ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第92話:Final Weapon
デスフラワーに向かうゼロをアイリスはルナと共に見送りに来ており、少し離れた場所にルナがいるので彼女の身は安全だろう。
「行くのね…ゼロ」
「ああ、レプリフォースを止めなければならないからな。流石にデスフラワーで地球を狙撃することはないと思うが、万が一に備えてアイリスも早く爺達と一緒にシェルターに避難するんだ」
「ええ……ゼロ…気をつけて…無事に帰って来て…」
「勿論だ。カーネルの仇も必ず俺とエックスが取ってやる。必ずな」
強い意思を込めながら言うとアイリスは頷き、そして少し迷った末にアイリスは口を開いた。
「ねえ、ゼロ…お願いがあるの…」
「何だ?」
「抱き締めて…欲しいの…強く…」
その言葉にゼロは目を見開いた。
「…ごめんなさい、流石に図々しいよ……ね?」
苦笑しながら言い切る前にゼロに引き寄せられ力強く抱き締められた。
「………」
「………夢みたい」
「馬鹿を言え、レプリロイドは基本的に夢は見ん」
「そう…ね…」
「どうやらアイリスは大丈夫のようだな」
アイリスの様子を見て、もう大丈夫だろうと判断し、頃合いを見てルナはアイリスを研究所のシェルターに避難させ、そして先に向かったエックスを追うためにゼロもデスフラワーへと向かった。
それからしばらくしてハンターベースで阿鼻叫喚の光景が出来ていた。
第17精鋭部隊の隊員達が惨殺され、その中心にダブルがいたのだ。
「さてと…エックス達を追うとするか…早くしねえとあの野郎に奪われかねないからな…」
ハンターベースに待機していたダブルは同僚達の残骸に対して何の感慨も抱かず、転送された。
そして一方でデスフラワーに到着したエックスとゼロはそれぞれの武器を抜き放ち、突撃する。
そんなエックス達を待っていたのはジェネラルの近衛兵と思われる精強な将兵達の激しい抵抗であった。
「ジェネラル将軍の元へ行かせはせん!!」
「奴らを何としてでもこの場で食い止めろ!!」
近衛兵達は死力を尽くしてエックス達を迎え撃つが、しかし…フォースアーマーとサードアーマーを使い分け、Xブレードを持つエックス。
そしてZセイバー、トリプルロッド、バスターショット、シールドブーメランと言う多彩な武器を臨機応変に使うゼロを前にしては彼らの抵抗など紙に等しい脆さだ。
「喰らえ…ダブルチャージショット!!」
「落鳳波!!」
それぞれが放つ技が近衛兵達を吹き飛ばす。
そうやって圧倒的な力を示しながら、漆黒の宇宙空間に浮かぶ巨大な華の内部を急ぐエックス達だが、別れ道がエックス達の足を止めた。
「どちらがジェネラルのいるルートだ?」
「…仕方ない、エックス。それぞれ別ルートで進もう。」
時間が少ないと感じたゼロはそれぞれが別行動をしようと提案した。
「分かった、気を付けてくれ」
それぞれ別のルートを進み、エックスが奥の扉を開いて中に入ると腰にまで届く金髪と、そして衣服に似せた紫のアーマーのレプリロイドがいた。
「ディザイア…」
「クックックック…待っていたよー。エーックス。やはり、こういうのは自分でやらないと面白くないからねえ…」
「よくもアイリスの目の前でカーネルを…!!その上、戦えない彼女にまで攻撃を…!!許さないぞディザイア!!」
「カーネル…そうですねえ。彼には感謝しなくてはいけませんねえ…。イレギュラーの屑でも私のパワーアップに一役買ってくれたのですから…!!」
「何だと!?」
紫色の光がディザイアを包み込み、光が消えた時にはディザイアの姿はエックスが見知るものではなかった。
白と黒を基調とした騎士を思わせるようなアーマーである。
「待たせたな…エックス!!」
「…っ!!」
ディザイアが握り締めているのは彼が愛用していたサーベルではなく、カーネルのサーベルであった。
そして彼から時々、溢れ出るエネルギー反応もカーネルの物であり、エックスはそれに嫌な予感を覚えた。
「お前まさか…カーネルのパーツを自分に組み込んだのか!?」
「ええ、あのイレギュラーには私の一部になってもらいましたよ」
「貴様…カーネルを殺しただけではなく死んだ後も利用するなんて…非道なことを…ディザイア…お前はそこまで堕ちたのか!?」
「堕ちた?違いますよエックス。悟ったというのが正しい表現です。この世は力が全てだとね!!強き者が生き残り、弱き者は強き者の糧となる。ただそれだけですよ!!」
