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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第82話

翌日、サラ達が演習地を去った後二日目の特務活動を開始したリィン達新Ⅶ組はフォートガード州の様々な場所を巡って要請をこなしていると、ユーシスから相談したい事がある為時間ができたら城館に来て欲しいとの連絡があった為、話を聞くために城館に向かった。

~フォートガード・カイエン公爵家第二城館~

「ユーシス、皆さん、」
リィン達が城館のホールに到着するとユーシスがアンゼリカやパトリック、ハイアームズ侯爵と話し合っていた。
「…………来てくれたか。」

「なんだ、呼んだのか?」

「おや、明け方ぶりだね。」

「はは、久しぶりだね。」

「ご無沙汰していますわ、侯爵閣下。」

「お久しぶりです!」

「フフ、リィン君にセレーネ君、新Ⅶ組の諸君。新しいメンバーもいるのか。何やら急ぎのようだが一体どうしたのかね?」

「…………自分の方から説明します。私事みたいなものですが―――」
ユーシスが、ミリアムと昨晩から連絡がつかないことを説明した。


「オライオンが…………!?」

「ふむ、こちらに来ているとは聞いていたが…………」

「このタイミングでとなると少々、心配ではあるな。各方面に問い合わせたのかな?」

「ええ、所属する情報局と鉄道憲兵隊の方にも一応。ですが双方とも心当たりがなく続報があれば連絡して欲しいと逆に頼まれました。」

「それは…………」

「不安が一気に増した感じだね。」
ハイアームズ侯爵の質問に答えたユーシスの説明を聞いたパトリックとアンゼリカはそれぞれ真剣な表情を浮かべた。
「…………まったく…………何をしてるのですかあの人は…………」

「アル…………」

(なんだかんだ言っても、ミリアムさんはアルにとってお姉さんだから心配みたいね…………)
ミリアムに対する不満を口にしたアルティナの様子をユウナとゲルドは心配そうな表情で見つめた。
「ミリアムについては一旦こちらで引き受けよう。この状況での情報局員の失踪…………何かが起きている可能性が高い。特務活動の主旨にも適うだろう。…………みんな、構わないか?」

「ええ、もちろん!」

「新海都周辺の事件であれば私としても気になりますし。」

「それに昨夜リウイ陛下達が教えてくれた今回発生すると思われる要請(オーダー)の件にも何か関係があるかもしれませんわ。」

「ミリアムさんの捜索という形で活動内容を切り替えましょう。」

「…………皆さん…………」

「――――すまない、感謝する。」
リィン達の気遣いにアルティナが驚いている中ユーシスは感謝の言葉を述べた。
「で、なんか手掛かりはあんのか?この街は馬鹿でかい。ノーヒントじゃ流石に厳しいぜ。」

「アッシュ、敬語敬語。」

「構わん。―――手掛かりがあるとすれば新海都周辺だろうが…………どうも、昨日市内で有益な情報を得たようでな。」
ユーシスは最後に会った時のミリアムの言葉をリィン達に伝えた。


美味しいものを食べたついでにいい情報もゲットしちゃってさー。


「フフ、いかにもミリアム君らしいと言うべきか。」

「ええ、その無邪気さもミリアムさんの武器なのでしょうね。」
ユーシスから伝えられたミリアムの言葉を聞いてリィン達と共に冷や汗をかいて脱力したアンゼリカとゲルドは苦笑した。
「それだけ聞けば十分だ。何かわかったら連絡する。っと、そうか…………これから会議があるんだったな。」

「会議中でも取り次げるようこちらで計らっておこう。」

「ふわああっ…………んっ、なんだそなたらは?」
パトリックがリィン達にある事を伝えるとバラッド侯爵がリィン達に近づいて声をかけた。
「これはバラッド侯。」

「ご無沙汰しています。」

「おお、ハイアームズ候。アンゼリカ嬢もいらしたか。ハッハッハッ!これでめでたく四大名門が一堂に会したというわけかな!」
既にバラッド侯爵が次期カイエン公爵家当主に就任する事が決まっているかのような発言にリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「おお、そうだ。ユーシス君、パトリック君。なにやら峡谷方面に准将が兵を割こうとしていたがワシの権限で却下させたぞ。」

