渦巻く滄海 紅き空 【下】
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
二十一 タイムリミット
「そうか…ご苦労、サスケ」
大蛇丸を餌として『暁』が天地橋で待ち伏せしているという可能性。
罠ではないか、という疑惑が、これで潰れた。
現在、秘密裏に大蛇丸の許へスパイとして忍び込んでいるサスケの話に、綱手は思案顔を浮かべた。
大蛇丸とカブトの会話を秘かに聞いていたサスケ。
カブトが一瞬こちらに気づいたような素振りを見せたものの、大蛇丸に何も伝えていない事を考えると気のせいだろう。大蛇丸の腹心の部下であるカブトが、盗み聞きしているサスケの事を大蛇丸に報告しないはずがない。
サソリと落ち合う事を大蛇丸に報告している時点で、カブトがサソリを裏切っているのは明白である。
大蛇丸に、己が『暁』のスパイだと暴露して、今もサソリの部下ならば、その時点でカブトの命はない。
よって、現在のカブトが従う相手は大蛇丸に他ならないだろう。
それほど忠誠心を抱いている大蛇丸に何も言わなかったのなら、会話を盗み聞きしていたサスケに気づかなかったと判断できる。
大蛇丸とカブトの会話を聞いたことでサスケの身が危険に晒されることはない、と判断した綱手は、「しかし…」と、顎に指先を添わせた。
「カブトが『暁』メンバーの部下だったことは驚きだな」
≪前々から胡散臭い野郎だと思ってはいたがな≫
綱手の口寄せ動物であるカツユ。
その分裂体から聞こえてくるサスケの声に耳を傾けながら、綱手は「ひとまず、これで天地橋に向かっても罠の可能性はないわけだ」と言いながら、眉間に皺を寄せた。
「だが、大蛇丸が来る可能性がある、という危険性が更にあるわけか…」
≪曖昧なところだな≫
サスケとて、大蛇丸とカブトの会話を完全に把握できたわけではない。
カブトが『暁』のメンバーの部下であり、天地橋で落ち合う手筈になっていたという情報は聞き取れたが、実際に大蛇丸が橋に向かうかまでの確証は得ていない。カブトがこちらに気づいたような素振りを見せた時点で、サスケはすぐさま身を潜めたからだ。
「まぁ『暁』の罠の線が消えただけで良しとしよう───ところで、サスケ」
綱手の問いに、サスケは無言で話の続きを促した。
黙っているカツユの分裂体である小さな蛞蝓に、綱手は声を潜めて訊ねる。
「春野サクラと…────アマルの現状は?」
サスケの後を追って里抜けしたサクラと、かつて綱手の弟子であったアマル。
サスケがスパイだと知らずに里を抜けたサクラと、大蛇丸の甘言で自分の許を去ったアマルを、綱手は気にしていた。
《アマル…?ああ、里を抜ける時、俺を迎えに来たあの女か》
『終末の谷』で、ナルと対峙した時、大蛇丸の命令でサスケを迎えにきた赤い髪の少女。
ナルと決別して大蛇丸の部下になったそうだが、詳しいことはサスケは知らない。
そもそも、サスケ自身、大蛇丸に迎えられてからというもの、アマルはもちろん、サクラとさえ引き離されたのだ。
やはり木ノ葉の里に戻ろうと心変わりをしないように、大蛇丸がそれぞれを引き離したのである。
よって、単独で行動していたサスケが、彼女達の現状を知るよしもない。
《詳しくはわからないが、聊か気になることはある。サクラのことだ》
「どうした?」
《サクラは早々に俺と引き離され、大蛇丸の傍で修行させられていたらしい。つまり…》
「……大蛇丸に洗脳されている可能性がある、と」
《懸念であればいいがな》
サスケの話に、綱手は顔を顰める。
木ノ葉の里の抜け忍でありながら、音の里をつくり、部下を得ている大蛇丸は確かにどこか惹きつけられるものがあるのだろう。傍にいれば、大蛇丸の嗜好や考えに同意してしまう可能性もある。
「苛立たしいことに、アイツにはカリスマ性があるからね」と、かつて同じ三忍と呼ばれてきた綱手は苦々しげに吐き捨てた。
ふと、火影室へ誰かが向かって来る気配を察した綱手は、早々にサスケとの会話を打ち切る事にする。
近々、天地橋にナルが向かうことを口早に告げると、綱手はサスケに頼み込んだ。
「また何かわかり次第、連絡してくれ」
《────わかった》
サスケの言葉が終わるや否や、カツユが白煙と共に掻き消える。
素っ気ない態度だが、従順な答えを返したサスケに、綱手はホッとする。
サクラが大蛇丸に洗脳されている可能性はあれど、サスケは違う。
そのことを確認できただけでも上々だ。
「さて……」
執務机で、手を組んだ綱手は、今からこの部屋に訪れる強敵にどう立ち向かうか、頭を巡らせる。
ノック音と共に部屋に入って来た水戸門ホムラとうたたねコハルの顔を認めて、綱手は背筋を伸ばした。
彼らの話が何かとうに察しはつくものの、素知らぬ顔で訊ねる。
「これはこれは。ご意見番のお二方。如何された?」
