徒然草

百五．北の屋蔭に

百五．北の屋蔭に
　日が当たらない北向きの屋根に雪が残っていて凍っていました。その下に停車るす牛車の取っ手にも霜が降りそれがきらきらと輝いています。明け方の月が頼りないように光って時折空の雲の中に隠れてしまっています。人目を離れたお堂の廊下においてかなりの身分と思われる男が女性を誘ってそのうえで二人並んで柵に腰掛けて語り合っています。一体何の話をしているのでしょうか。その話は終わりそうにもありませんでした。御二人共その話に没頭しています。そのまま何時終わるともなく続いています。
　その女の人の顔形が月明かりの中で美しく光り、ここにまでたまらなくよい香りを漂わせてくれています。聞こえるその話し声が時々こちらにまで届いてきているのがこれまたくすぐったく思いました。
　こんな冬のある日の明け方のことでした。寒く凍てつくような中でありましたしいるのは辛いものがありましたけれどそれでもこの様な幻想的な風景を見ることもできました。何のお話をしているのかまでは詳しくは聞き取れませんでしたがそれでもこうした美しい風景を見ることができたのは有り難いことでした。思い出しても心地よいものがあります。冬は確かに凍えますがそれでもこうしたものを見られることができます。まことにいいものでありました。冬の寒さに耐えながらも美しいものを見ることができます。明け方の雪と月、その中で語り合う人々。一度こうしたものを御覧になられれば決して悪い思いはしないということも御承知頂ければ何よりです。


北の屋蔭に　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００９・８・２７