『魔術? そんなことより筋肉だ!』
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SS10 慎二の愚行
前書き
vsライダー。二回目。
慎二が、桜を……?
衛宮家に戻り、士郎は、ムスッとしていた。
「士郎……、期待通りの強敵じゃなかったからって、機嫌を損ねないでよ。」
「そうじゃない…。邪魔されたうえに、アサシンがあんな形で負けたせいで、酷い目に遭うのをとめられなかったからだ。」
「…そのことだけど、驚きよね。キャスター自身がマスターとしてアサシンを使役しているなんて…。」
凛は、そのことに驚いていた。
凛が言うには、本来アサシンクラスで喚ばれるのは、ハサン・サッバーハという、代々名を継いできた暗殺者だけが喚ばれるはずなのだが、なぜか佐々木小次郎という人物が代わりにアサシンとして収まっていたのだ。おそらくは、本来の正式なサーヴァントではないためにそんなことになっているのだろうと凛は分析していた。
「アサシンクラスって、誰が喚ばれるのか決まってるのか。」
「アサシンだけはね。それと……。」
凛がジロッと桜を見た。
桜は、ビクッと震えた。
「桜…、あなたは聖杯戦争に関係ないって思ってたけど…。まさか自分自身を生け贄にライダーを召喚していたなんて…、しかも慎二なんかに譲るなんて…。バカじゃないの?」
「ご、ごめんなさい…。」
「しかも! 令呪二つ使って、慎二の命令に従うこと、そして、慎二の命を最優先に守ることって命令するなんて!」
「桜を責めないでやってくれよ。慎二に脅されただけなんだ。」
「甘いわね。そのせいで人死にが出たらどう責任を取るつもり?」
「それは…。」
「ごめんなさい…、ごめんなさい…。」
グスグスっと泣く桜。
「とにかく! 慎二のバカなんかに、これ以上聖杯戦争を引っかき回されても困るわ。あのバカのことだもの、またライダーにあの結界を使わせる可能性が高いわ。」
「やっぱり、慎二は魔術師じゃないのか…。」
「ええ。間桐の家系は、枯れた家系よ。慎二の父親でその魔術回路も途絶えてるから、その子供の慎二には魔術師の才能はないはずなの。」
「うぅぅ…。」
「ほら! いつまでも泣かないでよ。」
「お前が泣かしたんだろうが。」
士郎は、ずっと泣いている桜を抱きしめた。
「いい? 明日、慎二からライダーを奪い返すわよ。出来なければライダーを倒すわ。」
「遠坂、そんなこと…。」
「できるわよ。偽臣の書なんてもので一時的にライダーを使役しているだけなら、その本を燃やせばお終い。それぐらい分かるでしょ?」
「あ…。」
「ほんと、バカね…。」
「けど、仮に取り返したらどうするのです? 桜にも聖杯戦争をやらせるのですか?」
「それは、桜の意思次第よ。どうするの、桜?」
「わ、私は…。」
「いいんだ、桜。戦いたくないなら、戦っちゃダメだ。」
「先輩…。でも、私…。」
「ははーん…、さては士郎の手助けをしたいって思い直しはじめてるわね?」
「っ…。」
「だったら、なおさらライダーが必要じゃない?」
「……うん。」
「桜、おまえ…。」
「先輩…。私、私なりに先輩と肩を並べられるよう頑張りたいです! それに、私が勝っても、聖杯を先輩に渡せるし…。そしたら先輩の会いたい人に会える確率もグッと上がると思うんです。」
「……そっか。」
「では、決まりですね。」
「ああ。ライダーを取り返すぞ!」
目標は決まった。
***
翌朝、いつも通り登校する。
下手に妙な動きをすれば、こちらのことを悟られかねないので…、相手が本物の魔術師でなくても油断はできない。
しかし、やるべきことはやる。
「ここだ。」
「さすが、早いわね。」
士郎が学校の周囲に付けられた、ライダーの結界の仕掛けを見つけて、それを凛が破壊した。
「あー、もう何個あるのよ…、面倒くさいわね。」
「面倒くさがるなよ。これで、せめて学校内であの結界を使われないための予防になるんだから。」
「分かってるわよ。」
「あ、向こうにもある。」
「待って!」
次の仕掛けを見つけて足早に進む士郎を、凛が追いかけた。
「ちっ!」
二人が去った後、慎二が、壊された魔方陣を踏みつけて舌打ちをした。
「ここもかよ! クソ! おい、ライダー!」
すると、ライダーが現れた。
「これ、どいうことなわけ!? おまえの魔方陣ってさあ、あんな奴らに消されちゃう程度のもんなのか!?」
「……彼らの魔術は中々に強力です。特にあのアーチャーのマスター…。魔方陣の消去は防ぎようがありません。」
