英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第87話
~東フォートガード街道~
「…………故郷を失った猟兵の最後の意地なんでしょうね。本当に馬鹿な連中なんだから。」
リィン達と共に現場へと急行しているサラは寂し気な様子で北の猟兵達の犯行理由を答えた。
「でも、これでわかったよ。帝国政府がニーズヘッグを雇って半月も北の猟兵と戦わせた意味…………どっちに転んだとしても政府に有利に働くからだろうね。」
「ああ、阻止できれば政府の手柄で、防がなければ統合地方軍の失態。最悪の場合、新海都は破壊され、貴族勢力は最大の拠点を失うわけか。クロスベル帝国軍の列車砲による砲撃で北の猟兵達ごと列車砲が破壊された場合は…………莫大な謝罪金と引き換えにクロスベルとの戦争を回避するか、もしくはその件を理由にクロスベルが”西ゼムリア同盟”を破棄同然の行為を行ったと、メンフィルを除いた各国と共にクロスベルを非難してクロスベルの国際社会での信用を潰すつもりかもしれないな。」
「そこまで…………そこまでするか。」
ミリアムとリィンの推測を聞いたユーシスは重々しい様子を纏って呟いた。
「まあ、そのあたりは鉄血殿の掌の上ということだろう。だが、それとは別に”結社”も自らの実験を行おうとしている。”黒の工房”だったか…………その意を受ける者たちの狙いも。」
「絡み合う幾重もの意志…………風を見極める必要がありそうだ。」
「ああ…………!」
こうしてリィン達は可能な限りの速さで峡谷へ急ぎ―――多くの者が眠りについたばかりの早朝のラクウェルを通り過ぎ、転移された列車砲が配備されている北の峡谷に辿り着いた。
~北ラングドック峡谷~
「あ――」
「…………これは…………」
列車砲が配備されている近辺にリィン達と共に到着したミリアムは高い場所に設置されている列車砲が砲撃を行っている所を見ると呆け、ガイウスは言葉をなくしていた。
「愚かな…………!」
「それ以上はさせない!」
「ええ…………!何としても止めないと!」
リィン達が北の猟兵達の凶行を止める事を決意しているとリィン達の存在に気づいた北の猟兵達や軍用魔獣達がリィン達に向かっていた。
「来たか…………!」
「迎撃、突破するぞ!」
「おおっ!」
リィンの号令に力強く頷いたユーシス達は列車砲へと向かい始めるとすぐに迎撃の態勢を取っている猟兵達と対峙した。
「――――いい加減にしなさい!こんな事をしても何も変わらない!貴族の軍がノーザンブリアを占領したのはそもそも帝国政府の意向だわ!アンタたちもわかってるんでしょう!?」
北の猟兵達と対峙したサラは声を上げて猟兵達に問いかけた。
「――――百も承知だ!」
するとその時猟兵の一人はリィン達にとって予想外の答えを口にした。
「故郷を棄てた貴様にはわかるまい!あの異変以来、手を汚してまで守り続けた故郷を我らは失った…………!」
「怒りと喪失感を埋めるには、我等の誇りを示すにはもはやこうするしかないのだ!」
「そのために我らは犠牲となろう!」
「故郷を救うために異国で果てたバレスタイン大佐のように!」
「…………!」
「この分からず屋ども―――!!」
北の猟兵達の決意を知ったリィンが目を伏せるとサラは全身に紫電を纏い、リィン達と共に北の猟兵達との戦闘を開始した!
