魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica35-Aエレミアの手記~She's Memory1~
†††Sideリヴィア†††
エレミアの手記を探すために本局は無限書庫へとやって来ていた。手記があると思われる書棚の候補が複数あるっていうことで、私たちはチーム分けをした。私のところのチームリーダーはコロナ、そして私と雷帝の末裔のヴィクターさん、砲撃番長バスターヘッドことハリーさんの4人。戦力としては問題なさ過ぎる・・・って思ってた。
「クソ! なんなんだよ、コイツら!」
「リヴィ、コロナ、今ですわ!」
「了解!」
――ハーツイーズバレット――
「はい!」
――コメットブラスト――
「「シューット!」」
突如として私たちの前に現れたのは、三叉槍を携えたぬいぐるみのような集団。三叉槍での攻撃もそうだけど、他にも古典的な爆弾の投擲っていう攻撃手段を用いてくるから書庫内はもうメチャクチャ。でもヴィクターさんと番長、それに私とコロナの敵じゃない。順調でもようやく3分の1ほどにまで数を減らすことが出来たそのとき・・・
「な、なんですの!?」
「うお!? どうなってんだ!?」
ヴィクターさんと番長が驚愕の声を上げた。向かって来るぬいぐるみ軍団を蹴っ飛ばしていた私は2人の方を見て、「うえ!?」愕然とした。体が小さく・・・というか幼くなってしまっていて、防護服がブカブカ状態。
「甲冑が・・・!」
騎士服がずれ落ちてしまわないように必死なヴィクターさん。番長さんも胸に巻いていた包帯(さらしって言うんだっけ?)が外れて、ズボンやパンツもズレ落ちそうになってるから「やべぇ! 全裸になっちまう!」右手で胸を隠して、左手でパンツとズボンのウエストを掴んで脱げないようにしてる。でもこれで2人は戦闘不能状態となったって見ていい。
「ごめんなさい、コロナ、リヴィ。この体ではブロイエ・トロンベを振るえないわ」
「わりぃ、オレもだ。さすがに全裸でのガチバトルは無理だ・・・!」
戦闘不能となったヴィクターさんと番長を最早敵として認識しないのか、ぬいぐるみ軍団が一斉に私とコロナに向かってきた。コロナはお姉ちゃんお手製の短剣型インテリジェントデバイス・“ブランゼル”をギュッと握り締めなおす。ゴーレムマイスターであるコロナにとって、閉所での戦闘はキツイ。
(ここはお姉さんとして、私が頑張ってみんなを守らないと・・・!)
お姉ちゃんお手製のガントレット型ストレージデバイス・“ヘラクレス”を装着した両拳をコツンと突き合わせる。ちょっと本気でやってみようか。書庫内部もすでに半壊状態だし、もうちょっと壊れても後で修復してもらえるだろうしね。
「行くよ!」
――ボーデンドンナー――
床に足を付けると同時、陸戦用高速移動魔法でホール内を駆け回りながらぬいぐるみ軍団に拳打「ラケーテンファング!」を打ち込んでく。奴らは次々と書棚に突っ込んで行って、そのまま行動不能に陥る。
「すげぇ・・・。目で追えねぇ・・・」
「これならすぐに片付きそうですわね」
「やっちゃえリヴィちゃん!」
数は多いし爆弾なんて攻撃手段に苦労させられたけど、あんまり強くないからすぐに目に見える奴らはぶっ飛ばせた。最後の1体を踏み付けて床にめり込ませたのを確認して、「ヴィヴィオ達は大丈夫かな?」って、あの子たちが向かった方へと目を向けていると、「おい、新手だ!」って番長が叫んだ。
「またですの!」
「このままじゃ魔力も体力も尽きちゃいます!」
「ああんもう!」
魔力も体力もまだまだあるけど、さすがに疲労は溜まるから勘弁してほしい。私はコロナと頷き合って、迎撃に入ろうとしたんだけど・・・。
「みんなその場から動かないで!」
――コード・シュトルムゲヴェーア――
その声と一緒に放たれてきたサファイアブルーに輝く小型魔力弾が、「おおう!」ぬいぐるみ軍団を撃ち抜いてく。
「フォルセティ!」「フォルセティ君!?」
「うお!? さすがに男に全裸は見せらんねぇぞ!?」
