| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ロックマンX~Vermilion Warrior~

作者:setuna
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第4話:THE DAY OF Σ Ⅱ

エックス達とは別行動をし、ハッキングデータを持って逃走中の犯人を追うルインは朱色のチェバルに乗りながら街を駆け抜ける。

「…………さて、犯人は一体何をしようとしているのかな…?」

日に日に前世の記憶が薄れてきているルインにはもうこれから先に起こる出来事を殆ど思い出せない。

殆ど知識なしの状態でこれからは行動しなければならないのは辛い。

「こう言うどさくさ紛れにやれることは多いけど…」

誘拐、暗殺、機密奪取、侵入及び潜入、密入国etc.…。

この世界の歴史を紐解くまでもなく、混乱に乗じて己の利を貪る者は後を絶たない。

「他の隊との連絡が取れないのも気になるね。問題は犯人がここまでして狙うものが何なのか…」

犯人の狙いが分からず、頭を悩ませている時にルインにシグマから通信が入る。

『ルイン。』

「あ……シグマ隊長。申し訳ありません。犯人の行方は依然として…」

『いや、そうではない。お前と個人的な話がしたい』

「?…はい」

ルインは疑問符を浮かべながら道端にチェバルを停車させるとシグマとの通信を再開する。

『ルイン、お前はイレギュラーをどのように思っている?』

「え?」

突然の問いに首を傾げるルインだが、シグマは気にせずに話を続ける。

『上層部の人間はロボット三原則を取り戻そうと躍起になっていることを知っているな?“レプリロイドは人間に奉仕するべき”だと、そのためにイレギュラー発生率を抑えるために思考回路等の簡略化も言い出している』

「は、はい。それは知っていますが…」

昔、レプリロイドがロボットと呼ばれていた時のようにレプリロイドは人間に奉仕し続けるべきだと言う者も少なくはない。

そのためには今の人間のような思考能力を持つレプリロイドでは色々と都合が悪いのだろう。

それを聞いたゼロとVAVAは呆れ、エックスは悲しげにしていたのをよく覚えている。

『しかしDr.ケインはレプリロイドには可能性があると言っていた。それが何なのか…。他のレプリロイドよりも人間と似た思考回路を持つお前なら分かるかもしれないと思ってな』

「…ケイン博士のその話なら私も聞いたことがあります。イレギュラーを含めてその可能性を考えるなら……イレギュラーの方に可能性があるのでは?」

『ほう?』

「レプリロイドのイレギュラー化は電子頭脳の故障、プログラムのエラー、ウィルスなどがありますが、過度なストレスや不満がイレギュラー化の原因でもあります。人間で言う反抗期…ですかね?それは人間の成長の過程に必要なもの…イレギュラー化はそれに似たようなものでは?…と、イレギュラーハンターの私が言うような言葉じゃないですね」

『いや、大丈夫だ。参考になった。引き続き調査を続行してくれ』

「了解」

シグマとの通信を切ると再びチェバルに乗り、調査を続行する。

そして間もなくルインの元に本部のオペレーターから緊急通信が飛び込んできた。

『ルイン!!聞こえますか!?こちらハンターベース!!』

「どうしたの!?」

モニターに映し出されたオペレーターの焦ったような表情からただ事ではないと言うことを察したルインは表情を引き締める。

『留置されていた元イレギュラーハンターVAVAが脱走しました!!』

「VAVAが脱走!?」

『直ぐに現場に急行してください!!エックスとゼロもそちらに向かいました!!』

「っ…了解」

ルインは方向転換すると、チェバルを加速させ、ハンターベースに存在する地下の独房に向かう。

そしてハンターベースの独房に着いたルインは惨状を前に一瞬言葉を失った。

倒れている看守達はどれも急所を一撃でやられている。

「これ、一体…誰がやったの…?どれも急所を一撃…VAVAじゃない。丸腰のVAVAにはこんなこと出来ない…。恐らく、例の事件の犯人と同じ奴……」

静かな独房でルインの声が響く。

犯人の狙いが何なのか?

何故こんなことをするのか?