「喰らえっ!」
「フンっ!」
「グルルルッ!」
猟兵達はリィン達の先頭にいるサラに銃で攻撃したり、手榴弾で攻撃し、魔獣はサラに向かって突撃して攻撃をしたが
「ハアッ!これはオマケよ!」
「ガッ!?」
「ぐあっ!?」
「ギャンッ!?」
サラはクラフト―――絶光石火で回避すると共に反撃を叩き込んだ。
「――――緋空斬!!」
「そこだっ!!」
「フフ、行くよ―――セイヤァッ!!」
そこにリィンがクラフト―――緋空斬で、ガイウスが竜巻を十字槍から解き放つクラフト―――ゲイルストーム、アンゼリカは回し蹴りによる衝撃波のクラフト―――レイザーバレットによる遠距離攻撃でそれぞれ追撃した。
「舐めるなっ!」
「この程度で我らの誇りは揺らがない!」
ダメージを受けても猟兵達は自分達が受けたダメージを全く気にしないかのようにそれぞれ遠距離攻撃による反撃をし、リィン達はそれぞれ散開して回避した。
「ガーちゃん、お願い!」
「――――」
「いっけ~!」
「ぐあっ!?」
「がっ!?」
「崩したよ!」
「行くぞ――――斬!!」
アガートラムを球体に変化させ投下するクラフト―――メガトンプレスで猟兵達を怯ませるとミリアムとリンクを結んでいるユーシスが霊力を集束した騎士剣で薙ぎ払うクラフト―――アークブレイドで追撃し
「二の型―――疾風!!」
「竜巻よ―――薙ぎ払え!!」
「ヤァァァァァッ!」
「フフ、痺れさせてあげよう―――たあっ!―――ライトニングキック!!」
「がはっ!?おのれ…………っ!」
「ぐ…………強い…………」
「さすがは大佐の…………」
リィン達が続けてそれぞれ広範囲を攻撃するクラフトで追撃し、ダメージに耐え切れなくなった猟兵達はそれぞれ気を失って地面に倒れ、魔獣達は撃破された事で消滅してセピスを落とした。
「……………………」
「サラさん…………」
「んー…………ちょっと可哀想かなー。」
倒れた猟兵達を複雑そうな表情で見つめるサラの様子をリィンは辛そうな表情で見つめ、ミリアムは猟兵達を憐れんだ。
「ええ―――でも今は浸る時じゃないわ!」
ミリアムの言葉にサラが頷いたその時、猟兵達にとって敵対者であるリィン達の存在を知らせる笛の音が聞こえてきた。
「フッ、なかなか簡単には通してくれないみたいだね!」
「ならば押し通るまで!」
「このまま突き進むぞ!」
その後リィン達は道を阻む猟兵達を制圧しながら進んで行くと、先程聞こえてきた笛とは別の音が聞こえてきた。
「この指笛は…………!」
「赤い星座―――!」
聞き覚えのある音を聞いたリィンとサラが表情を引き締めると赤い星座の猟兵や軍用魔獣達が現れてリィン達と対峙した。
「フッ…………”紫電”に”灰色の騎士”か。」
「相手にとって不足なしだな。」
「サザ―ラントで討たれたシャーリィ様の仇、討たせてもらう!」
「フン、結社の片棒担ぎが…………!」
「ガーちゃん、いっくよー!」
「風よ、オレ達に力を…………!」
「来い、メサイア―――!」
メサイアを召喚したリィンはユーシス達と共に赤い星座との戦闘を開始した!
「昂れ―――黒龍陣!!」
戦闘開始早々アンゼリカは味方の攻撃がクリティカルヒットしやすいようにするブレイブオーダーを発動し
「そこだっ!」
猟兵の一人はリィン達に手榴弾を投擲し、手榴弾を見たリィン達はそれぞれ散開して回避した。
「フンッ!」
「ガーちゃん!」
リィン達が散開するのを見た大剣を武装にしている猟兵は跳躍して大剣を地面に叩き付けて衝撃波を発生させるクラフト―――グラウンドバスターでユーシス、ガイウス、ミリアムを攻撃しようとしたがミリアムはアガートラムを前に出して結界を展開させて攻撃を防いだ。
「「グルルルッ!!」」
続けて魔獣達がユーシス達目がけて襲い掛かったが
「跪け――――セイヤアッ!!」
「「ガッ!?」」
ユーシスの烈なる剣で絶対零度に凍らせ、砕き散らすクラフト―――プレシャスソードによって発生した足元からの冷気によって動きを封じ込められた後強烈な斬撃を受けて怯み
「竜巻よ――――薙ぎ払え!!」
「「!?」」
ガイウスの十字槍を頭上で振り回して竜巻を発生させるクラフト―――タービュランスによる追撃で撃破された。
「ぶっ放せ~!」
「――――」
「「――――!!」」
ミリアムの指示によって反撃を開始したアガートラムのクラフト―――ヴァリアントカノンを猟兵達は左右に散って回避し
「そこだっ!」
「ガーちゃん、お願い!」
