楽園の御業を使う者
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CAST36
「うみゅぅ…みゅぁう…」
屋台で食べ物を買い長テーブルに移動した一行は昼食を取る事となった。
水波が白夜を膝に乗せ、その両隣を真夜と深夜が、深夜の隣に穂波、真夜の隣に深雪、達也と続く。
その対面には摩利、真由美、香澄、泉美が座る。
「せっかくの九校戦なんだしバチバチやってないで楽しめば? 人生損するよ?
うみゅぁ…みゃふ…」
「君は能天気でいいなぁ…」
「能天気じゃダメかな摩利さん? みゅあ…」
「ダメではないのだけど……」
真由美が真夜と深夜に目を向ける。
両者手を伸ばして白夜の頬をむにむにと弄っていた。
「みゃふぁ…」
「ああ、真由美さん気にしなくて結構よ。私達は白夜君で遊んでるから」
「安心していいわよ。真夜に関して弘一さんには思う所はあるけど、娘である貴女に何かするほど器量は小さくないから」
真夜と深夜が立て続けに言った。
「七草様、渡辺様」
二人を呼んだのは達也だった。
「ここは一つ、九校戦期間中は互いに無干渉という」
「にゃぅぅ…だからなんでそう喧嘩腰なのさ? 飴でも食べて落ち着けよ達也」
白夜が懐から飴玉を取り出す。
七草の姉妹には見覚えのある包み紙だった。
達也は貰った飴玉を敢えて口にした。
中身が何かを知っていて。
「…………………」
無言。
達也は無言で飴玉を舐め続ける。
「おい達也、飴玉完食した程度で優位に立つ気か?」
「……………………すまん席を外す」
達也が席を立ち、トイレへ駆け込んだ。
白夜の対面に座る四人が、走る達也の背中に哀れみの視線を向けた。
ああ、コイツも振り回される側の人間なのか、と。
そんな中、深雪は内心白夜を評価していた。
四人に達也に対して憐れみを、振り回される側という仲間意識を持たせた事に関して。
「みゃふぅ……ねぇ昼御飯たべないの?
屋台物は出来立てだから旨いんだぞ」
と白夜が袋から焼きそばのパックを出す。
「そ、そうだな。では食べるとしようか」
四葉との因縁がない摩利が白夜に続く。
「あ、淑女諸君。歯に青海苔がついてたら浄化魔法やったげるけど?」
「嫌よ。あれゾワッとするもの」
「やったことあんの深夜さん?」
「歯を磨くのが面倒な時に時々やるわ」
「あら、ちゃんと磨かないとダメよ姉さん」
「誰のせいで私が歯磨きも面倒なほど疲れてると思ってるのかしら?」
「しょうがないじゃない。私が出ていったら絶対に面倒になるもの」
「はぁ……毎回メイクするの面倒なのだけれど」
「マジックペンでいいじゃない」
「殺されたいのかしら真夜?」
「あら病弱な姉さんに私が負けるとでも?」
四葉姉妹がバチバチと視線を交える。
「真夜さん、深夜さん。俺はいいけど水波がチビりそうになってるからやめたげて」
「ふふ、水波さんに救われたわね真夜」
「ええ、姉殺しの汚名を被らなくて済んだわ」
白夜の斜め前の摩利が口パクで尋ねた。
(いつもこうなのか?)
(九校戦ではしゃいでるだけでしょ。今日は護衛もそんなについてないし)
(護衛?)
(深夜さんの隣の人と、俺と、達也。
それぞれ深夜さん、真夜さん、深雪さんの護衛)
(君もなのか?)
(真夜さんの護衛に頼まれてるのさ)
(そうか)
白夜の頑張りで、食事が終わる頃には『それなりに』打ち解けてはいた。
戻ってきた達也は雰囲気を察して特に何も言わなかった。
深雪と真由美のガールズトークを面白くなさそうに見ていた達也だったが、こちらはこちらで摩利と話す程度の仲にはなった。
二人とも武人の気があり、そういった所では気が合うのだ。
摩利には別の思惑もあった。
摩利が達也に相談があると、二人で少し離れた。
「何でしょうか渡辺様」
「摩利でいい。それで相談なんだが…」
そう切り出した摩利は乙女の顔をしていた。
「君は白夜君と一番近しい同性だろう? 彼の好みとかを知らないか?」
「……………………………はぁ」
と達也がため息をついた。
「摩利様、残念なお知らせがございます」
「な、なんだ」
「白夜は既に交際している女性が居ます」
「…………………………」
無言だったが、摩利の目に涙が浮かぶ。
普段強気な女性の涙という、そういう趣味の人間なら喜ぶシチュエーションだが、無論そんなものに反応する達也ではない。
そして達也は冷徹であっても鬼畜ではない。
「それと朗報です。白夜は二人の女性に迫られ、二人とも受け入れました。
チャンスはまだあるやもしれませんよ」
摩利を残して達也が戻ってくる。
「何の話してたんだ達也?」
戻ってきた達也に白夜が声をかける。
「お前の兄が好きそうな物を聞かれた。身内ではなく、一般論的に男性が喜びそうな物は何か、とな」
「ふーん」
そして唐突に、達也が白夜にデコピンを見舞った。
「ふみゃぁっっっ!?」
額を押さえる白夜。
「何すんだよいきなり!」
「ん? 何。そこにちょうどいい額があったからな」
「登山家みてぇに言ってんじゃねぇよ!?」
白夜はぎゃぁぎゃぁいっているが、真夜や真由美は達也がなぜそうしたかを察した。
「この無自覚鬼畜男の娘が」
「いわれのない罵倒だ!」
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