戦国異伝供書
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第三十二話 青から赤と黒へその九
「あの方の動きに痛快なものを感じておった」
「左様ですな」
「確かに。殿の為されることは違う」
毛利元就も言うことだった。
「並の者とはな」
「それを聞いておるとな」
「北条殿にしても」
「心沸くものを感じてな」
そしてというのだ。
「惹かれていた」
「そうであるな」
「わしは領地を守る為に戦った」
「それはわしも同じ、水軍を出したが」
本願寺を助けてだ、木津川口での戦のことは元就にとって決して忘れられないものであった。
「それでもな」
「毛利家を守る為の戦だったな」
「そうだった、しかしな」
「殿については」
「惹かれてじゃ」
「今に至るな」
「うむ、殿こそが天下人に相応しいと思っておる」
今はというのだ。
「その様にな」
「全くです。そしてわたくしが最初に惹かれた方こそ」
謙信はここでも進言を見て彼に言った。
「貴殿なのです」
「そうなのじゃな」
「左様です、そしてそれは」
「わしもじゃ、敵同士であったが」
「それがです」
「惹かれ合ってな」
「戦の場では一騎打ちも行いましたな」
「川中島ではな」
「あの時は決着をつけるつもりでした」
自分達の戦にとだ、謙信は信玄に話した。
「だからこそです」
「わしのところに来たな」
「左様でした、しかしです」
それでもとだ、謙信は言うのだった。
「思えばそれはです」
「決着をつける場ではか」
「そうではなく」
「わし等の決着はな」
「つけるものではなかったのです」
「わし等のことは決着がつくものではないのう」
「強敵と書きますが」
それと共にというのだ。
「『とも』と呼ぶでしょうか」
「そうした言葉があるのか」
「その様です、あの時のわたくし達はです」
「その間柄であったのだな」
「今は友ですが」
それでもというのだ。
「あの時はそうだったかと」
「そうであったか」
「思えば多くの血が流れました」
武田と上杉の戦でとだ、謙信はこのことについても述べた。
「そしてわたくし達が巡り合うまでも」
「戦国の世とはいえな」
「しかしそれも終わり思うことは」
「まことに多いのう」
「はい、それがしもお館様にお会い出来ねば」
幸村は信玄に述べた。
「果たしてです」
「今のお主はか」
「あったかどうか」
「お主ならば普通にじゃ」
「道を開いていましたか」
「そう思うがのう」
「いえ、それがしは未熟者」
幸村はあくまで謙遜している、それが言葉にも出ている。
「ですから」
「お主だけではか」
「とてもです」
「わしはそうは思わぬがのう」
「未熟も未熟です」
「源次郎殿は今からさらに、遥かに素晴らしき方になります」
謙信はその幸村に言うのだった。
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