ある晴れた日に
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114部分:谷に走り山に走りその十
谷に走り山に走りその十
「それやるんだけれどな」
「また随分明るい曲ね」
それを聞いて最初に言ったのは意外にも咲だった。
「ウルトラマンタロウって。メビウスでもいいけれど」
「それも後でやろうか。けれどよ、柳本」
「どうしたの?」
「何で御前がそれ知ってるんだ?」
正道はいぶかしむ目で咲を見つつ彼女に対して問うた。
「御前が。何でなんだ?」
「だって咲そういう番組好きだから」
「ウルトラマンがかよ」
「ええ。ウルトラマンは一番好きね」
何も隠さずあっけらかんと答える咲だった。
「特撮だとやっぱり」
「御前特撮マニアだったのかよ」
「女で」
「実はそうなのよね」
奈々瀬が苦笑いと一緒に驚く男組に対して述べた。
「咲って。特撮が好きなのよ」
「何でまたそんなの好きなんだよ」
「普通ドラマとかだろ?」
「ドラマ好きだけれど」
咲は驚いたままいぶかしむ言葉を口に出す男組にまた答えた。やはりあっけらかんとした調子だ。驚いているのは男組だけである。
「特撮だってドラマじゃない」
「まあそうなるのか?」
「言われてみれば」
確かにそうだった。特撮も確かにドラマなのだ。間違いなく。
「それに出てる役者さん皆格好いいじゃない」
「今馬鹿タレントになってるあれもそういやそうか」
「ああ、あの人な」
皆それが誰か言うまでもなかった。歌手にもなっている彼である。
「あの人もあの時は格好いいイメージだったのによ」
「それが今じゃあな」
「ライダーの。ほら」
男組だけで話が変な方向に向かっていた。
「ファイズのあの人も今かなり変な方向にいってるよな」
「あの三人結構そうだろ」
「ファイズが懐かしの歌謡曲にビルでカイザがオカマの悪役でデルタの奥さんは十五歳年上か?」
「十五歳年上の姉さん女房ってのがなあ」
「全くな。凄いよ」
「美人でもな」
「とりあえずね」
咲がまた男組に対して話してきた。
「だから好きなんだけれど、特撮」
「イケメン狙いってわけか」
「皆背が高いし」
特撮番組の特徴だ。女性陣はともかく男性陣はとかく背が高いのだ。そうでなければ見栄えがしないというせいもあるがこれが特長にもなっている。
「だから」
「まあ柳本はな」
「あまりな」
お世辞にも背が高いと言えない咲である。六人の中では一番低かったりする。
「だからってわけじゃねえだろ?それでも」
「御前別に背は気にしちゃいないよな」
「それはね」
咲も自分でそれは認める。
「けれど。やっぱり背の高い男の人って格好いいじゃない」
「確かになあ」
「カブトの人とかゾルダの人とかな」
「目立つしな。顔がよくて背が一八〇位あれば」
「羨ましいよな、それ考えたら」
「そうだよな、全く」
かえって男組の方が羨ましいものを感じていた。何はともあれ曲はそれに決まったのだった。
「じゃあよ」
「ああ」
皆話のきりのいいところでまた言ってきた正道の言葉に応える。
「そろそろはじめるぞ」
「それで頼むな」
「タロウとメビウスでな」
「よし。それじゃあな」
こうして彼はギターを奏ではじめた。これまでは怖い話ばかりで暗くなっていたがそれも一変した。こうして彼等はキャンプの最後の夜を楽しく過ごすのだった。
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