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遊戯王BV~摩天楼の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン7 傾国導く闇黒の影

 
前書き
今回はまだ投稿早い方です。予想以上にきっついわ新生活。
前回のあらすじ:輝け中年の太陽。 

 
「ハァ、ハァ、ハァ……クソッ」

 夜の月に照らされて、肩で息をしながらボロボロの体で前方を睨みつける赤髪の女―――――糸巻。その口の端の煙草は彼女の呼吸が乱れている証拠に、不規則に先端の火が強まっては弱くなりを繰り返していた。特にひどく痛むらしい右肩を起動中のデュエルディスクをつけた左手で庇いながらも決して膝をつこうとはしないその表情は、まさに手負いの獣といった様子だった。

「おやおやおや、あなたこんなに弱かったでしたっけ?家紋町の守護神、デュエルポリスの古株……元プロデュエリスト、『赤髪の夜叉』さん?」
「……はっ、最初のひとつは初耳だな。それに精々抜かしてな。公務執行妨害、暴行、凶器準備集合罪、まだまだ罪状盛りだくさんのお得セットだ。泣いて謝ったってしょっ引いてやるからよお!」

 言い返す口調だけは威勢がいいが、もはや逆転の目が薄いことは彼女自身がよく自覚していた。まだ可能性はゼロでこそないが、このままではその残り火が費えるのも時間の問題だろう。
 なぜ、なぜ、こうなってしまったのか。それを語るには、ほんの少し時間を巻き戻らねばならない。





 ソーラー・ジェネクスによるバーン効果を逆手に取る形で、傷だらけとなりながらも鳥居が2勝目を挙げたちょうどその時―――――外。蜘蛛とのデュエルを終えた糸巻は試合中のドームを中心に円を描くように動き、直線上で1キロほど離れた自然公園でいつも通りに煙草をふかしていた。常人ならばとうの昔に胸焼けして煙を見るのも嫌になるようなハイペースだが、1カートンをわずか3日で吸い尽くすほどに重度のヘビースモーカーである彼女の肺は、この程度のことで音を上げる様子はない。

(さて、そろそろか?)

 心の中で呟き、ここまで乗ってきたバイクの元に向かう。蜘蛛とのデュエル後から会場と一定の距離を保ったまま適当に走っては一服し、追っ手の気配がなければもう少し走りまた一服する。その繰り返しだ。今回の裏デュエルコロシアムは、参加メンバーのネームバリューからいってもかなりの金が動く。当然、追っ手があの蜘蛛1人で済むはずがない。まして彼女は、その蜘蛛を既に返り討ちにしているのだ。

「こんばんは。随分好き放題やってくれましたねー、おかげでこっちはえらい騒ぎですよ」
「おう、遅かったじゃないか。ようやく2人目の……」

 はたして、彼女の予感は的中した。背後から掛けられた、軽い調子の声に応え振り返る……その寸前、膨れ上がった背後の殺気に彼女の体はほぼ無意識のうちに動いていた。軽口を途中で切り、煙草の始末をする暇もなく地面に転がって前転、声の主から距離をとる。
 その直後、先ほどまで彼女が立っていた位置に巨大な、銀色の槍のようなものが突き刺さった。いともたやすく地面を貫いたそれが直撃していたら、明日の朝刊は一面記事の内容をすべて差し替えることになっただろう。さらに続けて2回ほど、転がった彼女の後を追うように同じような何かが突き刺さる。

「こんの……!」

 さらに1回転してようやく片膝で起き上がり、声の方を睨みつけながらもデュエルディスクを構える。突然現れた得体のしれない凶器、こんなものを可能にするのは「BV」しかありえない。だがわからないのは、今の実体化の力強さだ。彼女のデュエルディスクは、間違いなく妨害電波を流し続けている。にもかかわらず、一撃で地面を貫くほどの質量が召喚されている。ということは……しかし、彼女に深く考えているだけの時間は与えられなかった。

「うーん、やっぱり反応が早いですね。今ので終われば、私も色々と楽だったんですがね」

 サク、サク、とかすかに土を踏む音とともにこちらに歩いてきたのは、すらりとした長身の男。口元はにこやかに笑みを浮かべているもののその目は細く、その奥にある瞳はまるで笑っていない。
 この男、彼女にとっては知った顔だった。それも、できれば会いたくない部類の。

「『おきつねさま』……随分久しぶりだね。てっきりその辺でくたばっててくれたもんだとばっかり思ってたよ」
「ええ、お久しぶりです。貴女の方こそ、そんな恥知らずな職でまだ生き恥さらしてたんですか?」

 おきつねさま、とは無論、この男がかつてプロデュエリストで活動していた時の異名である。本名を(ともえ)光太郎。当時から不仲だった彼と糸巻の関係は彼女がデュエルポリスに再就職した時点で決定的に破壊されつくし、いまやその間には2度と埋まらず互いにその気すらもない溝が深々と横たわっている。それは時間とともに修復されるどころかますます深く広くなり、もはや憎しみと呼ぶ方がふさわしいほどに変化している。
 そして彼女にとっては厄介なことにこの男、目的のためならば一切の手段を選ばないことで当時から悪評が広まっていた。今の攻撃にしても、あれは断じて演技ではない。あれで彼女が死ねば面倒が一つ省けて楽だった、その程度にしか感じていない。はじめに声をかけたのも、不意打ちひとつで即死させるのではなくそもそも誰が自分を殺したのか、それを本人に理解させるため以外の目的はない。全く気付かないうちに痛みを感じる暇もなく死んでしまっては、彼の恨みが晴らせないからだ。
 総じて彼は危険人物であり、極めて面倒なことに腕の立つ狂人でもあった。

「……どこでテロやってんのかと思ったら、まさかこの町に来てるとはね。どれ、そろそろお縄につく気になったかい?」
「貴女こそ、10年以上前にも私言いましたよね?そろそろ死ね」

 口元の笑みは絶やさずに手元のデュエルディスク、そのモンスターゾーンにパチパチパチパチと流れるような動きで4枚のカードをセットする。一番右端にはすでにカードが置かれている……おそらく、最初に不意打ちを仕掛けてきたモンスターの物だろう。そして「BV」により彼の周囲に一斉に実体化したのは、計4体の白面金毛を持つ美しい妖狐……鬼火とともに現れる9の尾を持つ大妖怪、九尾の狐。それらが一斉にその尾をゆらりと持ち上げ、振り下ろされる槍の嵐のように彼女めがけてその先端を突き刺しにかかった。

「こんのリアリストが、舐めてんじゃねえ!」

 ここで彼女が並のデュエルポリスであれば、自身のデュエルディスクが放つ妨害電波がなぜ通用しないのかを理解する暇もなく串刺しの肉片となっていただろう。しかし彼女は少なくとも並ではなく、なによりも目の前のこの男のことをよく知っていた。おきつねさまが動くということは、なんらかの勝算あるいは理由があるときに他ならない。しかし1体につき9本、合計36本もの鋼鉄のように鋭く尖った尾からはいくら彼女の身体能力をもってしても逃れきれないだろう。そこで彼女が見出したのは、自身のデュエルディスクだった。咄嗟にどれともつかぬカード1枚を手に取り、モンスターゾーンに置く。理由はわからないが、あの「BV」はこれまでの物とはわけが違う。ならば、当然その恩恵は彼女も受けることができると踏んでのことだ。果たして彼女の目の前に、腐肉に鬼火を纏う黒き竜が現れる。

