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ある晴れた日に

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14部分:序曲その十四


序曲その十四

「ヘビメタとかそういうのだってやるぜ」
「本当に色々なのね」
「ああ。けれど基本はロックだな」
 どうやらそれは外せないらしい。
「やっぱりな。今書いてるのはな」
「ロック?」
「いや、バラードだよ」
 こう六人に答えた。
「これはな」
「バラードなの」
 それを聞いて声をあげたのは意外にも未晴だった。六人の中で一番大人しい彼女だった。
「バラード作ってるの」
「んっ!?ああ」
 彼女が言ってきたのを見て正道も少し意外だった。
「そうだけれどよ。悪いか?」
「ううん。私もバラード好きだから」
「ああ、バラード派か」
「他にも好きだけれどね」
 こうも言うがやはりバラードらしい。
「やっぱり一番はね」
「そうか。じゃあこの曲まずはあんたに聴いてもらうか」
「いいの?」
「バラード好きなんだろ?」 
 それを彼女に聞くのだった。
「だったら是非な。頼むな」
「是非って」
「好きな奴に聴いてもらうのが一番なんだよ」
 正道の言葉はかなり率直だった。しかも確かにロックだった。
「だからさ。それでな」
「有り難う」
 正道のその言葉を聞いて静かに微笑む未晴だった。そのうえでまた彼に言う。
「じゃあ。聴かせてもらうわね」
「大体三日後辺りだな」
 楽譜に目を移しつつ述べる。見ればかなり書き込んでいる。
「曲ができるのはな」
「詞は?」
 歌に欠かせないもう一つの要素だ。どちらが駄目でも歌としては成り立たない。だから咲達は彼にこのことも尋ねたのである。
「どうなの。そこは」
「やっぱりそれもあんたが書いてるのかよ」
「ああ、そっちもな」
 今度は咲と春華に答えた。
「俺がやってるさ。基本ソロだしな」
「ソロか」
「ああ。一応バンドもやってるぜ」
 こうも述べる。
「けれど一人で歌う方が多いんだよ、俺は」
「友達いないとか?」
「だから何でそうなるんだよ」
 静華にはすぐに言い返す。言葉が少し荒くなっている。
「違うよ。だからな」
「たまたまってことね」
「そうだよ、それだよ」
 凛の言葉には納得した顔で頷く。
「バンドも好きだぜ。ソロが多いのは確かだけれどな」
「それで担当は何?」
 奈々瀬は踏み込んで尋ねてきた。
「ギター?それともヴォーカル?」
「どっちもだな」
 そのギターを手にしつつ彼女に答えた。
「一応ヴォーカル兼ギターだったんだよ。中学じゃな」
「そうだったの」
「中一からはじめてな」
 同時に自分の音楽経歴についても言う。
「それからなんだよ。ずっとな」
「結構長いのね」
「ああ。じゃあ曲が完成したらな」
「ええ」
「最初に聴いてくれよ」
 にこりと笑って未晴に告げる。
「それでいいよな」
「楽しみにしていていいのね」
「何なら御前のこと歌ってもいいぜ」
「えっ!?」
 今の言葉には目を大きく見開かせて驚く未晴であった。
「私のことを。歌うの?」
「ああ。駄目か?」
「駄目かって言われても。その」
 戸惑いながら彼に答えるのだった。
「そんな。悪いわよ、まだ知り合ってばかりだし」
「っていうか凄くない?」
「ねえ」
 その未晴の後ろで静華と凛が顔を見合わせて話をしていた。
「初対面に近い相手のことをいきなり歌にしようなんて」
「こんな奴はじめて見たわよね」
「それは。ちょっと」
「いいのか」
「え、ええ」
 少し戸惑いながら彼に答える。
「気持ちだけ。受け取っておこうかな、なんて」
「わかった。じゃあ今は止めておくな」
 これまたあっさりと引き下がる正道だった。
「けれどな。機会があれば今度な」
「私のことを歌にするのね」
「それは駄目か?」
 未晴の目をじっと見て尋ねる。
「御前さえよかったらだけれどな」
「おい、幾ら何でもそりゃ図々しいだろ?」
 春華が未晴の横から正道に言ってきた。
「音橋だったよな」
「ああ」
「なあ音の字」
 随分と古風でしかも女の子が考えたとは思えない仇名であった。春華は自分の右手を正道の机の上に置いてそのうえで彼に対してさらに言ってきた。
「それどうよ。未晴のことあまり知らねえんだろ、あんた」
「まあそうだけれどな」
 正道の方もそれは認める。
「けれど何かな」
「せめてコクってからにしろよ」
「ちょっと春華」
 彼女を止めたのは奈々瀬だった。未晴は今の言葉で完全に困惑した顔になってしまい動けなくなっていたので彼女が止めたのだった。
 
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