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名医の手で

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第一章

                名医の手で
 この時漢の司徒王允は国を憂いていた、今漢は黄巾の乱以降散々に乱れしかも董卓が相国となって国を牛耳り暴虐の限りを尽くしていた。 
 董卓は皇帝を廃し新しい皇帝を立て酒池肉林の贅沢に溺れ都で自身の軍勢に暴虐を好きにさせるだけでなく各地の牧や刺史達に攻められると強引に洛陽から長安に遷都し洛陽を焼いた、歴代の帝の陵墓を暴き埋葬されている宝を奪い取った、悪貨を鋳造し自身は財を貯め込み逆らう者は容赦なく殺した。そして遂には簒奪の気配さえ見せた。
 それでだ、王允は何とか董卓を除こうと考えたが。
 自身が養女にし可愛がっている貂蝉にだ、こう言われた。
「では董卓様の傍にいつもいる呂布様をです」
「あの恐ろしいまでに強い男をか」
「はい、董卓様に逆らわせ」
「共に争わせてか」
「そうして共倒れか董卓様を殺させては」
「そうしろというのか」
「中に美女を入れて惑わし」
 そのうえでというのだ。
「そうしてはどうでしょうか」
「そうか、しかしそうしたことが出来るのはな」
 王允は自身の屋敷の奥深くで貂蝉の言葉を聞いて言った。
「相当な頭と肝、そして顔もじゃ」
「よくないとですか」
「出来ぬぞ。お主の顔では」
 ここで王允は貂蝉の顔を見た、見ればその顔はとても美しいとは言えない。どう見ても董卓や呂布を惑わす程ではない。
 そしてだ、王允は貂蝉にさらに言った。
「お主は二人の間に入られるか」
「お二方を惑わす為に」
「互いに争わせる為にな」
「あの、策は申し上げましたが」
 しかしとだ、貂蝉は王允の言葉に恐れおののいて答えた。
「董卓様はあの様な方で」
「何かあるとのう」
「どの様な殺され方をするか」
 捕虜を目の前で惨たらしく殺しながら平然と飲み食いしていた、周りにいた者達があまりにも惨い殺され方に蒼白になっているのにだ。
「そして呂布様も」
「今は董卓の養子だがな」
「先にはでしたね」
「養父丁原殿を殺しているしな」
「戦の場でも暴れ回る」
「恐ろしく血の気の多い者じゃ」
 ただ強いだけではなくだ。
「養父を殺したのじゃ」
「人を殺すなぞですね」
「何も思っておらぬ」
「そうした方々の間に入って動くなぞ」
 恐れおののいたまま言う貂蝉だった。
「私には」
「お主は頭はあるが」
 策を考えられるだけのだ、しかしだ。
「顔と肝がない」
「それではです」
 貂蝉はここでまた知恵を出して王允に述べた。
「また策があるのですが」
「どういったものじゃ」
「私の顔と肝を替えるのです」
 この二つをというのだ。
「そうすればです」
「策を果たせるか」
「必ず」
 貂蝉は自身の養父に対して断言した。
「それを果たせられます」
「そうか、顔と肝か」
「その二つを」
「ふむ。ではな」
 王允は貂蝉の言葉を聞いてだ、そしてだった。
 そこから少し考えてだ、貂蝉に言った。
「頭と肝を替えることが出来るかも知れぬ者が一人おる」
「どなたですか」
「華佗という医師じゃ」
 この者がというのだ。 
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