本当の友人
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第一章
本当の友人
真壁洋一は初老の年齢になっても考えていることがある、彼はもうすっかり薄くなっている白髪と穏やかな目と丸めの鼻を持っている。眉は少し太い感じで背は一六五程である、身体は然程太ってはいない。
その彼がだ、ある日馴染みの職場の最寄りの駅のすぐ傍にある居酒屋のカウンタ―で焼酎を飲みつつ店の親父にこんなことを言った。
「私思うんですけれどね」
「はい、何についてですか?」
「何ですかね、人間っていいますか」
焼酎、水割りのそれを飲みつつ言うのだった。仕事帰りの一杯を楽しんでいるがスーツは結構くたびれた感じだ。
「友達って何なんですかね」
「親しく付き合ってる人じゃないんですか?」
彼より幾分若い渋い顔立ちの親父はこう彼に返した。
「それは」
「親しくですか」
「はい、ですから」
それでというのだった。
「そうした人がです」
「そうですか。じゃあ職場の同期とか趣味で親しくしている人とか」
「そんな人がですよ」
「麻雀とかバッティングセンターで」
まさにと言うのだった、どれも真壁の趣味である。
「そうした人達がですか」
「友達じゃないですか?この飲み屋でも時々お話する人がいますよね」
「店長さんとか」
「はい、私にしても」
店長は真壁に気さくに笑って応えた。
「やっぱりです」
「友達ですか」
「そうなるんじゃ」
「そうですか」
「ですから」
「友達ってのは普通なんですかね」
「そうじゃないですか?」
「そうですか。結構こういうのあるじゃないですか」
肴の焼き鳥を食べつつだ、真壁は親父に応えた。
「自分は友達と思っていても」
「相手はですね」
「そう思っていないことが」
そうした場合がというのだ。
「ありますよね」
「そう言われるとそうですね」
親父もこのケースは否定せず真壁に応えた。
「中には」
「そんな場合もですね」
「ありますから」
それでというのだ。
「これが中々」
「友達というものはですね」
「わからない、定義っていうと哲学ですが」
尚真壁は経済学部だ、大学もそこに進んでいる。
「けれどです」
「そう思われていますか」
「そうです、そう思いますと」
「友達はですか」
「難しいですよね」
ただ親しくしているだけで友達か、そして相手はどう思っているのか。自分はどう思っていても。そうしたことを考えつつだ。
真壁はあらためてだ、親父に言った。
「そこは」
「まあそうですね」
「はい、どういうのが友達か」
「それがですか」
「中学生の時から考える様になって」
思春期の時からというのだ。
「今もです。結婚して子供も大きくなってますけれどね」
「今お幾つですか?」
「五十です」
それ位になったがというのだ。
「そうなりました」
「そうですか」
「はい、ですがこの歳になっても」
五十になってもというのだ、勤務している八条ツーリストでは支店長を務めてこちらもベテランになっている。
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