「そんな露出の高い防護服を選んだあなたの自業自得ですわ」
番長が体を隠せる場所を探すために辺りをキョロキョロ。しかし残念。隠れるのに最適な彫刻群はもう全滅なので~す。魔力弾の連射は途切れることなく、新たな援軍すらも容赦なくピンポイントで撃ち抜いていって、とうとう援軍も途切れた。
「フォルセティ君、どうしたのソレ?」
私たちの前に姿を見せたフォルセティは布で目隠ししていて、コロナの問いに「いや、見ちゃいけないものがあるから」ってヴィクターさんや番長の方を見た。
「いや見えてんじゃねぇかよ!? パンツくらいなら気にしねぇが、全裸はダメだ! あっち向け、あっち!」
「お待ちなさい、不良娘。あそこまで厚く巻いていたら見えるわけがありませんわよ・・・。ですが正確に着弾させていましたし・・・。まさか、魔力反応で・・・!?」
「あ、はい。視界は封じてますけど魔力探知は生きてますから、どこに誰が居るくらいは判ります。さすがに魔力を持ってない一般人は無理ですけど」
あはっ、と笑ったフォルセティに、ヴィクターさんは「もう驚きもしませんわ」苦笑して、番長は「セインテスト家ってすげぇんだな」感心した。番長の意見には全面的に賛成だ。
「にしても、コイツら一体なんなんだ?」
「あ、それなんですがファビア・クロゼルグが仕掛けてきました」
「彼女が無限書庫に居ますの!?」
「おいおい、先回りされてたってことかよ!」
「でもフォルセティ君がここに居るっていうことは、捕まえることが出来たの?」
「ううん、逃げてきた」
まさかの発言に私たちは「え!?」驚いた。フォルセティも私たちのように包囲攻撃を受けたんだけど、さらに別固体のコウモリっぽいぬいぐるみに食べられて、小瓶に詰められちゃったんだって。
「しかも飲み込むと同時に意識を飛ばしてくるようなオマケ付で・・・。途切れる前に痛みで意識を繋ぎ止めたことが出来て、力ずくで脱出したんだ」
フォルセティが左手を見せてきた。そこにはくっきりと歯型が付いていて、出血もしてる。コロナが慌てて「大丈夫!?」腰のリボンを解こうとしたけど、それより早くヴィクターさんが首のスカーフを取って「とりあえず、これで止血しておきましょう」フォルセティの左手に巻いた。
「ありがとうございます、ヴィクターさん」
「参ったな~。私、一応ヴィヴィオの護衛だったんだけど・・・」
チーム分けで分かれちゃったのは痛かったなって唸ってると、「確かにジークが一緒でもやべぇかもな」番長が唸った。ヴィクターさんや番長でもあっさり戦闘不能にさせられて、フォルセティも逃げの一手。
「急ごう! ヴィクターさんと番長はここで待っていてください! コロナ、フォルセティ、行くよ!」
「うん!」「はい!」
「わりぃな」
「後で追い駆けますわ」
ヴィクターさん、番長と分かれた私たちは、ヴィヴィオ達が担当する候補ポイントを回ることに。最初のポイントに到着すれば、そこはすでに戦闘後だって判るほどにボロボロだった。でもおかしなことに爆弾によるものじゃなくて、大きな剣で切断されたかのような損傷が目立つ。
「たぶんこれ、王族トラップだよ」
目隠しとして利用してた布、クラバットを元に首元に戻したフォルセティから説明を受ける。諸王時代の王や強力な騎士たちの魔力に反応して実体化するゴーレムを封じた書があるって。フォルセティも検索魔法の影響で起動させたけど、「特に強くはなかったよ?」って首を傾げるだけ。
「ジークさんが一緒ならゴーレムトラップなんて問題じゃないと思う。やっぱり問題はファビア・クロゼルグさんだ」
フォルセティが移動速度を上げて、私とコロナは必死に追い駆ける。フォルセティの姿が見えなくなって数秒。奥から「ヴィヴィオ、ジークさん!? ファビア・クロゼルグ!!」ってフォルセティの怒声が聞こえてきた。ヴィヴィオとジークさんに何かがあったんだってすぐ判る事態だ。
「え? うぁ、うわぁぁぁぁああああああああああ!!」
「フォルセティ君!?」「フォルセティ!?」
