徒然草

二百四十．しのぶの浦の

　　　　　　　　　　　　　　　　二百四十．しのぶの浦の
　人目を避けてそのうえで恋の道を歩み前に仕掛けられている罠を潜り抜け逢瀬を求めて何があろうとも恋人のところへ馳せ参じてこそ男の恋は本物だと言えるのであります。それは思い出にも昇華します。逆に一族同士が認めた見合いで結ばれてもそれはただ間が悪いものになってしまいます。
　生活に困った貧しい家の娘が親の歳程も離れた年老いた僧侶や得体の知れない田舎者の財に目が眩んでもらって下さるならと呟くとそれだけで世話焼きが出て来ます。そうして大変お似合いですなどと言ってそうして結婚させてしまうのは悪い冗談でしかありません。こうして結婚してもその後で何を話すのでしょう、長く辛い日々を過ごし険しい困難を乗り越えてこそ語ることも尽きないものなのであります。
　普通見合いで結婚したら不満ばかりが募ります。美女と結ばれても男の方に貧がなくみすぼらしくしかも中年だったら自分の様な男の為にこの女は一生を棒に振るのかと思いかえって下らない女に見えます。そんな女と向き合えば自分の醜さをしみじみと思い知らされて死にたくなるものであります。
　あの光源氏は満開の梅の夜に小麦粉をまぶした様なその月に誘われて女の家の周りを彷徨いました。恋人の家から帰る途中に垣根の露を払って消えそうな月を見ました。こうした話に何も思わない男は恋をしてはいけません。


しのぶの浦の　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１０・１・９