めにしかならない。
でも、それでも充分。励ましてくれるだけでも、助けになる。
「守られてばかりなお母さんが言うのもなんだけど……諦めないようにね?」
「……うん」
そう。諦めたらダメ。
諦めない限り、負ける事はないって、祈梨さんも言っていた。
だから、諦めない。諦めちゃダメなんだ。
「諦めない限り、可能性は残っているわ」
「(そう。諦めなければ……)」
お母さんの言葉を自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返す。
―――だから、諦めないで。可能性を拓くのよ
「―――ぇ?」
その時、耳を疑った。
そして、振り返って後ろに立ってたお母さんを見上げて、目も疑った。
……さらに同時に、その時の自分の心すら疑った。
「どうしたの?」
「え、あ、ううん、なんでも……」
直後、それが気のせいだったかのように元に戻る。
「(……気のせい……?)」
そう。気のせい。
私は、そう思い込むようにした。
その時聞こえた声と、お母さんの表情。
そのどれもが、お母さんらしからぬモノだった。
……そして、それを見聞きした時。
私がお母さんに対して敵意を持った事が、何よりも信じられなかった。
後書き
同級生二人の慌てっぷりは一応言っておきますが伏線とかじゃないです。
尤も、それ以上に伏線らしい伏線があるので気にならないと思いますが。
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