「来な、真紅眼の不屍竜(レッドアイズ・アンデットネクロドラゴン)!」

 開いた口から体内に蓄積された腐敗ガスを煙草の煙めいて吐き出しつつ、堕ちた竜がその腐肉にへばりつく鱗で36本もの九尾の尾を弾き返す。ギリギリの賭けではあったが、彼女のカードもまた「BV」処理を経て一時的な実体化に成功したのだ。
 そして訪れる、一時的な膠着。先にカードを引っ込めたのは、巴の方だった。

「はいはい。仕方ありませんね、実力で片付ければいいんでしょう?」

 面倒そうに肩をすくめて5枚のカードを回収してポケットに入れ、代わりに自らのデッキを取り出してデュエルディスクに改めてセットする。それを見た彼女も攻撃を防いだ真紅眼の不屍竜を取り出し、再びエクストラデッキに裏側で戻す。彼がカードを引っ込めた隙に真紅眼に攻撃させれば、確かにこの一件のすべては終わるかもしれない……しかし彼女がそれを良しとしないことは、お互いに知り尽くしている。彼女にとってカードは断じて殺人の道具などではなく、そのために「BV」を利用することはデュエルポリスの道を選んだ彼女の全てを否定することに他ならない。
 それがわかっているからこそ、彼もわざと彼女の目の前で隙を作るような真似をしてみせたのだ。口先だけのくだらない綺麗事に囚われて最も合理的な手段をとれないでいる彼女にその矛盾を突き付け、嘲笑うために。

「おう、余計なことしてないで初めからそうすりゃいいんだよ。アタシはいつでも受けて立つぜ?アンタと違って、アタシは負ける気なんてさらさらないからな」
「貴女のそのいちいち余計な一言を挟まないと気が済まない性分、私は大嫌いなんですがねえ」
「知ってるに決まってんだろ?わっかんないかな、だーかーらーやってんだよスカポンタン。それともうひとつ、アタシもアンタのその厭味ったらしくて胡散臭い態度は昔っから生理的に受け付けないんだわ」
「貴女の方こそ、ヤニ臭いところも昔から変わりませんね。もういい歳でしょうに」
「おう、仮にも女に向かって真正面から歳の話たあいい度胸だな。安心しな、裁判の時はアタシの権限の全てを使って、アンタの罪状に猥褻物陳列罪もおまけで付けといてやるよ」

 互いに軽口を叩きあうような気軽さで挑発を繰り返しながらも、その目はともに全く笑っていない。次第に張り詰めていく空気が限界を迎えた時、同時にデュエルディスクを構えた。

「「デュエル!」」

「アタシが先攻だ、不知火の隠者を召喚!」

 不知火の隠者 攻500

 先攻を取った糸巻が吠え、【不知火】のみならず【アンデット族】全般の起動エンジンといっても過言ではない山伏のモンスターを召喚した。アンデット使いの彼女にとって、このカードを初手に引けたことはスタートダッシュのアドバンテージ面で一気に優位に立つことと同義であり、それほどに大きな意味を持つ。
 しかし、同じく元プロである巴がそれをただ許すはずもなく。

「おっと、ならそこで増殖するGの効果を発動。隠者棒立ちエンドなんてつまらない真似、当然できるわけがないですよね?」
「増G……ケッ、だったら次善の策でいかせてもらおうか。アタシはこのまま不知火の隠者の効果を発動、自身をリリースすることでデッキから守備力0のアンデットチューナー1体を特殊召喚する。来な、ユニゾンビ」
「なら私も、貴女がモンスターを特殊召喚したことで増殖するGによりカードを1枚ドロー」

 ユニゾンビ 攻1300

 同じくアンデット使いならば誰もがその名を知る、二人三脚するほそっちょとでぶっちょの仲良しゾンビ2人組。そのボロボロになった服の隙間から1匹の黒光りする虫が這い出し、フィールドを飛んで巴の手元へと吸い込まれ1枚のカードに変化する。

「さらにここで、ユニゾンビの効果発動。アタシの手札1枚を捨てて、フィールドに存在するモンスターのレベルを1上げる。ユニゾンビを対象に屍界のバンシーを捨て、そのレベルを4に。そのままバンシーの効果を発動!このカードを除外することで、デッキからアタシの領土を呼び起こす。生あるものなど絶え果てて、死体が死体を喰らう土地……アンデットワールド、発動!」

 その瞬間、公園の空気が一変した。2人を取り囲む木々は不自然にねじれ、枯れ、その表面に苦悶の表情にも見える瘤を作り出す。澄んだ夜の空気を駆逐するようにあちらこちらから瘴気が吐き出され、急速にぬかるんでいくその足元では半分骨になった虫が蠢き、血のように赤い沼が沸き上がる。

 ユニゾンビ ☆3→☆4

「相も変わらず、汚らしい」
「自己紹介なら他所でやっとくれ、あいにくこっちは聞き飽きてんだ。ユニゾンビのもうひとつの効果発動!デッキからアンデット族を墓地に送ることで、フィールドに存在するモンスター1体のレベルを1だけ上げる。当然これにもユニゾンビを選択し、デッキからグローアップ・ブルームを墓地へ。この瞬間、ブルームの効果発動!」

 ユニゾンビ ☆4→☆5

 本来は下級モンスターに過ぎないユニゾンビが、2つの効果の重ね掛けによりレベル5にまで成長を遂げる。
 が、糸巻の狙いはそんなところにはない。彼女の足元で沼地がもぞもぞと揺れ、瘴気と共に血のように赤い一輪の花が開く。この生なき世界にはあまりにも不釣り合いな、咲くはずのない場所に開いた仇花。その花弁から放たれるかすかに紅い色のついた芳香が、アンデットワールドに新たな活気をもたらす。

「グローアップ・ブルームが墓地に送られた場合、このカード自身をゲームから除外することでデッキからレベル5以上のアンデット族モンスター1体を選択し、そのカードをサーチできる。だがアンデットワールドが存在する場合、サーチの代わりにそのモンスターを特殊召喚することもできる。さあ、ひれ伏しな生者ども!ここじゃあ現世の威光だなんて、クソの役にも立ちゃしない。死霊を統べる夜の主、死霊王 ドーハスーラ!」

 ずるり、とどこかで音がした。常に薄暗いアンデットワールドで、確かに何か巨大なものが動く気配がする。それは、巨大な蛇の下半身。それは、右手に握る黄金の杖。それは、両肩を守る髑髏の鎧。それは、朽ちて肉なき龍の顎。そしてその上で不気味に光る、冷たく知性を湛えた瞳……彼女のエースモンスターの1体にして時に追撃、時に滅殺とその気のむくままにあらゆる死霊を手玉に取る、アンデットワールドに潜むもうひとりの主。その名を、ドーハスーラと人は呼んだ。

