月にいる男
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第四章
「私も貴族だ、ならだ」
「誇りがあるからだな」
「約束は守る」
絶対にと言うのだった。
「それはな、だからな」
「俺に魂も身体も渡すな」
「両方をな」
まさにというのだ。
「そうしよう」
「ではな、しかしだ」
「しかし。何だ」
「随分と余裕だな」
悪魔も彼の態度からそれを感じ取って指摘した。
「痩せ我慢なのか」
「何、これまで人生を堪能したからな」
二百年以上のそれをというのだ。
「もういいと思っているだけだ」
「それだけか」
「そうだ、ではこの旅籠の酒と料理を楽しむか」
「この世との別れにか」
「そうしよう」
「ではせめてもの情けだ、付き合おう」
悪魔はトファルドフスキの余裕にいぶかしむものを感じながらもそれでも流石に今度ばかりはと思って応えた、
「ではな」
「存分に飲んで食おう」
「これからな」
二人で話してだった、テーブルに着いて思う存分飲んで食ってだった。二人は悪魔が用意した二頭の漆黒の身体に赤い目を持つ馬にそれぞれ乗ってフィレンツェを後にした。
馬はフィレンツェをでるとすぐに宙に浮かんだ、そうして悪魔は自分の後ろの馬に乗っているトファルドフスキに言った。
「この馬達は魔界の馬でだ」
「魔界に行くことが出来るか」
「そうだ、これから我々は月に行ってだ」
まずはそうしてというのだ。
「そこにある魔界の入り口から魔界に入り」
「魔界でだな」
「契約通りに生きていく」
「今度は私が仕えるな」
「そうしてもらう、御前は俺の従者となる」
悪魔はトファルドフスキにこのことも話した。
「働いてもらうぞ」
「そのことはわかった、ではこれからだな」
「月に行くぞ」
まずはとだ、こう言ってだった。
悪魔はトファルドフスキを今度は月に案内した、二頭の魔界の馬は宙をどんどん進んでいってだった。
月まであと少しのところに来た、悪魔はここでもう契約が果たされると思っていた。だがここでだった。
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