ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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黒魔術-Dark Majic- Part6/悪魔を打ち破れ!
手出しできないゼロとネクサスは、ただひたすらビシュメルからの暴威に苦しめられていた。
「グワハハハハハ!!どうだ光の者ども!このままじわじわとなぶり殺しにしてくれる!」
ゼロたちに向けてさらにビシュメルは追撃を加える。先ほどと同様に町中の車や電線といった物体を浮遊させ、それを彼らにぶつけていく。
加えて電撃や火炎も吐き出し、二人を守るべく防壁を維持し続けるゼロたちの身を、言葉通り熱で焦がしていく。
「ぐ、ウゥ…」
ピコン、ピコン…
ゼロの胸のカラータイマーと、ネクサスのコアゲージが点滅し始める。
「この…!」
ネクサスが右腕のアームドネクサスから光の剣〈シュトロームソード〉を展開したところで、またしてもビシュメルは言う。
「おっと、本当にいいのか?我を攻撃すれば、我が体内にいる人質共のうち…誰かが死ぬことになるぞ?」
「っ…」
ネクサスは構えを解いて舌打ちするしかない。
「クソが!汚ねぇ真似しやがって!」
「汚い?馬鹿め、殺し合いに汚いも糞もないわ。どんな手を使おうが、最後に立っている者が勝者、正義なのだよ!」
ゼロの悪態に対して、開き直って自分の悪辣さを正当化し、稲妻の光線を浴びせてきたビシュメルに、ますますゼロたちはビシュメルへの嫌悪感を募らせるも、そんな卑怯者に対して反撃できない現状にはがゆさを痛感するのだった。
するとその時、黒い巨人…ファウストへ変身したアキナが現れた。
「は、ハルナ!」
「何?高凪か!?」
「サイトは、あたしが守る!」
彼女は、ゼロとネクサスの前に降り立ち、〈ダークシールド〉を展開してビシュメルの放つ稲妻状の光線から彼らを守りだした。
「ふん、また一匹虫けらが入り込んだところで、俺に勝てると思っていたのか!」
ビシュメルは、新手が現れたことについて、大して動揺することはなかった。自分には人質という絶対の肉壁がある。こいつらがいる限り、光の戦士が何人いようと自分には勝てないのだから。むしろじっくりいたぶってやろうと、ファウストのバリアをじわじわと自分の光線で溶かしていった。
「しっかり捕まってろよ!」
アスカは、ビシュメルの攻撃の余波や、ネクサスとの戦いで飛び散る瓦礫を警戒しながら車の速度を上げていた。
(…よし、応急措置ですが、これで止血はできた)
その間にアンリエッタは、社内で頭を負傷し意識を失ったシエスタの手当てを済ませた。だがこんな状況では満足のいく治療はできない。といっても、近場の病院もこんな状況では向かうこともままならない。一刻も早い事態の収拾が必要だ。
ビシュメル出現の影響からか、町は闇に包まれ、街頭によってかろうじて周囲が照らされている状態。視界はよいとは言えなかった。それに加えてすぐ近くで巨人と怪獣の激闘。ビシュメルの召喚者のいるであろう夜の学校までの道のりは非常に危険なものとなっていた。
アスカに言われた通り、ルイズたちはとにかく車の中のシート等にしがみつく。
ビシュメルが予想以上の勢いで暴れまわっていることもあり、彼らの乗る車に次々と瓦礫が降りかかったり立ちふさがってきたりしていた。アスカ何度もハンドルを切り、それらを避けていく。
「うわあああ!」「きゃあ!」
しかしそれは同乗者であるルイズ、テファ、キュルケ、アンリエッタにも大きすぎる揺れると衝撃を与え、遊園地のジェットコースターとは比較にもならない。
そして最後、アスカはレーサーさながらの超ドリフトを行い、学校の校庭内でストップした。
「見たか!俺の超ファインプレー!」
予想以上に見事なドリフトをかけたのが満足だったのか、アスカは車から出ると同時に得意気になる。だが、荒すぎるドライビングテクニックに同乗者たちは…
「こっちは全然ファインじゃないんですけど…」
「アスカさん、こっちには怪我人もいるんですから、できれば安全運転願います」
