俺様勇者と武闘家日記
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第1部
ロマリア~シャンパーニの塔
勇者の心と秋の空
前書き
「うわ~、やっぱり大きいね」
なんて呑気な声を上げた私は、アリアハンのお城とは異なる造りの外観を見て、思わず目を見張った。
なんというか、アリアハンのお城が標準的な造りなのに対して、ロマリアのはデザインにこだわりを感じる。
城門の兵士に事情を話すと、すぐに通してもらった。どうやらアリアハンの勇者が旅立ったという情報は、この土地にも広まっているらしい。
「アリアハンの城の中には、ロマリアに繋がる旅の扉があるらしい。だからお互いに情報を共有しているんだと、昔城の人間に聞いた」
ユウリがいうには、アリアハンの王とロマリアの王は古くからの付き合いがあり、勇者の仲間の募集を世界的に広めたのも、ロマリア王のおかげだとか。
要するに、こうして私たちがユウリと出会ったのも、ロマリア王のおかげだといえる。
わざわざロマリア王に挨拶をするなんてさすが勇者だな、と感心していると、一番前を歩いていたユウリが突然真剣な表情で、私たちの方を向いて言った。
「お前ら、普段みたいにへらへら笑ったりキレたり踊ったりしたらどうなるかわかってるよな? 仮にも一国の王の前に立つんだから最低限のマナーぐらいは守れよ」
「そ、そんなに普段から笑ってないよ!」
「いや大体怒らせてんのお前じゃん」
「踊りばっかりじゃないよー? お手玉だってできるもん♪」
三人それぞれの主張に、彼は諦めたように深いため息をつき、再び歩き始めた。
ふと周りを見回すと、お城の中はとても豪奢で、柱の一つ一つにも細工が施されている。丁寧に彩られた壁紙と、鮮やかにちりばめられた装飾品を見るたびに心が洗練されていくように感じた。
「すげーよ、これ! じいちゃんちで読んだ本と全く同じやつだぜ!」
ナギは終始興奮した様子で、辺りをきょろきょろしながら目を輝かせている。生まれてはじめて見たというだけじゃなく、盗賊としての血も騒ぐのだろうか。
シーラははしゃぎながらも、兵士さんたちの前ではちゃんと挨拶したり、意味もなく騒いだりはしなかった。
ユウリなんかはもうお城の中なんか慣れた感じで、堂々とした態度で通路のど真ん中を歩いている。
そして、先ほどとは別の兵士に案内され、いよいよ玉座の間へと通された。
「おお! よくぞ参られた、勇者ユウリよ!! 英雄オルテガの噂はこのわしにも聞き及んでおるぞ。世間では英雄と言われども、オルテガにとってそなたは大事な肉親。さぞつらかったじゃったろう」
「私ごときにはもったいないお言葉、ありがとうございます」
完璧な動作で丁寧にお辞儀するユウリ。いつもの態度とはまるっきり違う。
「しかし、残念じゃったな……。あれだけ勇猛なオルテガが魔王に……」
「父は魔王に倒されてなどありません」
王の言葉をさえぎり、ユウリはきっぱりと否定した。
「確かに父はネクロゴンドの河口付近で消息をたち、今も行方不明です。しかし私は、今も何処かで生きていると信じています」
「そう……じゃったな……。すまん、ユウリよ。無礼なことを言ったな」
「いえ、私も出すぎた発言をしてしまいました。申し訳ございません」
先ほどまで旅の扉酔いで半死状態だった姿を思い出すと、あまりのギャップに笑いがこみ上げてくる。だが場所が場所なので、私たちは必死でそれを堪えた。
室内にきまずい空気が流れ始めたのを感じたのか、王様はこほん、と咳払いをした。
「まあ、良い。それより、長旅の疲れも癒せぬうちに言うのは酷なのじゃが、そなたたちに頼みがある。実はな、最近この国に盗賊が出没するようになっての。城の者にも警戒するように言ったのじゃが、2,3日前にカンダタという者が、この城の宝でもある『金の冠』を奪ってしまい、はるか西にある『シャンパーニの塔』に逃げ込んだのじゃ。もしそなたが真の勇者なら、その盗賊から『金の冠』を取り返してはくれぬか?」
「『金の冠』、ですか」
