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ロックマンX~Vermilion Warrior~

作者:setuna
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第6話:Lunch time

ハンターベースの司令室ではエックスがモニターに映るエリアを睨んでいる。

ルインはそんなエックスを見て、明らかに肩に力が入っていると思った。

人間が緊張することで能力が引き出せないように、レプリロイドも性能をフルに発揮出来ない。

だからこそ、ここで緊張を解さなければならないとルインは行動に移すことにした。

「エックス…」

「ルイン?どうしたんだ?」

「あのね…」

普段は戦闘時にしか見せない真剣な表情でエックスを見つめるルインにエックスも表情を引き締めた。

「準備まで時間かかるし、それまでにお昼ご飯を済ませようか♪」

「は?」

一体どんな言葉が出るのかと思えばただの食事の誘いだった。

ルインはエックスの返事も待たずに自身の部屋に引き摺っていく…。

そしてルインの自室に引き摺られたエックスは初めて入る女性の部屋に緊張した面持ちで辺りを見回した。

何故なら基本的に集まるのはエックスかゼロの部屋だからだ。

話で聞いていたようなファンシーグッズで囲まれたような部屋ではないことにエックスは胸中で安堵した。

きちんと部屋は整理されている殺風景な部屋だが、デスクの上には工具が(武器のチェックだろうか?)転がっていた。

棚にはゲーム類と今では珍しい紙媒体の書物の小説という物があり、小説はケイン博士から貰ったと教えてくれた。

「エックス~、お昼ご飯はレーションでいい?」

「ル、ルイン…こんな時に食事なんて…」

「…こんな時だからだよ」

エックスが部屋に備え付けられているキッチンの棚からハンターベースのレーション(糧食)を取り出そうとするのをエックスは止めようとするが…。

ルインはレーションを取り出しながら冷静に言う。

「こういう緊急事態だからこそ、何時もより冷静でいなきゃいけないんだよ。戦場で冷静さを失ったら負けだよエックス?」

「だけど…」

今、この瞬間にも傷付いている人々がいると思うと食事どころではないとエックスは思う。

あの時、自分がシグマを撃つことが出来ていたらこんなことにはならなかった。

皆はあのシグマ相手によく破壊されなかったと言ってくれたが、自分の甘さが招いたことへの後悔は晴れなかった。

「エックス」

ルインの手がエックスの肩にポンッと置かれた。

自分よりも小さく細いこの手は自分が本気で握ってしまえば容易く砕けてしまいそうに思える程小さい。

しかしエックスは知っている。

彼女はこの手で沢山のイレギュラーを屠り、人々を守ってきたことを。

「ルイン…」

「シグマのことなら気にしないで…私も気付けなかったし…他のハンター達も気付けなかったんだから…エックスだけが責任を感じることはないよ」

「でも…あの時……あの時俺がシグマを撃てていたら…」

「…………」

ふと、エックスの脳裏を過ぎるのは反乱軍の爆破テロのために子供を助けて瓦礫の下敷きになり、機能停止してしまったレプリロイドの瓦礫の近くで子供が泣いていた姿だった。

自分を助けてくれた彼のために、子供は顔をぐしゃぐしゃにしながら大きな声で泣いていた。

エックスは泣きじゃくる子供を背負って、彼の両親の元へと送った。

この子を生かした彼の優しさがとても尊く、この子の流した涙がとても悲しいと思えたから。

「エックス、私達レプリロイドだって完全じゃないんだよ?何でも背負おうとしないで」

「……でも」

「もしエックスが迷わずシグマを撃っていたらシグマと一緒にゼロも死んでいたよ」

ゼロからミサイル基地での出来事を聞いていたルインは戸惑うこともなくエックスに言う。

「…っ」

ルインの言葉にエックスは思わず閉口してしまう。

「何が正しくて、何が間違っているのかは…私にも分からない…。けど私はシグマのしようとしていることは間違っていると思う。エックスは違うの?」

