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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第196話「試行と目覚め」

 
前書き
前回言っていた司関連の話から始まります。
ちなみにですが、sts編はなかった事になる予定です。
その前に最終章に入るので。
 

 






       =out side=







「……じゃあ、やってみるね」

 現在、優輝の家には司や奏と言った、転生者が揃っていた。
 神夜も来ており、優輝の両親も今は復興支援で外出している。
 今優輝の家には椿と葵以外転生者しかいない状況だった。

「司以外も集めたのは……」

「もしもの時の保険だ。攻撃が通用しなくとも、時間稼ぎが出来るようにな。後、椿と葵は別だが、転生に関わる相手だから立ち会った方がいいと思ってな」

 司を筆頭に皆を集めたのは、以前言っていた“格”を上げられるのか確かめるためだった。その際に、何かしらトラブルが起きるかもしれない。
 その対処のために、他の転生者も集めたのだ。

「でも、やるにしても、どうやって……」

「普通に祈るだけじゃダメなのか?」

 司がどうしようかと悩む。
 そんな司に、帝はなぜ悩んでいるのかわからずに尋ねた。

「“願う”と“祈る”は厳密には違うんだよ。例えば、“こんな身体能力が欲しい”なら、どっちも大して変わらないけど、“相手よりも強くなりたい”だと相手を超えるような力を具体的に祈らないといけないの」

〈魔法でも同じですね。魔力弾も形や速度も考えなければいけませんし〉

「僕の創造魔法や帝の投影魔術に似ているな」

 つまり、“祈り”だけでは過程を全て飛ばして結果だけ出す事は出来ない。
 一部の過程や、結果に付随する“状況”をも想像して祈らなければならないのだ。

「なるほどなぁ……。だから、どうやって存在の“格”を上げるか悩んで………いや、ちょっと待て。存在の“格”を上げるって、どうしろと?」

「だから悩んでるんだよね……」

 帝は納得し、理解すると同時に頭を抱えたくなった。
 司もそれに苦笑いする。

「まさか、いきなり躓くとは思わなかったわ」

「確か、存在の“格”は魂とはまた別なんだっけ?」

「ああ。関係ないとは言えないが、魂を知覚するだけじゃ足りない」

 優輝も以前は宝具によって一時的とはいえ存在の“格”を上げた。
 その際に、魂が軋みを上げていたのも覚えている。
 だからこそ、魂をどうにかするだけでは足りない。

「優輝君は、どうやって上げたの?」

「……ほぼ感覚だった。それに、僕の場合は結果を決めてから過程を作るという、因果逆転に近い事をしている。……司の“祈り”とは別だ」

「そっか……」

 唯一の経験者の優輝すら、参考にならない。
 理論上は可能と言うだけで、机上の空論にしかなっていなかった。

「……どうするんだ?」

「そもそも、存在の“格”が違うと言っているが、厳密には何が違うのかよくわかっていない。……無理にその違いを近くするのは、労力に見合わないんじゃないか?」

 大人しくしていた神夜が呟くように尋ねる。
 それに対し、優輝がまず前提として考えている事が当てにならないと言う。

「って事は、手詰まりかよ!?」

「……そうか……」

 帝が驚き、神夜は再び傍観に戻る。
 神夜は、今までの事が間違いだった事もあり、ほとんどの行動が消極的になっていた。
 そのため、お互いに刺激しないように大人しくしていた。

「……感覚……漠然となら、わかるのかしら……?」

「奏ちゃん?」

 その時、奏が呟くように発言する。

「暫定的に言っていたとはいえ、“格”が違うのは、何となく分かっていたわ。雰囲気と言うか、そういうので自分とは違うと……違うかしら?」

「あ……確かに。あの時襲撃してきた敵も、後神降しした優輝君も何となく違うって……」

「あー、確かに人間と転生時に会ったあの神様とじゃ、違うってわかるなぁ……」

 感覚と言うよりも、本能に近い。
 そんな感じで、“格”と言うものを感じ取っていた。
 それを司達は思い出す。

「……でも、そんな漠然とした感覚で……ううん、これしかないんだよね。だったら、試してみるよ。えっと……」

 具体性なんて一切ない、感覚だけでの力の行使。
 成功するとは思えないが、少しでも成功率を上げるため、司は祈る。
 頭に思い描くのは、神降しをした優輝、以前襲撃してきた男。
 また、他にも何かに乗り移られていたなのはと奏と……