これからというときにぐったりしていた。無理もない。あれだけ激しい揺れの中にいたら、大概の人間は乗り物酔いになる。今のキュルケの突っ込みにも元気がない。
「あっちゃ…悪い悪い!避けるのに必死で…大丈夫か?」
「うぅ…頭痛い」
瓦礫の雨から逃れるためとはいえ、怪我人のシエスタのことを失念し謝るアスカだが、特にダメージが酷いのは、一番か弱いテファだった。
「ぐ、で…でも、私たちにはやるべきことがあります。これしきのこと…!」
アンリエッタは青い顔ではあるが、それでも気力を振り絞っ立ち上がる。
「そうね…タバサやクリスだってきっとこれ以上に体を張ってるもの…」
キュルケもタバサという親友のため、ここで休んでいる場合ではないと己を奮い立たせた。
「…しっかりしなきゃ」
クリスやタバサ、そして自分達のために戦ってくれているウルトラマンたちのためにもと、両手で自分の頬を叩いて無理矢理に酔い醒ましをする。
「なぁ、やっぱ行くのか」
この危険な状況で、自分たちと共に避難するということも考えるはずなのに、自分たちとは同行しない姿勢を見せたルイズ、ティファニア、キュルケ、アンリエッタにアスカは改めて尋ねた。
「やるべきことを、成しに行くだけよ」
ルイズたちは顔を見合わせて頷きあうと、学校の方角へと急いだ。
「ね、ねぇトネー…さすがにヤバイよ」
ウルトラマンとビシュメルが対峙する光景を見て、女子生徒の一人がトネーに言った。
街はビシュメルによって瓦礫の山に変わっていき、見る影を失い始めていく。
「お、おいこれ!」
ヴィリエが窓の反対側、音楽室内に自分達が置いた魔法陣の方を指差した。
「何これ…どうなってるの…!?」
魔法陣の周囲に、稲妻を纏った暗雲のようなもやが立ち込め、中心には臓器のようなぶよぶよの半透明の物体が存在していた。魔法陣と、外の当たり前だった街の景色が変わり果てていく光景は、彼女たちに気づくべきことを気づかせた。
自分たちは、己の不幸を言い訳に、触れてはならないものに触れてしまった、と。
「い、今更怖じ気づくことなんてないでしょ!ここまで来て!シジルさん!キュルケを殺して!私の邪魔をする奴等をこの世から消し去って!」
トネーは未だにビシュメル…シジルさんへの依存を深めていた。窓の向こうのビシュメルに再度、勝手な願いを言い放った、その時だった。
「お待ちなさい!」
勢いよく音楽室の扉が開かれ、ルイズ、テファ、アンリエッタ、キュルケが飛び込んできた。
「か、会長…!?なんでここが…」
トネーたちの間に、警察に追われる犯罪者のごとき動揺が走る。
「ヴィリエにトネー…なるほど、あんたたちね。あの怪物を呼び出したのは!」
キュルケが、顔見知りの二人の顔を見て、今回の事件の発端が誰なのか瞬時に察した。
「な、何よ。だから?」
「わかってんの!あんたたちのせいで、街が大変なことになってるのよ!」
「わ、私たちは悪くないわよ!キュルケたちが悪いんだから!」
「そ、そうだ!僕らに非なんかない!」
ルイズの激昂にトネーとヴィリエはたじろぐが、意地を張って彼らに怒鳴り返す。一緒にいる共感の女子高生二人は、ルイズたちに気圧されたのか、彼女たちとトネー・ヴィリエの二人組を交互に見ることしかできずにいる。
「はぁ!!?何ふざけたことぬかしてるの!」
「黙りなさいよ!何も知らないくせに!
私たちは今まで好きなものを何度も我慢してきた。好きなものしたいこと、全部他の誰かに先を越されて、横取りされて…それを何度も繰り返してきた!それでも我慢をしてきた!
でも、キュルケが…私の好きだった人を横取りしたのまでは我慢ならなかったわ!!」
「僕だってそうだ!僕の家は秀才を排出してきた高名な家計なんだ!成績もあらゆる面において優秀だ!だがその上にタバサがいた!あいつに何度も負けて、そのせいで僕は父と母からみ限られる羽目になった!ずっと僕に期待を寄せていたのに、まるで手のひらを返すように…あいつさえいなければ僕は今だって!」
「私だけじゃない、キュルケのせいで一体どれだけの人が嫌な思いをしたと思ってるの!…いえ、キュルケだけじゃないわ!この世界にはクズみたいな人間がウイルスみたいに蔓延ってる!そんな害悪を私たちとシジルさんが消していったのよ!
