艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~
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第七十二話
前書き
どうも、帰ってきました。
「……何考えてんだ?」
俺はスピーカーを睨みながら首を傾げた。拓海が何を言ったのかは理解したが、何故言ったのかはまだ分からなかった。
「えっと……今のは、司令官の声ですよね?なんて仰ったのでしょうか?」
不知火は俺と同じようにスピーカーに目を向けていたが、俺とは違い、拓海の声そのものに困惑しているようだった。
「あー……多分外国の言葉だよ」
念には念を入れて、言葉を濁す。余計な疑問を持たれても今はめんどくさいだけだ。無論、俺は拓海が何を言ったのかは理解出来ている。今のは、『若葉は医務室にいる』だろう。
「……なぜ?」
「こっちが聞きたい……」
俺と不知火は、二人して首を傾げた。
「なんで司令官はいきなり外国の言葉で放送を?」
「そこなんだよなぁ……ちょっと考えるから、周り警戒しといて」
俺は不知火にそう告げると、壁にもたれかかって目を閉じる。微かに波の音が聞こえてくるだけの鎮守府という環境は、集中するには中々の場所だ。
……わざわざドイツ語で話してきたということは、恐らく俺以外には知られたくなかったから。
「……なぁ、ぬいぬい。この鎮守府に外国の言葉が分かる奴は居るか?」
念の為、不知火にそれとなく聞いてみる。もしかしたら、そいつに向けての言葉かもしれない。
「いえ……そもそも、読み書きが怪しい艦も居ますし……って言うか、なんですかぬいぬいって」
「…………」
想像を軽く飛び越えて行った。それと同時に、俺の仕事が数倍にまで膨れ上がって行ったような気がした。
このままだと俺の肩書きが、『佐世保鎮守府所属司令官第二補佐艦兼料理長兼訓練教官兼学習指導員、球磨型軽巡洋艦五番艦木曾』とかになってしまう。
それはともかくとして……どうしても拓海が敵チームに塩を送るような真似をするとは考えにくい。そもそも、若葉が消えた事なんてすぐにでも俺たちのチームで共有するだろうから、言う必要すらない。
明らかに、明確な意図があって拓海は俺に伝えてきた。
「……」
若葉が医務室に言った理由なら分かる。間違いなく、大和さんを見に行くためだ。
そう考えると……俺が拓海だとしたら、それの邪魔はしたくない。久し振りに顔を見れるのだから、そっとしたい。
「……こっからは八対七だな」
俺はすっと目を開け、軽く笑いながら呟いた。
恐らく、拓海からの指示は『邪魔してやるな』……のはず。
こちらとしても、久しぶりの再会に水を差す様な真似はしたくない。それに、俺や他の奴がどうこうしたところで、ぶっきらぼうというか冷たいというか、人付き合いを避けている若葉には無駄だろう。
「……なぁ、ぬいぬい。お前から見て若葉ってどんな奴?」
「え?えー……そうですね、ずっと一人で……自分からは何もしようとしない、めんどくさい艦ですね」
「容赦ねぇなおい」
薄々気付いてはいたが、この不知火、なかなかいい性格してる。昨日の榛名さんへの一撃といい。
「ただ……実力はあると思います。他の艦が沈む中、ずっと生きていますし」
「……そこに関しては同感だ」
昨日のゴキ○リ退治の時の刀の腕前からして、既に一線を画しているようにも思えた。
「さてと……まぁ、それは置いといて……不知火、これから作戦を伝えるから」
俺は壁にもたれ掛かるのをやめ、不知火に話しかけた。
─四階 執務室─
「ライオ…………っ!千尋さんと不知火ちゃんが動き始めました!二手に別れて廊下を走ってます……って、不知火ちゃん足速っ!?千尋さんより速いですっ!」
「へぇ……いいねぇ」
「感心しないで指示出してください!」
放送を掛けてから数分後、暇だからしりとりを始めていると、春雨が二人の動きを感知したのか、大きな声を出した。と言うか、今春雨『ライオン』って言おうとしてた気がする。大丈夫かこの娘。
「あー……多分、二人で対角の階段に行って七人全員で階段強行突破って所かな……昔っからRPGじゃ防具より武器だったなぁ」
ちなみに僕は武器より防具、悠人は銅の剣を無視して先の街の鋼の剣を買うタイプだ。
「んじゃあ……」
と、僕は春雨に指示を出した。まるで意味がわからないというような顔をする春雨。
「えっと……いつの間にそんなものを?」
「ほら、昨日の夜、僕と千尋とでバルサン使ったでしょ?その時に」
「……呉の提督さんに似てきましたね」
「どういたしまして」
最高の褒め言葉を貰ったところで、足を組んで椅子に座る。
暫くは、高みの見物と行こうじゃないか。
「……一応言っとくけど、聞こえるギリギリの音量で三階だけに流してよ?間違っても全体に放送しないでよ?」
「………………はい」
「しようとしてたの!?」
