『魔術? そんなことより筋肉だ!』
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
SS5 イリヤちゃんとバーサーカーさん
前書き
イリヤとバーサーカーとの初遭遇。
バトル回。
教会をあとにし、帰る途中だった。
「もう、帰っちゃうの?」
「ん?」
可愛らしい少女の声が聞こえてそちらを見ると、美しい美少女がいた。
ロシアン帽を被っており、どこか異国情緒を感じさせる格好で、小柄だ。
「君、こんな夜更けに一人じゃ危ないぞ。」
「あら? 心配してくれてるの?」
すると、少女は、長いコートの両端を両手で摘まみあげ、どこかの令嬢のような上品にお辞儀をした。
「はじめまして。私は、イリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。」
「な、なんですって!?」
「知ってるのか、遠坂?」
「アインツベルンって言ったら、聖杯の入手を宿願とする魔術師の家系。毎回この戦いにマスターを送り込んできている奴らよ。」
「へ~。じゃあ、この子が今回のマスターってことか。」
「そうだよ。お兄ちゃん。だけどね…、わたし、聖杯より楽しみにしていたことがあるの。それはね……。お兄ちゃんを殺すこと。」
イリヤが無邪気に恐ろしいことを言った。
「俺を? どうしてだ? 君とは初対面のはずだ。」
「そうだね。私が一方的に知ってるだけだもんね。悪いけど、私この日を本当に待ち焦がれてたの。だから…念入りに殺してあげる! おいで、バーサーカー!」
次の瞬間、イリヤの背後に大きな人影が現れた。
「なっ!」
それは、巨人のごとき筋肉と巨体を持つサーヴァントだった。
「ふふ。驚いた? ボーッとしてるとすぐ…、バーサーカー?」
「ふ……ふふふふ。」
「? お兄ちゃん? 何がおかしいの?」
「こいつは……、とんでもない強敵だぜ! あんた、俺が言うのも何だが、すごい英雄だろ?」
「ええ。そうよ。」
「なんで、君が答えるんだ?」
「バーサーカーはね。狂化で、言語が喋れないのよ。」
「なるほど…。その強者の力! ぜひ! 俺にぶつけてくれないか!」
次の瞬間、士郎は自身のリミッターを解除した。筋肉がありえないほど膨張し上半身の服が破れる。
「! すごい……。」
一瞬驚いて目を見開いたイリヤだったが、すぐに感動したように声を漏らした。
「ちょ、ちょっと、士郎!?」
「ダメです、相手は…!」
「行け、バーサーカー! お望み通り相手をしてあげなさい!」
イリヤの命を受け、バーサーカーが咆吼し、突撃してきた。
セイバーが剣を抜いて構えるよりも早く、士郎が動き、振り下ろされる斧剣を回避して懐に飛び込み、バーサーカーの腹にタックルをかました。
バーサーカーの巨体がわずかに浮き、後ろに飛んだ。
体制を整えたバーサーカーが再度、斧剣を振り下ろした。
「はあああ!!」
士郎が右手の拳に気合いを込めて振ると、斧剣が砕け、そのまま右手の拳がバーサーカーの顔にめり込み、吹っ飛んでいった。
「ば…、バーサーカー!!」
「っっ、てぇーー、ちょっと切れた。斬れ味悪くないんだな、見た目に反して。」
「ちょっと切れただけですまないわよ、普通は!!」
プラプラとちょっと表面が切れて、流血している右手をプラプラさせる士郎に、凛がツッコミを入れた。
少し間を置いて、バーサーカーがムクリッと起き上がった。それと同時に根元近くまで砕けていた斧剣が元通りに治った。
「あれ? なんで直るんだ?」
「あれは、おそらく宝具です!」
「あー、なるほど、セイバーの剣と同じか。どうりで、斬れ味半端ないわけだ。」
「いやいやいやいや! その斬れ味で、ちょっとだけの怪我ですませてる、あんたがおかしいのよ!!」