 ……覚えのない、自分(天巫女)に似た女性。

「ッ……!?」

 一瞬脳裏を過ったソレに、司は困惑して祈りが中断される。

「どうしたの?」

「……う、ううん。もう一回やり直すね」

 椿に何事か心配され、司は気を取り直してやり直す。
 さっき思い浮かんだ女性の事は、気のせいだと思って。

「(っ、また……!)」

 だが、またもやその女性の姿がちらつく。
 姿が朧気なせいで、漠然と自分(天巫女)に似ているとしか分からない。
 そして、それ以上になぜ記憶にないのに思い浮かぶのかが不可解だった。

「(集中……!)」

 それでも、集中しなければ。
 そう思って、司は祈りに専念しようとする。

「(思い出す……私達とは違う、“格”の違いを、その雰囲気を、感覚を……!)」

 これが、他の転生者なら、少しはマシだったかもしれない。
 司以外は、皆転生の時に神に会った記憶があるからだ。
 唯一司のみ、その時の記憶がない。
 そのため、わかりやすい対象がいないのだ。
 一応神二人がいるが、今も眠っているために当てにならなかった。

「(ッ……上手く、思い出せない……!)」

 元々あやふやな感覚だったもの。
 それを明確に思い出そうとするのは難しい。

「……司、無理しなくてもいいのよ」

「ううん……もうちょっと頑張れば……!」

 椿が気遣って声を掛ける。
 だが、司はまだいけると、再チャレンジする。

「(……あ……)」

 その時、ふと神二人が目に入る。
 もし“格”を上げられたら、すぐにでも解析が出来るように、同じ部屋にいたのだ。
 そのため、視界に入るのはおかしい事ではないが……。