 死霊王 ドーハスーラ 攻2800

「なるほど。では増殖するGにより、もう1枚カードを引かせてもらいます」
「おう、引け引け。精々それで足掻いてみせな、カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 余裕ぶった態度……だが内心、糸巻は冷や汗をかいていた。はっきりいって今の彼女の初期手札は、あまり良いとは言えない状況だった。カードパワーが低いわけではない。実際アンデットワールドとドーハスーラ、そしてこの2枚の伏せカードは並大抵の相手であればそのまま蹂躙できるほどの布陣だろう。だが、目の前の男が相手となるとやや話が変わる。彼女の出した4枚のカードに、彼のエースモンスターへの有効打は存在しない。まして今回は、増殖するGによってすでに2枚の追加ドローを許してしまっているのだ。しかしそんなことはおくびにも出さず、不敵な笑みを浮かべて次のターンに備えてみせる。

「では私のターン、ドロー。そうですね……では、巨竜の聖騎士(パラディン・オブ・フェルグラント)を召喚」

 巴が先陣切って召喚したのは、神聖な光に輝く鎧と剣を身につけた青年剣士。しかしその両足が地につくかつかないかのうちに、生身の体はみるみる腐り落ちていく。

 巨竜の聖騎士 攻1700 戦士族→アンデット族

「本来ならば召喚時の効果として私はデッキまたは手札からレベル7、8のドラゴン族1体をこのモンスターの装備カードにできるのですが、今はアンデットワールド適用中。下手に動くと貴女の王様が目を光らせていますからね。効果は使わないでおきましょう。代わりに魔法カード、テラ・フォーミングを発動。この効果によりデッキからフィールド魔法1枚をサーチします」
「ちっ、引いてやがったか」
「それはお互い様でしょう?あなたの領土だけで戦うのは不公平というものですからね、ここはひとつ私の世界にも来ていただきましょう。サーチしたフィールド魔法、闇黒世界-シャドウ・ディストピアを発動!」

 薄暗いアンデットワールドに、さらに濃い闇が訪れた。歪んだ木々の落とす影がふわりとその場で立ち上がり、悪意にまみれた表情の影法師となって死霊の間を駆け抜ける。聞いているだけで不安を煽るような嘲笑の声が四方八方から遠く、近くに反響して鳴り響き始める。死霊の土地であるアンデットワールドとはある意味でどこよりも近く、そしてどこよりも遠いはずの光なき世界。ここは闇黒に満ち溢れた、彼の最も得意とする空間。

「シャドウ・ディストピア……」
「ええ。ご存じでしょうが、このカードが存在する限り互いのフィールドに存在するすべてのモンスターは闇属性となります。ただでさえ種族を上書きされているというのに、属性までいじられてはもはや原形ありませんね」

 巨竜の聖騎士 光→闇

「さて、ですがそんなことはどうでもいいです。私は魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキからモンスター1体、九尾の狐を墓地に送ります」
「……待った!この瞬間にリバースカードオープン、バージェストマ・カナディア!相手フィールドのモンスター1体、巨竜の聖騎士を選択して裏側守備表示になってもらう!」

 巨竜の聖騎士 攻1700→???

「ふぅむ、なるほど?ま、いいんじゃないですかね。私は続けて、墓地に存在する九尾の狐の効果を発動。私のフィールドのモンスター2体をコストとしてリリースし、墓地から自身を蘇生。この瞬間にシャドウ・ディストピアの効果により、私のモンスター1体の代わりに相手フィールドの闇属性モンスター1体をリリースします。ドーハスーラ及び巨竜の聖騎士の魂2つを生け贄とし、黄泉より還れ九尾の狐!」

 ドーハスーラの周りを、どこからともなくわらわらと群がってきた実体のない影法師が取り囲んだ。影に飲まれた死霊の王は少しずつ、少しずつ、その体色が濃くなり輪郭がぼやけ、やがて本体の存在しない巨大な1つの影法師と化していった。影だけとなったかつての王が地面に溶け崩れると、墨のように黒いその闇の中からぬるり、と9本の尾を持つ白面金毛の大妖怪が口が耳まで裂けているかと見まごうような邪悪な笑みを浮かべつつ黄泉よりフィールドへと還ってきた。

 九尾の狐 攻2200 炎→闇

 そして、彼女にはこのカードに嫌というほど見覚えがある。たった今彼女の命を物理的な方法で狙ってきたのがこのカード、というだけではない。それ以前の彼女がプロだった際にも、彼の試合が組まれるたびにその狐顔を見てきたモンスターだ。
 何度死してもその黄泉の淵より平気な顔をして帰ってくる、しかも絶対にただでは死なない。まさに巴という男を体現したようなこのカードは、いつしか彼の2つ名の由来ともなっていた。

「来やがったな、『おきつねさま』。ええ?」
「そうですね、ですが攻撃の前に、まずは1つだけ言わせていただきましょう。糸巻太夫、赤髪の夜叉。貴女は本当に、本当に用心深い方です」

 まるで心のこもっていない形だけの拍手をパチ、パチと2度ほど行い、同じく感情のこもっていない冷酷な笑みを浮かべる巴。

「ですが、普通ならばプレイングミスと受け取られても仕方ないですよ、今のは?蘇生した九尾の狐ではなく、その前にフィールドに出しただけの巨竜の聖騎士に対し貴重なカナディアをわざわざ発動するだなんて」
「あいにく、アタシは用心深いんでな」
「ええ、貴女は昔からそうでしたね。さも自分が豪快奔放な性格であるかのように装っておいて、その実は緻密な策略家としての顔を合わせ持つ。精密にして思慮深く……詰まるところは、どこまでも臆病な小心者だ」
「あー?」

 ぴくり、と糸巻の眉が動く。それに気づいてか気づかずか……いや、間違いなく気付いているのだろう。その上で彼女の反応をいちいち楽しみながら、流暢な調子で言葉を続ける。

「おや、何か間違いでも?だってそうでしょう、結局のところ貴女が恐れているのは、私の手札にあるかどうかもわからない1枚のカードなんですから。違いますか?それを臆病と言わずしてどう称すればいいのか、ねえ?少々私の理解の及ぶところではありませんので、ぜひとも貴女自身にご教授願いたいですね」
「……さっきも言ったとおり、アタシは用心深いんでな。狐畜生風情との化かしあいで、アタシみたいな人間様が遅れを取るわけにゃいかないのさ」

 嫌味たっぷりの毒舌にはノータイムで返事を返したものの、その表情は硬い。巴の発言は、そのなにもかもが図星だったからだ。彼女があのタイミングでカナディアを巨竜の聖騎士に発動したのは、要するにたった1枚のカードを警戒しているからにすぎない。彼のエースモンスターの1体である最上級ドラゴン、闇黒の魔王ディアボロス。それはアンデットワールドにおけるドーハスーラと同じく自身の根城であるシャドウ・ディストピアにおいて最大の力を発揮し、ひとたび場に出ることを許せばかなりの苦戦を強いられることは目に見えている。そしてそのカードを特殊召喚するための条件は、「自分フィールドの闇属性モンスターがリリースされた時」。
 つまり彼女がカナディアを使ったのは、巨竜の聖騎士をシャドウ・ディストピアの適用範囲から外れた裏側守備表示にすることでその属性を書き換えられた闇から本来の光へと戻す、たったそれだけの意味しかない。あるかないかすらもわからないカードに対し過大に警戒し、あげく使い勝手のいい妨害札を1枚消費した。巴は、その意図に気が付いた。本来ならばただの馬鹿げたミスとして流してもおかしくないプレイングに感じた小さな違和感を紐解き、彼女に関する彼の記憶や印象と照らし合わせたうえでその意図を見破った。そしてその上で彼は、彼女を臆病と嗤っているのだ。