「そんなわけないじゃないか!!」

ルインの言葉にエックスは思わず声を荒げた。

確かにシグマの言う通り、犠牲の無い進化など確かに無いかもしれない。

種として生きるには、進化は確かに必要な物なのかもしれないが、エックスは流された血に触れて流された涙を前にしたことで分かるのだ。

言葉には出来ないが分かるのだ。

こんなことは間違っていると心が叫んでいる。

「それが分かっているならいいんじゃないかな?」

「え?」

ルインの言葉にエックスは目を見開き、そんなエックスをルインは優しく見つめた。 

「心がこんなことを“違う”と、“間違っている”と言っている。それでいいんじゃない?多分こういうのは理屈じゃないんだよ」

「…………」

「エックス、私達は戦わなきゃいけない…そして勝たなきゃいけないんだシグマに。それが、私達のミスで死んでしまった人々やレプリロイド達に出来る唯一の償いだと思うから」

「…そう、だな……」

「大丈夫だよエックス、君は1人じゃない。ゼロやケイン博士…私だっているんだからね」

ルインが笑みをエックスに向けると、エックスもルインに笑みを返した。

「よし、それじゃあご飯だね♪ハンターベースのレーションだけど食べよう。あんまり美味しくないけど」

レーションの加熱も丁度終わり、ルインはレーションを取りに向かう。

「そうだね、頂くよ」

ハンターベースでは賞味期限の切れる半年前に新品のレーションと交換する際、古いレーションをルインを含めたハンターが食事代わりに少し頂いていくのだ。

ハンターベースのレーションは弁当のようなタイプで付属の粉末飲料を水で溶かしてテーブルに置き、過熱したレーションを置く。

中身はライスにチキンステーキ、ベジタブルミックス、ドライフルーツ入りの小さなケーキであった。

見た目はかなり豪華だが、しかしレーションの肝心の味にルインは顔を顰めた。

「う~ん、やっばりハンターベースのレーションはあんまり美味しくないな…レプリフォースの方が美味しいよ」

「レプリフォース?レプリフォースって確か最近創設された軍隊だったよな?そっちではどんな物なんだ?」

「向こうは太古の保存食品の缶詰だよ。保存状態も味もこっちとは比べものにならないね」

“太古の保存食品”のために生産減少の缶詰だが、レプリフォースにいる友人に勧められて食べてみると味はちゃんとしていたし、鮮度も保たれていた。

レプリフォースは缶詰の保存性の高さを信用しているのだろう。

それに比べたら、ハンター機関のレーションは不味いの一言だ。

しばらくしてレーションを食べ終えたルインはあることを思い出した。

「そうだエックス。いい物が手に入ったんだ。今から淹れるね」

ルインは食べ終えたレーションの容器を片付けると、キッチンに向かうと、何かを取り出すような音とそれを置くような音が聞こえたかと思うと。

がりがりがり。

耳慣れない音がキッチンから響いてきた。

「何をしてるんだ…?」

エックスは疑問符を浮かべるが、ルインが淹れるのだから問題はないだろうと、エックスは何が出るのかを楽しみにしながら待つ。

「エックス、お待たせ」

2つのカップを持ちながら、ルインはエックスにカップを1つ渡した。

エックスの目の前に重厚な琥珀色をした飲み物が、香ばしい香りを湯気と共に発していた。

「え?ルイン…こ、これはもしかして…珈琲…?」

「そうだけど?」

「…凄いじゃないか、ルイン。この珈琲は豆を使った本物だろう?ある種の木の根を使った物でもなく」

エックスの瞳が感嘆に見開かれる。

今の時代、こういう嗜好品は殆ど存在しない。

例えば珈琲ならある種の根を使った代用珈琲ですら年々深刻化する環境の悪化の影響で入手は難しい。

エックスは映像ではない実物の珈琲に驚いた。

「えへへ、驚いたでしょ?エックスは実物の珈琲なんて見るの初めてじゃない?」

「ああ」

「それにしても、思ったより随分手間が掛かっちゃった。待たせちゃってごめんね?」

「いや、構わないさ。珈琲豆を挽いている音を聞くのも新鮮で良かったよ。それにしても本物はこんなにもいい香りがするなんて…だけど道具を揃えるのも大変だったんじゃないのかい?」