「ぁ、ああああああ!!」

 その二人、厳密には巫女服の女性の方を見て、司は声を上げた。

「ど、どうした!?」

「も、もしかして……!」

 驚く帝や神夜達。
 そんな周囲の反応を無視して、司は巫女服の女性に駆け寄る。

「や、やっぱり……!」

「いきなりどうしたのよ?」

「この人……多分、私を転生させた神様……」

 記憶にないのに、朧気に脳裏に映る姿。
 その姿に、巫女服の女性はそっくりだったのだ。
 よく見れば、自分(天巫女)にも似ていた。

「そうなの?」

「あ、でももしかしたら違うかも……でも、私に関係があるのは確かだと思う……」

「……なるほど。確かにそれは言えるな」

 何度も脳裏に過るのだ。無関係な方がおかしい。
 優輝も、改めて女性と司を見比べて納得したように呟いた。

「まるで司を成長させたような容姿だ。双子程ではないが……例えるなら、“少し似ていない姉妹や親子”ぐらいには似ている」

「また微妙な例えだな……まぁ、確かにそんな感じだが」

 以前襲撃してきた男と違い、優輝達はそこまでそっくりだとは思っていなかった。
 だが、確かに女性と司は容姿が似ているのだ。

「司、目を閉じて見ろ」

「え?こう?」

「……似ているわね」

「そうか。俺達が見た時、そんなそっくりだと思わなかったのは、目を閉じていたからか。なるほどな……」

 目を閉じているかいないかで、所謂表情も違って見える。
 そんな些細な違いで、今まで誰も気づいていなかったのだ。

「でも、どうしていきなり?」

「……さっきから、イメージする時にちらついてて……」

「それで視界に入った時、その脳裏に過った姿と一致すると気づいたのね」

 記憶になくても会ったとするならば、心当たりは一つしかない。
 そう思って、司は巫女服の女性が自分を転生させた神様だと思ったのだ。

「……まぁ、一致したのはいいけど、本題の方はどうなのよ」

「あ……。ごめん、つい気になったから……でも、これで気になってた事はなくなったし、さっきより集中できるよ」

 椿の言葉に、司はそう返して祈りを再開する。
 脳裏に浮かんできたのが巫女服の女性だと分かった事で、先程よりも集中出来た。

「ッ……掴めた……けど、魔力が足りない……!」

 少しして、何かが自分の中で変わる感覚を感じる。
 だが、たったそれだけで魔力が足りない事が分かってしまった。

「ジュエルシード……!」

 すぐさまジュエルシードが司によって呼び出される。
 クロノ達が持っていき、既に管理局に保管し直されたものだが、天巫女である司の呼びかけにすぐに次元を超えてやってきた。
 ……管理局涙目な状況なのは、余談である。

「うお……!?」

「きゃっ……!?」

 直後、魔力が司から吹き荒れる。
 まるで嵐のように吹き荒れ、周囲の軽いものは吹き飛ばされる。

「っ、ぁ、ぁぁあ、あああああああ………!!」

 その中心にいる司も、“格”を上げる行為に声を上げる。

「(苦しい……だけじゃない……!魂が軋むって、こんな感覚なの……!?)」

 痛い。苦しい。……それだけじゃない。
 まるで体が膨らむような圧迫感もあれば、逆に圧縮する圧迫感もある。
 四肢が千切れそうなぐらい引っ張られる感覚もあった。
 その他にも、吐き気や頭痛、眩暈もした。

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 苦痛の類だけではない。
 魂が軋む感覚と共に、確かに自分の“何か”が変わっていた。
 それは力の奔流となり、司の体を駆け巡る。
 そして、司はそれを歓喜、高揚、快楽として感じ取っていた。

「ぁあ……!ぁあああ……!」

「つ、司……?」

「司ちゃん……?」

 苦悶の声に交じって艶やかな声が漏れる。
 明らかにおかしくなっていくその様に、椿と葵が心配する。
 二人だけでなく、奏や帝、神夜も心配していた。
 ……帝と神夜は司の声に若干気まずそうにもしていたが。

「ッ―――!」

 椿と葵の声が聞こえたのか、司は歯を食いしばって声を抑えた。
 そして、祈り続ける。
 魂が軋むその感覚に耐え、祈りだけは持続させていた。

「(も、もう少し……!)」

〈マスター……!〉

「もう、少し……!」

 体を駆け巡る、あらゆる感覚は、怒涛の情報量となって精神をも苛む。
 長時間それが続けば、正気すらも失う程だった。
 それでも司は続けるため、シュラインが思わず心配する程だった。

「……司」

 その様子を見ていた優輝が、これ以上は司が持たないと判断する。
 そして、中断させようと魔力が吹き荒れる中近づこうとして……。

「ッ!」

 ……“それ”に気付く。
 魔力が吹き荒れていた事で、優輝は気づくのに遅れていた。
 他の者に至っては、司に注目しているために気付いてすらいない。

 ……そして。







「―――そこまでですよ」







 司の祈りを打ち消すかのように、司の目の前で光が弾ける。
 まるで弾かれたように司は祈りを中断させられ、顔を上げる。
 同時に、吹き荒れていた魔力も収まる。

「あっ……!」

「いつの間に……!」

 そこでようやく、優輝以外もその存在に気付いた。

「あ……」

 司の祈りを止めた存在。
 それは、つい先ほどまで眠り続けていた巫女服の女性だった。
 まだ回復は仕切っていないようで、立ち上がってはいるものの、ふらついていた。

「これ以上は、魂が持ちません」

「目が、覚めたのか」

「おかげさまで」

 唐突な事に戸惑う皆の代わりに、優輝が問いかける。

「だが、もう一人は……」

「まだのようですね。ですが、それも仕方ありません。私は彼女を、司さんを転生させた者だからこそ、彼女の動きに気付き、目を覚ましたのですから」

 もう一人の少女の方はまだ目を覚ましていなかった。
 女性の方は司の力に反応して目を覚ましたのだった。

「………どうやら、世話になったみたいですね。場所を一旦移しましょう」

「分かった」

 優輝達を見回し、女性はそう提案した。
 話し合いのために、一度客間から居間に移動する。





「さて、まずは名前ですね。私は“祈梨(いのり)”と言います。察しているかと思いますが、神の一人です。……貴方方の事は存じています。転生者の皆さん、そして式姫のお二方」