私たちが幸せになることのどこが悪いの!私が幸せになるのを邪魔する奴なんか、みんないなくなってしまえばいいのよ!!」
キュルケとタバサに、苦しめられた。寧ろ自分達は被害者なのだと主張するトネーたち。
だが、それらはあまりに勝手な主張だった。
テファもルイズと、トネーとヴィリエの間で飛び交う怒号に萎縮しかけるが、トネーたちの、町やそこに住まう人々を省みない言動に、何を言ってるのか理解が追い付けていなかった。
「ふざけるのも大概になさい!あなたたちは、自分が嫌いな人間どころか、無関係のティファニアさえも、街の人々もあの悪魔の餌食にするところだったのですよ!!タバサもクリスも、あなた方の過ちを止めるために…!」
「知らない…そんなの知らない!!キュルケよ!これも全部!悪魔でも構わないわ!キュルケを消してくれるなら…」
アンリエッタからも指摘を受けてなお、自分達が悪いのにその責をすべて自分が嫌いな人間に押し付けている。何て奴等だ!トネーたちの身勝手さに怒りを抱かずにいられず、ルイズは拳を握って彼らに迫ろうとする。
しかし、キュルケがルイズに手をかざして、「あたしに言わせて」と一言だけ告げる。
「トネー…あんた、本当に馬鹿ね。あたしが一度でも、あんたたちの彼氏に『好きだから付き合って』…なんて言ったかしら?」
「な…!?」
絶句するトネー。
実はこのキュルケの言動、本当である。キュルケは確かに息を吸うように男を誘惑してしまう。が、相手にはっきりと『告白したことはない』。いずれも、適当に暇つぶし感覚で色仕掛けをしただけ。それはそれで問題だが…実際に好意をはっきり示した相手はサイトだけであった。
「そりゃ、あたしも女だから、自分が惚れた男からは一番に見られたいわ。それこそ、すべてを壊してしまいそうな恋をして見せたい。だからこそあたしは自分の女を磨き続ける。ただ、あたしは相手の一番は取る気はない。それでも男があたしになびくってことは、あんたに一番になれるだけの魅力が足りなかったってことよ」
「あんたねぇ…!」
トネーはキュルケへの敵意を強めた。
「あたしは別に恨まれてもいいわ。でも…タバサやクリスを消したあんたたちの行いまでは許す気はないわよ。加えて、ティファニアまで消そうとした。特にヴィリエ…あんたに対しては特にね」
トネーからの刺刺しい視線をものともせず、寧ろキュルケは逆に、それ以上の気迫を込めた視線をトネーたちに向けた。普段の彼女と比べると、一見落ち着いていてさらに余裕を保っているようにも取れる、
が…それは、彼女がその分だけ『本気の怒りを抱いている』ということだった。
「どんな理由かと思ったら…あんたの主張もあまりにも下らないわ。タバサから嫌がらせでも受けた訳じゃなくて、単にタバサに負けたのを認めたくないだけじゃない。馬鹿馬鹿しくて呆れるわ」
「き、貴様…」
ピクピクとこめがみが震えるヴィリエ。
「ふ、ふん。キュルケのくせに、今さら友達思いぶるわけ?」
キュルケから放たれるプレッシャーに、思わず怖気づきかけるトネーが嘲笑うように言う。
「今のあんたみたいに卑屈で卑怯な女になるよりマシよ。その点ヴァリエールの方が遥かにマシね」
「な、なんですって…!?」
「き、キュルケ?」
比較対象としてルイズを持ち出してきたキュルケに、トネーは目を見開く。ルイズも、まさかキュルケから褒め言葉めいた言葉をかけられるとは思わなかったため、キュルケの話に目を丸くした。
「この子は見ての通り、胸もなければ性格も怒りっぽくて子供みたい、それでいて頑固過ぎるし嫉妬深い困った子」
「ちょ、あんたねぇ!」
アンリエッタも複雑そうな顔をしている。幼馴染ということもあって、ルイズの欠点については彼女も気にしているのだ。
「でもね…」とキュルケはさらに言葉を紡ぐ。
「この子にはあんたたちにはない魅力がある。
あの子は自分の力不足を自分で補うために、恨み言を口にした分だけ必死に努力するし、諦めもあたしが知る誰よりも悪い。そして勝負に出るときは真正面から立ち向かうわ。
でもあんたたちは…」
「……うるさい」