「な、なんですって……!?」

「…………複数の猟兵団が入り込み、交戦状態にあると説明しましたが。」
バラッド侯爵が口にした驚愕の事実にリィン達と共に驚いたパトリックは声を上げ、ユーシスは真剣な表情で指摘した。
「フン、峡谷で何が起ころうとも新海都に被害があるわけではあるまい。それに平民共の顔色を窺って点数稼ぎをしている小賢しいユーディットが、その内遊撃士共を介入させて連中に猟兵団を鎮圧させるだろう。確かオルディスに滞在している遊撃士は例の”剣聖”カシウス・ブライトの子供達にして”空の女神”の末裔の一族と聞く。一人一人が一騎当千にして”英雄”と称えられている連中を介入させれば猟兵ごとき敵ではあるまい。ならば領邦会議の期間中は余計な兵力分散は避けるべきだろう。…………どうせ会議中はラクウェルには行けないしのう。」

(ちょっとちょっと、本音が出たわよ…………!?)

(流石にあり得ないな…………)

(皇族や貴族――――上流階級の人達の役目は税金を納めてくれる平民たちを守る事が義務だって、王様だったお義父さんもいつも心がけている大切な事なのに…………)
バラッド侯爵の本音を知ったユウナは信じられない表情で小声でクルトに話しかけ、話しかけられたクルトは呆れた表情を浮かべ、ゲルドは悲しそうな表情を浮かべた。
「地方軍など、所詮は帝国政府の目こぼしで許される程度の存在だ。ならばせいぜい、ワシや諸侯たちを万全の態勢で守っていればよい。ハッハッハッ、蛮族上がりの男には過ぎた使命というものだろう!」

「それは流石に…………!」

「閣下、バルディアス男爵家はサザ―ラントの誉れ高き武門です。そのような仰りようはどうか控えていただけませんか?それにユーディット嬢―――いえ、ユーディット皇妃陛下はクロスベル帝国のヴァイスハイト皇帝陛下から寵愛を受けている”クロスベル皇妃”です。ユーディット皇妃陛下と親類関係に当たる閣下は皇妃陛下の事を気安い呼び方ができるかもしれませんが、それでもどこかで閣下のユーディット皇妃陛下に向けた言葉が漏れ、それがクロスベル帝国に伝わる事で何らかの問題が発生する可能性は十分に考えられますから、ユーディット皇妃陛下に対するそのような仰りようもどうか控えて頂けませんか?」
バラッド侯爵のウォレス准将に対する暴言にリィン達が驚いている中パトリックが厳しい表情でバラッド侯爵に反論しようとした所をハイアームズ侯爵が静かな口調でバラッド侯爵に指摘した。


「フン…………これは失敬。だが、そうして貴族の誇りなどにしがみついているから時流に乗り損ねているのではないかね?」

「なっ…………!」

「……………………」

「ふむ…………」
バラッド侯爵の驚愕の発言にリィン達が再び驚いている中パトリックは絶句し、ユーシスは目を伏せて黙り込み、アンゼリカは静かな表情でバラッド侯爵を見つめた。
「それに引き換え、ワシは政府と交渉し、”その先”をきちんと見据えている。アラゴン鉄鉱山もフル稼働させ、列車砲も2基も完成させたばかりだ。」

(なっ…………!?)

(あの列車砲が2基も…………)

(そんな話が…………?)
更なる驚愕の事実を知ったユウナは驚き、ゲルドが不安そうな表情をしている中リィンはユーシスに小声で訊ねた。
(………ああ。正規軍に引き渡すらしいが…………)

(それもご自身のエレボニア側のカイエン公爵家当主就任の為なのでしょうね…………)
訊ねられたユーシスの答えにセレーネは複雑そうな表情で推測した。
「――――私は愚かな(クロワール)とは違う!世の情勢を見極めて賢く、迅速に立ち回らぬとな!そういう意味では不愉快ではあるが、”七日戦役”時はオルディス占領の際に大人しくメンフィルに投降して従順な態度を取り、内戦後はクロスベルの好色皇に上手く取り入って”総督”と”クロスベル側の次期カイエン公爵家当主”の地位をクロスベル帝国に認められたユーディットとキュアの行動は四大名門の面汚しである行動ではあるが、貴族としてはワシのように賢く、迅速に立ち回ったと言えるだろう。できれば会議の方もそう頼むぞ!ワッハッハッ…………!」
堂々と宣言して声を上げて笑ったバラッド侯爵はその場から去って行った。
「…………さ、最低…………あんな最低ハゲ侯爵と、エレボニアの貴族だったのにクロスベルの為にずっと頑張り続けている上あたしみたいな平民にも誠実な態度で接してくれるユーディット皇妃陛下とキュアさんが親戚同士だなんて、あんな親戚を持った二人が可哀そうよ…………」