「祈梨……聞いた事がないわね……」

「はい。私は世界に存在するどの神話にも属しませんから。名前も、飽くまで区別するために付けたものが大半です」

 響きからして日本の神だと思われる名前だが、同じ神である椿には覚えがなかった。
 当然だ。地球どころか、どの次元世界の神話にも属さないのだから。

「未だに眠る彼女は“ソレラ”です。……優輝さん、帝さん、神夜さんは見覚えがありますよね?」

「僕らを転生させた神だからな。さすがに覚えている」

 優輝の言葉に帝も、少し離れた位置にいる神夜も頷く。

「存じ上げている、と言う事は……」

「私達神々が本来いる世界、“立体交差多世界観測神界”……通称“神界”から、貴方達の事を観測していました。転生者なので、世界にどんな影響を及ぼしてしまうかの動向をある程度見ておくべきだったのです」

「……だから、私達を知っているのね」

 祈梨の言葉に、椿が納得したように頷く。
 だが、対照的に優輝は何か引っかかったような表情をしていた。

「(転生者が世界にどんな影響を及ぼすか……で、動向を見るのはそこまでおかしくはない。……でも、いくつもの世界を観測するだろうに、そんな個人単位まで見るか……?)」

 動向を見るなら、それこそ世界規模でも十分だ。
 影響が少なければ何の異常も起きず、その時点で観測には十分だからだ。

「(いや、僕の憶測と実際の神の観測方法が違うだけかもしれん。深く考えても仕方ないな)」

 しかし、それは結局根拠も薄い推測でしかない。
 そのため、余分な思考として優輝は切り捨てた。

「あの、私を転生させたって……」

「はい。その通りです。……すみません、他の神々は直接応対していたようですが、貴女の場合は精神が不安定だったのもあって……」

「いえ!別に、そんな……」

 司も祈梨も丁寧な物腰なため、お互いに遠慮したような態度を取る。

「……一つ聞いていいか?」

「何でしょう?」

「そっちのソレラという神は、今魅了に掛かっているのか?」

「っ、そうだ……!聞かせてくれ…っ、いや、聞かせてください……!」

 埒が明かなさそうだったため、優輝が一つ気にしていた事を尋ねる。
 神夜も気になったのか、思わず身を乗り出して便乗する。
 その際、相手が神なため、言い直すように敬語にしたが、優輝は別に敬語を使っておらず、祈梨もまたそこまで気にしていないため、その必要はない。

「ああ、その事ならとっくに解除されています。……どうやら、貴方も自覚して猛省しているようですね。せっかくです。封印を強化しておきましょう」

「……上辺だけじゃなく、しっかりとした封印か?」

「はい。その封印です」

 以前優輝も言っていた、能力を機能させなくする封印。
 それを、祈梨は神夜に施すようだ。

「………終わりました」

「早っ」

 少し祈る。それだけで、神夜は少しばかり淡い光に包まれた。
 あまりの呆気なさに、思わず葵が声を上げる程、すぐに終わった。

「実感はないんだが……」

「元々自覚なしの力ですから、実感がないのも仕方ありません」

「そうか……」

 それでも態々嘘をつく事もないだろうと判断し、魅了がもう発動する事はないのだと、神夜は安堵した。

「……優輝、そろそろ本題に入りなさい」

「そうだな」

 椿が口を挟み、本題に入るように促す。
 優輝も同意し、改めて祈梨と向き直る。

「……何があって、この世界に現れたんだ?」

「………」

 優輝が切り出したその質問に対し、祈梨は考え込むように目を瞑る。
 そして、間を置くように、椿が淹れておいたお茶を飲み、返答を返した。





「―――神界において、大規模の戦いが起きました。このままでは、神界のみならず、ありとあらゆる世界が“闇”に包まれます」

 そう言った祈梨の目は、今までの優しそうなものと打って変わっていた。
 追い詰められたように、真剣で、恐れも孕んだ眼差しだった。







「な―――!?」

 その返答に、まず声を上げて驚きそうになったのは帝と神夜だった。
 尤も、優輝以外も大差なく驚いていた。

「ありとあらゆる世界……それは、この世界のみならず……」

「貴方達転生者の前世の世界もです。神界は原則的にどの世界、平行世界も観測が出来るようになっており、今回の戦いでは、その特徴を通して全ての世界に干渉されてしまいます」

