徒然草

百五十．能をつかんとする人

　　　　　　　　　　　　　　百五十．能をつかんとする人
　これから芸を身につけようとする人が下手なうちは人に見られたりしたら恥ずかしい。人の見ないところでじっくりと練習してそうして上手くなってからその芸を見せることこそが一番格好いいなどとよく考えますがこれは勘違いです。こんなことを言う人が芸を身につけたことは一つとして聞いたことがありません。
　まだ芸が拙いうちから熟練の人達の中に入って馬鹿にされたり笑いものになっても苦にすることなく平常心を保ってそれで頑張っていけばそれだけで充分で才能や素質といったものはいらないのです。芸の道を踏み外すこともなく我流にもならずやがて時を経て上手いのか知らないが要領だけはよくて練習を馬鹿にしている者を超えて真の人になるでしょう。人間性も完成されて努力が報われて名人の名で呼ばれるようになっていくのです。
　今現在至芸とまで言われているような人にしても最初は下手だどうにもならないなどとなじられて本当にどん底までに屈辱を味わったのです。ですがその人が芸の教えを正しく学びそれを尊重し自分勝手な道に入らなかったからこそ今ここで至芸とされ尊敬され世の多くの人の師となったのであります。これはどの世界でも同じことであります。やはりまずは人に混じってそのうえで練習をただひたすらしていくことなのであります。


能をつかんとする人　　　完


　　　　　　　　　　　　　　２００９・１０・１１