「――――!」
銃を持つ猟兵はミリアム目がけて銃撃し、襲い掛かる銃撃に対してミリアムは再びアガートラムを前に出して結界を展開させて銃撃を防いだ。
「もらった!」
そこに大剣を持つ猟兵が跳躍してアガートラムを超えてミリアム目がけて落下しながら大剣を振り下ろそうとしたが
「させるか―――斬!!」
「ぐっ!?」
ユーシスがクラフト―――アークブレイドを落下して来る猟兵に叩き込んでミリアムへの反撃を妨害し
「それっ!」
「――――」
「ガアッ!?」
続けてアガートラムが巨大な機械腕を振るって猟兵を吹き飛ばした。
「チッ…………!」
味方の劣勢を見た銃を持つ猟兵は舌打ちをした後ユーシス達に手榴弾を投擲しようとしたが
「友よ!」
「ピ――――ッ!」
「!!」
「唸れ―――雷咬牙!!」
「ぐはっ!?」
ガイウスの呼びかけに応じたゼオの突撃を回避した後跳躍から落下の速度を利用して十字槍を叩き付けて凄まじい衝撃波を発生させるガイウスの追撃を受けて吹っ飛ばされた。
「ヤァァァァァッ!!」
「「グルルル…………ッ!?」」
サラは散開した後自分達に襲い掛かって来た魔獣達にクラフト―――鳴神を放って魔獣達の動きを牽制し、その間にメサイアは魔獣達の側面に回って奇襲しようとした。
「させるか!」
「緋空斬!!」
「!!」
それを見た銃を持つ猟兵はメサイアに銃撃しようとしたがリィンが放った炎の斬撃波を回避する為にメサイアへの妨害を中断し
「光よ、煌めけ―――昇閃!!」
「「ギャンッ!?」」
魔獣達の側面に回ったメサイアが光の魔力を纏わせた聖剣で広範囲の袈裟斬りを放って魔獣達を撃破した。
「フフ、これはどうかな?―――セイッ!」
「な――――カハッ!?」
メサイアが魔獣達を撃破した直後にアンゼリカは一瞬で懐に飛び込んで必殺の一撃を放つ泰斗流のクラフト―――ゼロ・インパクトで銃を持つ猟兵を一撃で大ダメージを与えると共に吹き飛ばして戦闘不能にさせ
「一撃だと!?」
「く…………っ、泰斗流の零頸か…………!」
一般兵としての猟兵の中でも最高ランクである自分達の仲間が一撃で沈められた事に驚いた大剣を持つ猟兵達は左右からアンゼリカを挟み撃ちにして攻撃しようとしたが
「秘技―――裏疾風!斬!!」
「切り刻みなさい――――紫電一閃!!」
「「ぐあっ!?」」
リィンの電光石火の攻撃とサラが強化ブレードから放った紫電を纏いし旋風を受けて怯み
「断罪の光を今ここに―――断罪の光柱!!」
「フフ、見切れるかい?ハァァァァァ…………ッ!セイッ!!」
「「ぐはっ!?」」
メサイアが放った魔術による光柱とアンゼリカの音速で繰り出される拳による連続攻撃を放つ泰斗流のクラフト―――ソニックシュートを受けてそれぞれ戦闘不能になって地面に膝をついた。
「ハハ、やるな…………!」
「クク…………存外に愉しめそうだ。」
リィン達との戦闘で追い込まれたと思われた猟兵達だったが、まだまだ余力を残しているのか戦闘不能になった猟兵達は次々と立ち上がって好戦的な笑みを浮かべてリィン達を見つめた。
「くっ…………わかってはいた事だが、やはり”赤い星座”の猟兵達は一般兵でも手強いな…………!」
「大陸最強という名も伊達じゃないらしいね…………!」
赤い星座の猟兵達の手強さにリィンとアンゼリカがそれぞれ警戒している時何かに気づいたリィンは血相を変えて方向を崖に向けて太刀を構えた。すると太刀に銃弾がぶつかり
「そこですわ―――死愛の魔槍!!」
「!…………今のに気づくとはさすがは”灰色の騎士”か。」
メサイアが魔術による暗黒槍でリィンを狙撃した人物―――ガレスを狙い、襲い掛かる暗黒槍を側面に跳躍して回避したガレスは表情を引き締めて崖下のリィン達を睨んだ。
「”閃撃のガレス”…………!」
「しかも中隊クラス…………!」
ガレスやガレスの背後にいる赤い星座の猟兵や魔獣達を見たサラとミリアムはそれぞれ表情を引き締めたその時
「ったく、何をモタモタしてやがる!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた後ガレス達とは対面になっている崖上からアガットとトヴァルが現れた。
「トヴァルさん、アガットさんも!」
「遅かったじゃない!」
「悪い、厄介な奴に邪魔されてな!」
「チッ…………!追いついて来やがったか!」
敵の気配に気づいたアガットがガレス達がいる場所に視線を向けるとカンパネルラが現れた!