「そんなこと…認めるか!!ディザイア…お前を…イレギュラーとして処分する!!」
サードアーマーを身に纏い、憤怒の表情でブレードを抜き放つとエアダッシュで距離を詰めてディザイアに斬り掛かる。
しかしディザイアはサーベルでブレードを受け止める。
XブレードはシグマのΣブレードをベースとしているためにかなりの出力を誇ると言うのにそれを易々と受け止めるとは…。
「シャッ!!」
「チッ!!」
ディザイアが繰り出したサーベルによる突きはエックスの頬に掠るが、エックスは構わずブレードを振るう。
ディザイアもビームサーベルを振るい、応戦する。
エックスの剣術はディザイアから教わった物であり、互いに同じ剣術を使う以上は勝敗を分けるのは、使い手の実力。
「………」
「…く……っ」
あの時と違って油断など一切していないにも関わらず、少しずつ力で押されていくエックス。
『力が欲しい…』
エックスと剣を交えながらディザイアの脳裏を過ぎるのはかつての力無き自分。
『力を手に入れ…レプリフォースを…イレギュラーを…滅ぼし…今度こそ…英雄になってやるんだーーーーーっっっ!!!!』
そして自分は強くなった。
その上、カーネルのパーツを体に組み込んで完全にエックス以上の力を手にいれたのだ。
もうあの時の無力な自分ではないのだ。
「…オオオオッ!!」
「くっ!!」
サーベルを力任せに振るい、エックスを弾き飛ばし、吹き飛ばされたエックスは床に叩きつけられるが、受け身を取ったことでダメージはほぼない。
即座に体勢を立て直し、ブレードを構えるエックスに対してディザイアもサーベルを構えた。
「来いエックス!!見せてやろう…パワーアップし…かつては究極のレプリロイドだったカーネルのパーツを取り込んだことで得た力を!!」
カーネルの内部機関も取り入れたことで本来ディザイアが扱えないはずのカーネルの電撃を操る力を得たのだろう。
ディザイアの持つサーベルからは凄まじい電撃が纏われている。
「降り注げ!!スプラッシュレーザー!!」
天に掲げたサーベルから無数の電撃弾が放たれ、エックスに向かって降り注ぐ。
「フロストタワー!!」
それをチャージフロストタワーを繰り出し、複数の氷塊で防御しながらディザイアに接近する。
「はあああああっ!!」
ブレードを握り締め、チャージブレードで一息に斬り捨てんとするが、ディザイアの表情はあくまでも冷静であった。
「甘いですよ!!」
ディザイアがビームサーベルを振るい、エックスの目の前に大量の黒い靄が発生した。
「これは…目眩ましか!?」
即座にアイカメラのセンサーを使い、ディザイアの熱源を探す。
「……そこか!!」
熱源を見つけ、そこをチャージブレードで横薙ぎした。
しかしチャージブレードで斬り捨てた相手はディザイアではなかった。
「!?こいつは…」
エックスがチャージブレードで斬り捨てたのはディザイアではなくノットベレーであった。
「本物はこっちです!!」
「ぐうっ!!?」
いつの間にか移動していたディザイアは背後からエックスの脇腹を斬り裂き、エックスが咄嗟に身を捻ったことで致命傷は避けられた。
激痛に耐えながら立ち上がるが、ディザイアが発射した黒い球がエックスに襲い掛かり、それが直撃してエックスは壁に叩きつけられるとブレードの光が掻き消えた。
「フフフ…これで、チェックメイトだ」
「(あの時のディザイアとも全く違う…カーネルのパーツを取り込んだためか、段違いのスピードとパワーだ…それに…)」
ディザイアが動かないエックスにサーベルを向けた。
「エックス…まずはお前を血祭りに上げてから……レプリフォースを…イレギュラー共を皆殺しにするとしよう!!」
エックスはディザイアの言葉を聞きながらブレードを見遣るが、いくらブレードにエネルギーを注いでも光は出ない。
「(ブレードだけじゃない…力も入らない……ディザイアの周囲にある球体…あれにエネルギーを吸われているのか…)」
つまりあの球体を破壊しない限り攻撃も回避もままならないと言うことか。
「どうだエックス…イレギュラーと愚者共のいない世界…優れた者だけが生きる世界…さぞかし平和になると…思わないか!!」
その言葉にエックスは目を閉じて、一瞬だけ黙考するが、エックスの答えは決まっていた。
「……そんな世界が平和だなんて…俺には到底思えないな…」
「何ぃ…?」
