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猿顔

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第五章

「そうなのか」
「はい、そしてです」
「そしてか」
「僕はこの運命に従います」
 是非にと言うのだった。
「そう決めました」
「そうか、ではな」
「その運命にですね」
「君がいいのならな」
 その運命を受け入れるのならというのだ。
「その道を進むことだ」
「そうさせてもらいます」
「では」
 日吉はその言葉に頷いた、そうして大学に在籍している間に学芸員の資格を手に入れ教授の紹介である動物園に就職した。
 そしてだ、彼はゴリラの担当を希望してその希望通りにゴリラの飼育の担当になった。そうして日々ゴリラの世話をしていたが。
 教授やあの父親が言った通りゴリラは非常に温厚で優しかった、それで友人達にもよく休日にこう言った。
「ゴリラ位いい生きものはいないさ」
「外見は怖くてもか」
「それでもか」
「優しいんだな」
「凄く温厚なんだな」
「森の賢者って言うけれどな」
 ゴリラは実際にそう呼ばれもしている。
「その言葉通りにな」
「頭もよくてか」
「悪い生きものじゃないんだな」
「何があっても精々胸を叩いて驚かせて」
 ゴリラの有名な威嚇の仕方だ、これもゴリラを怖い生きものだとイメージさせるものの一つになっている。
「うんこを投げる位で」
「うんこ投げられるのは怖いけれどな」
「汚いからな」
「けれどそういうのだけでか」
「本当に暴力とか振るわないんだな」
「人間よりもずっと優しいよ」
 日吉は友人達に微笑んで話した、今喫茶店でコーヒーを飲みつつ友人達に話しているがその口調は優しいものになっている。
「ある種の人間よりもな」
「ああ、人間色々な奴がいるからな」
「凶暴な奴だっているしな」
「そうした奴と比べたら」
 ゴリラ、彼等はというのだ。
「凄くな」
「温厚でか」
「優しいか」
「そうした生きものか」
「そうだよ、あんないい生きものはいないさ」
 彼は友人達にいつもゴリラについてはこう話した。
「だから動物園に来たらな」
「ゴリラを観てくれ」
「そう言いたいんだな」
「ああ、それでな」
 そのうえでと言うのだった。 
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