火を吐く王子
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第三章
「降ってです」
「それでか」
「彼等には一切危害を加えていません」
それも一切というのだ。
「ご安心を」
「素晴らしい」
宰相は王子のその言葉を聞いて感銘の言葉を口にした。
「ただ敵を倒しただけでなく民達に一切危害を加えぬとは」
「何と素晴らしい」
他の廷臣達も言いだした。
「まさに真の騎士です」
「ただお強いだけではないですな」
「王子がおられるからこそです」
「この国は安泰です」
「何といっても」
「王もそう思われますね」
「そ、そうだな」
王は宰相や貴族達の言葉に内心唖然とするものを感じつつも必死にそれを隠してそのうえで述べた。
「見事だ、褒美を取らしたいが」
「褒美なぞいりませぬ」
王子は無欲さも出した。
「どうか新たに領土に入れた国を治めることを」
「それをか」
「お考え下さい」
「そうか、ではな」
王は王子の言葉に頷いた、そしてだった。
王子の武勇と寛容さ、高潔さを褒め称えた。誰もが王のその言葉に拍手した。王子の素晴らしさにも。
王もいい加減諦めかけていた、王子を止める術はないのではとだ。こだがそう考えているとそこでだった。
また王子が王に言ってきた、その言葉はというと。
「国境の山にドラゴンが出たので」
「今度はか」
「はい、そのドラゴンをです」
「倒してくるのか」
「そうしてきます」
「ドラゴンをか」
賊や巨人や魔物、敵の軍勢なぞ比べものにもならない。まさに正真正銘の恐怖である。これに勝つ者はいない。
それで王は今度こそと思い王子に問うた。
「本当にいいのか」
「はい、国と民の為に」
「私もおります」
ここでまたヒルデブラントが言ってきた。
「及ばずながら」
「我等もいます」
彼を慕う勇者達も言ってきた。
「ですからご安心を」
「例えドラゴンでも我等がいます」
「王子の為ならこの命喜んで捧げましょう」
「王子を死なせはしません」
「その心だけ受け取っておく、ドラゴンは強い」
王子は彼等のその言葉だけ受け取った。
「だからだ」
「王子だけがですか」
「ドラゴンのところに行かれる」
「そうされますか」
「供は嬉しいがドラゴンと闘うのはだ」
それはというのだ。
「私一人でいい」
「そう言われますか」
「しかしそれは」
「幾ら何でもです」
「ドラゴンですから」
「案ずるな、私は勝つ」
王子は毅然として言った、そしてだった。
彼は供の者達を連れて再び出陣した、ここで王は今度こそとほくそ笑んだ。幾ら何でもドラゴンに勝てる筈がないと思ったのだ。
それで今度はもう大丈夫だと安心して悲報彼にとっては朗報を待った。しかし暫くしてその逆の報が届いた。
王はその報を聞いてそれを届けた騎士に思わず問い返した。
「ドラゴンを一人でか」
「はい、倒されました」
王子がとだ、騎士は答えた。
「見事に」
「名剣エッケザックスを使ってか」
「そしてその時に」
「何があった」
「はい、王子は本気になられ口から炎を吐かせたのです」
「何っ、炎をか」
「何と王子は本気で戦われる時は炎を吐かれるとのことです」
騎士も王に驚きを隠せない顔で述べる。
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