戦国異伝供書
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第二十九話 安土入りその五
「天下の政を執りな」
「天下もですね」
「観ていくのじゃ」
そうするというのだ。
「よいな」
「それでは」
帰蝶もこう応えた。
「殿の思われるままに」
「ではな」
「それでなのですが」
「それで。どうしたのじゃ」
「はい、何でも菓子が届いたとか」
「菓子がか」
「町の商人達から」
こう信長に話した。
「そう聞きました」
「女御達からじゃな」
「先程」
「そうか、ではじゃ」
「菓子をですね」
「下に降りてな」
そうしてというのだった。
「食おうぞ」
「では」
「泰平になればな」
「その時はですね」
「誰もが菓子を食える様になる」
そうなるというのだ。
「だからな」
「それで、ですね」
「天下は泰平にすべきじゃ。わし一人が菓子を食ってもな」
それでもというのだ。
「美味くてもな」
「それでもですね」
「限られておる」
その味がというのだ。
「やはり美味いものはな」
「天下の誰もが食べてこそですね」
「美味いのじゃ」
「だからこそ」
「天下は泰平にする」
「左様ですか、では」
「これからもな」
「天下泰平の為にですね」
「働いていこう」
こう言ってだ、信長は実際に二人で食べた。そうしてだった。
信長は菓子を食べた後で蜂須賀から話を聞いていた、蜂須賀は彼に難しい顔になってそのうえで述べていた。
「どうもです」
「何一つとしてか」
「はい、まさにです」
「手掛かりはないか」
「領国は全て探しましたが」
それでもというのだ。
「しかしです」
「影も形もじゃな」
「見えませぬ、崇伝も天海も」
「どちらもか」
「そして楯岡道順も音羽の城戸も」
彼等もというのだ。
「何処に消えたのか」
「あの者達は伊賀者であるが」
ここで信長は彼等のこのことを指摘した。
「若しや」
「伊賀にですか」
「隠れておらぬか」
「そう思ってです」
そしてとだ、蜂須賀も答えた。
「徳川殿にお話し」
「そしてか」
「はい、服部殿のお力を借りて」
伊賀者の棟梁である彼にというのだ。
「そうしてです」
「伊賀も調べたか」
「はい、そうしましたが」
「それでもか」
「あの国にもです」
伊賀に入って調べてもというのだ。
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