「ふふ、ユウナさん。そんな本当のことを仰っては。」
ジト目でバラッド侯爵の背中を見つめて呟くユウナにミュゼは微笑みながら指摘した。
「…………時が惜しい。俺達はミリアムを捜します。ハイアームズ候、アンゼリカさん、ユーシスにパトリックも。どうか会議の方、よろしくお願いします。」

「ああ、微力を尽くそう。」

「…………そうですね。私欲に塗れさせないためにも。」

「任せるがいい―――ミリアムのこと、よろしく頼む。」

「くれぐれも気を付けたまえ!」
その後街に出てミリアムの事について情報収集をしたリィン達はミリアムが新海都からやや離れた位置にある無人島―――通称”遺跡島”と呼ばれている”ブリオニア島”に向かったと思われる情報を入手した後島へと向かう為に必要なボートを手配してブリオニア島へと向かい、島に到着した後はかつて旧Ⅶ組の”特別実習”の際に利用していた宿泊小屋を調べるために宿泊小屋に入った。


~ブリオニア島・宿泊小屋~

「誰もいないみたいですね…………」

「…………ああ。人の気配も感じない。」

「ハッ、あのガキが泊まってたにしちゃ、整いすぎてるみてえだしな。」

「…………ええ、教授と同じくすぐに戻るつもりで訪れたのかもしれません。」

「恐らく最後にこの宿泊小屋を利用したのは教授でしょうね。」

「だとしたら心配だね…………ARCUSⅡも圏外みたいだし。」

「ミリアムさんについての手掛かりが何かあればいいのだけど…………」

「とにかく持ってきた中継器を設置してしまいましょう。」

「ああ、よろしく頼む。」
その後ミュゼが圏外の場所でも通信できるようになる中継器を設置するとリィンのARCUSⅡに通信が入り、トワの映像が映った。


「状況はユーシス君から聞いたよ。領邦会議も始まっちゃったし、早く見つかるといいんだけど…………」

「ええ…………ユーシスも心配でしょうし。」

「会議の状況はどうでしょうか?」

「パトリック君から聞いた限りでは一応、滞りなく進んでるみたい。バラッド侯が強引に仕切ろうとしてハイアームズ候やアンちゃんもやりにくそうにしてるそうだけど…………」

「どうあっても会議の主導権を握ろうとしてるわけですか。」

「ま、狙いは明らかだろうしな。」

「次期エレボニアのカイエン公爵家当主の就任、ですか………」

「どうしてそこまでしてその”カイエン公爵家当主”に就任する事に固執しているのかしら…………?」

「まあ、カイエン公爵家は四大名門の中でもリーダー的な存在だからな。絶大な権力もそうだが、自身の名誉を上げる為にもカイエン公爵家当主に就任する事に固執しているのだろう、バラッド侯は。」
トワの話を聞いたリィンは真剣な表情を浮かべ、意味ありげな笑みを浮かべたアッシュに続くように呟いたセレーネの言葉を聞いて不思議そうな表情をしているゲルドにクルトは静かな表情で指摘した。
「うーん、ちょっと気になるけど。」

「そちらはユーシスさんたちにお任せするしかなさそうですね。」

「ああ、彼らなら大丈夫だ。――そちらも気をつけてください。」

「うん、リィン君達も!何かあったらすぐ連絡してね!」
トワとの通信を終えたリィンはARCUSⅡを定位置に戻した。
「――――調査を開始しましょう。ここは最低限の設備がありますし、当面の拠点にできるかと。」

「ああ…………小屋を出て一通り島を回ってみるとしよう。」
その後小屋を出て島の探索を開始したリィン達は探索の最中に巨大な石像を見つけ、石像を確認する為に高台に設置されている長い梯子を上って石像に一番近い高台へと昇った。

~巨像前~

「うわ~っ、近くで見ると更にとんでもないっていうか…………」

「…………けっこう精巧に彫られてるみたいですね…………」

「しかし巨像の材質…………周りの岩と違う種類みたいだな。」

「フン…………?」

(―――――――)