それ以上上からものを言うな。その意思を込めて呟くトネーだが、キュルケは絶対に止めようとしなかった。
「たいして努力もしてないくせに、自分達の力不足を回りのせいにしてるだけの卑怯者じゃない」
「うるさあああああい!」
トネーは杖を出し、キュルケに向けて水の礫を放った。水系統の魔法。キュルケの火とは愛称が悪い。一見すればトネーが優位に見えるだろう。
だが…キュルケが同時かつ瞬時に放った炎は、トネーの撃ってきた水を一瞬にして蒸発させた。
「トネー!この…」
ヴィリエはティファニアに飛びかかるが、即座にルイズが杖を振るい、ヴィリエの身をボン!と小さな爆発が襲った。爆風を受けてテファに手が届かぬまま落下した彼の両腕を、後ろから捕まえた。
「大方私たちぃのいずれかを人質に、なんて考えたんでしょうが、それを見抜けぬほど間抜けではないわ」
「は、放せ!ゼロのルイズ!」
「テファ、怪我はない?」
「うん、ありがとうルイズ」
暴れるヴィリエだが、当然ルイズにその気はない。ひったくり犯を現行犯で逮捕する警官のように、絶対に離すまいとヴィリエの腕をガシッと掴み続けた。だがこれで、トネーたちはルイズたちへの攻撃する術を失った。他の女子生徒二人もいるが、彼女たちはルイズたちへの反撃の意思がない。外に現れたビシュメルに恐れをなしていたこともあるし、魔法といった対抗手段を持ってないためだ。
「ちくしょう、ちくしょう!お前らさえ、お前らさえいなければ…」
ヴィリエの恨みの込められた言葉と眼光がルイズたちに向けられる。トネーも同じであり、そんな彼らに向けて、ついにテファは言葉を発した。
「…かわいそうな人たち」
「!」
「うぅん、きっとまだ子供なのね」
それは怒りではなく、哀れみであった。思わぬ感情を向けられ、ヴィリエたちは絶句する。しかも子供扱いされ、二人の中で屈辱感が増していった。だが、王手をかけられ身動きできない今に彼らにはどうすることもできなかった。
「観念なさい、トネー・シャラント。ヴィリエ・ド・ロレーヌ。そしてそちらのお二方も。魔法陣をお閉じなさい」
アンリエッタが膝を着いていたトネーの前に立ち、降伏を求めると、トネーの俯いた顔から雫が零れ落ちた。
「…どうしてよ…なんで私ばっかり………」
涙。悪魔の力に頼っても、結局キュルケに勝つことができなかった。自分の不運と無力さをひたすら呪うしかなかった。
すると、彼女たち二人のもとにそれぞれ、仲間に加わっていた女子高生たち二人が歩み寄ってきた。
「トネー、もうやめよう?こんなやり方で気に入らない人たちを消していっても、最後に一人ぼっちになるだけだよ」
「私も、本当は迷ってた…あたしたち、やっぱり間違ってたんだよ。ヴィリエ。あんたももうやめにしよう」
エリカはヴィリエたちにそう告げると、外の景色に目を移す。
巨人たちと悪魔の戦いは、まだ続いていた。だが、今では悪魔…ビシュメルが人質を取っているために、手を出すことができなくなってしまい、街がさらにビシュメルの攻撃で荒れていく。
「あたしたちが当たり前のように過ごしてきた町が、あたしたちの都合で壊れていく…。その分だけ、街の人たちには、今のあたしたちが抱いた以上の心の穢れを抱く人も増えて町がもっと歪んでいって…そうなたらもう…今度こそ取り返しがつかなくなる。あたしもユウキに言われて、目が覚めたから」
「ユウキ…エリカ…」
「く…」
ユウキとエリカの説得を受け、トネーは俯いた。
「…わかってた、本当は。こんなことしたって…寧ろ私たちの品位を自ら落とすだけだってこと。ただあたしは、キュルケの膝を折ってやりたかった…」
彼女がそう告げたとき、ヴィリエは悔しさで顔を歪ませた。自分も同じ、意図的に狙ったことではないにせよ結果的に自分に屈辱を与えたタバサに一泡吹かせることさえできればよかったのだ。親からの評価が著しく下がった分だけ、その痛みを思い知らせたいと思った、ただそれだけだ。街を壊すことまでは、本意ではない。
「トネー、ヴィリエ。まだあたしたちを許せないっていうなら、次からは正面からあたしたちに挑戦なさい。いつでも相手になってあげるわ。