「お前の言う世界なんて…幻だ。自分の都合の悪い部分から目を逸らして他者に当たることしかしないお前の創る理想郷なんてたかが知れている!!そんなもの直ぐに自滅して終わりだ!!」
「くっ…減らず口を!!幻かどうかあの世でじっくりと眺めているがいい!!」
エックスを黙らせようとサーベルを振るうディザイアだが、その時エックスに異変が起こった。
今まで反応が無かったブレードから光刃が発現し、サーベルをブレードで受け止めた。
「何!!?」
「はああああ…!!」
目を見開くディザイアに対してエックスを中心に光の柱が立ち昇り、エックスの傷が即座に癒え、凄まじい勢いでエネルギーが高まっていく。
「これは…まさか…エックス最大の秘技、レイジングエクスチャージ!!?」
「どのような絶望的な状況でも諦めない心を…勇気を糧とし、強き信念を持つ者のみ扱える技だ。」
出来ることならこの力は使いたくはなかった。
あまりにも強力すぎる力だからだ。
レイジングエクスチャージは傷は癒し、一時的に絶大な力を与えてはくれるが体に莫大な負担がかかる故に使えるのはたったの1度だけ。
しかしこの戦いを終わらせるにはまず目の前の敵を倒さねば話にすらならない。
普段のエックスから考えられない凄まじい威圧感を秘めた視線を浴びたディザイアはたじろぐ。
レイジングエクスチャージの神々しい光も相まってその威圧感を助長させている。
「どうしたディザイア?お前の番だ。それとも…参ったか?」
レイジングエクスチャージの影響で出力が上昇しているブレードの切っ先をディザイアに向けながらエックスは言い放つ。
「くっ!!甘く見ないでください!!エナジーグランドバースト!!」
エックスの言葉に歯軋りしながらも電撃を纏わせたサーベルを床に向けて投擲する。
そして床に突き刺さったサーベルから凄まじいオーラと電撃、破片がエックスを襲うが、エックスは構わずオーラに突っ込み、サードアーマーが爆散した。
「愚かな!!私の究極の技に自ら突っ込むなど…」
サードアーマーの破片を見て嘲笑するディザイアだが、すぐにそれは驚愕に変わる。
「ノヴァストラーーーイクッ!!!」
サードアーマーが崩壊した直後にフォースアーマーを纏い、爆発の勢いを加算したエネルギーを纏った体当たりを繰り出してオーラをぶち破る。
そして全身のエネルギーを拳に一点集中させてディザイアに叩き込み、まともに受けたディザイアは床に叩きつけられた。
ギガクラッシュのエネルギーを全身に集中させたノヴァストライクを更に拳に一点集中させた一撃の直撃には流石のディザイアも耐えられなかったようだ。
「…チェックメイトだ。ディザイア」
拳を下ろしながら倒れ伏しているディザイアに言い放つ。
「馬鹿な…有り得ない…」
「…?」
あの直撃を受けながらまだ生きていることに驚いたが、もうディザイアはまともに動けないだろう。
「私は片割れとは言え究極の力を手に入れたはずなんだ…かつての英雄…ロックマンに等しい力を…」
「ロックマン…?」
それは自分の元ともなった自身の兄とも呼べるロボット。
カーネルとアイリスの誕生経緯を知らないエックスには何故そこで兄の名が出て来るのか分からないため、疑問符を浮かべた。
「ち、力が足りない…もっと力が欲しい…代償が必要ならくれてやる!!私の心も何もかも!!」
「!!?」
ディザイアの体から異常なエネルギーが迸り、凄まじい閃光が部屋に満ちた。
「ギィイイイイャアアアアアアッ!!!!」
「なっ!!?」
それはまるで自分の抱いた理想と正義を見失い、己の犯した罪の重さに押し潰された最後の理性の断末魔のようであった。
この世のものとは思えない断末魔の叫び声にエックスは発生源を見た。
「モット力ヲォォォォォォ!!」
「この声…ディザイア…なのか…!!?」
あれは恐らく元々適合出来ないカーネルのパーツを強引に取り込み、そしてカーネルの力を限界まで引き出した結果だろう。
あのような異形な怪物に成り果てたかつての部下にエックスは彼に抱いた憤りは消え、代わりに激しい悲しみを抱いた。
ディザイアは異形となった両手をエックスに向けると凄まじい数と速度のエネルギー弾をぶつける。
「ぐっ…ええい!!」
レイジングエクスチャージとノヴァストライクを使用したことで疲弊した体に鞭打ちながらブレードでエネルギー弾を斬り裂いた。
斬り裂かれたエネルギーは爆発する。
ショットイレイザーさえあれば消滅させることは出来たが、無い物ねだりしても仕方ない。