「シロウ! 下がってください! ここは私が!」
「いいや! これは、俺の挑戦なんだ! おまえが下がれ、セイバー!」
「うっ…。」
その瞬間令呪が発動してしまい、セイバーが後ろへ飛び退いた。
士郎は、セイバーが下がるやいなや、再び突撃してきたバーサーカーと衝突した。
「おおおおおおおおおお!!」
バーサーカーが斧剣を捨て、素手で士郎とやり合う。大きさの違う拳がぶつかり、時に殴り、殴り返し、いつ終わるか分からない喧嘩だった。
「すごい…、すごい、すごいすごーい! お兄ちゃん、すごいんだね! 私のバーサーカーと真っ正面から戦えるなんて! …気が変わったわ。バーサーカー。引きましょう。」
「えっ? あ、ちょっ、ま…。」
バーサーカーが急に止まり、イリヤの傍に行ってイリヤを抱き上げた。
「お兄ちゃんのこと見直した! だから、殺さないでいてあげる。また、次会おうね!」
「待てよ! まだ勝負は!」
「ごめんね…。さっき連絡が入ったの。帰ってきなさいって…。だから本当にごめんね。」
「…次…、また戦ってくれるのか?」
「もちろんよ。バーサーカーもいいよね?」
イリヤが聞くと、バーサーカーは、静かに頷いた。
「ありがとう、バーサーカー!」
「じゃあね、お兄ちゃん。」
士郎は、バーサーカーにお礼を言い、イリヤはバーサーカーと共に去って行った。
そして静寂がおとずれた。
「信じらんない……。」
「なにが?」
「真っ向からバーサーカーとかち合うなんて……、あんたいよいよ人間止めたわね…。」
「俺は人間だぜ?」
「あーーーー! もう! あんたに常識を求めた私が悪かったわ! この非常識筋肉!! あとついでに貴重令呪も使っちゃって……。もう!」
「はっ?」
「右手見なさいよ! 甲の方を!」
「あ…、ちょっと消えてる。」
「いい? 令呪は、三回までサーヴァントを絶対服従させられるマスターの特権なの。それが全部無くなったら、それで終わり。サーヴァントとの繋がりが無くなって、聖杯戦争から脱落よ。」
「なんでそれを早く言わないんだよ!」
「あんたが勝手に使っちゃったんじゃない!」
「使った覚えはない!」
「いいえ…、無意識ですが使ってしまいました。自分が相手をするから、下がれと。」
「そんなことでもかよ。」
「普通はね…。サーヴァント同士の戦いは、サーヴァントに任せるの。それをマスター自身が前に出て戦うなんてあり得ないのよ。聖杯が欲しいなら気をつけなさい。」
「…でも。」
「でももだってもじゃないわ! これは、魔術師が英霊を使ってやる戦いなのよ。」
「けど、俺…、アイツ(バーサーカー)とはもっと戦いたい! 筋肉魔法を極めるためにも!」
「……もう、勝手にしなさい。」
士郎が話を聞かないと理解した凛は、ため息と共にそう言って手を振った。
「私では、役不足なのか……。」
セイバーがひっそりと項垂れていた。
「いやいや、別にセイバーに頼ってないわけじゃないぞ? けど、これから先、バーサーカーとは俺が戦うからさ。ところで、さっきから遠坂のとこのアーチャーって奴が、俺を狙ってるんだけど?」
「えっ? あ、ほんとだ! アーチャー!!」
「な……なぜ気づいたんだ?」
離れたビルの上にいたアーチャーが驚いて手にしていた弓矢を下ろした。
殺気は隠していた。だが気づかれた。
その理由について士郎は……。
「目も鍛えているからな!!」
っと、言った。(※実際、目にも筋肉はある。まぶた、外眼筋、内眼筋など)
「こ、この…非常識筋肉バカ…。」
凛が、クッ…と余所を見て泣いた。
後書き
『魔法?そんなことより筋肉だ!』のユーリの……目も鍛えているからだ!っという言葉のパワーワード。
あれで、はじめて目が筋肉だと知った。
ページ上へ戻る