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ある晴れた日に

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130部分:妙なる調和その二


妙なる調和その二

「それで気に入らなかったな」
「入れなくてもいいっていうの」
「そういうことさ。だからな」
「別に入れなくていいの」
「ああ」
 千佳の言葉に頷く。
「そういうことさ。まあその辺りは適当にな」
「だったら助かるわ」
 千佳は正道の今の言葉を聞いて少し安心した顔になった。そのうえでまた述べた。
「だって今」
「お金ないのかよ」
「そうなの。図書館に行くつもりだから」
 今度は少し弱った顔を見せる。
「だから。持ち合わせがないし」
「図書館にかよ」
「源氏物語読もうと思って」
「源氏!?」
 源氏物語と聞いて思わず声をあげた正道だった。その声はうわずってさえいる。
「委員長学者にでもなるつもりか?」
「図書館の書士にはなりたいと思ってるけれど」
 少し天然がかった今の千佳の言葉であった。
「別に学者さんとかには」
「けれど何でだよ」 
 真剣な顔になって千佳に問う。
「そんなご大層な本よ」
「ご大層って言っても現代訳よ」
「現代訳」
 それを聞いてもまだ声をあげる正道だった。
「源氏物語にそんなもんあったのかよ」
「あるわよ。それも何種類も」
「そうだったのか」
「与謝野晶子もあれば谷崎潤一郎も円地文子も」
「結構多いんだな」
「最近じゃ瀬戸内寂聴に田辺聖子もね」
「田辺聖子!?ああ」
 正道もこの名前は知っているようだった。
「あの大阪のおばちゃんかよ」
「今神戸におられるけれどね」
 今正道達がいるその街である。
「その人も書いてるし」
「色々な人が書いてるんだな」
「それだけの名作だからよ」
 千佳はその理由をこう述べるのだった。
「だから色々な人が書くのよ」
「だからか」
「確か漫画でもあったわよね」
「あいつか」
 漫画の源氏物語の話になると顔を顰めさせた正道だった。
「あいつの絵下手だからな」
「ああ、あの明治の漫画?」
「あんなの漫画じゃねえぞ」
 思いきり顰めさせての言葉だった。
「鉛筆で描き殴っていてよ。周りに音ばかりあってな」
「あれ、確かに凄かったわね」
「そんな奴の漫画見る気がしねえよ」
 こうまで言うのだった。
「仮面ライダーだってよ。酷かったしな」
「それも酷かったの」
 何気に漫画にも詳しい千佳であった。これは意外と言えば意外である。
「もう仮面ライダーじゃねえ」
 断言する正道だった。
「あれはな」
「そうなの」
「そうさ。まあとにかく源氏物語だよな」
「ええ」
 あらためて源氏物語自体についての話になる。
「それだけれど」
「何でそんなの読むんだよ」
 今度はいぶかしむ顔になって千佳を見上げて問うのであった。
「またよ。どうしてなんだよ」
「どうしてって。テストに出るじゃない」
「テスト!?」
「そう、中間テストに」
 話が学生のそれに完全になってしまった。やはり学生はテストから離れることができない。バッターが打率やホームラン数から、営業担当がノルマから離れられないのと同じである。
「出るから」
「そういえばそうか」
 言われてそのことを思い出す正道だった。
「出るんだったよな、中間テストに」
「現代国語は芥川よ」
「羅生門だったよな」
「そう、それよ」
 どちらも高校生で出て来る定番である。おそらくどちらも知らない人間はいないであろう。そこまでよく出て来て知られている作品と作家である。
 
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