まさかの返り討ちに遭っちゃったの?と不安に駆られながらも、悲鳴を上げたフォルセティ達の居るホールへと入る。真っ先に視界に収めたのは、ヴィクターさんや番長と同じように小さくなったヴィヴィオとジークさん、両手で顔を覆う耳まで真っ赤にしたフォルセティ。んで次に、トンガリ帽子に箒っていう典型的な魔女の格好をした美少女。
(ファビア・クロゼルグ? 12歳の女の子ってシャルさんに聞いてたけど・・・。それにしては大きい、胸が。変身後のヴィヴィオやアインハルト並・・・)
そのスタイルの良さに、どうか変身魔法であってほしいと願う。そんなファビアの側に居る数体の槍っ子の首に提げられてる小瓶に目が行って、その中身を見た私は、フォルセティが耳まで赤くして顔を覆ってる理由を察した。
「イクス達が・・・!」
小瓶の中身は素っ裸なイクスとアインハルトとミウラ、それにリオとミカヤさんとエルスさん、「お姉ちゃん!?」の7人だった。意識はあるみたいで、みんな胸と股を手で隠してる。確かにこれはフォルセティには刺激が強すぎるよね・・・。
「あ、コロナ、リヴィ!」
ヴィヴィオとジークさんも私たちに気付いて、ファビアも「まだ邪魔者が増えた」って苛立ちを見せる。私は「コロナはヴィヴィオ達のところへ。みんなは私とフォルせティがどうにかするから」コロナにそう伝え、役に立つかどうか判らないけどフォルセティの側に近寄る。
「フォルセティ。小瓶達の回収とファビアの相手、どっちがいい?」
「ファビアさん!」
即答だった。フォルセティの返答に、小瓶に閉じ込められてるお姉ちゃん達が心底ホッとしてる。それなら「顔を隠してないで、しっかり敵を見て! 八神家の騎士でしょ!」叱咤激励する。
「う、うん!」
「よし! それじゃあ任せた!」
「任された!」
――ゲヴェーア・クーゲル――
フォルセティの背中に、マガジンの無いアサルトライフル状の光翼が4対8枚と展開された。ルシルさんの剣翼アルピエルを、アサルトライフル状にしたようなものだ。厚さ1cmの長さ80cmほどの銃翼を僅かに動かしたフォルセティに対し、ファビアも背中からコウモリのような翼を展開した。
「かつてのカイラは、魔神オーディンを恐れたけど、末裔であるフォルセティからは何も恐れるようなものを感じ取れない。邪魔をするなら・・・排除する」
――黒煙――
「ヴィヴィオ達に手を出したその報いを受けろ」
――コード・シュロート――
ファビアの放った多弾射撃を、フォルセティは右手に携える“エマナティオ”の銃口から撃った散弾で迎撃。それを合図として本格的な戦闘に入った。
(魔神の末裔vs魔女の末裔は気になるけど、みんなを助けないと・・・!)
私が近寄ろうとすると、小瓶を首から提げた個体だけが距離を取って、それ以外が槍を構えたり爆弾を手にしたりと迎撃体勢に入った。
「マナクル・エクステンド」
ぬいぐるみ軍団の上下に展開した魔法陣から拘束条を十数本と伸ばし、1体残らず簀巻き状態にして拘束してやる。一流の魔導師や騎士ならこんな簡単に捕まえられないだろうけど、相手はとろくさいぬいぐるみっぽい奴らだ、敵じゃない。
「ほいほい、返してね~」
まずはお姉ちゃんの入ってる小瓶を取り返して、「えっと、やっぱりこうだよね・・・?」キュポンとコルク蓋を抜いてみる。するとポワン!とお姉ちゃんが全裸のままで飛び出した。
「うわわ! アスクレピオス、セットアップ!」
慌てて防護服に変身したお姉ちゃんは、ファビアとバトってるフォルセティの方を見た。あっちはあっちで大変そうだし、お姉ちゃんの裸は見られなかった。
「フォルセティ君!? ちょっとファビアさんにくっ付き過ぎじゃないかな!? フォルセティ君って中遠距離タイプだったでしょ!」
「こらー、フォルセティ! ファビアさんの防護服を破くなんて何事!? エ、エッチなことはダメだと思うよ!」
真剣に闘ってるフォルセティに向かってヴィヴィオとコロナが野次を飛ばす。それはちょっとフォルセティが可哀想だよと思いながら、私はすべての小瓶を手にしてホールから廊下まで戻る。ここでならフォルセティがみんなの裸を見るようなことはないはず。
†††Sideリヴィア⇒アインハルト†††
