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麗人の戦い

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第一章

               麗人の戦い
 キプチャクウズベクの一部族であるマンギート族に伝わる話である、この地域は草原が広がっており遊牧民達が暮らしている地である。
 その為マンギート族も暮らしている、そのマンギート族にトゥラベカ=カーニムという族長の娘がいた。
 この娘は非常に美しい、背が高く絹の様な髪の毛と琥珀の様に輝く切れ長の目と凛々しい顔立ちを持っておりその美貌は草原に伝わっていた。それはイスラム世界に大きな影響力を持っていたセルジューク朝にも及んでいた。
 セルジューク朝のサルタン、君主であるアフマド=サンジャルはトゥラベカの話を聞いてだ、そうしてだった。
 すぐにだ、家臣達に言った。
「それだけ美人ならばだ」
「はい、サルタンの奥方のお一人にですね」
「是非ですね」
「迎えたい」
「そう言われますね」
「そうだ、そしてマンギート族自体をだ」
 サルタンとして政治のことも考えていた。サンジャルはその目を鋭くさせて言った。濃い髭に覆われている顔にイスラムの服がよく似合っている。
「我が国の影響の下に置こう」
「縁戚を結び」
「そうしてですね」
「やがてはマンギート族を勢力に収め」
「そのうえで」
「そうだ、さらに勢力を拡大する礎にもしよう」
 これが彼の考えだった、それでマンギート族にも人をやって話をした。それはトゥラベカ自身も聞いたが。
 族長である父は娘に顔を向けて問うた。
「そなたはどう思う」
「はい、私の考えは決まっています」
「どうした考えだ」
「サルタンご自身とです」
 サンジャル、彼とというのだ。
「私が一騎打ちをしてサルタンが私に勝たれれば」
「その時にか」
「私はサルタンのハーレムに入りましょう」
 妻、その一人になるというのだ。
「そのことを約束します」
「そうか、ではな」
 それではとだ、父も頷いてだった。
 使者に話した、そして使者はサンジャルの下に戻ってトゥラベカが言ったことを話したのだが。
 パーディーシャーは彼女のことを聞いていた、彼女がどういった者かということをだ。
「ただ美しいだけではないのだ」
「そうなのですか」
「そうだ、その武勇もかなりのものだ」
「どういった強さなのでしょうか」
「馬は己の手足の様に使ってだ」
 遊牧民は馬を乗ることに秀でている、その中でもかなりのものだというのだ。
「弓矢の狙いは寸分も外さず剣も誰にも負けない」
「そうした強さですか」
「私では勝てない」
 サンジャルは極めて冷静な顔で述べた。
「到底な」
「そうなのですか」
「だからだ」
「あの娘との一騎打ちはですか」
「しない、ここは別の方法で攻めよう」
 こう言うのだった。
「新たにな、では属国達に召集をかけるとしよう」
「属国達にですか」
「六国、我が国を入れて七国からだ」
 その国々からだというのだ。
「大軍を編成してだ」
「そうしてですか」
「マンギート族を破り」
 そうしてというのだ。
「あの部族を降してな」
「あの娘もですか」
「手に入れよう、優先順位が逆になったが」
 トゥラベカを妻の一人に迎えたうえでマンギート族に影響力を及ぼして取り込んでいくつもりだった、それがマンギート族を降してトゥラベカを手に入れることになる。それでは確かに順序が逆であった。 
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