「……規模が大きいね……」

 理解はできる。
 しかし、その話の規模の大きさに、葵は信じられずにそう呟いた。

「信じられないのは無理ありません。ですが、事実です。……既に、この世界も何度か干渉を受けていますので」

「まさかとは思うが、あの“揺れ”は……」

「さすがに話が早いですね」

 感心したように、祈梨は言う。
 そして、それは肯定の言葉でもあった。

「一度目の“揺れ”で、この世界と神界の境界が壊されました。そして、二度目の“揺れ”は、私達が逃げる際に世界の壁に穴を開けた事で起きました」

「世界規模の干渉……!通りで、物理的にも概念的にも、空間的にも該当しない“揺れ”だったのね……!」

 祈梨の説明に、椿が納得したように声を上げた。
 次元世界をも跨いで起きた“揺れ”は、神界での戦いが原因だったのだ。

「干渉はそれだけではありません。おそらく、一度そちらからは干渉出来ない襲撃者がいたはずです。それと、その星の過去にあった災厄を再現する装置が」

「っ、もしかしてあの優輝君に似た男と、パンドラの箱……!」

「ああ、あれにはそう名付けたのですね」

 判明し、繋がった。
 つい先程まで手掛かりがなくなり、全く分からなくなっていた事が。
 あっさりと、祈梨の言葉で判明した。

「装置……か」

「はい。詳しく説明したい所ですが……先に本題を済ませましょう」

 どういったものなのか、詳しく知りたい優輝。
 だが、まずは本題でもある神界での戦いについて、祈梨は説明する。

「確か、神界で戦いが起きたって……」

「はい。……どこから話すべきか……」

 根が深い話なのか、祈梨はどこから話すべきか一考する。
 優輝達を一瞥し、最後に優輝を目に留めて、どこから話すのか決めた。

「事の発端、全ての始まりは一人の邪神が原因でした。その邪神は、“邪”とつくだけあり、神界でも屈指の“闇”の担い手です」

「邪神……」

「はい。神界にはありとあらゆる神がいます。善神だけでなく、悪神すらも。その中でも、邪神“イリス”は最も強い“闇”の力の持ち主でした」

 邪神イリス。名前からはどんな存在が想像がつかない。
 それが優輝達の印象だった。

「その力は、神界の神すらも洗脳してしまう程です。その力を以って、一度邪神イリスは神界を支配しようとしました」

「神、すらも……」

 帝がその言葉を聞いて、真っ先に連想したのは神夜の魅了の力だ。
 優輝から聞いた話でしかないが、自分を転生させた神も魅了されていたのだから。
 関連性を疑うのもおかしくはなかった。
 尤も、今はそれ以上に重要な話だ。帝はすぐに思考を切り替えた。

「当然ですが、他の神がそれを許しません。善神と、便乗しなかった悪神も協力し、邪神イリスを止めようとしました。……これが、かつて神界に起きた大戦であり、貴方達転生者を生み出してしまったそもそもの発端です」

