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何処まで攻めるのか

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第三章

「その宋が果たして金を滅ぼせるか」
「それは」
「この戦はきりのいいところで終わらせるべきだ」
「きりのか」
「燕京まで手に入れても終わらないのだからな」
「そして燕雲十六州もか」
「そうだ、長城で進めれば最上だ」
 今の状況でというのだ。
「宋の旧領を回復出来てもいい、しかし最悪でもな」
「最悪では何だ」
「江南だけでもいいかも知れない」
「馬鹿な、江南だけで満足出来るか」
 張は梁のその言葉に憤慨した様に言い返した、机を叩きそうになったがそれはかろうじて止めた。理性が働いてのことだ。
「到底」
「なら黄河か淮河だ」
「どちらかか」
「そうなるか、だが宋ではな」
「金は滅ぼせないか」
「滅ぼそうとすれば」
 宋が、もっと言えば実際に軍勢をそれも自分達の兵を率いて戦っている岳飛達がというのだ。
「危ういことになるかもな」
「まさかと思うが」
「ましてや岳将軍達は官軍を率いていない」
 弱いことで知られる彼等をというのだ。
「官軍でないのならな」
「唐の節度使達と同じか」
「若し岳将軍達がそうなろうと思えば」
「そんな筈がない、岳将軍達程宋を思っている方々はおられぬ」
 張は梁にこれまで以上に強い声で反論した。
「だからだ」
「宋に弓を引くことはないか」
「そうだ、金を倒すまでな」
「だがそれだけの力はある」
 梁は無念を押し殺した様な声で張に話した。
「宋の兵は弱いのだしな」
「まさか岳将軍が安禄山の様にか」
「そうなれば宋はどうなる」
「有り得ないが」
「今の将軍がそうお考えでも人の心は変わるしだ」
 宋への絶対の忠義、それがというのだ。
「そして将軍にその力がおありならな」
「宋としてはか」
「金も危ういが」
 敵であるこの国と共にというのだ。
「岳将軍達もかも知れぬ、だから将軍達がこれ以上勝って勢力を拡大させてもな」
「宋にとっては危ういのか」
「若しくは誰かにとってな」
「その誰かは」
「言う必要もないだろう」
 こう言ってだ、梁は張のその虎の様な強い光を放つ目を見つつ冷静な声で述べた。
「違うか」
「そういうことか」
「そうだ、だが私も岳将軍は素晴らしい方と思っていてだ」
「金に勝ちたいな」
「程々のところでそうしてもらいたいものだ」
 宋にとっても岳飛達にとってもよい結末であって欲しいというのだ、こうしたことを話してだった。
 梁は仕事に戻った張を送り彼も自身の仕事に戻った、文章の代筆を頼まれていてそれを書いたのだ。
 だがその夜街に出て飲みに行くと街の灯りも人も少なく酒は薄くしかも肴も貧相だった、それでふと居酒屋の親父に聞いた。
「景気が悪いのか」
「戦続きで」
 それでとだ、親父は梁に答えた。 
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