(ゲルドさん…………?)
生徒達がそれぞれ巨像に注目している中小声で何らかの魔術の詠唱をしているゲルドに気づいたセレーネは不思議そうな表情を浮かべた。
「……………………」

「…………教官?」
一方巨像を見つめて目を伏せて集中しているリィンが気になったアルティナは不思議そうな表情を浮かべて声をかけた。
「いや、何か霊的な力でも感じるかと思ったが…………これからは何も感じない…………”空っぽ”みたいな気がしてね。」

「空っぽ、ですか。」

「ハッ、オカルトか?」

「いやいや、不思議な力ってのは実際にあるじゃない。」

「ふふ、セリーヌさんみたいな喋るネコさんもいましたし。そういう意味では”竜族”のセレーネ教官や”魔女”であるゲルドさんもその”不思議な存在”ですわよね♪」

「ア、アハハ…………それを言ったらディル=リフィーナは不思議だらけの世界といっても過言ではないのですが…………」

「ハハ………エマやセリーヌがいれば詳しい事がわかったかも―――」
ミュゼの指摘にセレーネと共に苦笑したリィンが答えかけたその時
「!?な――――」
リィンの心臓が強烈な鼓動をすると共にリィンの脳裏に遥か昔の出来事と思われる場面がリィンの脳裏に浮かび、我に返ったリィンが周囲を見回すとその場はまるで時間が止まったかのようにセレーネ達は動きを止めていた。


「ふむ、またも共鳴したか。」
するとその時かつてシュタット大森林で出会った少女がいつの間にか現れた!
「フフ、また会ったの。リィン・シュバルツァー。」

「君は…………フォートガードの樹海で会った。いったい何者なんだ…………?どうして俺のことを知っている?それに今の光景は…………」

「今のは”場”の記憶に共鳴しただけじゃろう。どうもヌシは、その手の記憶と相性がいいみたいじゃからな。―――かつて内戦時、偶然見つけた精霊窟の探索でドライケルスの記憶を見たように。」

「どうしてそれを…………!?」
限られた者達しか知らない出来事を目の前の少女が知っている事に驚いたリィンは信じられない表情で少女に訊ねた。

「妾は何でも知っている、といいたいところじゃが。あいにく遠見ではなく、単に人伝で聞いただけでな。…………言っておくがその気になれば可能じゃぞ?遠見や影飛ばしは、別にヴィータの専売特許でもないしの。」

「え”。」

「とと、口を滑らせたか。」

「――――その口ぶりだと貴女も私達が星見の塔で出会ったクロチルダさんの”影”のように、これから何が起ころうとしているのかを知っているの?」
少女の口から出た意外な名前にリィンが驚き、それを見た少女が気まずそうな表情をしたその時、ゲルドがリィンの隣に来て少女に問いかけた。
「なぬ…………!?”人”の身でありながら妾の時止めの結界の中で動けるじゃと…………!?」

「ゲルド…………一体どうやって…………」
対象者以外の”全て”を止めたはずであるに関わらずリィン以外の存在―――ゲルドが動いている事に少女は驚き、リィンは困惑の表情でゲルドを見つめた。
「この高台を上がる少し前の麓で、今の光景が”視えた”から、予め私の周りの時空間が干渉されないように、私の周りにだけ時空間も遮断する結界を展開していたのよ。」

「え、えっと………魔術についてはあまり詳しくないけど、何気にとんでもない事をしていないか…………?」

「言うまでもなく思いっきりとんでもない事をしておるわ、その女子(おなご)は!―――コホン。それにしても…………今の光景が予め”視えた”じゃと…………?―――よもやヌシが”彼女達”の話にあった”予知能力”という”異能”を持つゼムリアともディル=リフィーナとも違う世界から現れた異界の魔女か?」
ゲルドの答えに冷や汗をかいたリィンが困った表情をしている中疲れた表情で指摘した少女は気を取り直し、興味ありげな表情でゲルドに問いかけた。
「ゲルド・フレデリック・リヒター・パリエ。私がいた元の世界では”白き魔女”と呼ばれていたわ。」