エネルギー弾を斬り裂きながらディザイアに肉薄するエックス。
「うおおおおお!!!」
チャージブレードを繰り出そうとするエックスだが、ディザイアは狂気に満ちた目でエックスを睨む。
「図ニ乗ルナ!!」
突如空間が歪み、ディザイアの姿が掻き消え、エックスが振るったチャージブレードは空振りとなる。
「なっ!?何処へ…」
「沈メエエエエ!!」
ディザイアは空間をワープし、エックスの真上にいた。
エックスに向けて放たれる金色の台座のような物がエックスに直撃し、大爆発を起こす。
「ぐっ!!」
爆発をまともに喰らったエックスは吹き飛び、床に叩きつけられる。
「オ別レデス!!」
羽の端が光り、そこから光弾が発射されてダメージでまともに動けないエックスは何度も吹き飛ばされる。
「ぐっ…くそ!!な、何とか…何とか反撃を…ストックチャージショット!!」
プラズマからストックのアーツパーツに切り換え、ディザイアにストックチャージショットを放つがワープで全弾かわされる。
「死ネエエエエ!!」
ディザイアの周りを飛んでいたオプションがエックスに襲い掛かる、エックスは咄嗟にガードしたことで、何とか耐え抜いた。
しかしフォースアーマーは度重なるダメージに耐え切れず、所々に裂傷が入っている。
「くっ…このままではフォースアーマーが保たない…ディザイア……」
「ふ…ふふふ…どうですエックス隊長…少しは私の苦しみを理解出来ましたか…?」
「!?」
今までの狂ったような声とは全く違う声にエックスは顔を上げる。
狂気には満ちてはいるものの、幾分か理性のある声…どうやらエネルギーの乱用で理性を取り戻したようだ。
「あなたのせいで私がどれだけ惨めだったと思いますか…?」
「え…?」
「私はルインさんを愛していた。それこそ、彼女に私の全てを捧げても構わないくらいに…しかし彼女の目はいつもあなたを追っていた。ルインさんは私ではなくあなたを心底愛しているんですよ…無自覚でしょうが…」
「ルインが…俺を……?」
「あなたなんかには私の気持ちなど分からないでしょうね…華々しい功績を挙げてルインさんの愛を一身に受けるあなたには……」
「…………」
エックスは今、初めてディザイアというレプリロイドと相対した気がした。
今までは隊長と部下としての関わりしか持たず、剣術を教わっていた時も事務的な会話しかしなかった。
もっともっと腹を割って話せばよかった。
性格は真逆同然だが、同じ落ちこぼれ扱いを受けた者同士で互いに少しでも打ち解けようとしていればこんな結果にならずに済んだかもしれない。
エックスはやり切れない思いでブレードを握り締めた。
力が欲しい…。
「(力が欲しい。彼を倒すための力じゃない。彼を救うための力を!!)」
『…分かった。エックス』
「(ライト博士!?)」
『エックスよ。とうとうこの力を渡す時が来たようじゃな。お前に究極のアーマー…アルティメットアーマーを与えよう』
「(アルティメットアーマー…?)」
『未完成ではあるが、その名の通り究極の戦闘能力を追究したアーマーじゃ。以前話したようにフォースアーマーは元々別のアーマーでスペックダウンさせたのがフォースアーマーなのじゃ。お前の潜在能力、特に戦闘能力を最大限に引き出す能力を持つ。しかし、それ故にお主に掛かる負担も甚大じゃ…』
「(構いません博士。彼を救えるなら、どうか私にその力を!!)」
『分かった。今のお前なら力に振り回されることはないじゃろう。フォースアーマーのリミッターを解除する…フォースアーマー、リミッター解除プログラム…作動!!』
エックスの中で何かが外れた気がした。
--フォースアーマー、セーフティーロック解除。アルティメットアーマー…システムスタンバイ。--
「うおおおおお!!!!」
突如レイジングエクスチャージを発動していないにも関わらず、エックスの体から凄まじいエネルギーが吹き荒れる。
「何!?」
フォースアーマーが光り輝き、形を変えていき、純白だったアーマーが深い紺色に変わっていく。
Xブレードがバスターに組み込まれたことによりバスターからより強力なビームブレードを発現出来るようになった。
「(くっ…何て強大な力なんだ…心が“力”に飲み込まれそうになる…!!)」
あまりにも強大過ぎる力故か、圧倒的なまでの破壊衝動がエックスに襲い掛かるものの、エックスはその破壊衝動を強靭な精神力で捩じ伏せた。
「ディザイア…今、助けてやるぞ!!」