「それに、だがな。アタシにだってそれなりの理屈はあるんだぜ?教えてはやらんけどな」

 表情の硬さがどうにか取れ、にんまりとその口角が持ち上がる。今度は、糸巻がふてぶてしく笑う番だった。確かに彼女のプレイングはよく言えば慎重、悪く言えば被害妄想の激しいものだったかもしれない。だが、彼女の言葉はただの負け惜しみなどではない。巴光太郎が糸巻太夫の言動をその憎しみがゆえに予見できるのと同じように、糸巻太夫にも巴光太郎の思考パターンは頭に染みついている。彼は基本的には合理的であり、しかもそれを突き詰めることに快感を感じるタイプの人間である。そんな彼が、何の躊躇もなくそのディアボロスをデッキから装備カードとして引き出せる巨竜の聖騎士を使い捨て、墓地に送ることができるおろかな埋葬を九尾の狐のために使った。つまりそれは逆説的に考えれば、その効果をディアボロスに対し使う意義が薄い状態にある……すなわちディアボロスは、すでに彼の手の内に存在するということに他ならない。これが同じ元プロでも他の相手ならば、さすがの糸巻もそんなか細い理論だけで判断を下さなかっただろう。
 しかし、彼女はこの男をよく知っていた。互いにある種の同族嫌悪めいた匂いを感じ取る彼らはどこまでも対局的であり、同時に限りなく似通った存在だったからだ。

「では、そういうことにしておきますよ。どうせ、その減らず口もそろそろ聞き納めなわけですしね。バトル、九尾の狐でユニゾンビに攻撃。九尾槍!」

 彼女のもう1枚の伏せカードは、バージェストマ・ハルキゲニア。相手モンスター1体を対象に取りその攻守をターンの間だけ半減させるこのトラップをダメージ計算時に発動すれば、ユニゾンビであの狐を返り討ちにすることもできる。
 だが、彼女はそれを見送った。確かにユニゾンビをここで守ることができれば、次のターンで更なるアンデットを彼女の墓地に送ることもできる。しかしそれに待ったをかけるのが、九尾の狐の持つもうひとつの特殊能力である。破壊された時に弱小ステータスの狐トークン2体を場に残すその能力を、何らかの形で利用されることは避けられない。ゆえに彼女は、伏せカードを沈黙させたままでその攻撃を受けた。
 そして、その判断を即座に後悔することになる。

 九尾の狐 攻2200→ユニゾンビ 攻1300(破壊)
 糸巻 LP4000→3100

「……!」

 声すらも出ないほどに鮮明な、自分の腹部を直接えぐられるような痛み。暴走した痛覚がでたらめに体を刺激することでこみ上げたあまりの吐き気にその場に膝をつき、呼吸もめちゃくちゃに土下座するように両手を地面についてえづく。胃の中身をすべて吐き出さなかったのは、彼女にとって僥倖だった。

「おやおや、随分鈍ってますね。私の知っている貴女であれば、その程度のダメージに膝をつくような真似はしないと思っていたのですが。ま、おかげでいいもの見せてもらいましたよ」
「ざっけんじゃねえよ、タコ……!」

 冷静な煽りがかえって彼女の闘志に油を注ぎ、燃え上がる感情が自身の苦痛をねじ伏せる。脂汗をかきながらもどうにかその両足で立ち上がった彼女に、上品に口元を手で押さえてのくすくす笑いが降りかかる。
 彼は合理的だ。だが、その人格を構成する要素はそれだけではない。例えば彼はプロ時代、相手が誰であろうともその1戦のみのメタカードをデッキに仕込むような真似はしてこなかった。彼に言わせればそれは負かした相手にメタを張られたから負けたのだ、などという余計な言い訳を与えるだけの利敵行為であり、完膚なきまでに正面から捻り潰したうえで自分が弱いから負けたのだという事実を2度と消えないほど相手の心に強く刻み込む、そこに愉悦と快感を覚える彼の性癖に反していたからだ。そんな彼にしてみれば、さぞかし今の彼女は愉快な姿に見えたことだろう。

「愉快なものを見せていただいたお礼といってはなんですが、そろそろ種明かしぐらいはしてあげましょうか。どうせここで黙っていても、すぐに貴女方も知ることになる話ですからね。まずお察しの通り、私のデュエルディスクは新型です。今はまだデータ収集中の試作品ですが、見ての通りその鬱陶しい妨害電波に無効化されることなくブレイクビジョンを展開及び固定でき、さらに特筆すべき点として起動時から微弱な電波を発信することにより、その効果範囲に存在する人間の痛覚をより鋭敏なものとする機能が追加されています。貴女にも理解できるようにより噛み砕いて言えば、衝撃増幅装置としての機能を併せ持っているわけですね」
「なんだと……!?」
「どうです、素晴らしいものでしょう?どうも最近、裏デュエルコロシアムもマンネリ化が進んでいましてね。ダメージがこれまで以上により鮮烈な痛みとして現れるこの新型デュエルディスクが普及すれば、彼らもより真剣にデュエルを行うようになるでしょう」

 投げかけられる言葉を、目を丸くして聞く糸巻。しかし、それも無理はない。彼がなんということもなしに放ったその言葉は、今後の世界情勢を一変させかねないとんでもない爆弾だった。
 そもそも「BV」を利用してのテロ行為が今現在冷戦状態にとどまっているのは、全世界に散らばるデュエルポリス達が実体化したカードを近づくだけでその片端から元のソリッドビジョンに戻し、使い手を純粋なデュエルの腕で制圧することにより睨みを利かせて押さえつけているからというだけに過ぎない。テロリスト側が攻めあぐねているからこそ成り立つ危うい均衡の元で保たれてきた、常に後手対応に回らざるを得ないかりそめの平和。その条件がひとたび崩れたとなれば、パワーバランスは変化する。デュエルの相手をして勝利せずとも実体化したカードが消えないとなれば、テロリストがわざわざデュエルに付き合う義理はない。勝負を受ける理由も、その旨味も何もかもが失われるからだ。

「そんなものを、本気で作りやがったのか……?」

 だが、彼女が呆然となったのはその部分ではなかった。彼女にとって一番信じられなかったのは、痛みを増幅するデュエルディスクという概念そのものだった。
 これまで彼女は心のどこかで、デュエルポリスであることを良しとせず非公認の場での闇稼業に進んだ彼のような元プロたちも、プロデュエリストとしての誇りと矜持は失っていないと勝手に思っていた。国家の犬になる気はないが、デュエルモンスターズは続けたい。その目的があったからこそ、こうして日の当たらない道を選んだのだと。だが、今の言い草はどうだ。まるで、人を傷つけ痛めつけることがその目的の一番上に来ているようではないか。デュエルモンスターズを続けることが結果的に人を傷つけることとなる、というのならば彼女にも理解できる。だがその目的が入れ替わるというのは、まさに彼女にとって異次元の思考回路だった。

