提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・31
前書き
はい、毎年恒例のホワイトデー企画、2019年バージョンです。ネタっぽく笑い成分を多めにしつつ、提督と艦娘の交流を描いていきたいと思います。どうぞ、お付き合いの程をm(_ _)m
~扶桑:きな粉棒~
「やりました提督、また赤いわ!」
「良かったなぁ扶桑。ほれ、もう一本だ」
俺が差し出した『それ』を受け取ると、嬉しそうに頬張る扶桑。ホワイトデーのお返しに入っている『スイーツチケット』、今年の第一号は不幸……じゃなかった、扶桑だった。普段から不幸だ不幸だと嘆いちゃいるが、たまにこういう幸運を引き当てたりする。そう考えると幸福と不幸は半々訪れるってのは案外間違ってないのかも知れん。
「やった!また当たったわ!」
まぁ、今扶桑が食ってる『きな粉棒』の爪楊枝は全部、俺と明石と妖精さん達で赤く塗って当たりにしてあるんだがな。
きな粉棒……当たりが付いてない奴もあるから正確には『棒つききな粉棒』とか『当たり付ききな粉棒』と呼ぶらしいが、駄菓子屋なんかでよく見るアレだ。水飴や蜂蜜を棒状に固めて、周りにきな粉をまぶした奴。そこに爪楊枝が刺さってて、先端が赤くなってると当たりで、店員さんに見せるともう1本貰えるってアレ。
「幾らでも作ってあるからな。好きなだけ食え」
「はい……夢の様です。一度体験してみたかったの、きな粉棒で当たりを引き続けるって」
「良かったなぁ、扶桑」
当たりしか入ってないんだから、当たり続けるのは当たり前の事なんだが。扶桑もいつもなら気付きそうな所だが、当たりが連チャンしている事に舞い上がっていて、作り手側の不正なんざ微塵も疑っていない。それに、調べてみたら当たり付きのきな粉棒に入っている当たりって5本に1本位の割合らしいからそんなに当たらないんだけどな、本当は。……でもなんでだろうな?あんなに当たりが入っている気がすんの。半分位は当たりじゃねぇかと思ってたぜ。
「私も山城も、ガリ〇リ君とかヤッ〇ーメンとか、当たり付きのお菓子をよく買うんです。でも、一度も当たった事が無くて……今、凄く楽しいです!」
「ガリガ〇君やらヤッター〇ンはともかく、10円ガムとかなら結構当たりが入っている気がするけどなぁ」
きな粉棒だって2割は当たる訳だし。
「……前に一度、きな粉棒を丸々一箱買ったことがありました。けど、不良品だったみたいで爪楊枝が全部色が付いてなくて」
しゅん、とする扶桑。
「いやそれ逆に幸運じゃね?」
「……そうですか?」
「そうだよ。今ならSNSとかに投稿したら滅茶苦茶盛り上がるネタだと思うぞ?それ」
「でも私、あまりそういうのに詳しくなくて……」
「まぁ、別にいいさ。今は食べたいだけきな粉棒を堪能するといい」
「はい、提督!」
扶桑は嬉しそうに、本当に嬉しそうに微笑んだ。
~数十分後~
「や……やめろ扶桑!もうやめるんだ!」
「いえ……提督。こんな体験、もう二度と出来ないかも知れないわ」
あの後も扶桑は当たりが出る度にきな粉棒を食べ続け、さながら大食いチャレンジの様相を見せてきた。段々と青ざめていく扶桑。しかし、その手と口はきな粉棒を食べるのを止めようとはしない。何故なら『当たりが出続けているから』……扶桑からすれば、もう一生体験できないかもしれない事だ。止めたくないという精神力のみで、きな粉棒を胃袋に押し込んでいく。
「もう止めろ扶桑!そのきな粉棒には当たりしか入っていない!どんなに食べても当たりしか出ないんだ!」
「知って……いたわ、提督」
「へっ?」
「提督が、私を気遣って……当たりしかないきな粉棒を用意してくれたんですもの。これは、私が今ここで完食するのが礼儀!」
「いや、そんな苦しそうな顔で(キリッ)とかしなくていいから!むしろこっちが気ぃ遣うわ!」
「それでも……残りは5本よ。あとたった5本なの」
「バカ野郎!それなら取っておいて山城とでも食えばいいだろうが!それにこんなのでよければいつでも作ってやる!」
「駄目よ……明日まで取っておいたりなんかしたら、どうなるか解らないもの。鼠に食べられたり、他の娘に食べられたり、虫が入り込んで食べられなくなった……なんてトラブルが起きるのが想像できるもの!」
「いやに想像が具体的だなオイ!」
まさか、過去にあったのか?……無かったと言い切れない所がコワイ。
「大丈夫よ。あと5本、たったの5h……ゴフォっ!」
盛大に噎せて口から大量のきな粉を噴き出す扶桑。
「おいっ、しっかりしろ!しっかりするんだ扶桑!」
「ああっ……当たりだらけで幸せなハズなのに……不幸、だ、わ」ガクッ
「扶桑おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
※死んでません。
「全く、扶桑さんも扶桑さんですけど……提督も提督ですよ!」
扶桑が喉にきな粉棒を詰まらせて気絶して、すぐに医務室に駆け込んだ。幸い、胃袋以外は大した事は無いらしい。
「姉様、大丈夫ですか!?」
慌てた様子の山城が医務室に駆け込んできた。余程慌てていたのか、着物のあちこちが気崩れている。
「大丈夫よ、山城。ただの食べ過ぎだもの……」
「良かったぁ……あ、そうだ。さっき姉様が頼んでた荷物が届いたんですよ、ホラ!」
段ボールの中身を覗くとそこにはギッシリと詰まった駄菓子の数々。よっ〇ゃんイカ、10円ガム、〇ッターメンにきな粉棒も入っている。
「ヒッ……」
それを見た扶桑がサッと顔を青ざめさせる。
「どうしたんです?姉様」
不思議そうに首を傾げる山城。扶桑は恐い物を見たくない、とばかりに布団を被ってブルブル震えている。
「当たり付き、コワイ」
と譫言のように呟いている。やれやれ、どうやら厄介なトラウマが出来ちまったらしい。
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