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戦国異伝供書

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第三十五話 天下一の武士その一

               第三十五話  天下一の武士
 幸村は十勇士達と共に甲斐の国に入った、そうして甲斐の現状を見てその目を瞠ってこう言ったのだった。
「ううむ、甲斐は貧しい国と聞いていたが」
「はい、山に囲まれていてです」
「田畑は少なく川はよく荒れ」
「民は苦しんでいると聞いていましたが」
「それがじゃ」
 今の甲斐はというのだ。
「随分とな」
「違いますな」
「田畑は拓かれてきていますし」
「葡萄やら何やらも植えられてきていて」
「川に堤が築かれていっております」
「他の灌漑もされていて」
「街も整いだしています」 
 そうしたことが見れば明らかだった。
「これが、ですな」
「武田様の政ですな」
「民も国も豊かにする」
「そうした政ですな」
「そうであるな、それでじゃ」
 幸村はさらに言った。
「甲斐はさらによくなるぞ」
「今以上にですな」
「よくなりますな」
「このまま政に励めば」
「そうなりますな」
「間違いない、これはじゃ」
 十勇士達に対して言葉を続けた。
「武田家も甲斐もどんどんよくなるぞ」
「ここまでの政を行えば」
「間違いなくそうなりますな」
「貧しい甲斐が豊かになる」
「左様ですな」
「わしは確信する、ではじゃ」
 ここまで話してだ、幸村はこうも言った。
「これよりじゃ」
「はい、武田様の場所に向かいましょう」
「お館に」
「そちらに」
「城ではないのが驚きですが」
「それじゃ、武田家も城を築いておるが」 
 それでもとだ、幸村は武田家の城のことを話した。
「太郎様は城よりもと考えておられるのじゃ」
「人が城ですな」
「堀であり石垣である」
「そう言われておられるとか」
「そうじゃ、どの様な堅城も人次第じゃ」
 守るその者達によるというのだ。
「異朝の宋のことは知っておるか」
「いえ、どういった国でしょうか」
「明の前の前の王朝だったと思いますが」
「果たしてどういった国だったか」
「我等は知りませぬ」
「うむ、実は最初開封が都であったが」
 その開封がというのだ。
「金の軍勢に攻め落とされておる」
「そうなのですか」
「都つまり本城を攻め落とされているのですか」
「そうしたことがあったのですか」
「そして宋の帝も捕らえられた」 
 その金の軍勢にというのだ。
「そうなった」
「ううむ、本城を攻め落とされ主も捕らえられるとは」
「まさに恥辱の極みですな」
「それだけはなってはならぬというのに」
「国、家が滅びますが」
「実際ここで一度宋は滅びかけた」
 都を攻め落とされ帝も捕らえられてというのだ。
「そうなった、だが開封は三重の城壁に広い堀に守られておった」
「堅固な城でしたか」
「そうでしたか」
「都であるだけにな、しかも守る兵は八万もおった」
 幸村は今度は兵の数を話した。
「これでは到底攻め落とされぬ筈がじゃ」
「攻め落とされたのですな」
「そうなったのですな」
「それだけの守りがあったのに」
「それは人は数だけで確かな人がおらなかったからであろう」
 八万の兵がいたがというのだ。 
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