「ええ。いやあ、その顔が見られただけでも今日までひた隠しにしてきた甲斐があるというものですよ。とはいえ、繰り返しになりますがまだまだ試作品ですからね。この実地試験の被験者(パートナー)は貴女です、せいぜい壊れるまでは付き合っていただきますよ。カードを2枚伏せ、ターンエンド……そしてこの瞬間、シャドウ・ディストピアの更なる効果が発動します。互いのターンのエンドフェイズごとに、このカードの存在する状況の下でリリースされたモンスターの数までシャドウトークンをターンプレイヤーのフィールドに産み出しますよ。さしずめリリースされたモンスターどもの怨霊、といったところでしょうか」

 シャドウトークン 守1000 悪魔族→アンデット族
 シャドウトークン 守1000 悪魔族→アンデット族

「アタシの……ターン」

 再び糸巻にターンが移り、カードを引く。今の話を聞いたあまりの衝撃に、痛みはすっかり追いやられていた。そして血色の沼が奥底から泡立ち、果てしない底から杖を持つ黒い手が伸びる。

「このスタンバイフェイズ、墓地に存在するドーハスーラの効果を発動。フィールドゾーンにカードが存在することで、スタンバイフェイズごとにこのカードは守備表示で復活する。帰ってきな、ドーハスーラ!」

 死霊王 ドーハスーラ 守2000

「ありがとうございます、わざわざそのようなモンスターをご用意いただいて。トラップ発動、影のデッキ破壊ウイルス。守備力2000以上の闇属性モンスターをリリースすることで発動するこのカードは相手プレイヤー周辺にウイルスを撒き散らすことで、守備力2000以下の相手モンスターすべてに感染。破壊され墓地へと送られます。そしてシャドウ・ディストピアの効力により、私は九尾の狐ではなく貴女のドーハスーラをこの媒体とします」
「しまったっ!」

 後悔するが、もう遅い。甦ったはずのドーハスーラが再び消えていき、その体から黒い煙のような勢いと密度のウイルスが無数に噴出する。意志を持つウイルスの塊はフィールドをぐるりと回り感染できるモンスターが存在しないことを確認したのち、彼女の手札に向けてその進路を変える。

「手札を見せていただきましょうか。当然、守備力2000以下のモンスターはその場で破壊ですよ?」
「勝手にしろ!」

 彼女の手札は、残り2枚。それを表にして巴に広げてみせると、そのうち片方がボロボロに崩れて灰となって落ちていく。

「手札に残ったものが不知火流 輪廻の陣……先のターンに伏せない理由もなし、そちらが今のドローカードですか。そして破壊されたカードがなるほど、不知火の宮司(みやつかさ)と。たしかそのカード、召喚時に不知火1体を蘇生できましたよね?惜しかったですねえ、その2枚さえあればこのターンも隠者の蘇生、リクルートからスタートしてそれなりの布陣を組むことができたでしょうに」
「よく言うぜ、アタシがドーハスーラをスルーしたところで九尾の狐は守備力2000、しかもシャドウ・ディストピアで属性は闇。媒体とタイミングが違うだけじゃねえか」
「おや、さすがに気づいていましたか」

 いけしゃあしゃあと言ってのける巴に苦い顔をし、手元に唯一残ったカードをフィールドに伏せた。しかし、その正体はすでに割れている。そして彼女のフィールドにドーハスーラの置き土産ともいえる、シャドウトークンが現れる。

 シャドウトークン 守1000 悪魔族→アンデット族

「ターンエンドだよ、畜生。さっさと続けやがれ」
「汚い言葉遣いですねえ、では仰せのままに。私のターン、ドロー」
「スタンバイフェイズ、このターンもアタシの墓地からドーハスーラを……」
「ではチェーンしてトラップ発動、フレンドリーファイア。相手のカード効果が発動した際、別のカード1枚を破壊します。この効果により私のフィールドに存在する九尾の狐を破壊します……ああそうそう、ちなみにこのトリガーとなって頂いた貴女の死霊王ですが、その復活はさせませんよ?もう1枚チェーンして速攻魔法、墓穴の指名者を発動。相手の墓地からモンスター1体を除外し、さらにそのカードおよび同名カードの効果は次の貴女のエンドフェイズまで無効となります。今回は無事に処理できましたが、そのカードにあまり生き返られては厄介極まりないのでね」

 デュエルディスクから弾き出されたドーハスーラを、無言のままにキャッチする。彼女を取り囲む状況は、確実に悪化の一途をたどっていた。しかし、それを理解しつつも彼女にはどうすることもできない。

「九尾の狐は破壊された際に、私の場に狐トークン2体を特殊召喚します。おやおや、随分とフィールドが賑やかになりましたね。どこかのだれかとは大違いです」
「それは結構なことだがな、たかだか攻守揃って1000以下の奴ばっかじゃないか。いつからアンタの職業は、幼稚園児みたいな奴らの引率になったんだい?」

 減らず口だけは叩きつつも、それが負け惜しみでしかないことは彼女自身がよく理解していた。ひと昔前ならいざ知らず、今の世の中にはリンク召喚というものが存在するのだ。いくらトークンを並べてもチューナーが、あるいは融合や儀式、場合によっては強化のカードがなければ時間稼ぎにしかならないという時代はとうに過去のものとなり、いまやこの状況からでもエクストラデッキの枠さえ十分に確保してあれば様々なモンスターを下準備なしで展開できる。

 狐トークン 守500 炎→闇
 狐トークン 守500 炎→闇

 だが、彼女はただ減らず口を叩くのみで指を咥えてこの後の展開を見守るような真似はしない。すでにネタの割れた手ではあるが、あの手札の中に何らかの対抗策さえ握っていなければまだ、粘ることはできるのだ。彼女の背後に音もなく巨大な(やしろ)が出現し、その足元には地面のぬかるみを上書きするようにまっすぐな石畳が敷き詰められる。揺らめく炎が円を描くように結び合わされ、決して消えない不知火の渦が冥界と現世を繋ぐ道と化す。

「永続トラップ、不知火流 輪廻の陣!そしてアタシは早速、この効果を使わせてもらうぜ。1ターンに1度アタシのフィールドからアンデット族1体を除外することで、このターンに受けるあらゆるダメージを0にする!」

 糸巻のフィールドに唯一残っていたシャドウトークンが、炎の円へと吸い込まれる。瞬間彼女の足元を中心に不知火の紋様を描くように炎が走り、浄化の炎による強固な結界が発生した。

「まあ、そうするでしょうね。私も残念ながら、このターンのうちにその発動を妨害することはできません。その意地汚い延命処置がどこまで続くか、は気になるところですが……チューナーモンスター、クレボンスを召喚します」
「あん……?」

 クレボンス 攻1200 サイキック族→アンデット族

 このターンでの攻め手を遅らされた巴が繰り出したのは、全く関係のないチューナーモンスター。そしてそのシンクロ素材の相方として選ばれたのは、たった今九尾の狐が現世に残していった忘れ形見の狐火だった。

「レベル2の狐トークン2体にレベル2、クレボンスをチューニング。異邦と化した故郷(ふるさと)に、悪しき聖霊の夜を引く音がこだまする。シンクロ召喚、オルターガイスト・ドラッグウィリオン」