様々な疑問が尽きない中でルインの元にオペレーターから通信が入る。

『こちら本部。ルイン、応答願います』

「…こちらルイン」

『やっと通じたわ…コードの発信源を突き止めたわ。北西部のミサイル基地からよ』

「…他の部隊に通達は?」

『既に通達を送るも応答は無いわ。エックスとゼロは既に向かいました。至急確認に向かって…それと…シグマ隊長と連絡がつかないの』

「え…?」

ルインは再び、倒れ伏している看守達を見遣る。

倒れ伏している看守達は全て急所を一撃で仕留められており、ルインのように高出力のビームサーベル系統の武装を所持している者は戦闘型でも少ない。

持っていたとしても量産型でも扱える低出力のバッテリー式のビームサーベルだ。

ビームサーベル持ちでこれ程の戦闘力を持つレプリロイドは自然と限られてくる…。

「まさか…とにかくミサイル基地に急ごう。早くエックスとゼロと合流しないと!!」

そこでは悲劇が待っていることを知らないルインは嫌な予感を感じながらミサイル基地に向かうのだった。

そしてミサイル基地に向かう途中、轟音が聞こえ、空を見上げると基地の全てのミサイルが発射されていた。

「何で!?どうしてミサイルが発射されているの!?」

困惑するルインだが、ミサイルはそのままシティ・アーベルに向かって行った。

「先に基地に向かったはずのエックスとゼロはどうしたの…!?」

ミサイル基地には既にエックスとゼロが向かっていたはずだ。

それなのに何故ミサイルが発射されたのか?

目的地に到着したルインはチェバルを停めるとミサイル基地の中に入っていく。

バスターを構えながらしばらく探し回ってようやく辿り着いた場所は低く唸る装置の稼働音と微かな粉塵が舞う薄暗い室内。

動かないエックスとゼロ…そして室内のコントロールシステムのコンソールの前には、静かに立つ自分の上司。

「…シグマ隊長。あなたはエックスとゼロに何をしたんですか?」

バスターをシグマに向けながら、ルインは怒りに満ちた声音で尋ねた。

シグマにとってルインはエックス、ゼロに続いて戦いの始まりを告げる為の客人でもあった。

彼女で3人目…最後の招待客である。

「ふむ、少しばかり遅かったようだな…街は壊滅しているか?ルイン」

「……シグマ隊長、ええ…あなたがミサイルを撃ったせいで…街は酷い状態ですよ」

「ふっ…そうか」

笑みを浮かべるシグマに苛立つが、ルインは何とか怒りを抑えてバスターをセイバーに切り替えると、セイバーのチャージをしながらシグマに狙いを定める。

「……今はあなたに聞きたいことが山程あります。ミサイル発射以外にも犯人グループの殺害、メカニロイドの暴走やVAVAの脱走の手引きもあなたの仕業ですね?」

「ほう?何故分かる?」

「犯人の戦闘力。それから高出力のビームサーベル持ちとなれば犯人は限られてきます。しかもどれも急所を一撃…そんなことが出来るのはあなたくらいですよ」

「ほう?流石はルインと言うべきか…最近はエックスの補佐ばかりしているから腕が落ちたのではないかと危惧していたが、その様子では、安心できる。」

「常日頃にトレーニングしているのでご心配なく…隊長、あなたの目的はなんですか?人類に反旗を翻し、レプリロイドの理想境でも創ろうとでも?」

「そうだな、それも私の目的の一部ではあるが…“我々”の為だと言うのが一番近いだろう」

「…?」

「ルインよ…お前はこの現状をどう思っている?」

「現状?何の現状ですか?イレギュラー化したとは言え、曲がりなりにも偉大な科学者であるケイン博士の最高傑作なら少しはマシな質問をされたらどうなんですか?」

吐き捨てるように挑発するが、しかしこの程度の挑発に乗るような相手ではないことはシグマの部下であったルインにも分かっている。

エネルギーのチャージを終えたことを確認するとセイバーを構えるルイン。

「ふむ…記憶を持たないお前にこの世界の現状が分からないのも無理はないかもしれんな。ルインよ…現在戦闘で戦うのは人間ではなく我々だ。戦場に人間がいたとしても僅かな、一握りの技術者だけだ。事実、イレギュラーハンター関係者の人間の犠牲は少ない。人間達に造られた我々は、毎日のように破壊され続けられている。これについてはどう思うかねルイン?」

「っ…それは、仕方がないのでしょう?私達レプリロイドはエネルギーが続く限り人間が活動出来ない場所…例えば水中でも活動が可能です。人間の肉体と私達のボディとでは耐久性だって雲泥の差があります。なら、人間では手に負えないところを私達が補い、私達に出来ないことを人間がやる。人間の代わりとなって私達レプリロイドが働くのは当然です。」

