徒然草

四十四．あやしの竹

四十四．あやしの竹
　古ぼけた竹で編んだ扉の中からとても若い男の子が月明かりの中なのでどうした色なのかはっきりしませんがつやつやと光る上着に濃紫のズボンを身に着けてとても由緒ありげに小さな子供をはべらせ何処までも続く田園の小径を稲の葉の露に濡れながらかき分けてこの世のものではない音色で笛を奏でていました。その音をよいと思って聴く人もいないと思い何処に行くのか知りたくて見送りながらついて行くと笛を吹く音も止まり山の端にある大きな門のあるお寺の中に入っていきました。そこに止めてある車を見ても田舎ですから都会よりは何か気になる感じがしまして供をしてくれている者に聞きますとさる宮様がおられる時なので法事でもあるかも知れないとのことでした。
　お堂の中には大勢の僧侶が集まっていました。夜に冷たく吹く風に乗ってやってくるお線香の匂いも身体の芯まで染み込んでくる感じがします。母屋からお堂をつなぐ渡り廊下を行き交うお手伝いの女の子達の残り香も誰に見せたりするでもない山里ですが細かいところまで気が利いています。
　全てが自由気ままに茂っている野草達は置き場に困る程の夜露に埋もれ虫が何かを訴えるように呻き、庭を流れる造られた河の水の音ものどかです。都会の空よりも流れていく雲も速いような気がして夜空に月が輝いています。


あやしの竹　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００９・５・３０