ファビア・クロゼルグさん。クラウス、オリヴィエ殿下、リッドの友人とも言うべきクロ――カイラ・クロゼルグの末裔である少女。彼女の術によって私や、無限書庫に訪れたヴィヴィオさん達は窮地に陥ってしまっていた。
(クロのイタズラを思い起こさせるようなものではありますが、今回はイタズラと言う限度を超えた襲撃・・・)
身包みを剥かれた上に小瓶に閉じ込められるという失態を犯した私は、始めの方は気を失っていましたが・・・。
――うるさい。オリヴィエ達は カイラを見捨てて、今度は末裔が私の邪魔をする・・・! 魔女の誇りを傷付けた者は、未来永劫呪われよ・・・!――
――魔女の森が焼かれた後、クロゼルグのみんなは新たな住処を探す為にシュトゥラから離れた。カイラはそれでも森に残った。それなのにあの日以来、オリヴィエ達は逢いに来てくれなくなった。待っていたのに。ずっと・・・!――
そんなつもりはクラウス達にはなかった。オリヴィエ殿下は“聖王のゆりかご”に搭乗することを決意して、逃亡・拉致が出来ないように国外への外出も制限されてしまい、クラウスの引き止めも叶わずに搭乗し、そのまま・・・。クラウスは、部下より魔女の森からクロゼルグ一族が去ったとの報告を受けていて、カイラも一緒に去って行ったのだとばかり・・・。
(リッドはその頃・・・)
何をしていたのか判らない。それを知るために今、私たちは無限書庫へ赴いていた。
「ほら、アインハルトも防護服に変身して。素っ裸のままでフォルセティの前に出て行きたいなら止めないけど」
「っ!! そ、それは無理、ダメです! ティ、ティオ!」
「にゃあ!」
リヴィアさんにそう言われて、慌てて防護服へと変身。これで一安心と安堵している中、「おーい、お前ら~!」番長さんの声が廊下の奥から聞こえてきました。そちらに目をやると、ヴィヴィオさんやジークさんみたく小さくなってしまっている番長さんとヴィクターさんが、脱げ掛けてる防護服に四苦八苦しながらやって来ました。
「なあ、あのチビ魔女はどうした?」
「それに・・・ジークとヴィヴィ、セティとコロナも居ませんわね・・・」
「ファビアちゃんは今、フォルセティ君と闘っているよ」
「ヴィヴィオさんとチャンピオンは、お2人のように小さくなってしまったので、今は無事なコロナさんが見てくれています」
状況の確認をし終え、ホールに戻ろうとしているところに、「皆さ~ん、もう大丈夫ですよ~!」とコロナさんが私たちを呼びました。ルーテシアさんが「残念」と肩を竦め、番長さんも「チッ。オレがやりたかったんだがな」と小さな拳をギュッと握りました。
「ほら、行きますわよ」
ホールへと戻ると、小さいままのヴィヴィオさんとジークさん、側にはコロナさん。そしてフォルセティさんと、蒼く輝くバインドに拘束された元の姿に戻っているファビアさんが居ました。
「お父さん直伝の魔力阻害効果を持ったシーリングバインドで拘束してるんだけど、やっぱり魔女術だからかヴィヴィオやジークさん、それに・・・ヴィクターさんと番長の体は戻ってない・・・ね」
「おおう、ヴィクターと番長も小さなったんやな~。お揃いや~」
「だな!」
「嫌なお揃いですわ・・・」
私たちもファビアさんの側へと近寄り、私は「ファビアさん」と呼び掛けると彼女はプイッと顔を背けました。するとジークさんが、自分の方に顔を向けたファビアさんの額を小さな拳でコツンと小突いた。
「こーら。まったくもう、今のはオイタした罰や。もうこんな事やったらアカンよ?」
「ファビアさん。皆さんにちゃんと、ごめんなさい、しましょう」
「あ・・・」
ヴィヴィオさんとジークさんとファビアさんのこのやり取りに、私はオリヴィエ殿下とリッドとカイラの姿を幻視した。当時も、カイラのイタズラによって困らされたリッドが、よく彼女の額を拳や指で小突いたりしていました。それが懐かしく思ったのは私だけではなく、ファビアさんもそのようで・・・。目を丸くしていた瞳から大粒の涙が溢れては零れました。
「うわぁ!? ご、ごめんな!? 痛かった!?」
