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戦国異伝供書

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第三十一話 九州攻め前その二

「よいな、ただしな」
「釣り野伏等にはですな」
「気をつけよ、伏兵にもじゃ」
 こちらにもというのだ。
「気をつけてじゃ」
「九州を南に進みますか」
「うむ、大友家や龍造寺家を助けてな」
 島津家に押されているこの両家をというのだ。
「そしてな」
「南に攻めていき」
「そうしてな」
 そのうえでというのだ。
「薩摩と大隅を目指す様にするが」
「あくまで様に、ですな」
「それまでに戦は終わらせる」
 その様にするというのだ。
「降してな」
「そうしますな」
「島津家を滅ぼすつもりは一切ない」
 信長は羽柴だけでなく他の重臣達にも語った。
「四兄弟も他の者達もな」
「降ればですな」
「精々暫し蟄居で終わらせる」 
 それ位でというのだ。
「だからな」
「薩摩や大隅に向かえど」
「そこに入る前に終わらせる」
 これが信長の考えだった。
「わかったな」
「さすれば」
「そういうことじゃ、まああの家もな」
「家を滅ぼす位なら」
「降る、あの家は古い家じゃ」 
 平安の頃からの家だ、代々守護を務めてきており格式もある。島津家とはそうした家だ。
「だからな」
「古い家はその伝統を大事にします」
 明智がこのことを話した。
「これは武田家もそうですが」
「うむ、伝統があるからな」
「そして格式も」
「そこに誇りを感じておるからじゃ」
「残ろうとしますな」
「そうじゃ、わしもそれがわかっておるからな」
「これまでも、ですな」
 明智は信長のこれまでのことからも述べた。
「殿は」
「うむ、降したがな」
「滅ぼしてはいませんな」
「殆どの家をな」
「左様でしたな」
「赤松や一色、山名といった家もな」
 こうした室町幕府の頃に守護だった家々はというのだ。
「わしにすぐに降っただけでなくな」
「格式があるので」
「わしは他の者よりもそうしたことを無視すると言われておるが」
 これが信長の世間の評価だ、伝統や格式に囚われずそのうえで横紙破りと言われるまでに天下布武を進めているとだ。
「しかしな」
「はい、殿もです」
「無視出来る筈がないわ」
 伝統や格式、そうしたものをというのだ。
「やはりな」
「左様ですな」
「朝廷にしてもじゃ」
「殿は立てておられますが」
「それもじゃ」
 やはりというのだ。
「必要だからな」
「それで、ですな」
「立てておるしな」
「朝廷こそが伝統や格式です」
「その調停をお守りしておる」
 ならばというのだ。
「やはりな」
「天下にはそうしたものも必要なので」
「わしもじゃ」
 決してというのだ。
「伝統ある家も滅ぼさずな」
「降してですな」
「残しておる、最悪大名ではなくなるが」
 それでもというのだ。 
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