「えっ!?」

「ど、どういう事だ!?」

 これには、聞き返さずにはいられなかった。
 まさか、自分達の転生がここで関わってくるとは思わなかったからだ。

「転生の際、聞かされませんでしたか?貴方達の事に関する書類を破いてしまったために、死んでしまったと」

「そ、そういや……」

「……言っていたわ……」

 各々が、当時の事を思い出す。
 なお、司は覚えていないため、椿や葵と共に蚊帳の外だった。

「……まぁ、そんなのは誤魔化すための方便です。ソレラさんならともかく、天廻(あまね)様や、サフィアさんがそんなドジをするはずがありませんし」

「何気にディスってないか……?それに知らない名前が……」

「ソレラさんはよくドジをしていたので。ちなみに、天廻様は緋雪さんを、サフィアさんは奏さんを転生させた神です」

「緋雪と私を……あの時の……」

 奏は、自分が転生する時に会った神を思い出す。
 確かに、書類云々の話をしていたが、結局それは嘘だったのだ。

「実際は、大戦の影響で他の世界の魂の循環に異常が生じ、その際に本来の寿命や死期と違うタイミングで亡くなった方を転生させていました」

「そういう事だったのか……」

 確かに、転生させる事が出来る神の世界で起きた戦いの影響だなんて言われるよりも、テンプレのように書類云々で転生させられる方が、死んだ事実としては軽いものだ。
 ……理不尽に死んだ事には変わりないが。

「話が逸れていましたね。大戦は、多くの傷跡を残しましたが、一人の神とその眷属の犠牲で、邪神イリスを封印した事で終結しました」

「大戦……と言う割には、死んだ神様が少ないような……」

 地球にある神話でも、死んでしまう神は多い。
 だが、祈梨の話だと、一人の神とその眷属以外は死なずに済んだように聞こえた。

「はい。神界の神々は滅多な事では死にません。そもそも、“死”と言う概念がないようなものです。“死”を司る神もいましたが、その神は邪神イリスに洗脳される事もなく、善神と共に戦っていましたので、犠牲自体は少ないです。……それでも、今挙げた神達以外にも神として死んだ者もおり、戦いも苛烈を極め、私達は窮地に陥る程の劣勢でしたが」

「……それが、“前回の大戦”か。そして、今回は……」

「はい。早い話、封印が解けました」

 それだけで、不味い事態になったと全員が理解した。
 何せ、相手は神界を窮地に陥らせた邪神なのだから。

「既に、封印を見張っていた神々は邪神イリスの力で洗脳されています。私達も、邪神イリスの勢力に追われ……天廻様やサフィアさんが逃がしてくれなかったら、ここにはいません」

「……なぁ、確か、この世界に来て目覚めるまで……」

「一週間は経っているな」

「ッ……!」

 既に祈梨達二人が現れて一週間が経過している。
 つまり、その分だけ戦況は変わっている事になる。
 その事に、帝は血の気が引いた。

「……幸いにも、こちらと神界では時間の流れが違います。ただ、それでも安心出来ませんが……」

「早急に対策を立てる方がいいか?」

「はい」

 猶予はあまりないと、祈梨は優輝の言葉に頷いた。

「……また少し逸れましたね。まぁ、後は簡単な話です。邪神イリスの勢力と神界の他の勢力が戦っています。以前この世界に現れた男も、貴方方がパンドラの箱と呼ぶロストロギアも、全て邪神イリスが封印されながらも仕掛けた事です」

「今までの謎が……全部……」

 それは、今まで後回しにせざるを得なかった事が全て判明する言葉だった。
 あまりにも呆気なく、謎が解き明かされる。
 ……だが、それ以上に。

 目の前に迫る問題に、全員の心が不安に覆われた。















 
 

 
後書き
立体交差多世界観測神界…所謂無限に広がる幾多の世界を観測出来る上位の世界。なお、正式名称の方は適当にそれっぽく付けただけなので、専ら“神界”と呼ぶ。なお、正式名称も通称も、そしてそこに住まう神々の名前も、他世界(優輝達)に通じる言葉に翻訳している設定がある。

邪神イリス…神界でも随一の闇の力の持ち主。ただし、物理的な戦闘力や総合的な強さは悪神の中でも一番ではない扱い。フルネームはイリス・エラトマ。(エラトマは悪のギリシャ語)


書類云々のテンプレは方便だったという衝撃の真実ゥ!
……まぁ、テンプレと思わせるための方便だったと言う、後付け設定(辻褄合わせとも言う)なんですけどね。

さて、ついに最終章へと物語はシフトしていきます。
もう少し第6章は続きますが、最終決戦に向けて一気に展開が進みます。
それこそ、対策を立てる暇も与えない程に。 
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