リュカ伝の外伝
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バレンタイン・キッス
前書き
バレンタインに因んだ
ハートフルなエピソード。
リュカ伝3.8の前の出来事と思い読んでください。
(グランバニア城・近衛騎士隊長室)
『2月14日はバレンタインデー♥
マリー&ピエッサは、日頃の感謝を込めて
2月14日バレンタインコンサートに来てくれた皆様に
手作りのチョコレートを手渡しするわよ♡
みんなこぞってコンサートに来てね❣』
「…………なんですか、これは?」
「読んで解るでしょぅ……バレンタインデーにコンサートして、そん時にチョコを配るのよ」
ここはグランバニアの近衛騎士長を務めるラングストンのオフィス。
王家の中枢に関わる職務なだけあって、それなりに重要な機密事項も扱う者の執務室だ。
そこにノックもせずに勝手に入ってきて、出来たてっぽい手書きのポップを見せつけるマリー……
部屋の主も怒鳴る訳でも無く冷静に質問を返す。
密室で男女が顔を近付け会話をする……傍から見ればイチャついて見えない事も無い。
「……なるほど。コンサート会場はいつも通り城内カフェを使用するのですね。となると……収容人数120人。テーブル等を取り払いギュウギュウに詰め込めば160人は入れるでしょう。チョコの量も膨大ですね……大変そうだ(笑)」
「その分~お金もぉ~いっぱいよ♥」
自分の行動が無礼であると微塵も感じてない少女は、満面の笑みでゲスい事を言う。
聞いてる近衛騎士隊長も慣れた感じで笑顔で返す。
そして少しずつ確信へと近付くのだ……
「いやぁ~……しかし手作りとは。どの辺から手作りなのですか? カカオの実から手作りするんですか? 詳しい事は知りませんが、今からでバレンタインデーに間に合いますかねぇ?」
「やだぁ~、ラン君がそうしたいのなら構わないけど、バレンタインデーには間に合わせてよね」
「おや? 何故に私の意見が関係するのですか? 私は無関係ですが……」
「も~う……何言ってんのよぉ。ラン君がチョコを作るんでしょう。まぁ市販のチョコを一旦溶かして固め直せば、それで手作りって言い張れるから問題ないわよ……何もカカオの実から作らなくても」
「変ですね……『マリー&ピエッサの手作りチョコ』と書いてあるではないですか。私が作っては詐欺になりますよ」
「おいおい、よく見ろよ。何処にもマリー&ピエッサの手作りなんて書いて無いだろ。『手作りのチョコレートを手渡しする』と書いてあるだけで、手作りしたチョコレートを渡すとは書いて無い。詐欺じゃないわよぉ!」
「いやいや、この文面から察するに誰もがマリピエが手作りした物だと考えるでしょう。間違いなくそれを狙ってるのでしょうから、これは詐欺にあたりますよ」
「如何思うかは受け取る方の勝手だろ! こっちは微塵もそんな事を書いてねーんだ。詐欺じゃねーし!」
「酷い言い分だ。ファンが聞いたら何というか……」
「うっせーな、いいから作れよチョコ。料理好きなんだろ!」
人に物を頼むとは思えない態度……これがマリーのスタンダードです。
「誤解があるようですが、私は料理が好きなのではありません。好きな人に作る料理が好きなんです。そうリュリュさんにね!」
「だったらリュリュ姉にも作れば良いだろ。そんくらいの材料費が増すのは許してやるよ!」
「何でこの期に及んで上から目線なんですか!?」
「そんなの当たり前「マリーちゃん!!」
口論が泥沼化しそうになった時、そこに現れたのはマリーの相方ピエッサ。
「こんな馬鹿な企画、通るわけないでしょ! ラングストン閣下に迷惑をかけないでちょうだい!」
「迷惑じゃねーし」
「いえ大迷惑です」
「それにこんな国家機密満載の場所に、無断で来ちゃダメです!」
「あぁピエッサ殿、その点は問題ありません。ここにある機密事項は王家に深く関わっている方々には知られても大丈夫な物ばかりですから。だからマリーさんは元より、貴女も既に深入りしておりますよ(笑)」
「ヒ、ヒィィィ! い、嫌です……深入りなんてしたくありません! そ、早々に出て行きますから……何も見てませんから!!」
「あ、ちょっと……引っ張んないで……ま、まだ話が終わって……お、憶えてろよ、ウルフに言いつけてやるかんな!」