 合計レベル6のシンクロモンスターは、何とも言い難い異形の姿をした怪物だった。2本の両足に獣のような体、そして2対4本の細く小さな両手が生える肩から上には異様に長い首が伸び、その先端にある頭には笑顔の仮面を張り付けたような顔面とその上部に生える緑の頭髪。体の背部からは先のとがった3本の太い尾が伸びて、それぞれが気ままに揺れている。

 ☆2+☆2+☆2=☆6
 オルターガイスト・ドラッグウィリオン 攻2200 魔法使い族→アンデット族

「貴女のシャドウトークンが消えてしまったのは残念ですが、そりゃあこの程度は読まれますよね。墓地に存在する九尾の狐は、ドラッグウィリオン及びシャドウトークン1体をリリースしてこのターンも黄泉還りの効果を使います」

 そして何事もなかったかのように、死してなお当然のような顔をして蘇る大妖怪。シャドウ・ディストピアによるリリースの肩代わりを使えない以上、彼は自分のモンスターのみを2体リリースして蘇生効果を使うしかない。
 しかし彼は、そのディスアドバンテージを軽減させる方法をいくらでも知っている。

 九尾の狐 攻2200 炎→闇

「では自身がリリースされた墓地のドラッグウィリオン及び、フィールドで闇属性モンスターがリリースされた際に手札に存在する闇黒の魔王ディアボロスの効果を同時に発動。それぞれ自身をフィールドへと特殊召喚」

 オルターガイスト・ドラッグウィリオン 攻2200 魔法使い族→アンデット族
 闇黒の魔王ディアボロス 攻3000 ドラゴン族→アンデット族

 そして巴のフィールドに並び立つ、3体もの上級モンスター。やっぱり握ってたんじゃねえかと心中で毒づく糸巻に、わざとらしい動きで自分のフィールドを眺めまわしてみせる。

「九尾の狐、ドラッグウィリオン、ディアボロス……おやおや、私はあまり子供は好きではないので知らなかったのですが、近頃の幼稚園では随分と物騒なものを教えているようですね。ターンエンド、これで貴女の身を守るその貧弱な結界が消えると同時に私のフィールドにはシャドウトークンが生み出されます。私のフィールドに空きは1か所しか存在しないので、呼び出せるトークンも1体のみですが」

 シャドウトークン 守1000 悪魔族→アンデット族

 再び訪れる自らのターンを前に、ボロボロだ、と彼女は思った。こちらのフィールドはすでに壊滅寸前、対する巴の場にはその代名詞たる九尾の狐を筆頭に癖のあるモンスターが勢揃いしている。おまけにいまだフィールドを感染対象求め蔓延している影のデッキ破壊ウイルスの効力により、ドローカードはすべて公開されその守備力が2000以下ならば問答無用で破壊される。
 ……それがどうした。だからこそ、逆転が燃える。突き抜けた理不尽で相手が築き上げてきた道理をぶち壊す、それこそが彼女の最も得意とするところだった。常に綱渡りの勝負ばかりのくせに、なぜか戦績は圧倒的に高い。その粘り強さこそが、かつて名もなき1人の女デュエリストを『赤髪の夜叉』と呼ばれるまでにのし上げた最大の武器だった。
 だからこそ、彼女の心は決して折れない。その身が追い込まれるほどにその闘志は、彼女の長い髪のように赤く熱く燃え盛る。骨の髄まで闘争に魅入られたこの狂人が掴み取ったデュエルモンスターズという戦場は、彼女にとって無間地獄か極楽浄土か。それすらも、彼女にとってはどうでもいいことだった。

「ドロー!」

 そしてその理不尽な勝利を幾度となく目にしてきたからこそ、それを見つめる巴の目に油断はない。彼は彼女を憎むがゆえに、その実力に色眼鏡をかけることもない。属性を操作する巴に、種族を操作する糸巻。2人は根本的に違う人間ではあると同時に同族嫌悪を感じる程度には似通った部分を持つ者同士であり、その強さゆえに相手の力量が一定以上のものであることについてはかえって冷静な評価を下していた。
 だからこそ内心、彼はこう断じる。この女はこのターン、間違いなく反撃に出るだろう。それを可能とするだけの理不尽が、あのドローカードにはあるはずだ。そして案の定糸巻はたった今手に入れた唯一の手札を見て、にやりと渾身の笑みを浮かべた。

「まずはこのドローカード、見せなきゃいけないんだろ?ほらよ。アタシの引いたカードは守備力800のモンスターだから、ウイルスカードに感染して即座に破壊される。そしてメインフェイズ、アンタがたった今墓地に送ってくれたこのモンスター。馬頭鬼の効果を発動!」

 ウイルスカードは破壊とビーピングを同時に行う強力な効果を持つが、その効力がフィールドに及ぶのはあくまで1度きり、その後は手札のカードにしか感染しない。発動に成功したその瞬間以降、手札を経由しない展開に対しては無力となるのだ。

 ユニゾンビ 攻1300

「そら、ユニゾンビの効果発動!アンタの九尾の狐を対象に、デッキからアンデット1体を墓地に送るぜ。レベルアップさせてやるよ、嬉しいだろ?さあ行きな、馬頭鬼。そしてこの馬頭鬼もまた効果発動、自身を除外してアンデット1体を蘇生する」

 九尾の狐 ☆6→☆7
 不知火の隠者 攻500

 それは、根拠のない彼女の予感通りに。それは、記憶に裏付けされた彼の予想通りに。わずか1枚のドローをきっかけに、ウイルスの効力を逆手にとって2体のモンスターを並ばせる。そしてその合計レベルは、7。

「レベル4の隠者に、レベル3のユニゾンビをチューニング。戦場貪る妖の龍よ、屍闘の果てに百鬼を喰らえ。シンクロ召喚、真紅眼の不屍竜(レッドアイズ・アンデットネクロドラゴン)!」

 先ほども九尾の狐の攻撃を受け止めた腐肉の龍が、再びアンデットワールドの上空に鬼火と共に浮かび上がる。その咆哮は大気を揺らし、アンデットワールドの主が凱旋する様はただそれだけで実体のない影法師のいくつかを霧散させた。

 真紅眼の不屍竜 攻2400→3400 守2000→3000

「真紅眼の不屍竜のステータスは、常にすべての死霊どもの魂を取り込むことで強化される。互いのフィールドと墓地に存在するすべてのアンデット族モンスター、その数1体につき100ポイントだな……だがな、もう温存する意味もない。大サービスだ、こいつも持ってけ!トラップ発動、バージェストマ・ハルキゲニア!このカードでオルターガイスト・ドラッグウィリオンの攻守を半減させるついでに、チェーンして墓地からバージェストマ・カナディアの効果を発動。トラップが発動したことで墓地のこいつはモンスターとして、アンデット化したうえで甦る!」

 オルターガイスト・ドラッグウィリオン 攻2200→1100 守1200→600
 バージェストマ・カナディア 攻1200 水→闇 水族→アンデット族
 真紅眼の不屍竜 攻3400→3500 守3000→3100

「……ちっ」
「おっ、スカした態度はもう品切れか?アンタも年取ってだいぶ気が短くなったみたいだな、現役のころならここの程度じゃまだまだ、その嫌味仮面は剥がれなかったと思ったんだがな」