「ふん! たいしたことないんだな、サーヴァントってのもさ。」
「ですが、それでも結界発動のためには、魔力は着実に集めています。あと4,5日もすれば完全に準備は整います。」
「はあ! 4,5日だって!? ふざけんのかお前! それじゃあ、あいつらに先を越されるじゃないか!」
慎二はライダーを殴った。
「…兄さん?」
「っ…桜か。いや…待てよ…。」
「兄さん…。お願いがあります。」
「なんだ?」
「こんなこと…やめて。」
「はっ? 何言うかと思えばそんなことか? お前、見てたのか? なあ、ライダー。見られたからには口封じしないといけないよなぁ?」
「っ…。」
先ほどまでずっと冷静だったライダーが僅かにためらいを見せた。
「兄さん…?」
「悪いな。桜。お前にはまだ利用価値がありそうだ。」
「……申し訳ありません。桜。」
「あ…!」
次の瞬間、桜の後ろに回り込んだライダーが桜に当て身をして気絶させた。
桜の体を受け止めライダーが抱え上げた。
「さてと……。」
慎二はニヤリと笑う。
***
「遠坂!」
「どうしたの?」
放課後、下校する生徒達をかき分けて士郎が凛を捕まえた。
「これ…。」
「! アイツ…。」
それは、ボロボロに引き裂かれた桜のリボンと手紙だった。
「なるふり構わずってことね…。ここまで堕ちてるなんて…。」
手紙の内容は、明日までにすべての準備を整える、邪魔をするなら桜の命はないっと書かれていた。
「明日までですって? 結界の仕掛けもあらかた破壊したし…、っとなると、魔力を使って強引に発動させるしかないわね。でもその魔力は……。あっ。」
「遠坂?」
「なるほどね…。手っ取り早い方法があるわ。魔力をかき集める方法。」
「それは?」
「吸血よ。もっと言えば魂食い。血は、命を宿す魂の象徴。それを直接、大量に吸い取れば、あるいは……。」
「今度は、吸血か…。桜…。」
「桜も危ないかもしれないわよ。」
「なっ!?」
「今のライダーは、一時的とはいえ慎二の手元にある。おそらく魔力のパスだけは繋がってる状態なはず。なら、本来のマスターである桜から大量にギリギリまで魔力を吸い取れば……。あとは、結界を発動していっきに魔力を集めれば桜が回復するまで十分すぎるほどもつわ。今のライダーは、二つの令呪の強制力で慎二に逆らえないんだもの。」
「そんな…。」
「けど、桜を殺すことはないでしょうね。なにせライダーを保つには、桜が不可欠なはずよ。魂食いし続ければ、いずれ教会が黙ってはいないし、乱用は出来ないはずよ。」
「…くそぉ! 俺は…。俺は何のために力を付けたんだ! 恋人一人守れないで…。」
「士郎…。」
「くそっ!」
士郎は壁を殴った。するとミシッと拳が壁にめり込んだ。
もちろん…先生に怒られた。
***
翌日。
士郎は眠れぬまま夜を過ごし、朝を迎えた。
「シロウ…。心配なのは分かります。」
「行ってくる…。」
「シロウ、私も…。」
「いや、お前は目立つからな。」
「っ…。」
「…けど、もし何かあったら危ないから、近くの公園にでも待機しててくれ。ちゃんと私服でな。」
「! 分かりました。」
そして、士郎は、学校に行った。
授業は滞りなく始まり……。
別のクラスで、凛も警戒していた。
慎二は来ていなかった。
そして……。
あの時同様に、突然それは来た。
バタバタと倒れていく生徒や教師達。放課後と違い、たくさんの人間達が一斉に影響を受けた。
「遠坂! 来たぞ!」
教室を飛び出した士郎は、凛と合流した。
「ええ、分かってるわ!」
「屋上だ!」
「分かったわ!」
二人は屋上へ急いだ。
そして、屋上の扉を開けた。
「ハハハハ…、遅いじゃないか。」
「慎二!!」
士郎が怒りを露わにする。
慎二は一瞬、士郎の睨みと迫力にたじろくが、すぐに笑みを浮かべ直した。
「桜は、どこだ?」
「桜? ああ、あの絞りかすか。残念だったな、ここにはいないぞ?」
「桜を…返せ。」
「っ…、桜、桜、桜っておまえ…、他はどうでもいいのかよ! こうしてる間にもどんどん溶けていってるんだぞ!? もしかしたらもう誰か死んだかもな!」
「慎二…。」
ユラリッと士郎が一歩前へ踏み出した。
それだけで、ズシンッという音が聞こえるような錯覚がし、慎二はヒュッと喉がなり、思わず一歩下がった。
「ら、ライダーー!!」
「はい。」
「どけ!」
ライダーが両の短剣を握り迫る。すると士郎が筋肉のリミッターを解除し膨張させた。
「その筋肉…、確かにすごいですが。だが所詮は見てくれだけの筋肉。私のスピードには…。グハッ!」