太陽の光さえ届かぬ地下。
外界と切り離された其処は暗澹としており、まるで仄暗い深海のようだ。
十字形に交叉した橋は四方を円柱に囲まれ、圧倒的な静寂だけが満ちている。
辛うじてその十字路の如き橋、それも中心のみが、天から降り注ぐ光に微弱ながらも照らされていた。
鼠一匹すら忍び込めぬ閉鎖された空間。暗澹たる世界で、男の荒い息遣いが響いている。
顔を引き攣らせて、荒い息を吐いている男の肩。
其処には、顔が生えていた。
「妙な真似をしないほうが身の為だぜ?」
「き、貴様…!?」
ダンゾウの部下である【根】の男の肉体に入り込んだ右近は、顔だけを男の肩から覗かせながら念を押す。
「下手な行動は命取りだぜ?何故なら、今、俺とお前は肉体を共有しているんだからな」
チャクラが流れる経絡系は内臓の各機関に深く絡み合っている。
経絡系とは、各機関を造り出している組織にも、そして組織を造り出している細胞にも、更に細胞の主成分であるたんぱく質にまで複雑多様に絡み合って連結している。
チャクラでこれらの細胞やたんぱく質の分解再構成が自由に出来る右近は、己の身体を粉々にして敵の体内へ入り込み、また元に戻して外に出る事が出来るのだ。
要するに、普段、左近と右近がそれぞれ身体を共有している状態を意味する【双魔の攻】が彼ら二人の血継限界である。
だが『根』の創始者であるダンゾウを始め、『根』に所属する者は皆、右近・左近の血継限界を知らない。
更に言うならば、右近の存在も知らないのだ。
弟の左近が一人だと見せかけ、身体の中で眠りについている右近の存在を『根』の気づかれないように徹底して心掛けていたのである。
それと言うのも、今までダンゾウに利用されないが為に、あえてひた隠しにしていたのだ。
かつて、うちはサスケを里抜けさせ、大蛇丸の許へ連れ出そうと見せかけ、その実、大蛇丸から逃れ、自由の身となる計画を企てていた『音の五人衆』。
その際、次郎坊・君麻呂・多由也は死を偽造出来たが、鬼童丸と右近・左近は『根』に生け捕りにされたのである。
大蛇丸の部下だった『音の五人衆』を捕縛しても、彼らの身の安全を保障するよう、ナルトが水面下でダンゾウと取り引きしていたので、実験体にされずに済んだものの、『根』では常に監視されていた。
だから、ダンゾウがいない今がチャンス。
「『霧の忍刀七人衆』の忍刀の在り処を教えろ」
「な、何故、それを…!?」
身体を右近によって融合され、恐怖に怯える『根』の一員の男が驚愕する。その情報は、火影でさえも知らず、ダンゾウが秘密裏にしていた内容だ。
霧隠れが唯一所有する双刀『ヒラメカレイ』、そして鮫肌と首切り包丁を除いた───『霧の忍刀七人衆』の忍刀。
それを、『根』の創始者であるダンゾウが保管している事は、『根』の部下の中でも一部しか知り得ない情報である。
(水月の話通りだな)
男の表情から察するに、やはりこの場に『霧の忍刀七人衆』の忍刀はあるのだろう。
ダンゾウにこき使われている最中に立ち寄った廃墟。そこで左近と鬼童丸は鬼灯水月と落ち合った。
ナルトの仲間となったらしい彼の言い分から、ダンゾウが奪った忍び刀をこちらの手中におさめるのが、『根』に潜伏中の右近・左近と鬼童丸の任務である。
「さっさと刀がある場所へ案内しな。さもないと、お前の細胞を破壊してしまうぜ」
「わ…わかった…」
相手の身体に入り込む。その肉体の内臓・器官・組織をバラバラにしてほしくなければ、言いなりになる他無い。
反面、右近にとっては身体に入り込む事で攻撃を食らわなくなる。
肉体を共有している故に、相手の細胞を生かすも殺すも右近次第。事の深刻さを理解して、己の身体を人質にされた男が冷や汗を流す。
暗殺専門の術の恐ろしさを早々に理解した男に右近は満足げに頷いた。
ふと、頭に過ぎったのは、身体を共有されながらも自決覚悟で自分を倒そうと立ち向かった木ノ葉のくノ一。
(普通はコイツみたいに俺に逆らえなくなるか、命乞いするかの二択なのに、あの女は度胸があったな)と右近は珍しく山中いのを称賛した。
現在、ダンゾウは、五代目火影の綱手の許へ向かっている。
こちらの行動をダンゾウが知る前に、『霧の忍刀七人衆』の忍刀を手に入れなければならない。
常日頃、左近の体内で眠っていた右近。
左近から水月の話を詳しく聞いていた彼は、久しぶりに外へ出られたことを喜ぶかのように、やる気たっぷりの笑みを浮かべる。
ダンゾウの部下である男の肩から顔だけを覗かせて、右近は口角を吊り上げた。
(さて、さっさとこんな辛気臭い地下から抜け出す為にも、手土産を持参しねぇとな)
後書き
今回、大変短くて申し訳ありません~!
その上、急いで書いたので、つまらない内容で本当にすみません~!(泣)
右近の能力、こういう事に向いてそうな気がして(汗)
ページ上へ戻る