人間では太刀打ちできないイレギュラーへの対策組織として“イレギュラーハンター”が結成されたのだから。

「人間では手に負えないために、レプリロイドは代わりに働く…か。」

「はい、そんなことはケイン博士と言う偉大な科学者に造られたあなたが誰よりも分かっているはずです。」

シグマの言葉にルインは頷き、守るべき人間達に刃を向けたイレギュラーとなった元上司を鋭く睨み据えた。

「ならば、お前も理解しているはずだ…。人間では手に負えない環境で、我々は活動出来る。人間が活動出来ない海底、火山口。そして身体能力や、処理能力も人間の遥か上をいく。これだけあればそろそろお前にも分かるのではないか?人間が、我々レプリロイドに勝る点なぞ、何1つないのだと。」

「何を馬鹿なことを…!!そのレプリロイドを造ったのは人間なんですよ…あなたを造ったケイン博士も人間です!!」

「そうかもしれんな。だが私は思うのだよ。何故我々は…レプリロイド同士殺し合わねばならないのかをな。それもただ上から見ているだけの身勝手な人間の命令でな…」

「私は人間達を信じます。あなたの言うように人間の中には身勝手な人もいる。でもレプリロイドを造って感情を与えてくれたのは他でもないケイン博士達人間なんですから!!一部の人間だけしか見ずにそんなことを言うあなたにこれ以上の悪事は許さないっ!!」

「ならば私を倒してみるがいい!!勝利の上にしか歴史は正当性を与えぬのだからな!!」

「シグマ隊長…いえ、イレギュラー・シグマ!!あなたはここで止めて見せる!!」

Σブレードを抜き放つシグマ。

自らが正しいと言うかのように互いの剣は輝きを増す。

最初に仕掛けたのはルインだった。

いくらシグマのアーマーが強固でもチャージセイバーをまともに受ければただでは済まないからだ。

バスターで攻撃することも考えたが、簡単に当たってくれる相手ではないし、実力差を考えれば照準を合わせる前に斬り捨てられる可能性が高い。

ならばチャージセイバーによる一撃必殺に賭けるしかない。

「はああああ!!」

渾身の力を込めて両断せんとばかりにシグマに向かって振り下ろされたチャージセイバー。

シグマは後退することで回避し、チャージセイバーの衝撃波はブレードで掻き消した。

「そのセイバーの威力は大したものだ。直撃を受けたならば、私もただでは済まないだろう。」

シグマはそう嘲笑うとブレードを構えるのと同時に一気に距離を詰めて斬り掛かって来た。

体勢を整えてルインはセイバーでブレードを何とか受け止める。

「ぐっ…くぅぅ…!!」

鍔ぜり合いで少しずつ体が後退していく。

武器の出力は殆ど互角…チャージが出来る分、攻撃性能は上かもしれないが、使い手自身のパワー出力が違い過ぎる。

こちらは限界までアーマーやフットパーツの出力を出しているというのにシグマにはまだ余裕がある。

「どうした?私を止めるのだろう?その程度の力では私を止める事など出来んぞ!!」

シグマの額の内蔵型バスターからショットが発射された。

完全に不意を突かれたルインは咄嗟に身体を捻って回避するが、利き腕を損傷してしまう。

シグマはブレードを振るい、ルインの体に横一文字の傷をつけた。

「が…は…っ!!」

傷口を押さえて、床に膝を着くルインをシグマは冷たく見下ろす。

「ここまでのようだなルインよ」

「シグマ…っ!!」

シグマを睨みつけるルインだが体に違和感を感じ、不快感と痛みが同時に体を襲う。

「か、体が……ま、まさか…!?」

「そうだ。私のΣブレードにウィルスを仕込んでおいたのだ。どのような頑強なレプリロイドであろうと簡単に停止するほどのな」

「くっ…ウィルスなんて…シグマ…あなたはどこまで堕ちれば気が済むんですか…」

「ふっ…だが、予想はしていたが私はお前に驚愕している。ルイン、お前が機能停止せずにいられるはずがない程のウィルスを受けたというのに、お前は活動している。そのようなことは有り得ないというのに…」

「………」

「エックスとゼロもそうだが、私はお前にも興味がある…誰が開発したのかも分からない。内部機関にかけてはブラックボックスの塊。エックス以外のレプリロイドにあるはずのない…人間の“成長する”能力。どれを取っても、お前は従来のレプリロイドとはかけ離れている。ルイン、お前は一体何者なのだ?」