「ライダー!?」
ライダーが、士郎の腕になぎ払われ、屋上のフェンスに衝突した。
「慎二……。」
「はっ…、え、衛宮…。ら、ららら、ライダー! は、早くしろ! コイツを殺せ!!」
ズンズンと慎二に迫ってくる士郎に、怯えきった慎二が必死にライダーを呼んだ。
「させると思ってるの?」
「ハッ!」
「アーチャー!」
フェンスから起き上がり、飛びかかろうとしたライダーと双剣を手にしたアーチャーが衝突した。
「あ、ああ、あああぁぁぁぁ…。」
「士郎。殺さない程度にね。」
「分かってる。桜の居場所を吐かさないとな。」
「さ、桜は…、間桐の家だ! そこの地下にいる!」
「…本当か?」
「本当だ! 本当だから…! だから、許してくれ! 頼む…、頼むよぉ!」
慎二が両手を組んで拝み倒すように頭を下げてきた。
士郎が止まる。
「……フッ、隙だらけだぞ!」
「!」
次の瞬間、パシンッと音を立てて、黒いかまいたちのようなモノが慎二の周囲に発生し、士郎を襲った。
黒い煙が舞う。
「は、ハハハハ! 僕のか…。っ!?」
だが煙の中から、士郎の手が伸び、慎二の顔を掴んだ。
「ぎゃあああああああああああああ!!」
ギリギリメリメリと、指が少し食い込み、アイアンクローによる激痛が慎二を襲い、慎二は、必死に士郎の腕をタップした。
「慎二…。誰かを殺す覚悟があるのなら…、殺される覚悟もあるんだろうな?」
「ひぎゃああああああああああああ!」
「おら? どうした? さっきの威勢はどうした? この程度の痛み…男なら耐えろよ。」
「じぬ…、じじじじ、ししし、死ぬ…!」
「シンジ!」
「隙を見せるな。」
「くっ!」
悲鳴を上げる慎二に気を取られたライダーの足を、アーチャーが切りつけた。
ライダーは、後方に跳び、そして、目を覆っていたベルトのような封じを外した。
「魔眼!? 士郎!」
「ん?」
「見ちゃダメ!」
「私を見なさい。」
「……。」
「? なぜ…効かない?」
士郎は、慎二を掴んだまま振り向く。そしてライダーの顔を見たが、まるで影響を受けていなかった。
「気をつけて! そいつの目は、石化の魔眼よ!」
「まがん?」
「そう、私は、メドゥーサ。呪われし、眼を持つ者。ゆえに、この目で見たモノすべては、石となる。…………………………はずなのですがね。」
「そりゃ、目も鍛えているからな。」
「…諦めなさい、ライダー…。ソイツ…目の筋肉も非常識だから…。」
凛は、石化の魔眼に抵抗しながら、泣きたくなりながらそう言ったのだった。
「仕方ありませんね…。ならば…。」
するとライダーが短剣を手にして、そして…自らの首に刺した。
大量の血があふれ出て、その血が宙に浮き、魔方陣が描かれる。
「士郎! マズい! 避けて!」
「!」
士郎は、慎二を離し、フェンスの端に投げて避難させた。その直後、魔方陣の中心から巨大な眼球のような力の塊が放出された。
士郎はそれを胴体で受け止めたが、屋上の床をめくれ上がらせながら、後ろに後退させられ、やがて軌道が上へとそれて、目玉は空の彼方へ飛んでいき、士郎は後ろへ飛ばされて倒れた。
「…ちきしょう。防ぎきれなかった。」
「アレを身体で防ごうって方がおかしいのよ…。」
アーチャーによって庇われた凛はとりあえずツッコミを入れた。
士郎の胴体の中心は、目玉を受け止めた跡が僅かに残っていただけで大きな怪我はなかった。
ライダーは、先ほどの目玉を発射した隙に、慎二を拾って逃げたようだった。
そして結界も、消えていた。
「なんとかなったわね。」
「桜を…迎えにいかなきゃ…。」
「無駄よ。」
「えっ?」
「きっと今頃、桜を運び出して場所を変えたでしょうね。」
「なっ…。」
「あんたが桜に固執していることは、イヤでも分かったでしょうから、向こうはなりふり構わず来るはずよ。例え、桜の命を盾にしてでもね。」
「!」
「いい? 学校の魂食いに失敗した今、次に魂食いをさせる場所は限られているわ。そこを目指せばいいのよ。」
「……ああ。」
「それより、怪我は? まあ…あんたならなんともないでしょうけど。念のためよ。」
「この程度…、桜の苦しみに比べればなんともない。」
「そう…。じゃあ、行きましょう。セイバーも連れてね。」
「ああ!」
そして、公園で待機していたセイバーと合流して、慎二を追うことにした。
後書き
このネタの士郎は、正義の味方じゃ無いけど、悪人には割と容赦なし。特に桜が絡むと……。
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