ある晴れた日に
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101部分:小さな橋の上でその十七
小さな橋の上でその十七
「それでもね。息子さんには会ったことないし」
「真面目でいい人よ」
「八条大学の学生さんだったわよね」
「ええ。少年はまだ会ったことないの」
「家の仕事が忙しいし」
実はそちらにかかりきりの明日夢だった。つまりバイト少女なのである。
「それに山月堂の人と会って仕入れてるのお父さんだし」
「だから知らないの」
「私言うならただのカラオケのバイトよ」
店の手伝いをしているだけだからである。
「そこまで知らないわよ、まだ」
「そういえばそうね」
明日夢の言葉に納得した顔になる奈々瀬だった。
「言われてみれば確かに」
「そういうこと。けれど山月堂がうちの店と取り引きしていてよ」
「ええ」
「しかも八条百貨店に店も出していて」
八条百貨店本店はこの八条町にある。八条グループは鉄道会社も経営していてその広さは全国規模である。従って日本各地に百貨店もあるがその本店はこの八条町のものなのだ。そこに店を出しているということはやはりかなりのものである。
「咲がその百貨店の偉いさんの娘さんって」
「世界って狭いよね」
「全く。それもかなりね」
「けれど咲スタープラチナのケーキのことは気付いてないみたいだけれど」
「そうなの」
「ああいう場所じゃ何故かケーキ食べないから」
こう言うのである。
「だからね。それはね」
「そういえばいつも焼きそばとかハヤシライスとかそのカレーとか」
「そうなのよ。お菓子はお店を出てからっていうのがパターンなのよ」
「それはよくないわね」
真顔で言う明日夢だった。
「咲にもうちのお菓子食べてもらわないと」
「何でなの?」
「決まってるじゃない。それが売り上げにつながるからよ」
「御前結局それかよ」
正道が今の明日夢の言葉に呆れた突込みを入れる。
「ちょっとはそれから離れないのかよ。こんな山まで来て商売のこと考えてよ」
「悪い?」
「悪いっていうか悪い意味で現実的な奴だな」
こう明日夢を評するのだった。
「折角山でこうしてレクレーションしてんだからそこで売り上げとか言うなよ」
「じゃああんたうちの店に来たらケーキ代倍ね」
「それで誰が買うんだよ」
「冗談よ。流石にそれはしないから」
「当たり前だろ」
顔を苦くさせて言い返す正道だった。
「何処にそんな馬鹿な商売する店があるんだよ」
「もっともうちの店は巨人帽とかは即刻脱いでもらうけれどね」
「それはどうでもいいさ」
正道もアンチ巨人なのでそれはいいとした。
「そんなことはな。とにかくだよ」
「ケーキのこと?」
「そうだよ、それだよ」
やはり彼が言うのはこのことだった。
「ケーキな。柳本に食べさせたらどうだ?」
「それは今考えてるけれど」
「私も」
明日夢と奈々瀬の考えが一致するようになっていた。
「けれど咲カラオケショップじゃケーキとか食べないのよね」
「そうよ」
またこのことを確認し合うのだった。
「絶対にね」
「じゃあどうすれば」
「そんなの簡単だろうが」
しかし正道はこう悩む二人に対して言うのだった。
「店からケーキな。少し出して学校まで持って来ればいいんだよ」
「学校まで?」
「カラオケショップから?」
「そうだよ、簡単だろ?」
また二人、特に明日夢に対して言う。
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