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徒然草

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48部分:四十八.光親卿


四十八.光親卿

                   四十八.光親卿
 和歌が得意なことで知られていた藤原光親卿が仙洞の御所において後鳥羽上皇の近くに仕えていた時のことです。不意にその上皇の呼び出しを受けました。そうして上皇の御前に参上しますと食事が出て来ましてそれを食べさせられました。光親卿はそれを食べ終えましたがそのうえで食べ残した後のものを何と上皇がおられる御簾の中に入れてその場を立ち去りました。後で来た宮廷の女官達がこれを見て何という汚いもの、こんなものを誰に片付けさせるつもりなのかとその顔を顰めさせて話し合っていましたがそれでも当の上皇は顔を顰められることもなく伝統を受け継ぐ者は実に見事なものであると仰って何度も何度も感動されていたそうです。
 このこともまた実に趣のあるお話であります。ただ食べただけでもその残りを御簾の中に入れただけでもなくそこにはこれまた趣があります。光親卿はそうした立場にいる人なのでわかっていて当然ですが上皇もそれがよくわかっておられました。けれどこうしたことがわかるのは中々骨が折れることであります。わかろうとしてもわかりはしない、見ようとしても中々見えはしない、そうしたものでありますがそれでもわかったならば上皇のように感動することもできるのであります。もっともその域に至ることは容易ではないことなのですが。それでも至ったならばわかるということは確かなことであることも申し上げておきます。


光親卿   完


                  2009・6・3
 
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