「たぶん、違いますよね? ファビアさん、当時のオリヴィエ達と知り合いだったカイラさんの記憶に反応しちゃったんだと思います・・・」
「あー、そういえばそうやったっけ」
「私もそうです。ジークさんがファビアさんを小突いたその光景は、クラウスの記憶の中にもあります。ひょっとしたらファビアさんもその記憶を思い起こしたのでは・・・?」
ファビアさんは溢れ続ける涙を拭い続けるだけで、返事らしい返事はしてくれませんでした。そんな中、「ファビアさん。一緒に確認しませんか?」とフォルセティさんが1冊の本を後ろ手から私たちに差し出しました。
「セティ、まさかソレは・・・!」
「はい、ヴィクターさん。ファビアさんとの交戦中に見つけました。中をチラッと確認しましたけど、間違いなくエレミアの手記です」
皆さんが「おおー!」と歓声を上げる中、私とファビアさんはその手記を見詰めます。ジークさんが「そうやね。ご先祖様のわだかまりを解かなあかんよね」と受け取り、分厚い表紙を捲りました。
「あ、ちょっと待ってください。フォルセティ。ファビアさんを拘束してるバインド、解除してあげて?」
「大丈夫かそれ? 暴れだしたり、オレらみたく小さくされたり、瓶に閉じ込められたりするかもだぜ?」
「もうその心配はないと思うよ? 同じ手は私たちにはもう通じないし、それに何より・・・」
「はい。ファビアさんが気になり過ぎてそわそわしてますし・・・。大して興味ないけど、って言っていたけど・・・」
「べ、別に気になんかなってない」
またプイッと顔を逸らしますが、ファビアさんはエレミアの手記をチラチラ。皆さんはその様子に苦笑いを浮かべ、フォルセティさんは「判った」と頷き、彼女を縛っているバインドをすべて解除しました。本を開くジークさんの側に私とヴィヴィオさんと、自由になったファビアさんが集まります。
「えっと、ゼーゲブレヒト及びシュトゥラ滞在時の記録を手記に残す。エレミア、あるいはヴィルフリッド、もしくはリッド・・・」
エレミアの手記は、オリヴィエ殿下との出会いから始まりました。夜盗に襲われていた馬車を救ったリッドは、腕が不自由でありながら石礫を蹴りで放ち、残党を撃破したことに驚いたことなどが記されていました。
「聖王家に滞在してる間は、異国の話や技術を伝えたりと、ご先祖様は重宝されてたみたいやね」
「最初のエレミア製の籠手が作られたのはこの頃なんですね」
ヴィヴィオさんの言葉に、クラウスの記憶がフラッシュバックする。リッドに籠手を作ってもらう前は、壊れやすい飾り腕や、無骨で力加減の出来ない鎧籠手を使っていて、よく物を壊して苦労したようでした。
「オーディンさんに両腕を治して頂けるまで、エレミアの籠手はオリヴィエ殿下にとってまさに腕でした」
「ジーク。クラウス殿下はいつ頃出るのかしら?」
「あ、うん。えーっと、割とすぐやね。手記の中でも序盤や。んと、オリヴィエ王女の留学から2ヵ月ちょっと後に遅れて学院への出向協力で赴いた・・・と」
「それは昨日、私たちが見たクラウス殿下の記憶どおりですわね」
「あ、魔女っ子のことが出てきたな~。魔女の森で出会った、天真爛漫を絵に描いたようなイタズラ猫、カイラ・クロゼルグ。クラウスにはよく懐いていて、彼が王様になったら魔女の力で助けてあげる、とよく言っていた・・・」
私たちの視線がファビアさんに向けられます。ファビアさんは「ミアの末裔、早く次のページ」と急かします。カイラがリッドにあまり懐かなくて、基本的に険悪だったということも記されていました。
「おい、魔女チビ。お前、このカイラってやつの記憶継いでんだろ? なんで当時のエレミアに懐かなかったんだよ?」
「クラウスやオリヴィエとは違って、ミアからはあまり好きじゃない匂いがしただけ」
ファビアさんの返答に、「匂い?」と私たちは首を傾げました。そんなカイラを交えての日常もまた多く記されていたエレミアの手記を読み進めていく。
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