「もちろん、取り戻してくれたら礼をするぞ。何しろそなたたちは世界を救う旅の最中であるからな。そなたの腕はアリアハン王から聞いておる。なんでもすでにレベル30を超えているとか。本来ならそなたたちに頼むべきではないのだが、他に適する人物がおらぬのでな。頼む、図々しいとは思うが、どうか世界を救う前に我がロマリアを救って欲しいのじゃ!」
「…………わかりました。ロマリア王の頼みならば断る理由がございません。謹んでそのご依頼お引き受けいたします」
「そうか!! そなたなら頼もしい答えを出してくれると思っておったぞ!! では、頼んだぞ!! 勇者ユウリよ!!」
ユウリの答えに、ロマリア王は満面の笑みを浮かべた。
だが、ユウリは王の頼みを受けてから城を出るまで、ずっと無表情のままだった。
「ユウリ、何かあったの?」
私がふと彼に訪ねたのは、城を出てしばらくして、家々の壁がほんのりオレンジ色に染まり始めたころ。
宿屋へ戻る途中、突然シーラは「堅っ苦しいとこに行ってたから息抜きしてくる!」とかいって、地下にあるという『モンスター格闘場』という賭博施設へと走り去ってしまい、ナギはナギで新しい武器を見に行くといって商店街の人混みに紛れて行ってしまった。なんて自由な人達なんだ。
そして残された私とユウリは、このあと特に寄り道することもなく、あと数百mで宿に到着するというところまで来ていた。
たずねられたユウリは憮然とした表情でこちらの呼び掛けに気づく。
「さっきからおかしいなと思ってたんだけど……」
「俺がおかしいだと?」
ものすごい形相でユウリが怒鳴った。言葉の解釈にズレを感じた私はあわてて訂正する。
「い、いやおかしいってのは、いつものユウリと様子がちょっと違うって言う意味だよ。何か深刻な問題でもあったの?」
「ああ、大有りだ」
ユウリはきっぱりと言い放った。
「事は一刻を争うというのに、なぜ勇者である俺が盗賊退治なんぞ引き受けなきゃならないんだ!! そもそもその辺の野良盗賊なんかに大事な宝を取られるだなんて、この国の防衛能力はどうなってるんだ!! 不条理だろ!! 取り返すんだったら自分の国のやつらがやればいいだろうが!!」
勇者とは思えない発言に私はたじろぎながらも、それはそれで一理あるなと思った。
「えー……。だったらユウリ、断ればよかったじゃない」
「仮にも一国の王の頼みだぞ!! あの場で断れるわけないだろ!!」
ようするに、世間体ってやつなのだろうか?
「ユウリもいろいろ大変だね」
「ああ。特にお前みたいな世間知らずの田舎者の話し相手をするのはひときわ疲れる」
そこまで言わなくても……。
ともあれ、この『金の冠』を取り返す件、公の場で了承はしたけれど、当のユウリは全く乗り気じゃないらしい。
「あのさあ、それなら……」
「いっそのこと、あのサルをシャンパーニの塔に放り込んで、その隙に冠を取り返すか」
あのサルというのは、ユウリ語でナギのこと……らしい。
当然ながら私は断固否定した。冗談かどうかはさておき、ナギを囮役にするなんて考え、受け入れられないに決まっている。
ユウリは渋っていたが、やがて次の案を思いついた。
「じゃああのザルウサギをシャンパーニの塔に(以下略)」
「だから駄目だって!!」
ザルウサギというのは、ユウリ語でシーラの(以下略)。
ユウリのむちゃくちゃな提案に、私は首を思い切り横に振った。
「なんていうか、それじゃあ全然勇者らしくないよ。勇者ならその盗賊を退治して奪い返せばいいんじゃないの?」
すると、急にユウリの目つきが変わった。まるで一番最初にルイーダさんの酒場で出会ったときのような、侮蔑に満ちた目。
「『勇者らしく』って、なんだ?」
「え!?」
急にそんなことを言われたので、私は次の言葉に詰まった。だって、いつも自分のこと勇者だとか言ってる人が、なんでそんな矛盾したことをいうんだろう?
「…………ふん」
私が黙ったままだからか、ユウリは私から目をそらし、そのまま先に歩いていってしまった。
ぽつんと一人取り残されて、私は一人考えを巡らせる。
―私何か、まずいこと言っちゃったのかな……?
しばし悩んだが、頭の足りない私はそれ以上答えを導き出せるはずもなく、考えをやめてひとまず宿に戻ることにした。
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