これだけのことができたんだもの。何度だって挑めるでしょ?」
「…本当に、ムカつく女…」
清々しいまでに、自分たちの怒りと憎しみを受け止める意思を見せたキュルケに、トネーは最後に毒を付いて立ち上がった。
すると、外から再び轟音が響いた。
窓の外を見ると、ゼロとネクサスを守り続けるファウストの障壁が、ビシュメルにやぶれかける姿があった。
「ウア、グゥゥ…!!」
人質を取られてしまい、ウルトラマンたちは決定的な反撃に出ることができない。せめて一秒でも長く、ビシュメルの攻撃に耐えるしか手はなかった。その苦痛を、バリアを展開し一人で背負うファウスト。
「ハルナ、もう無理するな!君一人じゃ…」
自分たちに変わって痛みを引き受けるファウストを見て、ゼロはファウストのシールドに重ねる形で自らもシールドを張って防備を固くする。
「サイト、あたしはまだ大丈夫だから!そのエネルギーは奴を倒すために!」
「馬鹿言え!君のエネルギーが尽きてやられちまったら、本末転倒だっての!」
この戦いに勝つためにエネルギーを節約するよう樹ファウストは促すが、ゼロは…サイトはそれを拒んで、ハルナを守るために自らのエネルギーでファウストの防壁を強固にすることを選んだ。
「ハハハハハ!最期は想い人同士仲良く葬られるのを選ぶということか。いいだろう、このままあの世へ送ってくれるわ!」
嘲笑いながら、ビシュメルは二人の張るバリアもろとも、ゼロとファウストに止めを刺す勢いで電撃を浴びせていく。
「…」
一方で、二人の後ろに位置しながら逆転を狙ってビシュメルを観察していたネクサス。
人質は、こいつの体内に閉じ込められている状態だ。手のひらや触手で捕まっているわけではないので〈セービングビュート〉で救出することもできない。
どうすれば、人質を傷つけられることなくこいつを倒すことができるのだ。
だが、人質を盾にされたままではさすがのウルトラマンでも敗北の危機に瀕したままだ。
「あのままだとウルトラマンたちが負けてしまう!」
ひたすらビシュメルの攻撃を受けるネクサスを見て、エリカが声を上げる。
「もはや、一刻の猶予もありませんね…」
この先何が起こるかわからない。アンリエッタも、ネクサスが敗北した後の最悪の状況でどうすべきかを考え始めていた。
「トネー、ヴィリエ!」
「わかってる…!エリカ、ユウキ!ヴィリエ!」
キュルケの呼びかけに、言われなくてもとトネーが立ち上がる。三人はトネーのもとに集まり、魔法陣へ視線を向ける。
半透明の心臓のような臓器が、暗雲を立ち込めらせている。ビシュメルの心臓なのだろう。
あの悪魔は、鏡を嫌っていた。ならあそこに鏡を置けば、ビシュメルに何かしら悪い影響を与えることができるはずだ。
トネーは、それを見て恐怖を覚え、思わず一歩下がる。ヴィリエもやや立ちすくんで動きが固まっていた。
「トネー、ヴィリエ。大丈夫」
そんな二人に、ユウキが手を差し伸べてきた。
「一人じゃ無理でも、4人なら…いける」
エリカもまた、二人に向けてこくっと頷く。彼女の頷きを見て安心したのか、ヴィリエとトネーは手を伸ばし、4人は手を繋いだ。そしてトネーはユウキの手と一緒に、鏡もセットで握り返していた。
「大丈夫ですか?必要ならば私も…」
「いえ、これは私たちの責任です。これ以上会長たちの手を煩わせません」
アンリエッタは、自らも共に手を繋ぎ助力しても構わないと告げるが、今回の事件は自分たちの下らない嫉妬から起こしてしまったこと。故に自らの手で始末をつけると、エリカは言った。
ルイズ、アンリエッタ、テファ、そしてキュルケはその様を見届けようと注目した。
「…いくよ。せーーの!!!」
ユウキがそう言ったと同時に、彼女たち4人は、一斉に魔法陣へ飛び込んだ。
4人が魔法陣の中に入ると同時に、トネーの握る鏡からまばゆい光が放たれ、音楽室を包み込んだ。
「きゃ!?」
視界が白く塗り潰され、ルイズたちは目を覆う。
『ガアアアアアア!?』
稲妻のようなものもほとばしった他、ビシュメルのものなのか、まるで獣の悲鳴のような声も轟いた。
閃光が消え、ルイズたちは目を開ける。
