プレスター=ジョン
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第一章
プレスター=ジョン
当時西欧世界はイスラム世界との戦いに明け暮れていた、十字軍は遂にエルサレムを失い深刻な危機を感じていた。
その中で誰かがこんなことを言った。
「東方に偉大なキリスト教徒の王の国があるらしいぞ」
「キリスト教の国があるのか」
「偉大な王の国があるのか」
「東方にあるのか」
「そこにか」
「その国の王はプレスター=ジョンというらしい」
また誰かが言った。
「そしてこちらに援軍を送るらしいぞ」
「何っ、我々にか」
「我々に援軍を送ってくれるのか」
「サラセン人達に苦しめられている我々に」
西欧ではイスラム教徒達をサラセン人をこう呼んでいた、そして対するイスラム教徒達はキリスト教徒達をフランク人と呼んでいた。
「それは本当か」
「凄いことだぞ」
「その様な偉大な王がいるとは」
「素晴らしい国があるのか」
「今大軍をサラセン人達に送るとのことだ」
こうも話された。
「そして奴等を滅ぼしてくれるらしい」
「何ということだ」
「ではすぐにだ」
「その偉大な王国、王と共に戦おう」
「彼が来るのを待とう」
西欧のキリスト教徒達は何時しかプレスター=ジョンの存在を心から信じた。そうして彼の王国の軍隊がイスラム教徒達を倒して自分達をこの苦境から救い出してくれる日を心待ちにした。実際に東の方からだった。
中央アジアに覇を唱えていたイスラム教徒の大国ホラズム朝が瞬く間に東から来た国に滅ぼされたとの噂が来た、その噂を聞いてだった。
彼等は期待に目を輝かせて言い合った。
「間違いないぞ」
「プレスター=ジョンが来たの」
「サラセン達の強大な国を滅ぼしたという」
「それも瞬く間にだ」
「恐ろしい強さの国の様だ」
「その国こそがプレスター=ジョンの国」
「本当にあってだ」
そしてというのだ。
「こちらに来ている」
「我がキリスト教の世界に」
「助けに来てくれているぞ」
「サラセン人達の首を滅ぼしながら」
まさにというのだ。
「これはいいことだ」
「素晴らしいことだぞ」
「早く来てくれ」
「我等を助けてくれ」
「そして共にサラセン達を滅ぼそう」
こうしたことを言い合った、だが。
彼等は次第にわかってきた、そのプレスター=ジョンの国のことが。その実態はどういった国かというと。
「キリスト教徒の国ではないのか」
「サラセン達と戦っていても」
「違うのか」
「プレスター=ジョンの国ではないのか」
「東の遊牧民族の国だと」
「東方の帝国の北にいる」
「というとフン族達と同じか」
ここでこの民族のことが思い出された。
「我々の祖先を散々に破った」
「殺し奪い尽した」
「ヴィーキングより酷い連中だったが」
「あの者達と同じか」
「だとすると敵か」
「我々の敵なのか」
「まさかと思うが」
こう話した、そしてだった。
彼等のことがさらにわかってきた、気付けば彼等はウラル山脈の西にまで来ていてルーシーの諸港つまりキリスト教徒の国々も散々に破り。
殺し奪い街も完全に破壊していった、その惨状たるや。
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