 ギリギリと音が聞こえてきそうなほどに強く歯を噛みしめる姿にやや留飲を下げた糸巻が、自らの堕ちた龍に合図する。その攻撃目標は今しがた攻撃力を下げたドラッグウィリオン……ではなく、その隣に潜む魔王の名を持つ悪意の龍。

「バトルだ。さっきの礼をしてやるよ、真紅眼の不屍竜で闇黒の魔王に攻撃。獄炎弾!」

 真紅眼の不屍竜 攻3500→暗黒の魔王ディアボロス 攻3000(破壊)
 巴 LP4000→3500

「ぐ……」

 ただ500ポイントのダメージが通った、戦術的には今はまだそれだけに過ぎない。しかし実体化し、鋭敏となった感覚を刺激するその痛みは、ただのダメージでは済まないほどにその体を苛む。

「どんな気分だ、ええ?先に言っとくがな、アタシはちっとも面白くないぜ。なあ、こんなもんが、アンタらのやりたいデュエルだったのか?」

 苦痛に歪む顔を見てもまるで晴れやかにならない気分を抱えながら、返事の返ってこないであろう問いを、承知の上で口に出す。彼の言いたいことは、彼女にはよく分かっていた。13年前、徹底的に彼女たちデュエリストを否定した世界。その平和にまだ固執するのか、矜持を忘れいいように利用されるだけの裏切り者。この溝は決して埋まることはないし、互いに歩み寄るつもりもない。だからこそ、百万の言葉よりも一枚のカードで語るのだ。

「……真紅眼の効果発動!このカードが存在してアンデット族モンスターの戦闘破壊が発生した時、互いの墓地に存在するアンデット1体を蘇生する!ドーハスーラは除外されちまったが、ちょうどいいもんがアンタの墓地の一番上に落ちてんじゃねえか。アタシが選ぶのは、たった今破壊したディアボロスだ!」

 地に堕ちた魔王の躯が、その全身を鎖に縛られた状態で瘴気に照らされ浮かび上がる。もはや立ち上がることはないかに見えた、腐り果てるのを待つだけの縛られた死体。だがピクリ、とその腐った指が動いた。ボロボロになり穴だらけの翼がベリベリベリ、とその身を縛る鎖によって破られるのも意に介さずに強引に広げられた。そしてその瞳がゆっくりと開くと、既に中身が存在しないくぼんだ左の眼窩にぼわり、と鬼火が灯る。骨の見える腕の腐った筋肉に再び生前の力がこもり、1瞬の静寂。破砕音と共にすべての鎖がはじけ飛び、ちぎれたその破片が血色の沼地へゆっくりと沈んでいった。

 暗黒の魔王ディアボロス 攻3000 ドラゴン族→アンデット族

「さあ、アタシのバトルフェイズはまだ終わってないからな。ディアボロスでドラッグウィリオンに攻撃、アフター・ザ・カタストロフ!」

 闇黒世界よりもなお暗い漆黒のブレスが闇を裂き、弱体化したドラッグウィリオンに襲い掛かる。ひとたまりもなくその姿は闇に消え、巴による怨嗟のような苦痛の声が闇に響き渡った。

 暗黒の魔王ディアボロス 攻3000→オルターガイスト・ドラッグウィリオン 攻1100(破壊)
 巴 LP3500→1600

「ぐああああああ!!」

 悲鳴を聞きながら、先ほど自分が受けたダメージを彼女は思い返していた。あの時彼女が受けたその数値は、900。今発生したダメージのほぼ半分、つまり単純計算で彼の肉体にかかる負荷はあの時の倍近いことになる。それがどれほどのものなのか、彼女には予想もつかなかった。いくら世界に一度は見捨てられた身とはいえ、なぜそんな痛みを受け入れてまで、「BV」の開発を……その先にある世界への復讐を推し進める必要があるのかも。そして、その先にどんな未来が待っているのかも。

「これでアタシは、ターンエンド。このターンは1体もリリースが行われていないことで、シャドウ・ディストピアの効果は発動しない。そうだな?」
「ああ、この痛み……やはり、既製品とは一味も二味も違いますね。だからこそ、私たちの新たなる武器に相応しい!」
「聞く耳持たず、か。もう勝手にしてろ」
「ええ。私どもは勝手にやりますから、貴女もいちいち目障りに首を突っ込まないでいただけると有難いのですがね。現役を引退し、縁側で茶をすする余生というのも乙なものですよ?もっともそんな穏やかな老後など私が断じて許しはしませんが、それでもその前に泡沫の夢ぐらいは見せてあげましたよ。もっとも、それすらも全ては終わった話。今となっては何の意味もない仮定でしかありませんね。そろそろ無駄話はやめましょう、私のターンです」

 再び形勢が逆転したにもかかわらず、それを微塵も感じさせない態度のまま。

「サイバー・ヴァリーを召喚」

 サイバー・ヴァリー 攻0 光→闇 機械族→アンデット族

「サイバー・ヴァリーは3つの効果を持ちますが、今回私が使うのは2つ目の効果。このカードおよび私のモンスター1体を除外することで、カードを2枚ドローします。選ぶのは当然、シャドウトークンのうち1体」

 金属製の蛇のようなモンスターが現れたかと思えばすぐに消え、巴が追加で2枚のカードを引く。そして、その手に掴んだカードは。

「手札を1枚捨てることで速攻魔法、超融合を発動。貴女のフィールドに存在するバージェストマ・カナディア、闇黒の魔王ディアボロスは丁度どちらもトークン以外の闇属性、よってその2体を素材とします。確か貴女のバージェストマ、モンスターとしてフィールドから墓地に送られる場合には除外されるんでしたよね?」

 超融合。相手フィールドのモンスターも素材として融合召喚を行うことのできる、チェーン不可の速攻魔法。その特性上ディアボロスを輪廻の陣で除外することもできず、ただ墓地に戻るのを見つめることしかできない。彼の世界の中では、トークン以外のあらゆるモンスターが強制的にそのドラゴンへの素材モンスターに相応しい存在として書き換えられる。

「重なりし闇よ、そして集いし漆黒よ。千紫万紅をただ闇黒に塗りつぶし、咲き誇れ紫毒の仇花よ!融合召喚、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン!」

 それは紫色の触手、ではない。何本もの植物、闇を吸い瘴気を喰らう貪欲な蔦が伸びる。太さも長さもまちまちではあるが、いずれも共通点としてその先端にはぷっくりと膨れた花の蕾がある。そしてそのうちの1つが、息をのむ糸巻の前でゆっくりと開いた。
 だがそれは間違っても真っ当な、どころかどれだけ花の定義を拡大解釈してもその範疇には引っかからないような代物だ。動物の口のように中央から2つに割れたその内側には控えめながらもびっしりと牙が生え、花弁らしきものは存在しない。辺りを見回した彼女の目に飛び込んできたのは、いつの間にか彼女の周りを取り囲んでいた他の蔦から生える蕾もまた、同じように開き始める光景。どれも最初のひとつと同じく、植物とは思えない獲物への貪欲さをむき出しにする動物的な代物。べちゃり、と湿った音がしてそちらに視線を動かすと、輪廻の陣の社を侵食するかのように這っていた「蔦」から生える「花」が「咲いた」拍子に、貪欲気に真下の石畳まで「蜜」……いや、「涎」を垂らしていたところだった。

 スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻2800 ドラゴン族→アンデット族

「スターヴ・ヴェノムは召喚成功時、相手フィールドに存在する特殊召喚されたモンスター1体の攻撃力をエンドフェイズまで吸収する。せっかく残しておいてあげたんです、真紅眼の不屍竜にはこのまま上質の肥料となって頂きましょう」
「冗談言うなよ、輪廻の陣!このターンもアンデット族の真紅眼を除外して、アタシの受けるダメージを0にする!」

 蔦の浸食を止めて焼き尽くすかのように、決して消えない妖の炎による不知火の紋様が彼女の周囲を覆う。しかし、その代償はあまりにも大きい。確かにこれで、このターンの安全は確保されたかもしれない。だが、この次のターンはどうなるというのだろう。ウイルスカードはいまだ生きており、すべてのドローカードは巴に筒抜けとなる。彼女と共に戦うモンスターたちはすべてフィールドを離れ、もはや彼女の手元には輪廻の陣たった1枚しか残されていない。ライフはいまだ、辛うじて彼女が有利。しかしその優位性が、この状況で何の役に立つというのだろう。先ほど逆転に繋いだウイルスカードを逆手にとってのコンボも、既に残り1枚しかデッキ内に馬頭鬼の残っていない彼女に2度使うことは不可能。脈がわずかに早くなり、血流の加速が傷の痛みをぶり返す。呼吸も、普段に比べほんのわずかに浅く速い。気持ちを奮い立たせるために懐に手を伸ばし、馴染みの煙草に火をつける。
 そして舞台は再び、冒頭へと巻き戻った。巴は、目の前の女が1度は逆転してくるだろうとは読んでいた。そして事実彼女は先のターン、素引きした馬頭鬼から一時は盤面をひっくり返した。しかし彼は同時に、その火事場の馬鹿力は1度しか保たないだろうとも読んでいた。プロ時代の全盛期ならいざ知らず、普段の相手がプロデュエリストからそこらのチンピラに格下げされたことで勝負勘の鈍りつつある今の彼女に2度も3度も奇跡を起こすだけのスタミナは残されていない。先のターンを耐えきったその瞬間、彼の勝利はほぼ揺るぎないものとなった。それが、今の彼女と実際に戦ったことで彼が得た結論だった。

「さあ、アタシのターンだ。もたもたしてたら夜が明けちまう、そろそろ終わりにしようぜ」

 そんな分析など知る由もなく、デッキトップに力を込めて指をかける糸巻。そして、このデュエルの最後の流れを決定づけるドローが……。

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 しかし、そのカードが引かれることはついになかった。夜の闇を引き裂くような音の不快な警告音が3度鳴り、盤面に異常が起きる。スターヴ・ヴェノムが、九尾の狐が、シャドウトークンが……それだけではない。糸巻の張った輪廻の陣、そしてアンデットワールドとシャドウ・ディストピアがいびつに混じりあった空間が、すべて絵の具をぶちまけたようにぐちゃぐちゃになってひとかたまりに溶け崩れていく。

「な、なんだ!?」
「ふむ。フィールド2種を常に維持し続けたうえであの数のモンスターを「BV」による同時展開を異常検知と判断しての安全装置の強制展開……なるほど、確かにこの試作品にはまだ負荷が強すぎましたかね。こんな形での中断とは私にとっても不本意ですが、いい実戦データが取れたので今回は良しとしておきましょう。ですがその前に、九尾の狐!」

 主の声に応えた九尾の狐が、その全身を溶かしながらも槍の尾のうち2本を同時に伸ばす。糸巻めがけ飛んできたそのうち1本は辛うじて身をひねり躱したものの、彼女のバイクを狙い撃ちにしたもう1本はどうすることもできない。愛車がスクラップになるさまに気を取られた彼女がわずかに巴から目を離したすきに、彼の姿はもう公園から消えていた。

「ふざけやがって、何勝手にケツ捲って逃げてやがる……!」
『ああ、そうそう。ひとつ大事なことを伝え忘れていましたよ』

 どこからともなく、エコーのかかった巴の声が響く。反射的にあたりを見回そうとして、すぐにやめる。どうせどこかにスピーカーでも仕掛けてあるのだろう、ならばそれに踊らされるのも物笑いの種になるだけだとの判断である。彼女の脳は実際、ようやく効いてきたニコチンと勝負を途中で捨てられた上にその相手を取り逃がした自分へのあまりの怒りのせいで逆にぞっとするほどに冴え渡っていた。その彼女の理性が、この話は聞いておくべきだと訴えかける。

『鳥居浄瑠君、でしたか?ああ、否定はしなくて構いませんよ、もう完全に調べはついていますので。まったくやってくれましたね、まさか客席ではなく選手として潜り込んでいたとは。逆に発見までに時間がかかりましたよ、それなりに参加メンツは厳選していたはずですので』
「……」

 裏デュエルコロシアムに潜り込んでいる部下の名に、煙草を咥えたままの糸巻の眉がわずかに上がる。ここで彼がデュエルポリスだと掴まれたということは、少々まずいことになった。今すぐにでも回収に向かわねばならないが、そのための足はたった今お釈迦になったところだ。しかしこの後の行動パターンを脳をフル回転させて模索する彼女を遮るかのように、巴の声が続く。

『とはいえ、ある意味では幸いだったとも言えますね。ご安心ください、私たちは今回、彼に対し一切の手出しは致しませんよ。理由は貴女のことです、明日の朝には気づくでしょう。あまり愉快な話ではありませんが、モグラが我々の中にいたのは不幸中の幸いですよ、本当に。彼が今戦っているであろう決勝の相手は「後ろ帽子(バックキャップ)ロブ」……愛すべき我々の元同僚、ロベルト・バックキャップですが、少しばかり彼に、いえ、彼だけの話ではないですね。今回に限り、貴女の部下以外の誰に優勝されても困る状況なのですよ。それでは、また近いうちにお会いしましょう』
「……?」

 不可解な話に眉をひそめるが、当然それに対する返事は返ってこない。夜の公園は、最初に彼女がここに来た時と同じように静まり返っていた。ただあの時と違い彼女のバイクは鉄くずとなり、地面には九尾槍による無数の穴が無残に開いている。明日の朝この公園の清掃人は、ここで地獄を見ることになるだろう。そして彼女の体に今も小さくうずく、あのデュエルを通しての痛み。それだけが、今の戦いが夢ではないと物語っていた。 
 

 
後書き
突発的コーナー『今日の懺悔』
・時間なかったのでスターヴ融合時の状況描写は私の前作「鉄砲水の四方山話」に使ったものをほぼそのまま移植しました。割と気に入ってたのもあるけど手抜きですまぬ。

あと今回の話で今更思ったんですが、もしかして1話が毎回これぐらいの長さって割と読みにくかったですかね。3分割ぐらいにして投降した方が親切なのかもしれない、なんてことも考える今日この頃。ちょっと次あたり覚えていたら試験的にやってみるかもしれないので意見ある人はメッセージなり感想なりくださると有難いです。 
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