バスターの銃口からブレードを発現させるとディザイアに向けるエックス。
「フフフ…アーマーガ変ワッタ程度デ私ニ勝テルトデモ?」
ディザイアの理性が再び狂気に埋もれてしまい、もう声には理性の欠片も無かった。
「ディザイアを救うにはこれしかない…すまない…」
狂気に囚われたディザイアを救うには倒すしかないと悟り、それを謝罪しながらエックスは構えた。
「サア…残念ナガラコレデオ別レデス……アノ世ニイル、同胞達ノ元ヘ逝キナサイ!!」
エックスに向けて巨大な目玉のようなエネルギー弾を放つディザイア。
「はあああ…!!ノヴァストラーーーーイクっ!!!!」
全身にエネルギーを纏ってエネルギー弾を粉砕しながらディザイアに突撃するエックス。
「愚カナ!!」
ワープでかわすディザイアだが、エックスはディザイアの位置を確認すると背部のバーニアで体勢を整えると再びノヴァストライクを繰り出した。
「バ、馬鹿ナアアアアア!!?」
「何発でも!!」
ノヴァストライクを連続で繰り出し、ディザイアにワープさせる隙を与えない。
「エ、エックスゥゥウウウウ!!殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺スゥゥゥウウウウウ!!!」
エネルギー弾を乱射するが、エックスはブレードの刃を巨大化させた。
「これで終わりだディザイア!!ギガブレード!!!」
全エネルギーを収束させたブレードを振るい、巨大な衝撃波をディザイアに繰り出した。
「馬鹿ナ…ギャアアアアアアアアッ!!!」
全エネルギーが込められた衝撃波はディザイアに直撃し、ディザイアは大爆発に飲まれ、ディザイアの視界が白く染まる。
『ディザイア…』
『…?…ルインさん……?』
爆発に飲まれたディザイアはルインが自分を呼んでいることに気付き、声のした方を向くと、ルインが暖かい笑みをディザイアに向けていた。
ああ…、この笑顔だ。
この笑顔を見る度に自分は勇気づけられ、どのような厳しい戦いでも戦うことが出来た。
次の瞬間、ディザイアの脳裏に今までの記憶が駆け抜ける。
シグマからの改造を受けてからしてきたレプリフォースの虐殺。
そして、エックス達にしてきたこと。
ルインとの思い出によって理性を完全に取り戻したことと死の間際にまで追い込まれたことがディザイアの本来の心を取り戻すきっかけとなったようだ。
凄まじい罪悪感がディザイアを苛んでいく。
これを知ったらルインは喜ぶだろうか?
そんなわけがない、ルインの…大切な友人を…愛した人を傷付けたことを悲しむに決まっている…。
何故そんな簡単なことに気付けなかったのだ…。
「ディザイア」
「………」
目を開くとアルティメットアーマーからフォースアーマーに戻っているエックスが申し訳なさそうに自分を見つめていた。
「(何て顔をしているんですか、あなたはイレギュラーを討っただけだと言うのに…)」
ルインを守るためにイレギュラーを倒すと誓っておきながら自分がイレギュラー化してしまうとは何たる皮肉か。
自分の命は残り少ない。
だから伝えたいことを少しでも多く伝えたい。
自分が心底愛した女性が愛した彼に。
「ありがとうエックス君…よく私を倒してくれた。君のおかげでようやく正気に戻れたよ…後少しで私はとんでもないことをしてしまうところだった…」
嫉妬、憎しみ…負の感情から解放され、初めてエックスに対して素直になれた。
「…っ!!」
今までのような事務的な物ではない。
彼の素の言葉にエックスは目を見開いた。
ディザイアはそれに苦笑しながら自身の両手を見遣る。
「全ては…全ては…君の言う通り、自分の都合の悪い部分と向き合えなかった…臆病な私の弱い心のせいだ……己の過ちを認めるのは勇気のいること…しかし…これで…これで少しは強くなれただろうか…君のように…?」
最後の最後に、ディザイアは本当の意味で強くなれたのかもしれない。
「ぐっ…!!」
「ディザイア!!」
体に走る激痛に表情を歪めるディザイアにエックスはサブタンクを取り出し、近くにあるノットベレーの残骸も回収するとディザイアの元に向かう。
「大丈夫か?すぐに治療を…」
「いいんですエックス君…私はもう…助かりません……」
元々適合出来ないカーネルのパーツを強引に取り込んだ時点で体に歪みが生じていたディザイア。
ノヴァストライクやギガブレードなどの度重なるダメージもあり、見た目以上に内部はボロボロだった。
「………」
