麗しのヴァンパイア
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第百十二話
第百十二話 コーヒーを飲みつつ
博士は自分が煎れたコーヒーを小田切君のカップを出してそこにも入れてから彼に対して言った。
「さて、コーヒーを飲みながらじゃ」
「お話をですか」
「するぞ」
「じゃあいただきます」
「ではな、それでじゃが」
博士はあらためて話した。
「紫式部もじゃ」
「楽しんで書いて」
「そうしてな」
「あれだけの作品にしましたか」
「一番凄いのは完結させたことじゃ」
「ちゃんと終わらせたことですね」
「わしも発明は必ず完成させておる」
実は未完成のものは一度も造ったことがない。
「そうじゃな」
「僕が知っている限りはそうですね」
「この二百億年の間な」
ビッグバンの時から生きていてだ。
「未完成のまま放っておいたものは一作もない」
「そして紫式部もですか」
「そうじゃ」
この人類史上最初の女流作家と言われている彼女もというのだ。
「一番凄いことはな」
「完結させたことですね」
「源氏物語もな、そしてじゃ」
博士は小田切君と共にコーヒーを飲みつつ語った。
「彼はな」
「続編も書いてじゃ」
「宇治十帖ですね」
「それも書いてしかも作品の質も落とさず」
「完結させたことがですね」
「凄い、だからこそじゃ」
そこまでのことが出来たからだというのだ。
「紫式部は偉大じゃ」
「そういうことですね」
「そして源氏物語もじゃ」
「偉大な作品なんですね」
「その通りじゃ、作品で一番難しいことは二つある」
博士はコーヒーの苦い味を楽しみつつ小田切君にさらに話した。
「はじめることとじゃ」
「終わらせることですね」
「その二つが出来てこそじゃ」
まさにというのだ。
「作品じゃ、質も大事じゃがな」
「まずはその二つですか」
小田切君は博士に問うた。
「はじめることと終わらせること」
「少なくとも源氏物語は終わっておる」
しっかりと、というのだ。博士は彼が読んだ源氏物語のその悲しいが美しい結末、宇治十帖のそれも思い出しながら小田切君に話した。
第百十二話 完
2018・12・5
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