こうしてマリーはピエッサに引っ張られながら捨て台詞と共に近衛騎士隊長室を後にした。
(グランバニア城内・廊下)
「んもう……交渉の邪魔しないでよね!」
「何が交渉よ。どうせ我が儘をぶつけてただけでしょ」
流石は相方。見て無くても見てたかの様に解るのですね。
「いいもん。それならウルフに言いつけるだけなんだから」
「またぁ……宰相閣下を巻き込まな……って、話を聞いて!」
マリーの次なる計画に溜息でダメ出ししようとするも、時既に遅し。大きな胸を揺らして宰相閣下の執務室へと駆け出していたマリー。
そしてそれを慌てて追いかけるピエッサ。
だが以外にマリーの足が速く、追いつく事無く舞台はグランバニア王国宰相の執務室へ……
(グランバニア城・宰相兼国務大臣執務室)
「ウルえも~ん、ジャイアストンがいじめるんだよぉ~~~」
相も変わらずノックなしで乱入するマリーに、周囲の者も呆れ顔。
だが部屋の主であり、乱入者の目的の人物たるウルフ宰相は微動だにせず、執務机に置かれた書類から目を離さない。まるでマリーの存在に気付いてないかの如く、書類を読み署名をしている。
「はぁ……はぁ……マ、マリー……ちゃん……ぜぇ……ぜぇ……」
遅れて登場した相方ピエッサ……
激しく息切れしている様子。
「あ、あのピエッサさん……飲みかけですけど、良ければどうぞ」
「ど、どうも……(ゴク、ゴク、ゴク)ぷはぁ~!! あ、ありがとうございますユニさん」
その哀れさに宰相閣下の秘書の一人であるユニが、自分が飲んでいたアイスティーを差し出した。
「と、兎も角マリーちゃん! もう我が儘を振りまかないで」
「我が儘じゃねーし! 当然の訴えだし!」
この場に居る誰もが我が儘である事を理解している……話の流れが見えて無くても。
しかしそんな中で宰相閣下だけが手を休めずに職務を遂行している。
集中しすぎて周りの状況に気付いてないんじゃ無いのかと思うほど。
「ねぇちょっとウルフ……聞いてる!?」
「あ!? 俺に話しかけてたのか……?」
「そりゃそうでしょ。私がここに来て訴えを起こしてるんだから、当然ウルフに話してるに決まってるじゃない!」
「俺もそう思ってたけど……お前、入ってくるなり『ウルえもん』って叫んだじゃん。だから俺じゃ無いと思ったんだよね。俺“ウルえもん”じゃないし」
「いや……あれは……ネタじゃん!」
「寝てないよ。起きてるよ」
「寝た・寝てないじゃねーよ!」
如何やら宰相閣下は彼女の存在に気付いては居たが、無視を決め込むつもりだった様だ。
「それで……如何した?」
「うん、あのねぇ……」
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「……って訳なのよ! ウルフからガツンと言ってやってよ!」
「そうかぁ……ラングストンの奴、困ったもんだな!」
「でしょでしょ!」
訴えの内容を聞き周囲の者が呆れかえる中、宰相閣下だけが真剣に悩んでいる……風に見える。
「何とかしてやりたいのは山々なんだが、アイツは俺の直属の部下じゃない。なんせ国王直属の近衛騎士隊長だ。直属の上司に訴えろ……今なら執務室に居るから」
そう言うと爽やかな笑顔で“シッシッ”と手を振り退出を促す。
「ちょっと……ウルフはこの国のナンバー2なんでしょ! ラン君くらい何とかしてよぉ」
「そうなんだ……俺ナンバー2だから、ナンバー1には逆らえない。ナンバー1の直属の部下に命令なんてとても……何ならナンバー1を呼び出してやろうか?」
普段は直属関係なく命令してるくせに、こういう時だけ上下関係を強調する宰相閣下。
流石は姑息さナンバー1……更に自身のMHを取り出し見せつけ追い打ちをかけた。
「「ちょっ!!」」
それを聞いていたピエッサを始め周囲の連中が、ここにそんな理由で国王を呼ばれては堪らんと、慌ててマリーを外へと追い出した。
流石にマリーも父親に説教されたくないので、誰かの手作りのチョコレート手渡し企画は諦め、無難にメッセージカードを配布するだけに止まったという。
後書き
肺の手術一周年に相応しいエピソードですね。
サブタイトルの『キッス』は無視してください。
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