「エックス君…このサーベルをアイリスさんに返して下さい…カーネルのDNAは此処から出て、すぐの部屋にあります…………。私のボディはここに置いていって下さい…私にはもう…彼女に…ルインさんに合わせる顔がありませんから……もう…これ以上、彼女を苦しませたく…ない…っ!!」
守りたいと思っていたルインを逆に傷つけそうになったことに気づいたディザイアはルインに対してけじめを通そうとした。
「……分かった。すまないディザイア………彼女は俺が守る。君の分まで」
もうルインに合わせる顔がない。
これ以上彼女を苦しめたくないと訴えるディザイアの意志を尊重し、その願いを叶えてやることにしたエックスは彼に誓いの言葉を立てながら部屋を後にした。
「エック、ス君………世界を………ルインさ…んを………頼み…ま、す………」
心を取り戻し、自分の守ろうとしたものをエックスに託すと、愛ゆえに狂気へと走った悲しきレプリロイド、ディザイアは静かに機能停止した。
一方ゼロはエックス同様、ジェネラルの近衛兵を薙ぎ倒しながら先へと進む。
「チッ…ジェネラルはどこにいる…!!?」
苛立ちながらジェネラルを探すゼロ。
広い部屋に出たが、此処にもいないようであり、深い溜め息を吐きながら更に前進しようとした瞬間。
「クックック…随分と苛立っているようだなゼロ」
ゼロの前に真っ黒な装束を纏った1人のレプリロイドが姿を現し嘲弄するように言い放つ。
「…………………」
フードで顔こそ覆い尽くしているが、その声を今更ゼロが聞き間違えようがない。
「この声…シグマか…やはりまだ生きていたのか……しつこい奴だ…」
寧ろゼロは納得さえ感じていた。
眼前の男の狙いも大よそ想像がつくが故にゼロはそこに触れはしなかった。
「死ねぬよ…人間達とそれに従うレプリロイド共を排除し、レプリロイドだけの理想国家を創るまではな」
「とうとうレプリロイドにまでその矛先を向けたか…かつては最強のイレギュラーハンターと呼ばれた男も堕ちるとこまで堕ちたな」
「イレギュラーか…まあ、否定はせんが…貴様も私と同じ同胞なのだぞ?」
「同胞だと…?とうとう敵味方の区別も付かなくなったか」
忌々しげにシグマを睨むゼロだが、しかしシグマはゼロの言葉など気にせずに笑う。
「フハハハハハハハ…戯言をほざいているのは貴様ではないかゼロ。」
そう言ってゼロの眼前に現れたイレギュラーはその漆黒のフードを取り払いその姿をゼロへと向ける。
かつてエックスに刻み付けられた両目を縦に裂くような傷は幾度甦ろうが決して消えはしない。
シグマがゼロを嘲るように冷笑を浮かべていた。
「教えてやろうゼロよ。貴様の正体を!!あれはまだ私が17部隊の隊長であった時の話だ。」
まだエックスがイレギュラーハンターに所属しておらず、ルインもまだ転生していなかった時である。
とある研究施設跡にイレギュラーが発生した。
イレギュラーハンターは当然、発生したイレギュラーを排除するために出撃したが、結果は全て返り討ちにされてしまう。
シグマと同時期にイレギュラーハンターに入隊したガルマですらもイレギュラーの相手にならず惨殺されてしまう。
何とか生き残ったハンターからイレギュラーの特徴を聞いたら、紅と白を基調としたアーマーを身に纏ったレプリロイドで紅い風が吹いたと思ったら仲間が破壊されていたという。
このためにイレギュラーはハンター達の間で“紅いイレギュラー”と呼ばれていた。
事態を重く見た上層部はそこで紅いイレギュラーの対処をさせたのが、当時としては最高の能力を有し、イレギュラーハンター第17精鋭部隊の隊長を務めていたシグマである。
シグマはケインの命令で兄であり、人型のレプリロイドのプロトタイプに当たるアルファを伴って現場に向かった。
尤もアルファは戦闘能力を与えられてはいなかったのでケインへの報告用データの収集が主な任務であったが。
戦いは当初シグマが優勢に思われたが、攻撃を受けても全くダメージを受けないどころか不気味な笑みを浮かべる紅いイレギュラーに対し、シグマは次第に焦りを見せ始める。
Σブレードで攻撃しても引き抜いた鉄パイプで互角の立ち回りをされてしまった。
実は劣勢に見えた紅いイレギュラーは自身に搭載されていたラーニングシステムによりシグマの動きをインプットしていただけであり、インプット完了後、シグマの片腕を引き千切り形勢逆転した。