「”白き魔女”…………」

「ふふっ、まさにヌシのその容貌を顕す二つ名じゃの。それにしても”魔”の存在と切っても切れない関係である”魔女”に何物にも染まっていない意味である”白”の名が付けられるとは変わった魔女じゃの。”彼女達”から聞いたヌシの優しき性格も考えると、ヌシは”魔女”どころかむしろ”聖女”と呼ばれるべき存在かもしれぬな。―――それで?わざわざ妾の前に力を隠すことなく、妾に話しかけたのは何の為じゃ、”理の外”から来た異界の魔女よ。」
ゲルドの自己紹介を聞いたリィンが呆けている中少女は苦笑しながらゲルドを見つめた後表情を引き締めてゲルドに問いかけた。
「”呪われし竜”と”黒き獣”について知っている事を教えて欲しいの。」

(”呪われし竜”と”黒き獣”…………エリゼ達の話にあったゲルドが予知能力で視えた俺達が戦う事になるであろう”未来の敵”か…………)

「!ヌシ…………一体どこであの2体の事を…………なるほど、それも”予知能力”によるものか。――――逆に聞きたい。ヌシは何の為にあの2体の事を知ろうとする?知らぬ方がよい存在じゃぞ、あの2体は。」
ゲルドの問いかけを聞いたリィンがエリゼ達から聞いたある事を思い返している中少女は驚いた後信じられない表情でゲルドを見つめたがすぐに心当たりを思い出し、真剣な表情でゲルドに問い返した。
「―――私が視える”未来”はあくまで”可能性”。それは言い換えれば”決まっている未来ではなくて、避けられる未来。”だけど、私や教官達の様々な”未来の可能性”を見ても、その2体と対峙する未来はどの未来にも存在していたわ。だからせめて、前もって知っておくことでいざ対峙した時の備えての”対策”を考えておこうと思ったの。」

「ほう…………?しかし何故妾にその2体の事を聞こうと思ったのじゃ?」
ゲルドの答えを興味ありげな様子で聞いていた少女はゲルドに問いかけた。
「私達のどの未来にもその2体との対峙との時に貴女は何らかの形で力を貸してくれていたわ。だから少なくても貴女は”敵”じゃないのはわかっていたし、エマさんや私―――”魔女”の武装である”杖”や何らかの魔術を使っていた所も考えると貴女の正体は――――」

「わー!わー!そこまでじゃ!まだ妾がリィン・シュバルツァーに名や正体を明かす時ではないというのに、本人達を目の前で”ねたばれ”をしようとするとは、大人しそうに見えて、とんでもない娘じゃの…………!?」
ゲルドが少女の事を答えかけると少女は慌てた様子で制止してゲルドをジト目で見つめ、その様子を見ていたリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。
「えっと………今までの君の発言やゲルドの予知能力による推測から察するに君はエマやクロチルダさんの関係者か…………?」

「グッ…………ええい、今はまだ妾について語る時ではないと言っておるじゃろうが!ぐぬぬ…………ヌシのせいでリィン・シュバルツァーが感じていた妾の神秘的でミステリーな”いめーじ”が粉々にされたじゃろうが!?」

「えっと………勝手な事をしてしまって、ごめんなさい…………?」
困った表情を浮かべたリィンの問いかけに図星を刺されたかのように唸り声を上げた少女は恨めしそうにゲルドを見つめて文句を言い、少女の文句に対してゲルドは不思議そうな表情で首を傾げて謝罪の言葉を口にし、それを聞いたリィンと少女はそれぞれ冷や汗をかいた。
「そこで謝られると余計に妾が滑稽に見えるじゃろうが!?――――コホン。それよりも、失せ者捜しじゃが。”彼女達”からの預かり物が”すぐ近く”で役に立つ筈じゃ。」

「!!」
疲れた表情でゲルドに指摘した後咳払いをして気を取り直した少女の話を聞いたリィンはエマから預かったペンダントを思い返した。
「それと異界の魔女よ、件の2体は時が来ればちゃんと答えてやる―――が、若輩でありながら予知能力という”ちーと”を使ったとはいえ妾の結界に介入したその魔術の腕前を称賛して、褒美代わりに少しだけその2体の事を答えてやろう。―――”呪われし竜”と”黒き獣”、その2体は遥か昔に起こった”とある一族同士の愚かな争い”によって生まれた女神が人に遺し力の残照じゃ。」

