ある晴れた日に
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123部分:谷に走り山に走りその十九
谷に走り山に走りその十九
「まあとにかくね」
「掃除ですか」
「それよ」
田淵先生もその奇麗な顔を思いきり顰めさせていた。そうして言うのであった。
「帰ったらすぐにお掃除しなさい。わかったわね」
「はい」
「何なら家庭訪問するから」
「えっ、そりゃないですよ」
「その他にも色々御両親にお話したいことがあるし」
「私もね」
当然ながら担任の江夏先生もであった。
「成績のことでね。よくね」
「本当にこのままだと進学できないわよ」
「大丈夫ですって」
しかし本人だけはこう言うのだった。
「俺無事卒業しますから」
「何でそう言えるのかしら」
江夏先生も今の野本の言葉には呆れてしまった。
「そもそも入学したことも奇跡だったのに」
「奇跡だったんですか」
「やっぱり」
皆がすぐに完全に納得することであった。
「道理でおかしいと思ったし」
「そうよね」
「こいつが高校に入られるなんて」
こうまで言われる野本だった。
「やっぱり奇跡だったのかよ」
「運だけで生きてるんだな」
「本当にな」
「本当に俺は色々言われるな」
「言われるようなことをしてるからよ」
また江夏先生の言葉が野本を刺す。もっとも本人はそのソ連軍の戦車の如き跳弾能力でその言葉も何なくかわしてしまうのであるが。
「そこんところ、わかりなさい」
「一応わかりました」
やはりこんな調子である。
「それじゃあそれはそういうことで」
「それで終わらせるのかよ」
「話して決めたからそれでいいじゃねえかよ」
正道への言葉だった。
「だろ?帰ったら掃除するからよ」
「絶対しろよ。本当に何やってるんだ」
「まあまあ。それで音橋よ」
「ああ」
今度は彼が正道に声をかけてきた。
「バスの中での曲は何だったっけな」
「さっき言わなかったか?」
「そうだったか?忘れちまったよ」
ここでもいい加減さを発揮する。
「まああれ頼むわ。カントリーロック」
「随分と落ち着いた趣味だな」
「俺あれも好きなんだよ」
にこやかに笑っての言葉である。
「結構以上にな」
「御前はラップじゃなかったのか?」
ラップダンサーなのはもう皆知っていることだった。学校のダンス部でも一年のホープとして知られている存在なのが彼である。
「他にも踊るのは知っていたけれどな」
「俺も音楽は結構いけるんだよ」
というのが本人の言葉であった。
「何でもな。だからな」
「いいのか」
「ああ。カントリーロックあるよな」
あらためて正道に尋ねる。
「それで頼むな」
「わかった。じゃあまずはそれだな」
「よし、バスの中が楽しみだぜ」
「全く」
話を終えても呆れる正道だった。
「こんないい加減な奴見たことねえぜ」
「これでもましになったんだよ」
しかしここで彼の親戚の竹山が言うのであった。
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