イレギュラーハンター最強の実力を有していたが故に紅いイレギュラーは一息にシグマを破壊しようとはせずじっくりといたぶり続けた。
そしてそれを見かねたアルファがシグマへの攻撃の盾となり、何とかシグマに体勢を立て直す時間を与える。
しかしシグマが体勢を立て直しても劣勢は変わらず、アルファも大破寸前まで追い込まれたが突如、額に浮かび上がる“W”のマークの反応によって苦しみ出した紅いイレギュラーは、その隙を突いたシグマの渾身の一撃によって額にダメージを負い、機能停止に陥る。
その後、紅いイレギュラーはシグマの命令でイレギュラーハンター本部に回収され、ケイン博士によって綿密な検査が行われる事になる。
意識を取り戻した肝心の紅いイレギュラー本人は、暴れていた当時の記憶を失っており、それまでとは別人のように大人しくなっていた。
紅いイレギュラー…ゼロの高い潜在能力を見込んでいたシグマは、監視も兼ねて、彼を自らの指揮する第17番精鋭部隊にイレギュラーハンターとして配属させる事にした。
配属先で数々の功績を上げたゼロは、特A級ハンタークラスにまで上り詰め、新米ハンターとして同じく第17番精鋭部隊に入隊したエックスとルインの良き先輩であり友にもなったのだった。
余談だが、この時…シグマとアルファはゼロが体内に内包する悪意に侵され、後にエックスとアルファの悲劇に繋がることに。
「…ほう、このことを知っても眉根1つ動かさないとは流石だな。ゼロ…」
全てを語り終え満足そうに頷くとシグマはゼロに向かって冷笑を浮かべる。
「だがそれは即ちお前とて予感はあったと言うことだろう。そして今の話で自身への疑惑が確信へと変わった。幾ら取り澄ましていても私にはお前の動揺など手に取るように分かる」
「言いたい事はそれだけか?シグマ…。今更そんな話を聞かされた所で今の俺に何の偽りもない」
キッとシグマを睨み据え全身に猛烈なエネルギーを漲らせていくゼロ。
最初からある程度気づいていた。
かつてのカウンターハンター事件の時、サーゲスの手で蘇った時から少しずつ記憶が蘇ってきていたから。
「レプリフォースの連中にも問題はあったが、あいつらも貴様の薄汚い野望のために散っていったことに変わりは無い。俺にとってお前は不倶戴天の敵だ!!この戦争で犠牲になった多くの命の為にも、そして俺達を弄んだ貴様は絶対に許さん!!この戦争を引き起こした貴様もまたカーネルの仇だ!!」
Zセイバーを抜き放ち跳躍と共にシグマに向かって振り下ろすゼロだが、それをシグマはただ薄笑みを浮かべて佇んでいるだけだった。
「慌てるなゼロ。」
「何だと!?」
突如シグマの姿が掻き消えるとゼロのセイバーが空振りし、次の瞬間にはシグマは真上にいた。
「今、お前とエックスより早く到着したルインがジェネラルの元に向かっているが。お前だけ持て成しがないというのも失礼だろう。」
シグマが指を鳴らすと、この部屋に1体のレプリロイドが転送された。
朱いアーマーを纏った金髪の女性型レプリロイドで、その姿はゼロも見覚えがある。
「ルインだと…?自分では勝てないからとは言え、とうとう俺の後輩のコピーに頼るとはな」
そんなシグマをゼロは嘲笑うが、シグマもまた笑みを深めた。
「コピーというのもあながち間違いではないが、これは実験機の意味合いが強い」
「実験機…だと?」
「ゼロよ、ルインが人間を元にしたレプリロイドであることは知っているだろう?」
「それがどうした………まさか…!?」
ルインを引き合いに出されたことで目の前のレプリロイドの正体に気づいたゼロは目を見開いた。
「これもまた人間を素体とした物だ。苦労したぞ。人間を原子レベルにまで解体し、ようやく納得の行く性能の物が造れたのだからな。」
「よくもこんなことを…!!この悪魔め!!」
シグマの非道なやり方に激しい怒りを感じるゼロはセイバーを構える。
「やれ」
ルインを模したレプリロイドはビームサーベルを抜き放ち、ゼロに斬り掛かる。
「チッ!!」
それをゼロは舌打ちしながらセイバーでサーベルを受け止める。
「ゼロよ。それは人間を素体としているが、人間としての部分は皆無に等しい。今までのようにイレギュラーを処分したらどうだね?」
「貴様…!!」
「素体とした人間はどうやらそれなりの剣の達人だったらしくてな、どうやら素体となった人間の実力も性能に反映されるようだ。人間と機械の力が1つとなると試作機の段階でこれ程までに高性能な物が出来上がる。」
