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ある晴れた日に

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119部分:谷に走り山に走りその十五


谷に走り山に走りその十五

 だからなのだった。この二人にしろ。それは別に悪いことではないというのだ。
「それで捕まった人間って日本にいないし」
「一人もかよ」
「そうだよ、一人も」
 竹山はこのことも彼に話す。
「いないからさ。本当に」
「そうなのかよ。しかしなあ」
 あらためて明日夢と凛を見る。やはりそこにはすこぶる怪しいものが漂っているのだった。それは少しも収まるところがなかった。
「御前等せめて抱き合うなのな」
「あら、女の子はそういうものよ」
 こう言ってやまない野茂のところに江夏先生が来て彼に告げた。
「こうして抱き合うのがね。普通じゃない」
「そうなんですか?」
「そうよ。先生の言うことを信じないで何を信じるのよ」
「そう言われるとあれですけれど」
 それでもあまり信じられないところがあるのもこの先生である。何かといい加減なところがあるからだ。実際にクラスでも職員室でも結構ずぼらで知られている。
「これが普通なんですか」
「私達の時だってそうだったしね」
「先生の学校女子高だったりしました?」
「いえ、普通の共学だったけれど」
「それでもこんなにいちゃいちゃしてたんですか」
「だから。女の子だったら普通じゃない」
 あくまでこ主張する先生だった。
「これ位。そうよね」
「はい。私達だって」
「この二人位は」
「普通ですよ」
「マジかよ」
 野茂だけでなく今の女組の発言には唖然となる男組だった。
「それってマジで宝塚じゃねえか」
「怪しいことこの上ないぞ」
「若しこれを男がやったら」
「どんな趣味でもクレームはつけないけれど表でやるのは止めなさい」
 こちらには厳しい江夏先生だった。
「いいわね、それは」
「そっちは駄目なんですか」
「校則に同性といちゃいちゃしちゃいけないってのはないけれど」
 そもそもそうした校則を作る学校もない。所謂不順異性交遊は表向きはどの学校も禁止している。しかし健全な交遊ならいいという学校は多いしましてや同性同士について書く学校は存在しない。そこまで考えてはいないという理由もある。考慮の外なのである。
「それでもね。むさ苦しいから」
「っていうか俺そっちの趣味ないですし」
「俺も」
 このクラスにはそういう人間はいないのであった。
「少年や中森みたいなことは男同士じゃ」
「きもいですから」
「健全よ。私だって嫌よ」
 これについては江夏先生もまた同じであるのだった。
「そんなの。見てもね」
「それでも女同士だといいうんですか」
「見た目にも奇麗だからね」
「成程」
「じゃあ今度の五月の春季祭劇でもするか?」
 五月に行われる祭りの話にもなった。この学校では秋の文化祭の他に春にもそうしたことを行うのである。この学校の大きな特徴である。
「それよ。主役この二人で」 
 野茂はこう言いながら親指でやっと離れた明日夢と凛を指差すのだった。
「何かよ」
「ああ、別にいいんじゃねえ?」
「それでな」
 そして男組もそれでいいとするのだった。
「絵にはなるしな」
「確かに」
 その二人をまじまじと見ながらの皆の言葉だった。
「まあそれはおいおい話していくにしろ」
「ある程度は決まりだな」
 方向はとりあえずはおおよそのところ決まったのであった。
「まあとにかく」
「その話は後で」
「そうよ。それはホームルームの時間にじっくりするから」
 江夏先生が皆に言う。
「帰るわよ。早くね」
「はいはい、わかってますって」
「それで帰って解散ですよね」
「そうよ。これがまた疲れるのよ」
 ここでふう、と実際に溜息を出してみせる先生であった。
 
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