ビシュメル召喚の魔法陣とその心臓は跡形もなく消滅し、トネーたち4人は意識を失っていた。だが、倒れていたのは彼女たちだけではない。
「タバサ!」「クリス!」
ビシュメルに囚われていたクリスとタバサ、そしてトネーたちの儀式のために行方不明になっていた大勢の人質たちが教室内に転がる形で倒れていた。
「フグ!?う、グオオォ!ゲエエェェェ」
トネーらの魔法陣への飛び込みの影響は、こちらでも起きた。ビシュメルの体に稲妻が走り、まるで嘔吐でもしたかのような声を上げながら悶え苦しむ。
突然ビシュメルが怯み、自分から距離をおいてきたことに、ゼロたちはいったいどうしたのかと、その場で立ちすくむ。
「バカな…生贄共の気配が…」
ビシュメルから驚愕の声が漏れた。ゼロたちがそれぞれ、その目の奥を透視して覗き見ると、さっきまで闇の中で苦しんでいたタバサたちの姿が見えなくなっていた。
「どうやら、貴様の人柱は消えたみたいだな」
ネクサスの指摘に息を詰まらせるビシュメル。人質が消えたのなら、最早ためらう必要はなかった。
壊れに壊れた町を一望し、クリスやテファ、そしてどこかにいる愛梨や憐たちをも危険に晒したビシュメルへの怒りで、ゼロは拳を震わせる。
「卑怯な手を使って、これだけ好き勝手してくれたんだ…覚悟はできてるよな?」
ゼロは両手にゼロスラッガーを握り、ネクサスはシュトロームソードを形成、それを頭上に向けて掲げ、天に突き刺さるほどに伸ばした。
「や、やめ…」
命乞いの言葉を言おうとしたビシュメルだが、当然ウルトラマンたちは無視した。
「行くぜ!ウオオオラァ!」
左手の甲のルーン文字が青く輝き、ゼロが一瞬のうちに姿を消すと、次の瞬間ビシュメルの体にズバババ!と無数の切り傷が刻み込まれた。
「ガッ…ゴホォ!」
血飛沫と共に、一瞬の内に刻み込まれた無数の痛みにビシュメルは悶える。
「あたしからも、さっきまでのお返し、受け取りな。ハアアアァァ…フン!」
「グバ!」
アキナ…ファウストも両手の拳に闇のエネルギーを充填していき、上下に拳を合わせ、必殺の光弾〈ダークレイ・ジャビローム〉をぶつけ、ビシュメルは、夜空の彼方に向かって大きく吹き飛ばされる。
そして最後は、ネクサス。
「ヌウウウウ…ディアアアアアアア!!」
〈シュトロームスラッシュ!〉
宙空に放り出されたビシュメルに向けて振り下ろされた何十何百メートルもの光の長剣によって、ビシュメルは頭から真っ二つに切り落とされ、青白い粒子となって弾け飛んだ。
「「「…!」」」
ビシュメルの体が砕けると同時に、三人の戦士たちの視界もまた白く染まり、意識は暗転した。
「起きろーーーー!」
「ふぐ!?」
腹にずしっと勢い良く重みが襲ってきて、シュウは目を覚ました。
重みの正体を見ると、朝の陽光をバックにリシュが無邪気にシュウの顔を見下ろしていた。
「おはよ、シュウ兄!」
「…のしかかるな…疲れてるんだぞ」
苦い顔をしながらシュウはリシュを寝起き眼で睨む。
「えー?だって、いつもより起きる時間が遅いんだもの。お兄ちゃん、お姉ちゃんや他の人と比べて朝が早いのに、もうお昼前だよ?」
「え?」
正確な時刻は、時計がないのでわからない。でも、日差しの方角が、いつも朝早く起きているシュウには、いつもよりずいぶん遅い起床であることを気づかせた。
「他のみんなは?」
「舞踏会の準備だって。まだシュウ兄が来ないから、起こしに行ってほしいって言われたんだ」
「そうか…」
思えば、妙に体がだるい。ウルトラマンに変身して戦った直後の疲労感と同じだ。ここ数日、一度も変身する機会さえなかったはずなのに、この疲労感は一体なんなのだろうか。
「シュウ兄、大丈夫?もしかして具合悪いの?」
心配したリシュが不安げに顔を覗きこんできた。
「いや、少し疲れた、だけだ。変な夢でも見ていたからだろう」
皆も一緒に舞踏会の準備を行うはずの自分を待っているかもしれない。シュウは起き上がってすぐに服を着こんだ。
(シュウ兄、大丈夫だよ。その夢は、悪い夢じゃないんだもの)
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