事実、ルインを模したレプリロイドはゼロに匹敵する剣技で攻撃を繰り出している。
これが鍛え上げた人間が機械の体を得たことによる力なのだろう。
「いやはや、ルインを生み出した者の技術力には恐れ入る。素体を選ぶ必要があるとは言え、このような怪物を大量に生み出せる技術を持つ者が敵になると思ったら背筋が凍る思いだ。そうは思わんかね?ゼロ?」
「黙れ!!今すぐ彼女を止めろ!!貴様が彼女を操っているんだろう!!」
「そう言われて素直に止めると思うかね?」
「罪のない人間を改造し、洗脳する…貴様はどこまで外道に堕ちれば気が済むんだ!!」
「外道とは心外だな、限りある資源を無駄に浪費する害虫を見直した結果だ。利用価値のある人間はレプリロイドとなって生まれ変わり、そして我が兵士となって我が理想郷創造のための兵士となる…劣等種の人間にはこれ程の幸福はないと思うがな…クックック…さあ、フェイクよ。そのままゼロの相手をしてやれ。私は最後の仕事を終わらせておく」
「はい…シグマ様…」
シグマの命令に対して感情のない声で応えるフェイクと名付けられたルインの模造品。
「待てシグマ!!」
この場から去ろうとするシグマにシールドブーメランを投擲するがフェイクのサーベルで弾かれてしまう。
「くっ…」
再び、セイバーとサーベルをぶつけ合う両者。
相手がイレギュラーハンターとして守るべき元人間であるためか、ゼロの剣筋は鈍っている。
しばらくして、デスフラワー全体に振動が走る。
「(まさかルインがジェネラルと戦っているのか…なら急がなければ…だが…)」
目の前にいるレプリロイドは元人間でシグマに改造され、洗脳されているだけだ。
しかし、ルインがジェネラルにやられてしまっては意味がない。
ゼロはフェイクと名付けられた彼女の見つめながら静かに決意した。
「あんたが何者かは知らんがすまない…あんたを救うにはこれしか方法が見つからない。俺が死んだらキッチリと詫びを入れる。」
セイバーを振るい、ビームサーベルを弾き、足払いで体勢を崩すとロッドで一気に動力炉を貫いた。
「……………」
そのまま仰向けに倒れるフェイクだが、まだ機能停止していないのかゼロを見上げると今まで動かなかった表情が動いた。
それはとても穏やかな笑みで、彼女は笑みを浮かべたまま機能停止した。
「……」
ゼロはそれを沈痛そうな表情で見つめていた。
倒れる寸前に彼女が…死を目前として洗脳が解けたのだろう。
彼女の発言に胸を痛めた。
“ありがとう”…。
それが彼女が最期に発した言葉。
人間の肉体を失い、洗脳され、壊死しかけた心から発せられた心からの感謝の言葉であった。
「(こんな方法でしか…俺は彼女を殺すことでしか救えなかった……っ!!俺は…俺は一体何のために戦っているんだ…!!)」
ゼロは唇を噛み締めながら足を動かした。
レプリロイドに改造し、彼女の人生を狂わせた悪魔を討ち取るために。
「何処だ!!シグマの奴は!!」
怒りを戦いの原動力に変えながらしばらく通路を駆けたがまだ辿りつけず、ゼロは近衛兵を薙ぎ払いながら先に進んだ。
『ゼロ…』
「!?」
頭に響いた声に足を止めた。
この声には聞き覚えがある。
ゼロは導かれたかのように、足を動かすとその先にはかつて自分を強化してくれた老人の姿があった。
何故このような場所に。
『どうやら間に合ったらしい。ゼロ、この先はいくら君でも危険じゃ』
「危険は承知の上だ。ジェネラルだけではなくシグマまで相手にするとなると、エックスとルインだけでは危険過ぎる」
友の力を信頼していないわけではない。
しかしジェネラルはレプリフォースの頂点に立ち、シグマは最強のイレギュラーなのだ。
『ならばせめて…君のパワーアップをさせてもらえないか?』
「パワーアップ?」
『最初の戦いの時と同じように、君の秘められた力を解放する。そうすることでセイバーの性能が格段に上昇するだろう…このカプセルに入るかは君の自由じゃ。エックスとルインを頼んだよ』
「…………」
ライト博士のホログラムが消え、ゼロは無言のままカプセルの中に入る。
しばらくするとゼロの内部から湧き上がるエネルギーは増大し、その金髪は銀色へ、真紅のボディは漆黒へ変わっていた。
「これならあの悪魔を倒せる…確実に…!!」
漲る力を感じ、これならシグマを屠れると確信したゼロは急いでジェネラルの元に向かった。
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