「女神が人に遺した力の残照…………」
一方少女から語られたある事実を聞いたゲルドは呆けた。

「フフ、それではの。行きがけの駄賃に”今回は”少し貰っていくぞ。」
そして少女はリィンに近づいてその場で座り込んでリィンに顔を近づけ
「あ。」

「ちょ、待ってくれ―――」

「待たぬ。」
その様子をゲルドが呆けた様子で、リィンが制止の言葉をかけたが少女は無視してリィンの首筋に噛みついた。するとその瞬間空間は元に戻った。


「…………!?」

「戻ったようね…………」
空間が戻った事にリィンが驚き、ゲルドが静かな表情で呟いたその時
「あら、教官…………?」

「?どうしましたか?」
リィンの様子に気づいたミュゼとアルティナが声をかけた。
「いや―――(………今回は”ちゃんと憶えているのか。”それに何よりも―――)」

「……………………」
答えを誤魔化したリィンは考え込んだ後ゲルドに視線を向け、視線を向けられたゲルドは何も答えず目を伏せて黙り込んでいた。
「その…………以前にもありましたよね?」

「あ…………」

「そうだ…………!サザ―ラントの樹海で…………!」

「なんだァ?また”妙な力”関係かよ?」

「いや―――それとは関係ない。…………だが、ちょっとしたヒントはくれたみたいだ。」

「ヒント、ですか?」
リィンの言葉にそれぞれが不思議そうな表情をしている中セレーネは困惑の表情で訊ねた。
「見たところ、この巨像自体に手掛かりはなさそうだ。だが、ミリアムがこの周辺を調べていたのは間違いないだろう。」

「あ…………!」

「ブーツの跡、ですね。」
リィンが視線に向けた方向―――地面についているブーツの跡を見たユウナは声を上げ、アルティナは静かな表情で呟いた。
「ああ、念のためこの辺りを調べてみよう。」
その後リィン達は近くにある意味ありげな紋章を見つけると、リィンが紋章の前でエマ達から預かったペンダントを掲げると紋章とペンダントが光を放ち始めた。


「あ…………!」

「光った…………!」

「どうして…………!?」

「どうやらこの紋章には霊的な仕掛けがあるらしいな。そして、このペンダントは”魔女の眷属”であるエマの魔力が込められている………それらが干渉し合って仕掛けが起動したみたいだ。」

「おいおい…………マジでオカルト関係かよ。」

「ですがやはり、この島には何か秘密があるという事ですね。」

「はい、恐らくミリアムさんはそれに気づいて消息を絶った…………」

「ってことは、他にも見つけて仕掛けを起動していけば…………!」

「”何か”を見つけられる可能性は高いかもしれない。」

「そういえば島の探索の最中にいくつかこの紋章を見かけましたわね…………」

「ああ、他の手掛かりも探しつつ、同じ紋章を見つけたら試してみよう。」

「…………了解です!」

「――――ふふ、それはそうと先程から気になっていたんですが。教官の首筋、虫に刺されたんですか?」

「え…………」

「あ…………(さっきの時の…………エマさんと同じ”魔女”かと思っていたけど、もしかして”吸血鬼”なのかしら…………?)」
意味ありげな笑みを浮かべたミュゼの指摘に一瞬呆けたリィンだったが少女が消える瞬間に自身の首筋に軽くかみついた事を思い返してその部分を咄嗟に手で覆い、それを見たゲルドは呆けた後少女の正体について考え込んでいた。
「クク、お安くねぇなぁ。昨日の夜、綺麗なお姉様達とヨロシクやってたんじゃねえのか?」

「お、お姉様達って………クレア少佐に、サラさん!?」

「…………教官…………」

「お、お兄様…………」
意味ありげな笑みを浮かべたアッシュのからかいにリィンが昨夜の出来事を思い返している中ユウナは血相を変えてリィンを睨み、アルティナはジト目で、セレーネは疲れた表情でリィンを見つめた。
「ふふ、なんだか不思議なラベンダーの香りもしますし。」

「いや、そんなのが何時までも残ってるわけないだろう!?(でもそうか、あの香りはラベンダーだったのか…………)」

「まあ、こういう時は下手に弁解しない方がいいと思いますよ?」

「だから誤解だって…………!」
ミュゼの指摘にリィンが必死に反論しているとクルトがリィンの肩に手を置いて憐みの視線で指摘し、指摘されたリィンは必死に否定した。

その後島を回って何か所かに設置されている紋章とペンダントを共鳴させると突如島中を轟かせる程の大きな音と震動が起こり、その震動によって何らかの仕掛けが解除されたと推測したリィン達が島を回って調べていると祭壇があった場所に神秘的な建物が存在していた――――
 
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