「あはは…………鬼ゴッコも終わりかな?」
「これは…………」
「流石に厳しいかも…………」
カンパネルラが不敵な笑みを浮かべている中、敵の多さにユーシスとミリアムは表情を厳しくした。するとアガットとトヴァルが崖から飛び降りてリィン達の前に出た。
「――――状況が変わった!この場は俺達に任せとけ!」
「赤い星座はともかく、北の猟兵の本隊は別の場所だ!鉄機隊や白い神機と同じくな!」
トヴァルの話を聞いて何かに気づいたリィン達はそれぞれ血相を変えた。
「確かに、砲台を動かしているのはせいぜい分隊クラス…………」
「大多数の本隊はどこに行ったのか、ということか。」
「でも、お二人だけでは…………!」
「心配無用だぜぇ―――!」
二人だけでカンパネルラ達と戦おうとしているアガット達にリィンが心配したその時ランドロスの声が聞こえた後ミハイル少佐とランディ、ランドロス率いる戦術科が戦場に現れた!
「あ…………!」
「ランドロス教官、ランディ、ミハイル少佐!それに―――ドラッケンにシュピーゲルも!?」
現れた心強い援軍の中にいる機甲兵達を確認したリィンは驚きの声を上げた。
「第Ⅱ分校、加勢させてもらう!」
「ここからはオレ様達のターンだぁっ!」
「ドラッケンとシュピーゲル、戦術科メンバーを連れてきたぜ!――――お待ちかねの戦場だぜ、エルンスト!」
「あっはっはっはっ!いいね、いいね、この空気!久しぶりの本物の戦、たっぷり楽しませてもらうよ!」
ランディに召喚されたエルンストは好戦的な笑みを浮かべて笑いながら自身の周囲に無数の短剣を具現化させた。
「ちなみに例のブースターを利用して上がってきました。」
「ジュライデン流の名に賭けてこの場は任せてもらうわ!」
機甲兵の操縦者であるマヤとゼシカはリィン達にとって心強い言葉を口にした。するとその時ウォレス准将率いる地方領邦軍が現れてそれぞれ銃を構えて自分達の敵であるカンパネルラに銃口を向けた。
「シュバルツァー、サラ殿にユーシス殿たちも。列車砲は誓って食い止める。代わりにどうか頼みたい―――愚かなる統治者が引き受け、風前の灯となった”本丸”を…………!」
「”本丸”…………!?」
「統治者って、まさか…………」
「――――本命はグラーフか!」
ウォレス准将の頼みを聞いたリィンが驚いている中ある事に察したミリアムが驚きの表情を浮かべ、事情を察したユーシスは表情を厳しくして声を上げた。そしてリィン達はその場をウォレス准将達に任せる事を決めるとウォレス准将達と入れ替わるようにその場から離脱した。
「また会ったな、”重剣”。同じ赤毛同士よろしく頼むぜ。」
「ハッ、ランドルフだったか。エステルたちから話は聞いてるぜ。」
「ハハ、よろしく頼むぜ、”不撓”のアーヴィング少佐。」
「”零駆動”のランドナーか。A級並みという実力、見せてもらおう。」
「ふふ、A級クラス2名に”黒旋風”と”紅き暴君”―――いや、今は”仮面の紳士”だったか。こういう時こそマクバーンの出番なんだけどね…………やれやれ、今は人材不足だから僕一人で何とかするしかないか。」
新たに現れたウォレス准将たちを見たカンパネルラは不敵な笑みを浮かべた後溜息を吐き、指を鳴らして大型の人形兵器を次々と召喚した。
「作戦開始―――2基の列車砲を停止する!風と女神の加護を―――征くぞ!」
「オオオッ!!!」
「だぁっはっはっはっ!昂ってきたじゃねぇか!」
「さぁさぁさぁ!始めようじゃないか、互いの命を奪い合う”本物の戦争”を!」
ウォレス准将の号令にそれぞれが力強く答えた後ランドロスとエルンストはそれぞれ獰猛な笑みを浮かべてウォレス准将達と共にカンパネルラ達との戦闘を開始した―――!
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