一抹の不安を覚えながら、春雨の背中を眺める。
「…………あ」
そこで、春雨は何かに気づいたのか、再び虚空を見つめる。
「……どうしたの?」
僕が問い掛けると、春雨は非常に困惑した様子で答えてくれた。
「冬華ちゃん……階段降りてます」
─二階 北西階段─
「……さぁ、不知火。事情を説明してくれ」
北西階段に着いた俺は、先にたどり着いていた不知火たちの姿を見て、若干顔を引き攣らせた。
どこからどう見ても、不知火、山城さん、弥生の三人しかいない。
「……いやまぁ、若葉はいい、元からその予定だ。でも……あのぽいぬはどこに行った」
不知火には若葉、冬華ペアが居るはずの南西階段を経由してもらった。
……いやまぁ、何となくこうなるだろうとは思ってたけども。
「えー……南西階段には、誰の姿もありませんでした、はい。」
「やっぱりなぁこんちくしょう!!」
最初南東階段に居た時は全く考えつかなかったが、あのぽいぬがペアになった奴の姿が消えて、探しに行かないわけがない。
「あー……えー……取り敢えず、作戦を伝える。消えたあいつらは知らん。場所はアイツらにはバレてるだろうけど、夕立なら何とか逃げるだろ」
頭痛がしてきた頭を押さえながら周りにいる奴らの顔を眺める。
「そう言えば……なんで春雨には私達の居場所が分かるの?」
と、五十鈴が最もなことを聞いてきた。確かに、不知火以外の奴らには説明してなかった気がする。
「それはだな──あ?」
俺が説明しようと五十鈴の方を見た時、それに気付いた。
五十鈴が立っているのは窓際。窓の外には、上から一本のロープが垂れ下がっていた。
「何だこのロープ?」
俺はそのロープを指差した瞬間だった。
窓の外に、そのロープを伝って降りてきた阿武隈が現れたのは。
─オマケ 今日のぽいぽい─
「さぁて!張り切っていくっぽい!」
ぽいぽい、出陣。食堂から勢いよく飛び出して行った……若葉の手をしっかり握り締めて。
「……おい、夕立。手を離せ」
そんなぽいぽいの暴走にも近い猛ダッシュに、驚くことについて行けている若葉だが、若干嫌そうである。
「ぽいぽいぽいぽーーーいっ!!」
若葉のそんな様子も露知らず。満面の笑みを浮かべたぽいぽいは、弾丸のようなスピードで持ち場に向かったのであった。
─二階 南西階段─
「とーちゃくっぽい!」
「…………手を離せ」
ものの十数秒で持ち場である南西階段に辿り着いたぽいぽいと若葉。
しかし、呉鎮守府に所属している『魔人木曾』と足の速さが互角なぽいぽいに着いて行って、全く息を切らさない若葉。地味にヤバい。
「ぽい?あ、ごめんっぽい」
やっと気付いたぽいぽいは、すっと手を離す。
「…………嫌だったっぽい?」
若葉が嫌そうな表情をしていることに気付いたぽいぽい。物凄く不安そうな顔をして若葉の顔を覗き込んだ。
「…………別に」
若葉はボソッとそう言うと、ぽいぽいに背を向けた。
「そ、それなら良かったっぽい……」
胸を撫で下ろすぽいぽい。余談だが、ぽいぽいといい春雨といい時雨といい、白露型は胸部装甲が中々である。個人的には時雨くらいのサイズ感が好み……ゲフンゲフン。
『二階南東階段付近に木曾さんと不知火ちゃんが移動してます!その他も各階段へ二人一組移動中!総員、最初の指示通りお願いします!!』
と、ここでスピーカーから春雨の声が聞こえてくる。
「えー!?そんなのズルいっぽい!反則っぽい!」
「……なんでバレてる?」
若葉は目を丸くしてスピーカーを見つめた。
「春雨はある程度の距離に居る周りの人を感じる事ができるっぽい!人でも艦娘でも深海棲艦でもお構い無しっぽい!」
「…………へぇ」
若葉は感心したように頷いた。
「…………大和と似たような物か」
そして、ぽいぽいに聴こえない位の音量で呟いた。
「あっでも、たく……てーとく、始まる前に何でもありって言ってたっぽい……むー!後で私と一晩中s(放送規制)するの刑っぽい!」
このぽいぽい、中々とんでもない事を口走っている。ピー音が一瞬間に合わなかったでは無いか。
「ね!?若葉もそう思うよね!?」
と、約数分間程(アウトなレベルの)文句を言っていたぽいぽいは振り返って若葉に同意を求めた……が。
「……若葉?」
そこに、若葉の姿は無かった。
「………ぽい?」
右を見て。
「……ぽい?」
左を見て。
「……クンクン」
匂いを嗅いで。
「……下に降りたっぽい?」
ズバリ的中。やはりぽいぬである。
「……ぽい」
ぽいぽい改めぽいぬは、てこてこと階段を降りて行くのであった。
後書き
読んでくれてありがとうございます。本日から再び頑張って行きたいと思いますので、よろしくお願いします。あと、この後すぐに最新作、『ポケットモンスター〜翠の少年の物語〜』を投稿致しますので、宜しければぜひ。
それでは、また次回。
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