嗜好品の殆どが存在しないのだから、その道具を集めるのは大変だっただろうに。

「えっと…コーヒーミルと、ドリップ用のフィルターはケイン博士から貰ったの」

「ケイン博士から?じゃあ珈琲豆はどういう経路で入手を?」

「レプリフォースにアイリスっていう知り合いがいるの。レプリフォースの研究所で作られた豆を分けてもらったんだ。」

「ルイン、君って結構友好範囲広いよね…」

「そう?ゼロだってレプリフォースに知り合いがいるし、普通じゃないかなあ?」

「はは…それにしても凄いな…映像じゃない本物の珈琲を見るだけじゃなく飲めるなんて…ありがとうルイン。」

「どういたしまして♪砂糖とミルクもあるから入れたくなったらどうぞ♪私は早速カフェオレにして飲むけど」

そう言うと、ルインは自分の珈琲に砂糖とミルクを入れて一口飲んだ。

「ありがとう…」

礼を言ってエックスも珈琲を一口飲むと苦くて柔らかい風味が口の中に広がる。

「どう?」

「美味しいよ。本当にありがとうルイン」

尋ねて来るルインにエックスは口元を綻ばせ、彼女の思いやりに身も心も温かくなったような感覚を覚える。

「エックス」

「ん?」

「一緒に頑張ろうね」

「ああ、必ずシグマを倒そう…それと、ルイン」

「何?」

「平和になったら俺とゼロと君の3人で一緒にこれを飲もう」

エックスの提案にルインは面白そうに笑う。

「そうだね!!ゼロだけ仲間外れなんて可哀相だしね。珈琲ならゼロも飲めるだろうし、ハンターベースの屋上がいいかな?それとも…」

「誰もいない静かな野原でするのもいいかもな」

「うん」

エックスの微笑にルインも満面の笑みで返した。

平和な世界で一緒に今度はゼロを含めた3人で一緒に贅沢なお茶をしようと約束した。

そして昼食を終えて司令室に入るとケインと金髪とピンクのアーマーが特徴的な女性型レプリロイドがいた。

レプリロイド工学員の制服とも言える白衣を纏っていることから研究者であることは分かる。

「誰だ…?」

「え?エイリア!?何でここにいるの!?」

エックスは見慣れない女性型レプリロイドに戸惑うが、彼女の姿に思わず目を見開くルイン。

「ルイン!?良かった…あなた無事だったのね…まさかこんなことになるなんて思わなかったけど…」

「そりゃあね…エイリアも無事で良かったよ…あ、エックス。彼女はエイリア、私がケイン博士と暮らしていた頃に出会って、妙に気が合って友達になったの」

「そ、そうなんだ…えっとよろしくエイリアさん」

「エイリアでいいわ。私はこれから臨時オペレーターとしてあなたとルインをサポートすることになったから、あなたともある程度親しくなった方がいいと思うし」

「へー、臨時オペレーター…臨時オペレーター?えええええええっ!!!?」

司令室にルインの叫びが響き渡り、エックスとエイリアは耳を塞いでしまうが、構わずにルインはケインに問い詰める。

「おお、ルイン。どうしたんじゃ?」

「どうしたもこうしたもありませんよ!!どうしてイレギュラーハンター所属じゃないエイリアが…」

「うむ…お主の言うことは尤もじゃが、シグマの反乱の際にシグマに賛同した者の中にはオペレーターも含まれていてのう。人手が足りんのじゃ…エイリアの優秀さは知っておったからのう。彼女が此方への連絡を担当した時に頼んだんじゃよ」

「そうなんですか…」

「私なら大丈夫よ。とにかく、これからよろしくね」

「うん、お互い頑張ろうね」

「協力に感謝するよ。ありがとうエイリア」

臨時オペレーターであるエイリアとの会話もそこそこにエックス達は出動した。 
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