「え…?」

シグマの言葉に目を見開くルインだが、シグマは構わずに言葉を続ける。

「……奇妙なことだ。経歴が分からないレプリロイドは数多く見てきたが、これほどまでにデータがないレプリロイドはいないだろう。お前の経歴を探しているうちにいくつかの重要なセキュリティを突破することになったが………驚いた、ルインというレプリロイドはどこにも存在しないということに」

「……っ!!」

シグマのその言葉にルインは動揺する。

「もう一度聞く。ルイン、お前は何者なのだ?」

「………」

「答えたくないのならば、エックスとゼロを破壊する。それでも答えたくないのならば電子頭脳を引きずり出し、お前のデータを見るだけだ」

冷徹な言葉にルインは唇を噛み締める。

ルインの前世の記憶は殆ど残っていないが、それでもこれだけは覚えていた。

エックスとゼロを守るために彼女は口を開いた。

「私は……私は…かつて…人間でした…」

「人間…だと?」

ある程度の予想はしていたが、ルインが人間であったというのは予想外だったらしい。

その言葉にシグマの表情に驚きの色が見える。

「昔の私に何かあったのかは殆ど思い出せない…でも、かつての私は確かに人間でした…人間としての肉体を無くして今ここに…」

シグマはあまりに荒唐無稽な言葉に虚偽ではないかと疑ったが、同時に納得もした。

ルインはレプリロイドよりも人間に近いどころか人間そのものだ。

思考も行動パターンも人間のそれで、もしルインが元人間ならばと考えればすんなりと納得出来た。

「つまりお前は真の意味で人間の心と機械の身体が1つとなった存在ということか…お前が元人間とはさしもの私も驚いたぞルイン。」

「………」

唇を噛み締め、俯くルインに興味を無くしたかのようにシグマはこの場を去ろうとする。

「ルイン…私が間違っているというのなら……私の元まで来い。止めてみせろ、エックスとゼロと共にな」

「シグマ…」

「その身でどこまで出来るかを見極めてやろう。人間の心と機械の体を持つお前に何が出来るか、この私に見せてみろ。」

「あなたはケイン博士を悲しませたいんですか?あなたのお兄さんを喪ったケイン博士にまた喪う悲しさ与えるつもりなんですか?」

「兄…アルファか…あの時は理解出来なかったが、今なら分かる。アルファは生みの親であるDr.ケインを殺し、自由となることで己の存在を確固たるものにしたかったのだろう」

そう言うと転送装置の光がシグマの視界を埋めていく。

エックス、ゼロ、ルイン、VAVAの4人の戦士と人類に反旗を翻したレプリロイド達。

全ての者達の手筈は滞りなく完了し、後はもう始めるだけだ。

レプリロイドの理想境を創るために。

シグマが転送されたのを見届けたルインは深く息を吐いて、ゼロに歩み寄る。

「ゼロ…大丈夫…?」

「ああ…すまん。不覚を取った…」

「いいよ。相手がシグマじゃあ分が悪すぎるよ…早くエックスをハンターベースに連れていかないと…」

「…ああ」

腹部に風穴が空いたエックスをゼロと共に支え、ミサイル基地を後にする。

しばらくしてハンターベースに何とか辿り着いた3人はメンテナンスルームでメンテナンスを受ける。

「ルイン…」

「何…?」

メンテナンスを終えて、メンテナンスルームのメンテナンスベッドに横たわりながらゼロはルインに話し掛ける。

「シグマとの会話のことだが…」

「っ…聞いてたの?」

「…ああ」

ルインの問いに少し間を置いてからゼロは頷いた。

「そっか…ごめんねゼロ」

「何がだ?」

「何がって…私、黙ってたんだよ?エックスやゼロにも自分のことを…」

「言いたくないことなど誰にでもあるだろう。経歴にしても俺やエックスも誰に造られたかは分からない。俺もイレギュラーハンターになる前は何をしていたかは何1つ思い出せないしな…例えお前の元が何だろうとお前はお前だろう」

「…うん……ゼロ」

「何だ」

「ありがとう…」

「礼を言われるようなことはしていない。エックスが目を覚ましたらシグマを止めるぞ。俺達の手で」

傷付いてこんな状況になっても、ゼロの力強さが変わらないことにルインは頼もしいと思う。

「うん…私達はイレギュラーハンターだからね」

戦いの火蓋は切って落とされた。

こうしてエックス達は長い長い戦いへと身を投じていくことになる。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