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戦国異伝供書

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第三十四話 内外を治めその五

「お父上を追放されて」
「そしてご自身が主となられてな」
「素晴らしき政を敷かれておるとか」
「甲斐は貧しい」
 昌幸もこのことは知っている。
「しかしな」
「政次第で、ですな」
「豊かになる、だからじゃ」
「武田様は政に励まれ」
「そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「その貧しい甲斐をな」
「よくされましたか」
「その政見事じゃ、そして先程報が入ったが」
「どういったものでしょうか」
「そろそろ信濃に攻め入られるとのことじゃ」
「我等もいるこの国に」
「その様じゃ」
 こう幸村に言うのだった。
「いよいよな」
「甲斐の主になられてすぐにと思いましたが」
「それがじゃ」
「政により力を蓄えられるまでは」
「それを控えられた様じゃ」
「ううむ、それはまた」
「お主だと甲斐の主になってすぐに攻め入るな」
 昌幸は我が子に若し甲斐の主ならどうするかを問うた。
「そうであるな」
「甲斐一国の力なら」
 それならばとだ、幸村は父に答えた。
「信濃のかなりの部分を手に入れられまする」
「そしてじゃな」
「そこからさらにです」
 甲斐と信濃の領地となった場所の力を使ってというのだ。
「さらに攻め入り」
「そしてさらに力をつけてじゃな」
「すぐに信濃一国をです」
「領地に出来るな」
「そう思いますが故」
「それは戦じゃな」
「ですから戦ですが」
 また父に述べた。
「この度は」
「それが違う、戦は政の下にあるのじゃ」
「では」
「そうじゃ、武田様は政を考えておられてじゃ」
 それでというのだ。
「甲斐を豊かにして民を救う」
「政によって」
「そのことをまずお考えでな」
「だから主となられてすぐに戦をされなかったのですか」
「そうすれば民が苦しむからな」
 碌に政をせずに戦をしてはというのだ。
「まずはじゃ」
「政をですか」
「されてな」
「民の暮らしを豊かにさせて」
「甲斐全体の力も付けてな」
「その力で、ですか」
「戦われるおつもりじゃ」
「ではです」
 ここまで聞いてだ、幸村は述べた。
「あの方は」
「そうじゃ、戦よりも政じゃ」
 それが晴信だというのだ。
「そのうえで信濃を攻められるが」
「どの様な方か」
「父上は御覧になられたいと仰せじゃ」
「左様ですか」
「してじゃ」
「それがしが、ですか」
「これより甲斐に向かってじゃ」
 そのうえでというのだ。 
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